今日は立春。春は名のみの・・・で、まだまだ寒さから脱せていない気がします。
劇場通いが再開できないまま、またしてもアキ・カウリスマキ映画を夜な夜な再鑑賞する今日この頃です。
先ずは、アキ長編デヴュー作『罪と罰』(1983年制作)。これはドストエフスキーの同名小説をモチーフに撮られた作品です。
story
食肉解体工場で働く青年ラヒカイネン(マルッカ・トイック)。ある日、仕事が終わった彼は、町中でひとりの中年男の後をつけ、ドアが開いたところで男にピストルをつきつける。命乞いの言葉も虚しく、理由も分からないまま殺される男。そこへ、若い女エーヴァ(アイノ・セッポ)が買い物袋を下げて入ってきた。彼女はケータリング店の店員で、この家で開かれるはずだったパーティの手伝いに来たのだ。だが、女はなぜか悲鳴も上げずに彼を逃してしまう。やがて捜査線上にラヒカイネンが浮上するが、彼は巧みに捜査を攪乱して逃げ続ける・・・。
※story、画像とも、映画情報サイトより転載させて頂きました。
繰り返しますが小説の『罪と罰』を「モチーフ」に撮られたもので「原作と映画化作品」という図式は当てはまらないと思います。少なくとも私はそう思います。
ドストエフスキーの小説『罪と罰』は、二年ほど前に友人Cさんが貸してくれて読みました。ラスコーリニコフの吐露が「何故そこまで?」としんどくて、最後のページを閉じた時には何を学び取ったかというよりやっと読み終えたという感じが先に立ったのが正直なところ。この本は1/3の長さで充分、むしろその方がイイと思った私はドスト作品を読む資格のない大バカ者なのでしょうね、きっと。カラマーゾフの…も読めないままなら村上春樹ファンとしても失格なのかな(涙)。
さて映画。
ラヒカイネンは変化を求め面識のない男を殺します。私怨があったとされる事実も、しかしそれはキッカケに過ぎないのですね。ラヒカイネンは殺人その罪自体は少しも悔いてはいない・・・これはラスコーリニコフと同じですね。ラヒカイネンが本当に殺したかった「道理」は変えられないまま幕を閉じます。
すごくリアリティがあって怖いくらいに刃先が尖っていて、観る者を突き放すかのようなラストはアキファンにとってハードルが高いデヴュー作だと観るたびに思います。ハードルの高さに私なんかは打ちのめされるものの、アキファンとして原点に立ち返る意味で何年かに一度は観返してみると自分の思い上がりに気付ける気がします。ラヒカイネンの最後の冷笑に何を見るか・・・緊張の鑑賞です。
マッティ・ペロンパーはラヒカイネンを救おうとする友人・ニカンデルとして登場します。彼の登場するシーンのみ唯一、不思議な可笑しみがあってちょっと救われます。
ラヒカイネンやエーヴァは勿論、その他にも本作には屈折した人間ばかり登場しますが、私はペンネナン警部(エスコ・ニッカリ)やエーヴァをひたすら追いかけるエーヴァの上司ヘイノネン(ハンヌ・ラウリ)の屈折感には孤独が見える気がします。
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さて、このあと『マッチ工場の少女』(1989年制作)を手に取りかけたのですが、それだと罪と罰に続いて余りに暗くなるような気がして方向転換、『愛しのタチアナ』(1993年制作)を手に取りました。
これはちょっと幸せな気分を味わえる作品です。
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コーヒー中毒の仕立て屋ヴァルト(マト・ヴァルトネン)と、彼の友人でロックンローラー気取りの修理工レイノ(マッティ・ペロンパー)は、退屈な田舎町を捨てて旅に出る。途中出会ったエストニア人のタチアナ(カティ・オウティネン)とロシア人のクラウディア(キルシ・トゥッキュライネン)を港まで送ることになるが、彼らは会話することもなく、ただひたすら旅を続ける。そしてついに港に到着した彼らは・・・。
※story、画像とも、映画情報サイトより転載させて頂きました。
何も起こらないまま旅が続きます。
現実から逃避して束の間夢を見て、また現実に戻されると思うしかない、そんな終盤でレイノはぶっ飛びの台詞を吐きます。これ以上ないストレートなタイトル、まさに愛しのタチアナ、です。たった一度だけ肩を寄せ合ったレイノとタチアナに究極の愛を観るのです。
相棒ヴァルトも小さな愛(の想い出)を得ます。ミシンを踏む彼の日常は変わらなくても、彼の「明日から」にほんの少しの希望が浮かぶのです。
大好きなシーン。
独りぼっちになったヴァルトの、ハードボイルド・ロッカーな自分を夢想したシーンです。レイノとヴァルト、タチアナとクラウディアを乗せた車・ポピエーダがBARに窓ガラスを大破させて突っ込むのです。ハードボイルドにもロッカーにもなれなかったヴァルトの、もう一つの人生がそこで花開いた瞬間でした。いつか、ロッカーズ・スピリットをまとってクラウディアを探しに行く日は・・・来るんでしょうか。
それにしてもレイノは烈しくお酒を呑みます。
コスケンコルヴァ(フィンランドのウォッカ)をまるでミネラルウォーターのように。このお酒は日本では見かけないのですが、いつかボトルで手に入ったらレイノを真似て、ボトルの底を肘にトンと打ち付けてからキャップをあけてぐびぐびラッパ呑みしてみたいです。(喉灼ける??)
とある日の夕暮れ。
I氏お薦めのワインBAR、attic(アティック)にて40分のサクッと乾杯です。
新梅田食堂街に新しくオープンしたお店です。元CAさん?と思えるようなママさんが迎えてくださるのですが、実はこちらのお店、拙ブログで一度ご紹介させていただいた<ツバメ食堂>というワインBARのママさんの新たなお店なのでした。嬉しい驚きです。
ワインがメインのお店ですが、この日はバス・ペール・エールBeerのあと、竹鶴の17年をストレートでいただきました。竹鶴は大ぶりのテイスティンググラスで饗してくださるのでウィスキーの香りをしっかりと楽しめました。カラメルの仄かな甘みのあるスモークチーズがとっても美味です、クセになります。Iさん、ありがとうございました。
ほんものの春よ、早く来い。
