私的に注目のサント監督の最新作品とあって、随分前から期待感を温めてまいりました。でもそういうヒート感覚っていうのは、結果として“ピークを超えるピーク”を迎えないかぎりは持続しないし、得てして良い結果を生まないものなのかも知れません。
だから不完全燃焼のまま劇場を後にした私だったのですが、それでもやはり今はこの作品のことが良くも悪くも心に引っかかったままで、少年たちのスケートボードが空を切るシーンが時折フラッシュバックしているのです。

story
『エレファント』でカンヌ映画祭パルムドールに輝き、本作でもカンヌ国際映画祭60周年記念特別賞を受賞したガス・ヴァン・サントの監督最新作。ブレイク・ネルソンの同名小説を基に、『2046』のクリストファー・ドイルが撮影監督を務めている。主人公を演じるのは、注目の美少年ゲイブ・ネヴァンス。
始めたばかりのスケートボードに夢中で、ボーダーたちが集まるお気に入りの場所“パラノイドパーク”に出かける日々を送っていた16歳のアレックス(ゲイブ・ネヴァンス)。しかしある日、彼はふとした弾みで1人の男性を死なせてしまう。目撃者が誰もいない中、不安や脅えに駆られたアレックスは……。(シネマトゥデイより)
※掲載写真はいずれも映画の情報サイトより転載させていただいております。
冒頭のカメラの早回しや時折挿入されるスローモーションシーン、ざらざらした映像とクリアな映像の混在、一人の少年(アレックス)の後姿を彼の歩くのと同速でずっと追っていくカメラワークなど、サント監督らしい演出手法とその作品世界は十分に味わうことが出来ます。
ナイーブな、心揺れる多感な時を生きる人間を透明感をもって描いているのは、サント監督の一貫した優しい眼差しを感じます。
けれど、本作については、何人か(或いは何誌か)が「今までの距離の取り方と違って(登場人物への)歩み寄りが感じられる」と評されていましたが、果たしてそうだったのでしょうか。

確かに寄り添うような優しさはあったかもしれませんが、私は逆にアレックスたちとの間に精神的距離みたいなものを感じてしまったのですが・・・。監督が意図せず、或いは意図に反して、アレックスとの乖離が生まれ、「無理」があったとさえ感じてしまいました。
『エレファント』や『ラストデイズ』などで私が感じた、あの観る者を引き付けてやまない「力強い吸引力」みたいなものは残念ながら感じられなかったわけです。
それは私の拙い鑑賞眼のせいもあるかもしれませんが、何となく「見せようとした」演出が感じられてしまったせいでもあるのではないかと今は自分なりに分析しています。(う〜ん・・・私の拙い鑑賞眼のせいというのが最大要因でしょうけれど(^^ゞ)
一つには音楽の多用ということもあったかもしれません。
一見(一聴??)ミスマッチにも思えるBGMがあったことは悪くはなかったものの、私的には同監督の作品はもう少し音のない世界で見たかった気がします。
それから、アレックスが誰にとはなく綴り続けたあの手紙・・・あれは一体彼をどこへ導いたのでしょうか。
「日常のレベルとは違う問題が山積する世の中」に、彼はどう近づき、どう自らの罪を贖ったのでしょうか。
大量の血と内臓を撒き散らして死んでいった人間に比して、一体彼はどれほどの(心の)血を流したのでしょうか。
或いは監督は、そんふうに血を流す必要はないと思ったのかもしれません。そして、アレックスが彼なりにその出来事を消化させていくのをただ優しく見守りながら待っていたのかもしれません。

しかし、唯一、彼の苦悩が痛いほどに感じられたシーンがありましたが(事件後にアレックスがシャワーを浴びるシーンでした。あのシーン、もの凄く濃厚な時間が流れていました。私にとっては最も心をつき動かされたシーンだったと言えます。)、あの時の彼の苦悩が悲しいほどに伝わってきたから、私は彼なりの決着のつけ方が見たかったのです、とても。
その点の曖昧さが私には良く理解できませんでした。
サント監督作品はその曖昧さこそがいいのかも知れないけれど・・・。不確かな、陳腐な言い方ですが“ガラス細工”のような、そんな不安定な少年たちの心なんて、わかるようでわからないのですもの・・・ね。
そしてその不確かさ、(実は心の奥にある)罪の意識とこのまま逃げ続けたいという思いとの葛藤こそ、サント監督が描きたかった姿なのではないかとも思えるから。
女の子が二人でてきますが、一人は性欲を満たす相手にはなり得てもただアレックスを精神的に摩耗させるだけ・・・、もう一人は性の対象からは逸脱しているけれどアレックスを時々“こちら側の世界”に引き戻してくれる女の子。
サント監督の描く女の子って、いつも存在が何となく薄くって、人物設定にも監督の厳しさ?冷たさ?を感じてしまいますが、本作のメイシーについてはちょっとばかし心ニクイ台詞もあったかな・・・。

ラストは何の解決も示されていないけれど、(先述したことを踏まえれば)それはそれで素敵。
あぁ、だからやっぱり寄り添って描いていくこと自体に意味があったのでしょうね・・・サント監督の世界では道義的に何かを説くなんてこと、不要なことなのでしょうね。
アレックスが彼なりに決着をつけるのはスクリーンがエンドロールを流し終えてから後のことなのでしょう、きっと・・・。
・・・って、鑑賞後の私の心も不安定に揺れてます、まとまりが無くってすみません。
さてさて

久々にこのビールを飲みたくなって、会社帰りに買い求めました。

ヒューガルデン<禁断の果実> アルコール度数は高めの8・5です。仄かに苦甘い、コクと香のビールです。
苦甘いビールは飲めても、この映画のような苦甘い青春の頃にはもう戻れませんね。
何処となく、謎と含みと余韻のあるレビューですね。
私的にはやっぱり『グッドウィル』があり、そこに近年の衝撃作『エレファント』があって・・
と言うのがワタシのガスヴァン評ですかね。
ま、撮影監督があのしとなので、そこは興味津々だけど・・
『ツォツィ』とかに通じる作品観なんかが、あるのでしょうかねぇ(・ω・)
>謎と含みと余韻のあるレビュー
というより、自分の中の謎だらけで“方向性”も“完結性”もない、あと味の悪いレヴューでした、すみません。
段々自分でも何をどう表現したいのかが分からなくなってきました。
もしTiM3さんが(DVDでも)ご鑑賞される機会がございましたら、明快なご見解をお示し頂きたく思います。
>『グッドウィル』があり、そこに近年の衝撃作『エレファント』が
私的には、(ネット上ではさほど評判が良くなかったものの)『ラストデイズ』もとても好きです。
>『ツォツィ』とかに通じる作品観
私的には『ツォツィ』を想起することはなかったです。
故意か否かの違いは大きいかもしれませんが、アレックス君には「慟哭」というものが見られませんでした。ツォツィのような「貧困+肉親からの愛情の欠如+劣悪な環境」という設定でない分、アレックス君の方がむしろ闇が深いのかもしれません。
戻れないと思ったら、
戻れなくなるので……
てなことを考えて今日もフラフラ、
ウロウロしますよ!!
戻れないけれど、戻れないのがいいのでしょうね。うん・・・、戻らない方がいいってことありませんか?
フラフラウロウロ??の結果を、また貴ブログで楽しみにしています。
イマヒトツって感じだったのでしょうか?
私はもうただ映像の浮遊感やら、きらめきにココロつかまれての、お気に入り印となりました。
『エレファント』、『ラストデイズ』のそれぞれを思い出しましたが、それらよりもガスのまなざしの優しさは感じられ。
メイシーちゃんの存在もよかったですよねぇ。
私はアレックスがどこかに電話をしたという事実が母の問いかけで明らかになった時に一縷の希望を感じたのでした。
ヒューガルデン大好きですー。
強く引っ張られる感じがこれまで程には感じられなかったかな・・・というところです。
しかしやっぱり幾つかのシーンには(いい意味での)鳥肌が立ちました。
>明らかになった時に一縷の希望を感じた
そこを救い挙げらて評されたかえるさんにもガス監督と同じ“優しい眼差し”を感じます。
ヒューガルデン、美味しいですね!
心温まるコメントを度々頂いてましたのに、
すぐに伺えず、こんな時期になってしまってすみませんm(_ _)m
お元気そうで、しかも映画も美酒も楽しまれているのを拝読して、
こちらまでなにやらほっくりと嬉しくなりました〜♪
今頃やっと鑑賞して駆けつけました(^^;
さすが。ぺろんぱさんの記事にはいつも教えられる事がたくさんです!
う〜…私はまだ未消化な部分を引きずってます…
でも、ほんとに、 あのシャワーシーンは心が痛みましたよね。
アレックスが失ったものの大きさ、背負ったものの重さ。
そして顔色を変えずに平気を装う孤独、思春期の戸惑い…
そして久々のドイルの映像も嬉しかったです!
ただ、確かにBGMには私も少し違和感を持ちました。
こうして書いていると、もう一度観なくちゃと思われて来ます。
ヒューガルデンの爽やかでほろ苦い後味が、作品にはふさわし過ぎますよ〜〜〜
選酒眼もさすがのぺろんぱさんですね♪
fizz♪さんのブログに時折お邪魔しては美しいテンプレートにすっかり見惚れていた私ですよ。
さっき久し振りに覗かせて頂いたら、今はま“桜の儚げな美”が匂い立つ様な、本当に美しいテンプレートですね。
こちらにまでお越し下さり、ありがとうございます。
サント監督は新作『ミルク』の公開がカウントダウンとなっている今ですね。(観に行くか否かはビミョーなところですが)
本作については、私は未消化のまま取り敢えず落とし所を見つけてレヴューを閉じたって感じです。なので私もfizz♪さんと同じくまだ未消化部分を引きずっていると言えます。
もう一度観てみたら私ももっと確かな手応えを得られるかもしれません。
しかしサント監督の作品に出てくる少年(もしくは青年)の孤独な歩き姿って(理屈抜きで)やっぱりいいですねー。やはり「愛」をもって描かれているからでしょうか(*^_^*)。
>ドイルの映像
撮影監督のクリストファー・ドイル氏のことですか!?
fizz♪さん、ファンでいらっしゃるのですね!
調べてみましたら、ウォン・カーウァイ監督の作品を多く手がけていらして、近いところでは『レディ・イン・ザ・ウォーター』や』パリ・ジュテーム』などもドイル氏の撮影によるものとか!
“撮る”力量も佳き作品への大きな大きな要素なのですね。
ドイル氏の名前、インプットしました!ありがとうございます!(*^_^*)
>選酒眼
いいえ、私は選酒眼はありませぬ・・・。
私の某友人に言わせると、私は単なる“ベッタな酒飲み”だそうです。^_^; トホホ。
(※ベッタな=ベタな)