実は、同劇場で時間違いで上映されていた別作品を観に行こうと(当初は)決めていたのですが、前日になっていろんな意味で怖気づいてしまいました。
3時間10分という上映時間には耐えうるとしても「目を覆うような凄惨なリンチシーン・・・」とやらに自分がどこまで真正面から向き合えるか・・・自信がなくなってしまって、結局その作品の上映時間に挟まるようにしてひっそりと上映されていたこっちの作品の方を選んでしまいました。
七藝ロビーには設えられた「連合赤軍」関連書籍のコーナーが。
そして昨日は監督(若松孝二氏)の舞台挨拶があるとあって、劇場内は熱気に満ちていた気がしました。

この作品『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』は、ご覧になられた方々の感想を読ませて頂きつつ、いずれ自分の中で「本当に観たいと思う時」がくるまでお預けとします。
・・・で、『胡同の理髪師』。
心穏やかにスクリーンに向かい、そして心地よい余韻を残してくれた滋味ある作品として、とても良かったと思います。
空席が多かったですが、観客の殆どともいえる年配の方々や、意外にもちらっと何人か居た若者らと共に鑑賞の、105分。
story
『紅い鞄 モォトゥオ探検隊』のハスチョロー監督による、北京の下町を舞台にした物語。90歳を超えた現役の理髪師を主人公に、庶民の日常風景をドキュメンタリータッチで優しく映し出す。温厚な主人公を演じるのは、実際に理髪師として腕をふるうチン・クイ。そのほかの出演者もほとんどが映画初出演。
93歳の理髪師チン爺さん(チン・クイ)は、北京の“胡同(フートン)”と呼ばれる伝統的な古い家屋で一人暮らしをしていた。彼の日課は朝6時に起床し毎日5分遅れるゼンマイ時計を直し、午前中に、昔なじみの顧客の家を訪問して散髪すること。午後は友人たちとマージャンを楽しみ、夜9時には就寝するという彼の長年の習慣も、得意客が次々と亡くなる中で少しずつ変化していく。(シネマトゥデイより) ※掲載写真はいずれも映画の情報サイトより転載させていただいております。

昨今の状況からも抱く「中国」という国の、良くも悪くも「“怒涛の如き”パワー漲る国民性」というイメージからはほど遠いような、とても静謐な、しかし凛とした暮らしがそこにはあって、喧騒の大都会・北京の真ん中に、地味な家並みと共にこんな風に生きている人達もいるんだなとちょっと驚く思いでした。
その胡同という街は北京オリンピックに備えて取り壊される流れになっているらしいのですが、そこにはまだまだ湯気の立つ飲食店の軒先や練炭で暖を取る小さくて古い家々が並び、年老いた人達が昔ながらの生活を楽しんでいるのでした。
日本でいうところの「下町の人情」的な世界が展開していて、その中でも特に、独りで淡々と日課をこなしていくチンさんには何処か人生を達観したかのような背筋の通った生き方を学ばされたような気がしました。
映画の解説にあった「黒猫と金魚が家族の93歳の老理髪師・・・」という一文にちょっと惹かれるものがあったのですが、映画を観てみると実はその黒猫の方はチンさんの友人の家で飼われていた猫だったのです。
「なぁんだ、解説文の作成ミスだったのね」と思ったのですが、中盤のある出来事をきっかけに、その黒猫はチンさんの家で飼われることになるのです。
その猫がチンさんのところで暮らすことになる経緯が描かれているのが、ほんのワンカットシーンなのですが、それがチンさんの生き方全てを物語ってくれているようであたたかく、そのシーンを見れただけでもこの映画を観た甲斐があったと言えます。
「寛容に、流し、受け入れる、そして受け入れたものを大切にする。」そんなチンさんの生き方が全て詰まっていましたし、何かとても大切な美しいものを見たような気持ちになったのです。

仲間との語らいや日々の型どおりの暮らしは常にどこかユーモラスで、付けっぱなしのテレビに映るミスコンの水着審査の女性達には見向きもせずにひたすら麻雀に興じる姿や、友人の訃報を話題にする老人4人がテレビで映った「ゴッドファーザー」のコルレオーネの埋葬シーン(だったと、多分思う)で全員“はぁ〜っ”と溜息をつく様子や、派手ではないけれど小さな笑いのシーンも大切に盛り込まれています。
そんな中、「日々是好日」とはいうものの、やはり来たるべき時に備えて淡々と「ある準備」をしていくチンさんが、「死」という逃れられない人間の運命を感じさせて切ないですね。
仕事で髪やひげを触る手付きは確かでも、日常の何気ない動作に見える俊敏さを欠いた微かな震えさえ伴う手の動き・・・、彼がそれでも家族に頼らず独りで凛と生きていることが堪らなく切なく、そして愛おしくなってくるのです。

こんな風に静かに、でも自分なりに確かな足取りで生きている人間がいるということを同じ人間として嬉しく感じ、そして自分自身も、ある一点においては決して恥ずかしくない、むしろ人に誇れるくらいの生き方を貫きたいものだと、そう願わずにはいられませんでした。
市政により新たに作り直させられた「20年の有効期限を持つ身分証」とやらを最大限に活用できるくらいに、そしてあの黒猫がまた誰か他の人にもらわれていく事のないように、チンさんにはもっともっと長生きしてほしいです、はい。
さてさて、昨日は某店で「美酒で乾杯!」の後、チンさんよろしく夜の9時には就寝・・・とすべきところ、もう何度も観ている(そしてVIDEOソフトも購入して持っている)はずの『タイタニック』(後編)を何故かまた観てしまい、ラスト、ディカが海に沈んでいくシーンから号泣する始末。

本日は9時就寝

きっちり劇場鑑賞をこなしておられますね(・ω・)
ワタシは、どうも週末は寝だめしてしまってあかんです(×_×) 『タイムマシン』でも観ます、、
>『タイタニック』(後編)を何故かまた観てしまい、
>ラスト、ディカが海に沈んでいくシーンから号泣する始末。
あれって、直前に御曹司にピストルで撃たれて死ぬのと、
どう違っていたんやろ・・(←そないなこと言うたんなよ!)
楽団のしとたちが、やっぱり一番悲しかったですね。
あと、倒れて来た煙突の直撃したディカの友達・・
>週末は寝だめしてしまって
ウィークデーが余りにもお忙しいのですよ、きっと。私は多分ウィークデーが生ぬるい日々なのです、多分。
>『タイムマシン』でも観ます、、
前文を受けての「タイムマシン」というのが何ともシュールな感じもしますが・・・大意はないのでしょうか??
>あれって、直前に御曹司にピストルで撃たれて死ぬのと、どう違っていたんやろ
>(←そないなこと言うたんなよ
そないなこと言うたらんといてください!
そら違うでしょう・・・違うと言うてください!^^;
死に方って・・・ある程度選べるならいいですのにね・・・。
すごく素敵な作品だったのでコメントさせていただきますね。
ぺろんぱさんが観に行かれたのはもうひと月も前になるんですねー。
この作品は当初から劇場が長い期間上映する予定でしたので
後回しになってしまいましたが
やっぱり見のがさないでよかったです!
>その猫がチンさんのところで暮らすことになる経緯が描かれているのが、
あのシーン良かったですね。大げさでなくありふれた日常の中で
本質的な所を表現している様な。。。
うまく言えませんがこういうの好きです。
あの猫、何かを語りかけている様な瞳が印象的でした。
後半にフィクションらしくハッとさせられるシーンもありましたが、
その後ホッとして(映画の持ち味が変わらない事にも)
ヨカッタ、よかった。(=^_^=)
いつの過去記事でも、コメントは大歓迎です。(*^_^*)
>大げさでなくありふれた
そうなのですね(^_^)、さりげなく淡々日常を描いているのがいいですよね。
>後半にフィクションらしくハッとさせられる
私もハッとして・・・安心しました(^_^)。
でも多分あれも奇を衒ったものじゃなかったんでしょうね。
このところ中国映画をまとめて観ているのですが、「胡同の理髪師」と「トゥヤーの結婚」は中でも気に入っています。庶民の生活や情感を描かせると中国映画は本当にうまいと思います。
消え去る運命にある胡同と死期が迫りつつある老人を描きながら、それをノスタルジックに哀愁切々と描くのではなく、胡同に根を張り現に生活している姿と死ではなく生を描いたことに深い共感を覚えました。
「トゥヤーの結婚」は私もとても印象深かったです。(昨年のMy Bestに入れました。(*^_^*))
仰る通り、ここには「生」があるのですね。
勿論、いずれは「死」へと続く道でありながら、しかし今そこで輝いて力強く脈打つ「生」の形があったことに、ゴブリンさんのレヴューで改めて気付かされました。
本作、「愛おしい」と思える人間の姿がありました。(*^_^*)