2006年10月26日

ミツバチのささやき 

 ブログに「敬愛する監督」欄を設けたことで、久々にビクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき』を観返してみようと思いました。

最近の同監督の映画作品は02年の『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』(「人生のメビウス」と「イデアの森」の2巻。15人の監督達による、"時"に関連した10分間の作品を集めたオムニバス映画。)の中での『ライフライン』ですが、これはたった10分のフィルムに「生命誕生への讃歌」と「戦争による死の影」とを描ききった見事な一作だったと思います。

大好きなアキ監督も出品していましたが、私はこの『ライフライン』に魂が揺さぶられる思いがし、涙さえこみ上げてきたのを覚えています。
たった10分のフィルムで、何の予兆もない状態で、ふいに心をつかまれ、人は泣く事が出来るものなのだと、この時深く感動したものです。

そして『ミツバチのささやき』。
ビクトル・エリセは「カメラで詩をつむぐ人」・・・そんな感じです。
台詞は極端に少なく、観ている私たち自身が、映像を音のない言葉として心に刻んでいくのです。
私たちが少女アナになり、アナの目を通して世界を見るのです。
時間と空間を越えて、硝子のように脆く不確かながら綺麗な空気に満たされていた「あのころ」に旅することの出来る、そんな作品です。

            アナ.jpg

story
  一人の少女を主人公に、彼女が体験する現実と空想の交錯した世界を繊細に描き出した作品。
スペインのとある小さな村に「フランケンシュタイン」の巡回映画がやってくる。
6歳の少女アナは姉から怪物は村外れの一軒家に隠れていると聞き、それを信じ込む。そんなある日、彼女がその家を訪れた時、そこで一人のスペイン内戦で傷ついた負傷兵と出合う。(シネマトゥデイより)


 起承転結的な物語はありません。
けれどそこには、まだ「生」を授かって間もない汚れないアナの心を通して「死」が深いところで見つめられています。子どもの頃に感じた「死というもの」への捉えようのない畏怖と寂寞の感情のようなものがそこにはあったのではないでしょうか。

アナの溢れるほどの豊かな感受性と、子どもが持つ力の深さと怖さを・・・、そして人間が日々置き去っていく過去というものへの喪失感を・・・、思いっきり感じて下さい、この映画で。


 「ミツバチのささやき」に魅せられて、秋の夜長、「美酒のささやき」が聞こえて来ました。

以前ブログで「今年も原酒のぬる燗にハマりそう・・・」と書きました。
美酒のささやきに従っていただいたのは、秋のひや卸し・純米無濾過生原酒「鏡野」のぬる燗です。ラベルが深まる秋を思わせて美しいですね。

原酒タイプなのでしっかり重たいお酒ながら、「酸が高いので、燗にしてもキレはいいですよ」とはマスター氏の弁。なるほど、微妙な温度変化で酸も冴えていました。
              鏡野.JPG
              
この日はマスター氏曰く「初の試み」とかで店内にはバッハの曲が・・・・

重厚なバロック調の音楽に盃を重ねるのもなかなか良いものでした。なんて言うか、人生を見つめる一献となりましたね


※今週末は慌しく、劇場通いは「1回休み」です。
 11月にまた手(パー)
posted by ぺろんぱ at 22:50| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
敬愛する監督のひとり」なんですね。

ボクは遠い過去にこの映画を観ました、というか、観た記憶がかすかにありますというほうが正確です。その時、どんな感想を持ったのかまったく覚えていないんです。ただ「池に写るフランケンシュタイン」の映像だけは強烈に残っています。

そして今回、京都みなみでニュープリント版で上映されるということで観に行きました。圧倒的な光りと炎の美しさと、静寂な中での存在感ある音の響きに圧倒されました。こんな映像は初めての感覚です。「カメラで詩をつむぐ人」まさにそんな感じです。音の捕まえ方は、かつっての日本映画のよう。溝口の映画などはまさにこんな響きです。

良いものを観ました。自分の感受性がかなり再生されていることに喜びを感じています。
Posted by keyakiya at 2009年01月20日 00:23
keyakiyaさん、こんばんは。

「敬愛する…」に名を挙げさせて頂いていますが、殆ど10ミニッツオールダーでの『ライフライン』の一瞬の感動に突き動かされての行動です。まだまだ未知の世界の監督さんです。

>音の捕まえ方・・・溝口の映画などは・・・

そうなのですね!
私は実は溝口監督の映画は未見なのです。
ブログを通して、私はこんなふうに教えて頂くことばかりで、とても勉強になります。


それから、、、感受性っていつまでも磨いていたいものの一つですね。(*^_^*)

Posted by ぺろんぱ at 2009年01月20日 21:05
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