2006年08月01日

アンテナ ・・・再生への道標?

先日の深夜地上波での『アンテナ』(熊切和嘉監督)を録画取り鑑賞。

    アンテナ.jpg     アンテナ 本.jpg
       映画チラシ             「アンテナ」単行本
    
 これは田口ランディさんの同名小説を映画化したもの。田口ランディは好きな作家の一人であり、また、彼女の小説で初めて読んだのがこの『アンテナ』でした。
(小説としては、「コンセント」、この「アンテナ」、そして「モザイク」の三作を称して“電波系三部作”といわれています。)

story
大学院生の祐一郎(加瀬亮)は15年前に失踪したまま行方が分からなくなっている妹・真利江について、自分は何かを目撃していたのではないかと罪悪感に苦しんでいる。父は病死、母(麻丘めぐみ)は新興宗教にのめり込み、弟(木崎大輔)は狂乱する。
家族から逃げるようにSMの女王といわれるナオミ(小林明実)の元へ通い始めた祐一郎は、溜め込んでいた苦しみを次第に吐き出していく・・・。
(映画・公式サイトより)

 
 小説の“グロ”的な部分は映画ではさらりと綺麗に表現されているようでしたが、全体としては小説のダークなトーンが忠実に再現されていたと思います。

原作を読んでから映画を観るとどうしてもストーリーを冷静に追ってしまいがちなので、原作に初めて触れた時ほどの衝撃は無かった
のですが、「この小説の性的隠喩や心理描写が自分の映画とリンクしていると感じた」と監督が語っている通り、精神的苦痛の極限状態における狂気が、監督の小説への深い共感を伴って強く感じられてきます。

ランディさんの小説には精神を病んでいる人や病む寸前ギリギリの人などが頻繁に登場しますが、読んでいるうちに小説の世界と現実の世界がボーダーレスになり、「もしかしたら病んでいるのは今これを読んでいる自分の方かもしれない」と思えてきます。
実際ランディさん自身も「病んでいる人の世界も、その人にとってはそれが現実でそれが全て。」と言っています。

今作でも、過去の事件から逃げるように大学生活を送る主人公・祐一郎と、過去と向き合わざるを得なくなった苦痛からの解放を求めてナオミのもとへ通う祐一郎の崩壊寸前の世界が、やがてドロドロと溶解して混然となります。

 そこから“救い”が見えてくるのですが、このナオミという女性による救いとは一体何なのでしょうか
SMという行為の“肉体の苦痛や羞恥の極限状態”で、自分が「無」「空(から)」になる事によって初めて、封印してきた苦悩を解き放つことができる、という事なのでしょうか。想像論でしかありませんが・・・。

 実際彼は救われるわけですから・・・。彼が救われることで、家族までもが救われることになるのです。
この作品でも、描かれている事は崩壊した家族の“再生”なのですね。でもそこへの過程は辛苦を伴うわけです。
そこには「死」すらも伴う・・・あるモノの「死」によって人は「再生」するというのが、小説でもこの映画でも中心に描かれていると
思います。

結局は、人間は苦しくとも「現実と向き合わねばならない」ということでしょうか。
「アンテナ」は再生へと導く道標ということなのでしょうか。

 映画のラストシーンは、とてもいいです。
小説のラストで感じられる“再生の兆し”“希望”を、(多分)小説のラストには無かったシーンで描き、観る者の心にも光の差し込む穴を開けてくれました。

 特筆すべきは主演の加瀬亮クンです。
祐一郎はとても難解な役どころだと思います。
自傷行為や自慰行為など、極限状態にある若者の姿を静かな迫力で全身で見事に表現してくれています。
この加瀬クンは映画『誰も知らない』にも心優しいコンビニ店員の役で登場していましたが、今回この作品を観て凄く驚きました
素晴らしい役者さんだと思いました。


 軽くはない映画には軽くはないお酒で臨みましょう。とは言え、そこは夏らしいジンを。

 ボンベイ.jpg ボンベイ ロック.jpg
昨夜は「ボンベイ・サファイヤ」をオン・ザ・ロックで…ボトルがクリアブルーで美しいですね。

 通常のジンは4〜5種類のボタニカル(香味を生み出すための植物の種子や実)をスピリッツに浸透させるのですが、これは10種類ものボタニカルを入れた容器に高温にして蒸気になったスピリッツを通過させることで成分の良質部のみを抽出して造られるジン。上品でスムースながら華やかな香を持つというのが謳い文句のこのジンは「そのまま注いでカクテル」とも言われているそうです。
華やかな香りもあるので、柑橘類を加えず、できれば冷凍庫でトロトロに冷やしてストレートでいくのが良いようです。


 余談ながら……週末の空いた時間、夙川沿いを散歩

            夙川2.jpg    
流れる水に眩しい陽光が照りつけ、もうすっかり真夏の風情を呈する川辺の道で、一人の若き女性が静かに絵筆を動かしている姿が、彼女の描いていた水彩画と共に一枚の美しい風景画の如く私の心に残りました。
出来れば彼女の姿アートを写真に撮りたかったのですが・・・・。


posted by ぺろんぱ at 17:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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