2022年10月30日
本の数珠つなぎ 西村賢太作品との出会い
今年8月の新刊『 あなたのなつかしい一冊 』(池澤夏樹編 毎日出版社)を読みました。
各界著名人たち50人が深く思い入れる「わたしだけのとっておきの一冊」について書いた書評を書籍化したものです。書評は毎日新聞で連載中で、その書籍化はこれで2冊目だとか。知らなかった。
私も読んだことのある(そして好きな)本を挙げておられる方々のページでは深く頷きながら読み(でも ふーんなるほどそういう角度から眺める事もできるんだな と新たな発見もあり)、それ以外のページでは(実は大半が未読の本でした)挙げておられる本への切り込み方が其々の‘人となり’を感じさせてとても面白く、「読んでみたい」と興味を抱いた本が多かったです。
そんな中で直ぐにでも読んでみたいと思わされたのは『 一私小説書きの日乗 』(西村賢太著 2013年刊行)でした。
ミュージシャンで作家でもある尾崎世界観さんが選んだ一冊です。
<こんな本>
2011年3月から2012年5月までを綴った、平成無頼の私小説家・西村賢太の虚飾無き日々の記録。賢太氏は何を書き、何を飲み食いし、何に怒っているのか。あけすけな筆致で綴る、ファン待望の異色の日記文学、第一弾(後にシリーズ化)。 (※書籍情報サイトより転載)
恥ずかしながら私はこの「日乗」という語を知らなくて、調べましたよ、辞書で。
「乗」とは 記録 の意。日乗とは日記、記録のこと とありました。なるほど。
西村賢太作品は読んだことありませんでした。
今年の2月に亡くなられましたね。随分と波乱に満ちた、それこそ 苦役 的人生だったと聞きますが、コアなファンを多くお持ちの作家氏だったと拝察します。
本来なら小説家である人の作品は小説から読むべきかもしれませんが、尾崎世界観さんの書評に強く引っ張られるものを感じてこの一冊。そう、先ずは尾崎世界観さんのこの本への書評そのものが面白かったのですよね。尾崎さんの本も私は一冊も読んだことありません。この次は尾崎世界観さんの本を読んでみるのもいいかもしれない。
というわけで 今は西村賢太さんの『 一私小説書きの日乗 』を読んでいます。
面白いです。 と同時にどこかヒリヒリ(時々 ビリビリ、も)したものを感じます。
メモ書きのように書かれた自身の仕事の事が殆どなのですが、時折 文学なるものへの向き合い方 に半端ない厳しさを感じ、一方ではほぼ毎日のように記される深更の晩酌も。大概、氏が愛飲されていたらしい宝焼酎が登場します、「宝一本弱を手製のベーコンエッグ三つ、チーかま二本で飲む。(某日の記録)」とか。私がヒリヒリ感を感じるのは、実はこの深更のお酒のくだりだったりするのですよね。文字になっていない色んな思いがあるやに見えて。
でもまだ中盤に差しかかったばかりなので私なんかには未だ語る資格なし ですけれど。これから楽しみにページを繰ってゆきます。
氏のご冥福を祈りつつ私も最後にお酒の画を挙げて今日のブログを閉じます。いつかのランチ呑みのハイボール。
この本によれば氏はウィスキーは苦手だったそうですが。
2022年10月16日
セントラル・ステーション( BS.P. 録画鑑賞 )
すっかり秋ですね。
やっぱり季節は巡る、世の中に関係なく めぐるめぐるめぐるー。
録画していた(9月29日 BS.P.放送)映画『 セントラル・ステーション 』( ウォルター・サレス監督 1998年制作 )を観ました。中々に良き映画でした。
子役の男の子(若い頃のジュリエット・ビノシュに激似!)がとてもイイです。今もご活躍なら見てみたいのですがネットでは情報は得られませんでした。
< story >
ひねくれ者で怒ってばかりの老女と母に先立たれた少年が父親探しの旅に出るロード・ムービー。
リオ・デ・ジャネイロの中央駅。代書業を営むドーラのもとに、息子を連れた女性が夫への手紙の代筆を依頼にきた。ところが手紙を書き終えた後、その女性は事故で死んでしまう。ドーラは一人残された男の子ジョズエをみかねて家に招き入れる。子供の面倒など見る気のないドーラだったが、仕方なくジョズエを父親のもとへ行かせようと、一緒にバスで旅に出るのだった。 ( ※映画情報サイトよりの転載です。)
リオの乾いた空気。
貧困があらわで(識字率も低い)日々の営みの喧噪の中でドーラと少年は出会います。
基本、ロードムービーは大好きな私です。でもこの作品に惹かれていったのは、ドーラがジョズエを放っておけなかったのが母性というよりも 孤独に身を置く者同士の仲間意識があったからじゃないかと思ったからかもしれません。
いかなる来し方がそうさせたのか 心の荒んだ人間になってしまっているドーラの言動は見ていて痛々しいくらいなのですが、ジョズエとの道行きで彼女が少しずつ変わってゆくのが分かります。ジョズエの方も少しずつドーラへの気持ちを軟化させ‘一緒にいてくれる人’の存在になってゆくのが微笑ましいです。
同じく孤独なトラック運転手の男性に淡い恋心を抱いたドーラに手痛い答えが用意されていたのは…さすがに悲しい。去っていったその男性を「(怖くなるなんて)弱虫だ」と言ったジョズエの言葉にはドーラを思いやる優しさと男の子としての逞しさを感じて、私ちょっと泣きそうになりました。
※映画情報サイトよりの転載画像です
ロードは行く先々でいろいろあり、願う状況にはなかなか辿り着けません。
でもそんな中で父にまつわる想い出や亡き母への祈り、(後から思えば)ドーラとジョズエの其々の思いが深いところで静かにつながってゆくようなシーンが幾つか描かれていたっけなぁ…。
もうこのままでいいのじゃないか、ドーラとジョズエで新たな彼らの人生を…と思った矢先に神の恩恵が降ります(人生って皮肉だなぁ)。
ジョズエが選んだドレスを着て口紅をひき二人の旅の目的となった父親への手紙をそっと置いてゆくドーラは、それまでに見せたことのない美しさと優しさでした。
安堵の思いと ドーラとジョズエが会うことはきっともう無いのだろうと思われる切なさがない交ぜになるエンドは、二人の写真が収められたあの小さなスコープのようにキラキラと輝くシーンだったと感じました。
かなり久々の猫パトロールで くろべえ と再会。
これから寒うなってくるから気ぃつけてな。
2022年10月02日
燃え殻さんのエッセイ集 2冊
予約していた本が届いて2冊続けて読みました。
燃え殻さんの本は初めてでした。ていうか、予約する以前は知らなかったです、燃え殻さんというひと。
読んだのは『 すべて忘れてしまうから 』と『 夢に迷ってタクシーを呼んだ 』です。共に扶桑社よ2020年、2021年に刊行されたエッセイ集です。
状況は違っても、同じような感覚に陥ったことってあったな、いや今もあるな、っていう思いで読みました。普段なら忘れているその感覚、思いに気付かせてもらったかな。
<『すべて…』はこんな本>
ふとした瞬間におとずれる、もう戻れない日々との再会。ときに狼狽え、ときに心揺さぶられながら、すべて忘れてしまう日常にささやかな抵抗を試みる「断片的回顧録」。『週刊SPA!』連載を加筆し書籍化。
<『夢に迷って…』はこんな本>
繰り返される緊急事態宣言、叩かなくてもホコリの出る人生…。人生はなぜか忘れられなかった小さな思い出の集合体でできている。エッセイ集「すべて忘れてしまうから」の完結編。『週刊SPA!』連載を加筆し書籍化。 (※両著の内容とも情報サイトより転載)
大地に足を踏ん張れてない、漠然とした不安をどこかに持った危うい日々を、どーにかこーにか何とかして生きてきた人なのですね、燃え殻さん。多くの、というか殆どの人も多分同じで、何とかしてその時その時の自分に折り合いをつけて生きている? 時に「よそ行きの本当」(←文中の言葉、本当の本当は残酷すぎて)でごまかしながら?
さらっと次のページをめくってしまうものもあれば 時に静かにじわっと効いてくる言葉もあって救われる思いもありました。びっくりしたのは 燃え殻さんがとある場所のことを 自分にとってのシェルター と呼んでいたこと。私もとある場所を自分の中でシェルターと呼び続けていたので。
2冊の中にいろいろな思いが綴られてはいても、結局は完結編とされている『 夢に迷って… 』のラストの表題作一篇に綴られた思いが全てなのじゃないかと感じました。書くことを通じて「自分と同じような考えを持った誰かに…お前はそれでいいよと認めてもらえる誰かに…会いに行きたかったのかもしれない」ということ。それが燃え殻さんの原点でもあり到達点でもあるのだろうなぁって感じました。
全篇に挿入されている長尾謙一郎さんの画がまたイイです。 読ませてもらって ありがとう の思いです。
久しぶりにお酒の画を載せます、純米吟醸 美酔香泉しずく酒。 香は華やかであっても結構どしっとくる酒質の 濃醇旨口です。
ここでの美酒にも「ありがとう」。