2008年04月19日

ノーカントリー

 
  今週末は2本の公開作品を鑑賞しました。
先ずは、“遅ればせながら”の鑑賞ですが、『ノーカントリー』(ジョエル・コーエン&イーサン・コーエン監督)を、(タイムテーブルの都合上)珍しくなんばTOHOシネマズ?にて。

とにかく前評判として、殺し屋シガー(ハビエル・バルデム)の「不気味さ」をこれでもかと植えつけられていたので、それ相応の心構えと身構え(シガーが実際出てきたら一目散に逃げるとか!?)で臨みました。
それが功を奏したのか(否、それが「功を奏した」ことなのか却って悪かったのか、甚だ疑問ですが)、私的には殺し屋シガーに関しては『羊たちの沈黙』のレクター博士、『セヴン』のジョン・ドゥを超えるほどの「恐怖」を残さなかったですね・・・比べるものでもないのかもしれませんが。

story
  1980年代のテキサスを舞台に、麻薬密売に絡んだ大金を手にした男が非情な殺し屋に追われるサスペンス。
狩りをしていたルウェリン(ジョシュ・ブローリン)は、死体の山に囲まれた大量のヘロインと200万ドルの大金を発見する。危険なにおいを感じ取りながらも金を持ち去った彼は、謎の殺し屋シガー(ハビエル・バルデム)に追われることになる。事態を察知した保安官ベル(トミー・リー・ジョーンズ)は、2人の行方を追い始めるが…。(シネマトゥデイより)
      ※掲載写真はいずれも映画の情報サイトより転載させていただいております。


                   m[Jg[R.jpg  テキサスの風景は美しく…

                              
 これは原題の『No Country For Old Men』が示すように、Old Men (主としてトミー・リー演じる老保安官に代表されるような人たちのことかと思われます)にとってもはやアメリカは「No Country ー 本来の自国ではない、自分達が生きていく国ではない」のだという、荒涼とした亡国の思いを描いたものなのですよね。(少なくとも私はそう感じたのですが。)

けれど、殺し屋(と言うか、殺人鬼)シガーの不気味さと非情さが前面にほどばしり出て、さして悪人とは思えないルウェリン(確かに誰のものとも分からないお金を持ち去ったのは悪いことなのだけど)が只ひたすらシガーに命を狙われ続けるという、その「サスペンス」と「バイオレンス」に「サイキックな要素」が加わった「スリリングな展開」は十二分に味わえるものながら、その陰で、本来最も描きたかったことと思われる保安官ベル(トミー・リー)の深い喪失感や憂国・亡国の嘆きが今一つ力強く迫りくるものがなかったように感じました。

                 ノーカントリー4.jpg  保安官ベル


サイコサスペンスの要素に重きを置き過ぎて、本来の意図が薄れてしまったかのような・・・。
もしそちらが主流と言うならむしろ、もっと完璧にシガーに焦点を当てきって、彼が生む残虐性と殺人の(あるとするなら)彼なりの哲学を描いて欲しかったというのが正直な感想です。コーエン・ブラザーズファンの方々からすれば彼の偉業?を理解できていない私がおバカなのかもしれませんが。

ラストシーンは、だから最も語りたかったことが語られているようで、そういう意味においては良かったと思えるラストでした。
唐突と感じる終わり方も「決して解決されることではないのだ」という絶望感を表していて(救われないながら)深い余韻を残す終わり方だったと思います。
ベルと、ベルの父親たちが示してきた道はもう無いのですね。そしてそれでも尚、まだ微かな微かな救いの兆しを求めているベルの遠い目が哀しかったし、その静かなラストが指し示すこの世の未来が、本当の意味で心底怖かったと言えるかもしれません。
                 ノーカントリー2.jpg ルウェリン…ある意味“悲劇の”

 意味のない殺人を繰り返すシガー。
劇中でも何度か「(それを行う)理由がない」という台詞が聞かれます。私も心の中で自ずと「なんで?」と声を発していました。
憎い対象だけを殺すわけでもない、思想や宗教に基づいた確信犯でもない、ただ目の前にある動くモノを消していくという感じ。
どこかで何かがシガーに殺しのスウィッチを入れてしますようです・・・橋の欄干に止まった鳥さえ打つのだから。

殺し方も特殊で異様(…異様じゃない殺し方って?)、数少なく交わされる会話は一貫性がなく、明らかにある種の恐怖を話している相手に植え付ける・・・そして恐怖を感じた人間は死ぬしかない運命にあるのです。
けれど、いえ、だから、最後にシガーに向き合い、恐怖に打ち勝って「貴方は間違ったことを言っている」と言い放ったルウェリンの妻がやはり殺されてしまったことで(殺しのシーンこそ画的には描かれていませんが)、私はシガーに「恐怖」というよりは、ただ「怒り」と「憤り」を覚えてしまったのです。
冒頭で“レクター博士、ジョン・ドゥを超えるほどの「恐怖」を残さなかった”と書いたのはそういうことだと自分で分析します。

                ノーカントリー.jpg 恐怖の、シガー
         
ただ、シガーを演じたハビエル・バルデムは途轍もない迫力と存在感がありましたね。
以前に観た彼の主演作品『海を飛ぶ夢』との余りのイメージの違いに驚きました。(髪型もかなり違うし・・・^^;。)
でも『空を飛ぶ夢』で初めて彼を見た時に、優しい表情の時でもあの大きな目の奥の鋭い眼差しが何とはなしに背筋をゾクッとさせるものは感じていた記憶があるので、今回の抜擢にも納得がいきました。(アカデミーを受賞した時の喜びの表情も、どこか怖かったし・・・^_^;。)


しかし、この話題作をぎりぎりでもチェックできてよかったです。
私的にはルウェリンの妻カーラを演じたケリー・マクドナルドがとっても良かったですね。
今まででは出演作『銀河ヒッチハイク・ガイド』『それでも生きる子供たちへ』『ネバーランド』などを鑑賞していたようですが、彼女の名はインプットしていませんでした。改めて注目!の女優さんになりました(*^_^*)。


もう一本の鑑賞作品は・・・、本日公開の、かねてからの注目監督の最新作品でしたが・・・。

先にこの『ノーカントリー』のレヴューを書いたので、もう一本についてはブログにアップするのは少し遅れるかも知れません。
明日は雑事に追われて、ということもありますが、ちょっと感情を分析する回路が疲弊してしまいました(^_^;)。
しかし、わずかでもインターバル?を置くことで、(村上春樹風に言わせて頂ければ)沈むべきものは沈み、浮かぶべきものは浮かんでくると思いますので、しかるべき後に感想を述べたいと思っています。
                 パラノイド.jpg      

  さてさてかわいいトミー・リー・ジョーンズは好きな俳優さんの一人ですので、本作を観終わった後はBOSSの缶コーヒーで乾杯でも・・・・・・っていうのはやっぱり淋しいので、“酔える”飲み物で乾杯を。
先日来、久々ながら短いラマダンに突入しておりまして、5日ぶりのアルコールは昨日の仕事帰りに友人達4人で「居酒屋乾杯!」して味わいました。
                黒雫.jpg                
今日はもう少しディープに、自宅で芋焼酎の<黒雫>をオン・ザ・ロックで。


posted by ぺろんぱ at 21:50| Comment(6) | TrackBack(1) | 日記
この記事へのコメント
おお、ご鑑賞されましたか!

ひと昔前なら、トミー・リーが殺し屋にキャスティングされてたんやろか・・とか色々と妄想するものです。

国土が広いぶん、恐るべき凶悪犯も野放し状態でいるし、のうのうと生きながらえているような潜伏犯もおるのがアメリカなんやろな〜と思ったりもします。

もう1作は、画像にヒント(ってか答え)がありましたね。

と言うか、あの少年の服装・髪型・顔つきを見ただけで、もう監督さんが分ちゃいますね(=^_^=)

あの手の「少年」が大好きなんでしょうか、ガスさん。
Posted by TiM3 at 2008年04月19日 23:21
ケリー・マクドナルドよかったですよね!
なんか見覚えのある顔なのに思い出せない感じなんです。私も今回調べて
アルトマン監督の「ゴスフォード・パーク」(2001)で主役やった
女の子やったんやぁ、とやっとこさ顔と名前が一致しました。
イギリス(スコットランド)の女優さんと言う事でますます
期待大(←イギリス贔屓)。

この映画はテーマがありそうでもそこんところにあまり踏み込んではいない
(その辺がコーエン兄弟っぽいと言えば確かにそんな気もしますが)んで、
ぺろんぱさんの感想は当然ですよね。
普通の監督やったらトミー・リー・ジョーンズをあんなもったいない
使い方しない様な気もしますし。
私個人はむしろちょっと狙いすぎな感じがして、
シガーもあまり不気味とも感じられませんでした。
でもあの凶器は恐かった!
Posted by ゆるり at 2008年04月20日 16:27
TiM3さん、こんばんは。

はい、観て参りました。アメリカだけじゃなくて日本も、もう何だか“不気味に恐ろしい”国になっていってるよう気がします。
トミー・リーさん、日本で上映される映画ではもはや極悪非道?な役柄は無理な気がします。それだけ、やっぱりCMの影響力って(悲しいくらい)凄いと思います。(T_T)

>あの手の「少年」が大好きなんでしょうか
はい、きっと大好きでいらっしゃるんだと思います。^^;
でも期待大だった本作・・・う〜ん・・・取り敢えず書いたらアップします。
Posted by ぺろんぱ at 2008年04月20日 19:29
ゆるりさん、こんばんは。

>テーマがありそうでもそこんところにあまり踏み込んではいない

そうなのですね、そういうところがコーエン兄弟の演出の特徴でもあるのですね・・・なるほど、です。ありがとうございます。
シガーも、私も(書いてることと重複しちゃいますが)恐怖よりも「怒り」が残りました。・・・まあ、実際現われたらやっぱり怖いんですけれどね^^;。仰る通り、あの凶器もね^^;。

ケリー・マクドナルド、いいですよね。
ああ、そうだそうだ!ゆるりさんは大のイギリスファンでいらっしゃるのですよね(*^_^*)!
本作でしっかり名前と顔を並行記憶させた私です!
Posted by ぺろんぱ at 2008年04月20日 19:35
ばんはです☆

今日(日曜)にワタシも「なんばTOHOシネマズ」で観て来ました〜

思ったよりも混んでましたね・・(⌒〜⌒ι)

また拙ブログで色々と「似てる」だの何だの書いております(=^_^=)

それにしても・・ワタシは運転が好きなんですが、
それ故に、あの終盤の展開にはびっくりしました。
(ま、何かあるな・・とは思いましたが)

ときに、ラスト近くのとある少年の上半身裸体、何か深い意味があったんでしょうかねぇ(ないってば)
Posted by TiM3 at 2008年04月20日 23:51
TiM3さん、こんばんは。観ていらしたのですね!(^_^)

終盤の展開は、観るものにしては“まさか”だったと思いますよ。
横からの車は何かを象徴しているモノなのかと深く読んでみたり。

あっ、少年の半裸体・・・、あれももしかしたら微かながら意味するものはあったかもしれませんよ。彼が服(例えば典型的アメリカンの)を着ていたとすれば、彼は生きていなかったかも・・・?

今から貴ブログにも飛んできますね。
Posted by ぺろんぱ at 2008年04月21日 21:34
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/14203377
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック

ノーカントリー
Excerpt: 監督:ジョエル・コーエン 、イーサン・コーエン (アメリカ 2007年 ) 原題:NO COUNTRY FOR OLD MEN 【物語のはじまり】 狩りをしていたルウェリ...
Weblog: ゆるり鑑賞 Yururi kansho
Tracked: 2008-04-20 16:29