スサンネ・ビア監督の映画は、昨年末の『アフター・ウェディング』、今年年始の『ある愛の風景』に続き、この『悲しみが乾くまで』で三作目、続けての鑑賞です。
story
愛する夫の突然の死に直面した妻が、夫の親友との暮らしの中で徐々に運命を受け入れていく様を描く。
夫のブライアン(デヴィッド・ドゥカヴニー)と2人の子どもに囲まれ、幸せな日々を送っていたオードリー(ハル・ベリー)。しかし、ブライアンが事件に巻き込まれ死亡。その葬儀の日、オードリーは夫の親友ジェリー(ベニチオ・デル・トロ)と再会する。ジェリーはかつて弁護士だったが、今はヘロインにおぼれ、堕落した生活を送っていた。ジェリーを好きではなかったオードリーだが、ジェリーが自分と同じように夫を深く理解し愛していてくれたことを知り、しばらく自分達の家に住んでくれるよう懇願する。(シネマトゥデイ及びチラシコピーより抜粋)
※掲載写真はいずれも映画の情報サイトより転載させていただいております。

この監督、徐々に、段々と、観る毎に好きになってきました。
この監督の描く人間には、「どうしようもない程のエゴ」がいつも存在しているように思えます。
初鑑賞の『アフター・ウェディング』では、そのエゴと「美しく尊きもの」とのすり替えを感じ、受け入れられなかったところがありました。(このことは個人の見解の相違に拠るものだと思うのですけれど。)
次の鑑賞作『ある愛の風景』(制作は『アフター・ウェディング』より先)では、そのエゴなるものをとことんまで深くえぐり、微かな希望をも打ち消すほどの、生きながらにして永遠に抱えねばならない「絶望感」を力強く描いていて、とても見応えのあった作品だったと思います。
そして本作・・・。やはりヒロイン・オードリーが見せる「エゴ」がありました。
けれど、それがこの監督の共通したテーマと言われている「喪失と再生」の裏で、実はもう一つ普遍的に描こうとしているテーマではないかと感じました。誰もが持つエゴイズムというものと如何に向き合うか、ということです。
そして本作では、人間の持つエゴイズムを受け入れ、流し、ソフトに包み込むような描き方を感じました。勿論、『ある愛の風景』の時にも感じた「女性監督とは思えない程の“容赦なき”えぐり方」というものはあったのですが、全体を通して、(あくまでイメージとしての表現ですが)丸みを帯びた“柔らかさ”を感じましたね。

原題は「Things We Lost In The Fire」ですが、このタイトルは深いです。
観終わった後では、邦題の「悲しみが乾くまで」は、オードリーに焦点を当てすぎた、いささかメロドラマ的なものに思えてしまってこの作品のイメージにそぐわないように感じます。
「The Fire」というのは、劇中では実はさらりと語られることなのですが、まだブライアンが生きている頃にガレージで火事が起ったのですね。この火事でブライアンとオードリーの二人は大切だったもの・生活に必要だったもの等が少なからず焼失してしまうのですが、オードリーは以後に、今度はブライアンという大切な人をも失くしてしまうことになるのですね。
残ったものは、オードリー、二人の子ども、よき隣人ハワード、そして大切だった親友ジェリー。
でもこの映画は「失ったものは大きいけれど、残されたものがどう生きるか、どうその生と向き合うか」を問いかけているではないかと思いました。
だからこれはオードリーの再生の物語だけではない・・・ジェリーの再生、子ども達の再生の物語でもあるのです。そしてオードリーもジェリーも、そして二人の姿を間近で見る子ども達も、其々に大切にしたいと思える「何か」を見つけたのです。
感慨深いのは、ジェリーの更正仲間の若き女性ケリーが差し伸べてくれた手。
想い出と正面から向き合って初めて、その想い出という過去を乗り越えられることがあるってことを示してくれたように思います。

ラストに見えたのは希望。
過去に鑑賞した二作品よりもその光は明確に捉えることができた本作。
土砂降りの雨に煙る、灰色の空気の中で見る深紅の薔薇もまた美しい・・・。
三作品の中では一番好きかも。
そう思わせてくれるのは、やはりジェリーを演じるベニチオ・デル・トロでしょう。
その圧倒的な存在感!
人間が壊れ、堕ちていく苦しみともがき、時折見せる慈愛に満ちた眼差しと包容力・・・、弱く汚れた部分と強く気高い部分とが共存したこの一人の人間に、どうしようもなく惹かれ、スクリーンに目がくぎ付けになりました。
過去に出演作品は何作か観ていたものの、特に気に止めてもいなかったベニチオ・デル・トロ。
ごく稀に熱狂的なファンに遭遇しますが(私の知人女性にも一人います)、このベニチオ・デル・トロ、いいです。この一作で私もファンになりました(濃いぃ、けど)。
今日から「ベニチオ・デル・トロ様」になりました(濃いぃ、ですけどね)。


週末は好天に恵まれあたたかい陽射し。
桜も満開。お外でワイン。
パートナーの喪失・・と言う部分では『チョコレート』と似てそうだけど、方向性は随分と違うみたいですね。
それにしてもドゥカブニー・・劇中でアレしちゃうんですか・・(×_×)
紅塩(べにしお)さんは、最後に観たのが『シン・シティ』だったので、印象が悪くて、、(⌒〜⌒ι)
因みに、初期(ブレイク前)でチョイ役出演したのが『007/消されたライセンス』でしたよ。でも、その作品でもやたら惨たらしくお亡くなりになられます。。
「静かで味わい深いコメント」だなんて、TiM3さんにそんな風に言って頂けるなんて・・・あっ、もしかしてこれもTiM3さん流の「茶化し」だったりして(^_^;)。
『チョコレート』と確かに似ている部分はあります。ハル・ベリーも“殆ど素顔”で勝負していますし。
劇中でアレしちゃうドゥカブニーは、ベニチオ(紅塩さん?)とは容姿・キャラ共に対照的で好配役でした。でも一歩間違うとブライアン(ドゥカブニー)だってヘロイン中毒の闇に陥ってたかもしれないな・・・というような“危うさ”は持っていました。その辺にもう少し迫っていても面白かったかも、と思います。
『シン・シティ』は見てないのでチェックしようと思っていたところです。でも「印象悪い」んですね(^_^;)・・・めげずにトライしてみたいです。
>TiM3さんにそんな風に言って頂けるなんて・・・
>あっ、もしかしてこれもTiM3さん流の「茶化し」だったりして(^_^;)。
茶化したりしませんよぅ〜
マンハッタンで怪獣に踏んづけられても、ウソは言いません!(←その例えが大げさで怪しい)
>『シン・シティ』は見てないのでチェックしよう
>と思っていたところです。
>でも「印象悪い」んですね(^_^;)・・・めげずにトライしてみたいです。
クライヴ・オーウェン氏の「引き立て役」みたいになってました、、
アレされた後にアレされて、最後はモゴモゴ言いながら派手にアレしちゃいました(×_×)
>マンハッタンで怪獣に踏んづけられても、
あっ、かなりハマっておられますか?『四葉の広野』に!(^_^)
>クライヴ・オーウェン氏の「引き立て役」
わぉっ!またそんな“濃いぃ〜”もん同士で何を引き立たせあっていらしたんでしょう・・・^^;。興味津々です。
そういわれてみれば、輪郭をぼかしながらも
エゴイズムを描いているのでスサンネ・ビア監督作品はメロドラマに陥りがちなストーリーがそうでなく、何か見ているこちら側の中に痛みを感じさせるのかもしれません。
>今日から「ベニチオ・デル・トロ様」になりました
ふふっ、はまりましたねぇー。
私はちなみに「様」づけではありませんが、
やっぱりデル・トロが出てると見よっかなーと思う口です、ハイ。ヾ(〃▽〃)ノ
コメントとTBをありがとうございます。(*^_^*)
この監督さん、そこを描くか?というようなところを「敢えて描き」、また、そこへ逃げがちなところを「敢えて描かない」というような(決して悪い意味ではない)偏りを感じます。メロドラマに陥らないと仰っているのもそういう意味もあるかと・・・。
デル・トロ様については今後は要チェックです。(*^_^*)