2008年03月16日

トゥヤーの結婚

 春の陽気となった週末。15日(土)は梅田ガーデンシネマに『トゥヤーの結婚』(ワン・チュアンアン監督)観に行きました。

モンゴルを舞台にした映画には、いつもその大地と一体化するかのような人々の生活にカルチャーショックを受け、その圧倒的な生命力にひれ伏す感じになりますが、今回もまた。

story
草原の砂漠化が進む中国の内モンゴル自治区。ダイナマイト事故で下半身不随になってしまった夫バータルと2人の子供を抱えるトゥヤー(ユー・ナン)は、朝から晩まで過酷な労働に追われていた。かつては青々としていた草原も今では砂漠に侵食され、水も数十キロ離れた井戸まで汲みに行かねばならない。力強く働くトゥヤーだが、厳しい生活はやがて彼女の体を蝕んでいく。自分がトゥヤーの重荷になっていると感じたバータルは、彼女に離婚を提案。初めは取り合わなかったトゥヤーだが、家族への愛からやがて一つの決断をする。彼女はバータルと別れるが、彼女の再婚条件は、自分や子供だけではなくバータルも家族として受け入れてくれる相手だった……。07年度ベルリン国際映画祭グランプリ受賞作。(映画情報およびチラシより抜粋)
 ※掲載写真はいずれも映画のシーンが情報サイトより転載させていただいております。

                 トゥヤー.jpg

 さえぎるものの何もない大地の輝きを捉えた映像が、そこに生きるトゥヤーの力強さが、トゥヤーを助け共に過酷な労働に生きるラクダや馬たちの姿が、流れる馬提琴の音色が・・・、厳しくも美しく、哀しくも美しい。そう感じた映画。

宿命的に目の前に轢かれたレールってあると思います。
どんなに頑張って生きていても、頑張り足りないとでも言うかのように迫ってくる不運という名のレール。
トゥヤーがした一度目の再婚の決意は、まだ迷いながらのものでした。でも息子の生命の危機に瀕した時、トゥヤーを支えていた最後の線がぷっつり切れてしまったのでしょうね。二度目の本気の決意は、彼女の絶対的な母性のなせるものであり、守るべきものを持つ者の強さと哀しさを同時に感じます。

また、若きトゥヤーには「家族を守らねばならないという使命感」と共にどうしても捨てきれない「女としての感情」があって、そこに自ら覆いをかけて見ない様にしてきた彼女が、再婚という悲しい選択を迫られることで逆に女としての感情を呼び起こされていく様子は、皮肉であり、且つ、ちょっぴり微笑ましくもあるのです。

それだけに、残された選択肢の中でトゥヤーが程よい着地点を見出すことができたのには安堵したい気持ち。
何だか多少の波乱含みは感じさせる一族の宴席ではありましたが、おそらくそれを乗り越えていけるであろうトゥヤーとセンゲーであると思えます。
あまずっぱい幸福感と元の夫へのやるせない思いと自らの運命を嘆く悲しみと、色んな感情がない混ぜになったトゥヤーの涙のラストシーンでしたが、トゥヤーの名を呼び続けるセンゲーの声がその涙に被るあのラストが、これからの二人の暗くはない未来を表しているようで素敵でした。
                トゥヤー3.jpg
 
 不運と過酷な暮らしの中で生きる彼らですが、涙を誘うだけでなく、逞しく、且つ、とてもユーモラスに描かれているところがいいですね。
主演のユー・ナン以外はその地域で実際に暮らす人々を起用しての作品だとか・・・。どこか不器用で朴訥、そして可笑しみの感じられる演技は自然体のものだったのですね。
逞しさといえば、ここに登場する人物達の逞しさと言ったら・・・。トゥヤーは勿論の事、彼女の息子、そしてトゥヤーを想う気持ちに目覚めてからのセンゲー、そして夫バータルの姉でさえ、みな其々に“精神的男前!”であると言えます。

結局は昔からの恋心を結ばせることの出来なかった油田会社の社長ボロルですが、彼もトゥヤーを想う気持ちは誰にも負けなかったはず。彼が別れ際にトゥヤーに小さく手を振ろうとしてそれすらも中途半端なまま出来ず仕舞いだった姿が、ユーモラスでありちょっと不憫でもあり、でした。 
                トゥヤー2.jpg
 
全編にトゥヤーの強さが閃光を放って?いたけれど、家族や、彼女を想う人達がいて迎えられたあのラスト。
とにかく、あのトゥヤーの涙とセンゲーが彼女を呼ぶ声がとてもよかったです・・・どうか幸せに。


 さてさてかわいい、劇中かなりお酒のシーンが登場しました。
モンゴルの寒さは死に直結するほどのもの。ましてや一日の過酷な労働を考えると「飲まずにはいられなかったのよ」と話すバータルの姉の言葉は凄みすら感じました。
字幕では焼酎と書かれていましたが、おそらくは我々の知る焼酎よりももっと高いアルコール度数のものではないかと推察します。それをそのまま、ですからね。
それから、先述の油田会社社長のボロルとトゥヤーがホテルの一室で、“多分ボロルの想いが叶うことはないだろう感”100%の雰囲気の中で飲むお酒がジャック・ダニエルとシーバス・リーガル。どっちも勿論ストレートでグイッと、です。

お酒に関してはすぐ真似てみたくなる私ですが、昨夜は取り敢えず開栓を楽しみにしていた(と言っても普段飲みのレベルのもの)赤ワインを。
飲み方だけを真似てグイッとね。
                プレ・デュ・ボアとチラシ.jpg
         *シャトー・プレ・デュ・ボア 04 映画のチラシと共に

posted by ぺろんぱ at 10:40| Comment(6) | TrackBack(3) | 日記
この記事へのコメント
日本の映像作家には、思いも付かない題材であり、
物語でもありますね。

我々が観る場合、どうしても「眺め下ろす」視点と
なるのでしょうかね。

実際には、彼らの方がよほどナチュラルで人間的なのかも知れませんが・・(・ω・)
Posted by TiM3 at 2008年03月16日 17:21
TiM3さん、こんばんは。

確かに元夫同伴の再婚というのは考えもしない条件であり、日本では成り立たないことかもしれませんね。でも心情的に「子どもは守り抜きたいけれど元夫も見捨てられない」というのは理解できる気もします。

>「眺め下ろす」視点
どうなんでしょう・・・。
確かに生活は原始的ですが、その圧倒的な生命力には完敗の思いで眺めてしまうこともあると思うのですが。
しかしやはり、同様の生活は文明にどっぷり浸かった日本人には出来ないでしょうね。

>彼らの方がよほどナチュラルで人間的
そうですね、「生きる」という原点がそこにはあるように感じました。
Posted by ぺろんぱ at 2008年03月16日 22:51
ぺろんぱさん、こんにちは。春ですねー。
文明生活どっぷりな自分はこういう映画を見ると、激しく心揺さぶられてしまいます。
モンゴル舞台の映画を見慣れなかった頃は、人が馬に乗っている姿を見るだけで泣けたりしました。
最近はそこまで素朴な部分に感動はしなくなったものの、本作のドラマには大いなる感銘を受けました。
ラクダまでも乗りこなすトゥヤーがカッコよかったです。
モンゴル旅行の際に、馬乳酒というお酒をちょろっといただきましたー。

Posted by かえる at 2008年03月20日 10:29
かえるさん、ようこそです。
TBもありがとうございます。

そうですね〜、春ですね〜。今日は桜の開花も進みそうな陽気です。(*^_^*)

>こういう映画を見ると、激しく心揺さぶられ
>ラクダまでも乗りこなすトゥヤーが

私はあの動物達と一体化した労働の姿にも意味もなく心を揺さぶられてしまいました。
生きるための「知恵」も「力」も、非文明な生活の中から生まれ出るものなのだなぁと改めて感じもしました。

>馬乳酒というお酒

おぉ!それは確か映画『らくだの涙』の中で出てきた「らくだ乳酒」と同じようなものでしょうか?!(拙ブログのその記事で「らくだ乳酒」についてちょびっとだけ触れています。)
うぅ・・・私も飲んでみたいですぅ。
Posted by ぺろんぱ at 2008年03月22日 10:17
ぺろんぱさん、コメントありがとうございました!
モンゴルが舞台の映画を見ると、いつも何か日本とは違うスケール(気持ちの)の
大きさと逞しさみたいなものを感じます。
今回も又、感動!しちゃって。期待を裏切らない素晴らしい作品でしたねー。
それにしても、公式HPに掲載されているユー・ナンさんは、
映画で見るナチュラルな美しさとはまた違った
妖艶な姿でビックラしてしまいました。ヾ(〃▽〃)ノ
あ、そうそう今週は「悲しみが乾くまで」を観に行く予定なので、
ぺろんぱさんの記事は読むのをガマンして、鑑賞後、また伺います。(=^_^=)
Posted by ゆるり at 2008年04月06日 20:45
ゆるりさん、こちらにもお越し頂きありがとうございます。

>いつも何か日本とは違うスケール(気持ちの)の
そうですよね〜、軽く頭を打たれる感じです。私は自分の持つちっぽけな世界観を修正できる気がします。

>公式HPに掲載されているユー・ナンさんは
私も情報誌で見たユー・ナンさんがちょっと小悪魔的(古い表現でごめんなさい(>_<))な眼差しで写ってたのでびっくりしました。
流石は女優! キメのビジュアルはやはり美しいですね。

『悲しみが・・・』ご鑑賞予定なのですね。
貴レヴューを楽しみにしております!(*^_^*)
Posted by ぺろんぱ at 2008年04月06日 21:24
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