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突然の実家事情で慌ただしくしていたり(今はもう大丈夫です)、自分自身のちょっとしたことで少しだけアルコールを控えめにしていた日々(それでも一般女性の平均飲酒量より遥かに多かったと思いますが)でした。
また、先日の友人Mriちゃんからのメールでは (Mriちゃんが)「ノロウイルスにかかって七転八倒の日々だったのよー」とのことで、アルコール大好きの彼女もさすがに完治するまで一滴も呑めなかったそうです。
Mriちゃんのノロ騒動を受けて「やっぱりお酒は呑めるうちに呑んでおくべし」との教訓を得た私です。(もっと違うことを学びなさい、私)
そんな中、独り静かな夜に手に取るのはやはりアキ・カウリスマキの映画。
今回は『過去のない男』(2002年制作)の久々の再鑑賞となりました。
<story>
ある日列車に揺られ、夜のヘルシンキに流れ着いた一人の男M(マルック・ペルトラ)。公園のベンチで夜明けを待っていた彼は突然暴漢に襲われ、瀕死の重傷を負う。男は病院で奇跡的に意識を取り戻すが、過去の記憶を全て失っていた。身分証もなく、自分の名前すらも分からない有様。しかし、幸運にもそんな彼にコンテナで暮らす一家が手を差し伸べ、男は彼らと共に穏やかな生活を送り始める。そして救世軍からスープが振る舞われる金曜日、男は救世軍の女性イルマ(カティ・オウティネン)と運命的な出会いを果たすのだった・・・。
※story、画像とも、映画情報サイトより転載させて頂きました。
カティ・オウティネンは本作でカンヌ主演女優賞を受賞しました。彼女はアキ・カウリスマキ作品のミューズですが、私はずーっと「カティってとことん“哀し顔”やなぁ」って思っていました。でも受賞後いくつかの映画雑誌で晴れやかな笑顔と華やかないでたちでカメラに収まるカティを見て、「ああ、やっぱりこの人は“女優”なのだわ」としみじみと感じたのを覚えています。
カティ・オウティネンの主演女優賞だけでなく、その年のカンヌで本作は(パルム・ドールは逃したものの)グランプリを受賞しました。
あ、そうそう、パルム・ドール賞ならぬ「パルム・ドッグ賞」は本作に登場の犬・ハンニバルがしっかりと受賞しましたよ。このハンニバル(本名はタハティ)、実に可愛いのです。そして賢い、空気読む! ハンニバルはこの物語のいわば“幸せの象徴”でもあります。
今回あらためて「やっぱり本作は完成度が高いなぁ」と思いました。アキ独特の“真っ直ぐに見えてちょっと曲がってる”感は前面に出ていなくて、ある意味“王道を行く展開”という言い方もできるでしょう。それでもアキ・カウリスマキ色はたっぷりあって、哀しいけれどどこか可笑しい、どうしようもなく悲惨なのに何故か明日はきっとよくなる・・・そんな気がしてくるのです。
特に本作は最初の悪漢3人以外、悪いヤツは出てきません。それどころか、皆それぞれ実に“善き人”なのでした(あの強欲そうな警官でさえ)。
後半のイルマとMのラヴストーリーも勿論よいのですが、前半のコンテナ住まいの夫婦とのシークエンスは大好きです。
この夫婦、夫も妻もまさに“人生の達人”なのです。
どん底の生活をしている(としか思えない)のにそれを「私たちは運がいい」と言うコンテナ・妻カイザ。 コンテナ・夫ニーミネンは金曜日、シャワーを浴びて(子どもたちがお湯を汲んで屋根から流す)ビシッとスーツを着込んで(くたびれてはいるけどきっと彼の一張羅)、「金曜日だ、食事に行こう。」とMを誘ったのは何と週に一度の救世軍による配給スープの列。笑いを通り越して哲学さえ感じるのです。
「人生は前に進むしかない。でなければつらい。」とはこのニーミネンの言葉。この言葉が本作の全てを物語っているような気がします。人生は凹むことだらけ。でも前を向いて進め。そこにきっと小さな光が灯る、それこそが人生の価値なのだ、とでも言うように。
プッと吹き出してしまう台詞が随所に。それ以上に含蓄のある台詞が要所要所で心に響く。
「ビールを呑もう、給料をもらった。」
だからちょっとくらい呑んだって女房は文句を言わないさっていうことなのですが、これだけの台詞なのになんで泣けてくるんだろう。
泣けると言えばこの映画、やっぱりアキ作品ならではで「音楽」がとても効いています。エンディングで流れるクレイジーケンバンドの「ハワイの夜」には公開時の鑑賞ではビックリしましたが、私としては終盤のアンニッキ・タハティによるライヴシーン、「思い出のモンレポー公園」の歌が深く深く心に沁み入るのでした。
もう一つ、泣けるサプライズはとあるBARでの一景。額に入った故マッティ・ペロンパーの写真が少なくはない時間ずっと映し出されていました。アキ・カウリスマキ監督の愛を感じますね。
明日潰れるという銀行の受付の女の子の達観ぶりも凄く好きだし、突然ロックに目覚める救世軍のお抱えバンドマン達もキュートだし、エリナ・サロがいつものようにちょっとした役柄ながら画面をビシッと引き締めてるし、久しぶりに観るとやっぱりかなり好印象な一作なのでした。
さあ、お酒を呑もう。お給料日はまだだけど。
某居酒屋さんでのカウンターにて。
今日の画はなにがなんでも絶対に熱燗でなければ。
本作でのラスト、過去のない男M が お寿司をつまみに熱燗いってますからね

じつはフィンランド映画もアキ・カウリスマキの作品もはじめて観ました。
暴漢に襲われたり、銀行強盗に遭遇したり、大事件がいくつもおこるのに、それらはけっして主題じゃなくて、淡々と心情描写がすすむ・・・
こんな作品が観たかった。
「寿司と熱燗」の意味も分かりました。
そしてお初のアキ・カウリスマキ映画へもようこそ、です。観て頂けて嬉しいです。
本作は他のアキ作品に比してドラマ性も高く、そんな本作にあっても尚、だめたけさんが「淡々と心理描写が進む」と評してくださったのはアキファンとして改めて初心に帰る新鮮な思いでした。ありがとうございます。(*^-^*)
熱燗とお寿司。
あのBGMも含めシュールな光景ですが、今となってはアレでなければならないほどの捉われ感なので不思議なものです。
新作映画を見て新しい刺激を受けるのも良いけれど、愛すべき映画をじっくりと味わう時間はやはり深いですね。
そういう作品がいくつもあるという事は幸せだなぁと思いますが、ふと自分に置き換えて考えると気分のムラが激しいせいか、日によって激しく選ぶ映画が変わりそうな気がします。
ぺろんぱさんの場合、カウリスマキ映画ですか、やっぱり。
「過去のない男」良いですね。
カウリスマキの映画を見ていると、フィンランドの人ってどこか日本人(とはいえ、大阪人のようなラテンの乗りじゃなく、もっと奥ゆかしい地方の人)と共通するリズムを感じるなぁと思う時があります。
>晴れやかな笑顔と華やかないでたちでカメラに収まるカティ
想像できない?! いや、しかし女優さんですもんね、なんやかんや言っても。
あの幸薄い感じも、役者だからこその“醸し出し”なのか〜と妙に感心してしまいました。
ありがとうございます、そうですね、アキ・カウリスマキ映画には安心してどっぷりと浸れます。
でもやっぱり新作映画を観る直前のワクワクドキドキ感は何にも代えがたいものです〜。
Yururiさんの日々のページ、「今日は何をご覧になったのかしら」と楽しみにお伺いしておりますよ。(*^_^*)
仰る通り、アキ作品にはアキが敬愛していた小津監督の作品に登場されるような、静謐な生き方をしてそれでいてどこか泰然とした雰囲気の漂う人々が見え隠れする時がありますね。ああ、だから安心して(展開を分かっているというだけではなくて)観られるのかもしれません。
>カティ
そうなんですよ〜。こんなふうに微笑むことのできる女性だったのだと驚きました。
思えば『マッチ工場の少女』なんて救いがないくらい薄幸の女ですものね。その後のカティもまたそういう視点に立って追ってみるのも面白いかなぁって思っている今です(*^-^*)。