2008年03月02日

迷子の警察音楽隊

 昨日は久々のシネリーブル梅田。
リーブルの会員なのですが暫く他のシアターでの鑑賞が続いていました。チケットカウンターで目的の映画を告げると「1,000円です」と言われ、「会員ってやっぱりお得よね〜」って思いきや「えっ!?・・・違う!会員価格は1,500円のはず・・・」と。
そう、昨日は映画の日だったのですね〜(^_^)。忘れていただけにお得感は倍増でした。

 ずっと気になっていたものの見送り続けてしまっていたこの作品も、一日一回10時15分からのモーニングショーのみとなり、それもとうとう最終週に。そして、昨日やっと観てまいりました。『迷子の警察音楽隊』(エラン・コリリン監督)です。

観てよかったです。この作品、好きです。
ちょっと切ないけれど、「人生」は、そして「人と関わること」は、そう悪いものじゃないんだなぁって思わせてくれます。

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story
  隣国同士でありながら、長い間敵対してきたイスラエルとエジプトの市民が音楽を通じて交流を深める夢のような一夜の物語。
1990年代のイスラエルを舞台に、ユダヤの地に迷い込んだエジプト人と、現地のユダヤ人のほのぼのとしたやりとりをじっくりと見せる。
  文化交流のため、イスラエルにやって来たエジプトのアレキサンドリア警察音楽隊のメンバー8人。しかし、空港には迎えもなく、団長トゥフィーク(サッソン・ガーベイ)は自力で目的地を目指すが、なぜか別の街に到着してしまう。途方に暮れる彼らを、カフェの女店主ディナ(ロニ・エルカベッツ)がホームステイさせてくれることになり……。(シネマトゥデイより)
  ※掲載写真はいずれも映画情報サイトより転載させて頂いております。


 タイトルは「迷子の警察音楽隊」ですが、楽団員だけじゃなく、彼らを迎え入れるイスラエルの人々にも其々の暮らしと“想い”があって、それが味わい深く描かれているのがいいです。
一夜の内にいろんなエピソードがつむがれていて、最後はそれらが柔らか〜くま〜るいエアーになって身体を包んでくれる感じ、です。
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スローテンポ、台詞の排除、どことなく漂う滑稽さには一瞬アキ・カウリスマキ作品を想起させますが、カウリスマキ監督ほど徹底したドライさは無く、どちらかと言えばしっとりとした情感を残す作品であったと思います。

しかし登場人物がみな其々に不器用なのは似ています。
皆それぞれ、人生の“滓”のようなものを持っていて、笑顔もどこか淋しい影を宿しています。嫌いだと思う登場人物は一人もいません。
懐にウィスキーのポケット瓶をしのばせ、可愛い女の子を見るや「チェット・ベイカーのマイ・ファニー・ヴァレンタインって知ってる?」とナンパする、あの軽薄そうで女好きのカーレド(サーレフ・バクリ)でさえ、です。イスラエルの冴えない男の子に恋の手ほどきをする彼は、結構チャーミングでやっぱり憎めない男性です。
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物語の中心に据えられているトゥフィークとデイナの咲きそうで咲かなかった恋は、人生の重さと時の重さを感じさせて切ないですね。
最後まで自分の殻を破りきることは出来なかったトゥフィークですが、ほんの一瞬、魂を交錯しあえた二人・・・哀切感いっぱいなのですが、きっと昨日の二人より今日の二人は、心に“彩り”が混じっているはずだと思うのですが・・・。

個人的には、カフェの常連客で失業中のイツィクの家での楽団員との一夜のエピソードが、地味だけど一番好き、かなぁ・・・。
特にイツィクと楽団員シモン(カリファ・ナトゥール)の会話のシーンはなかなか深く、じんわり泣けてくるものでした。

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「長い対立の歴史を持つイスラエルとエジプト市民の、ふとした心の交流」を描いたものなのですが、エジプトとイスラエルに特化したものではなく、普遍的な「人と人との交わり」というテーマがそこにはあったような気がします。

誰もが心に抱えた荷物を、すっと降ろしあえる瞬間。その一瞬の安らぎが明日の自分をほんの少し変えてくれる・・・切なくてホロ苦いんだけれど、じんわりあったかい映画でした。とても好きです。

  
 ラストにトゥフィークが歌うエジプト民謡、そしてイツィク一家と楽団員がハモる『サマータイム』、カーレドがハミングする『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』・・・佳き音楽は人々の境界線をなくすのですね。
 カーレドは懐中のウィスキーで一つの恋を成就させましたけれど、先の金曜、私は芳しいアイリッシュ・ウィスキーで一週間の仕事の区切りを付けましたよ。

時折拙ブログにご登場いただいているJazz Bar W.W にて。
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<BLACK BUSH>という名のアイリッシュ。
世界最古の蒸留所・ブッシュミルズでの蒸留とか。世界最古であると共にアイルランドで最も美しい蒸留所としても名を馳せた時期があったらしいです。
広がる香はどこか微かに甘くもあり、しかしながら口中でさらりとキレる後口はシャープです。

そういえば、かのチェット・ベイカーの歌声を初めてちゃんと聴かせてもらったのもこちらのお店でした。






posted by ぺろんぱ at 13:04| Comment(6) | TrackBack(3) | 日記
この記事へのコメント
さっそくのコメントありがとうございました!
やぁー、地味やけどなぁんかいい映画ですよね。温かいものが沸き出してくる様な。
こういう映画と出逢った時、嬉しくなります。

ところで、アイリッシュ・ウィスキーを嗜まれるなんて、素敵ですね
(御本人にとってはなんてことない事だと思われますが)。
実は私ウィスキーが苦手なんですが、アイルランドやイギリスの刑事ドラマが
大好きで、パブなんかのシーンが思い出され、ビールじゃなくてウィスキーという
その熟れてる感じがちょっと羨ましい気がします。(=^_^=)
Posted by ゆるり at 2008年03月02日 16:25
ゆるりさん、いらっしゃいませ。
こちらこそ早々にお越し下さりありがとうございます!

いい映画だったなぁと今もしみじみ思いだしています。

私は逆にビールがドンとは飲めなくて、ついつい直ぐ濃い目のアルコールに手を出して
しまいます。
アイリッシュに限らず、ウィスキーは香を
楽しむのもいいですよ。

>アイルランドやイギリスの刑事ドラマが
大好き

そうなのですか!
ゆるりさんのブログから受けていたイメージとしては意外な感じです(*^_^*)。
ああ、そういえばその手のドラマでは結構ストレートでグイッとウィスキーを飲んでいますよね。
私はちっともカッコよく熟れた飲み方が出来ていないように思いますが・・・(^_^;)。
Posted by ぺろんぱ at 2008年03月02日 21:44
こんばんは。
TBさせていただきます。
なかなか濃い映画でした。

アイリッシュ・ウイスキーがお好きなんですね。

私は、アイリッシュパブでギネスをよく飲んでいます。
Posted by keyakiya at 2008年03月02日 23:01
keyakiyaさん、ようこそです。
>なかなか濃い映画
仰っている「濃い」の意味が深そうです。

>アイリッシュ・ウイスキーがお好き
アイリッシュ・ウィスキー“も”、という感じです。
アルコールは何でも好きです。でも特に好きなのは日本酒と赤ワインと、夏場のジン、というところでしょうか。

ギネス!・・・ソリッドなファンを持つビールですよね(^_^)。アイリッシュ・パブでのギネスも、“正しい”です、素敵ですね。
Posted by ぺろんぱ at 2008年03月03日 20:12
こんばんは〜☆

もう4年以上も前になるのですか、、
実はこの作品を観ようという気になったのは、ぺろんぱさんのエントリー記事が
記憶にあったからなのですよ(^^ヾ)
エジプトの音楽隊が?イスラエルに?で、迷子でしょう(笑)
やはり気になりますよね〜(笑)

>昨日の二人より今日の二人は、心に“彩り”が
素敵な表現!
袖摺りあった、他のメンバーにもエジプトの側の人たちにも感じられる、ナニカが残ったでしょうね。
そう思える雰囲気がよかったですね〜。
「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」に関するトゥフィークの、カレードにかける言葉がなんか嬉しかったです☆

Posted by kira at 2011年11月09日 02:01
kiraさん、こんばんは〜。

>ぺろんぱさんのエントリー記事が記憶にあったから

えーっ、kiraさんにそのように言ってもらえて感激です。
ありがとうございます。

エジプトとイスラエル。
本当にね。一時結ばれた平和条約も今は・・・ですものね。
本作の中では(ぎこちなくも)人と人との触れ合いがたっぷりとありましたけれど。

>トゥフィークの、カレードにかける言葉

あー、やっぱり細部はすっかり忘れてしまっています(T_T)。
kiraさんのところにお邪魔して再見したくなった本作ですが、こうなったら早急に観直さなくては!です。
チェット・ベイカーの『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』はCDがあるので取り敢えず今夜聴きます。早速今から。(*^_^*)


Posted by ぺろんぱ at 2011年11月09日 22:21
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迷子の警察音楽隊
Excerpt: 迷子の警察音楽隊HP http://www.maigo-band.jp/ 予告編で見ていると、どこかコメディで軽いお笑い的ムービーかと思いきや、かなりディープな、一夜の大人の物語である。 ..
Weblog: Art- Mill  あーとみる
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