「1回休み」のあとの劇場通いは、3日文化の日、OS阪急会館に『トリスタンとイゾルデ』(ケヴィン・レイノルズ監督、製作総指揮リドリー・スコット)を観に行きました。
シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』やワーグナーのオペラ『トリスタンとイゾルデ』の原型となったといわれる作品。
「文化の日に相応しくていいんでない?」というのは後付けで、「たまにはこういうクラシカルな歴史絵巻的作品に酔うのもいいかな」と、日頃たまにはお酒以外のモノに酔いたいと思っていた私のチョイスです。

観た感じは、素直によかったと思いました。
STORY
暗黒時代のイギリス。トリスタン(ジェームズ・フランコ)はコーンウォールの領主マーク(ルーファス・シーウェル)を育ての親に持つ勇敢な騎士。戦場で瀕死の重傷を負い、敵国アイルランドに流れ着いた彼は、アイルランド王の娘イゾルデ(ソフィア・マイルズ)にかくまわれ献身的な介護を受け、濃密な時間を過ごすうち、ごく自然に結ばれる。
だが運命は「イゾルデとマークの政略結婚」という過酷な試練を二人に用意していた。すぐ傍にいながら見つめあうことすら許されない苦しみ・・・しかしついに二人はほどばしる情熱を抑え切れなくなって・・・。
(映画チラシコピーより)
「古典モノ」というだけで、それだけで“目のくらまし”にはなります。
その頃の衣裳、部族の暮らしや慣わし、手付かずの自然など、それだけでもう“別世界”なわけですから、スクリーンに心が吸い寄せられることになります。イゾルデがマークのもとに輿入れするシーンなど、とても幻想的で美しいですし。
正統的な悲恋物語の展開にも、ある意味“安心の”陶酔感は得られるでしょう。2時間5分という時間も全く長くは感じませんでした。
ただ、チラシにある「史上最も美しい愛の・・・」という評し方は如何なものかと・・・。
トリスタンとイゾルデは「愛に生きる」と決め、マークの目を盗んで逢瀬を重ねます。
「生は死よりも尊く、その生よりも愛は遥かに尊い」と彼らによって語られるテーマ。
しかし、彼らが(忍んで)愛に生きることは、イコール、マークへの裏切りとなるわけです。
しかもイゾルデは表面上はマークの良き妻として振る舞い、彼の寵愛を一心に受けている・・・・この二重生活は余りにも息苦しく感じられて・・・。
状況を鑑みれば二人の行為を決して否定はしませんが、誰かの心を踏みにじることで成り立つ危うい関係を「最も美しい恋」と呼ぶ安易な評し方に私は抵抗を感じます。

・・・と、言うのもね、多分このマークが実は凄く「ナイスガイ」だったからなのだと思うのです。生き様も外見も、です。劇中の人物としても、演じる役者・ルーファス・シーウェルその人として見ても・・・。私は心を強く惹かれてしまいました。
下世話な言い方ですが、「マークの方がいいんちゃうん?」と心中でつぶやいてしまうほど。
自分の右手首を代償として救ったトリスタンをわが子のように慈しみ、やがて本当の右腕的存在として国の統治をもトリスタンに委ねようとする、その人間としての重厚さは、やがてトリスタンとイゾルデの裏切りをも「許す」と言う“潔さ”にも繋がります。
不実を知った上で二人に「自由に生きろ」と逃亡の船をあてがうのです。
国を治める人間はこうでなければいけません。
そのマークをして「生きる活力だが、その一方で切なくなるほど、何も見えなくなるほど愛している」と言わしめるイゾルデの裏切りは、観ている人間としても少し、いえ、かなり辛かったわけです。
でも、トリスタンの最期の台詞にも潔さは感じられたので、それで「互角」と言えないでもありません。
逃亡を拒否し、「愛のために国を滅ぼしたと言われたくない」と戦場に戻っていく彼。
「何よりも愛が尊い」というテーマには矛盾しますが、この台詞、心を打つものがありました。

幼少期のトリスタン
俳優・ルーファス・シーウェルの外見に触れましたが、「バター度」は高い顔ながら「目力」のある魅力的な人でした。
それからトリスタン役のジェームズ・フランコ、注目の人らしいですが、この役にはいささか風貌が現代的過ぎたような気もします。
柔らかくてアイドル的・・・可愛いという印象でした。幼少時代の子役の男の子の「孤高感」ある印象が強かっただけに、すぐには馴染めなかったです。
外見だけで言えば、マークの甥役だったヘンリー・カヴィルの方が力強い丹精なマスクでトリスタンには相応しかったような気もします。
あくまで“個人的好み”の問題かも知れませんが。
映画の後はまだ明るく、ちょっぴ濃いビールを飲んでみたくなりました。
シメイシリーズの<レッド>はアルコール7度のビールです。
度数で言えば<ブルー>の方が9度と高めですが、ブルーの方は濃厚なので「ナイトキャップ」向きとか。
まだ日も高い日中、<レッド>をワイン感覚でいただいてみました。
バックには我が愛しのノートパソコン君が「シネマで乾杯!」を開いています。


シメイ・レッド:スクールモン修道院で最初に醸造されたシメイ元祖。赤みがかったこのビールは円熟の味とコク、黒スグリのほのかな芳香が特徴・・・とは、商品コピーからです。
灯りを付けてグラスをかざしてみました。
濾過していない自然発酵の旨みが漂ってきませんか?
劇中の背景はまだイギリスが同盟国として力をなしていない時代・・・アイルランドの勢力が数段強く、そう言う意味でもこの物語が「ケルトの伝説」として1500年以上の時を超えて語り継がれてきたというのは、とても興味深いですね。
さて数年前に買った田崎真也の本「気のいい仲間と卓上料理」の「ハマグリのワイン煮」の時の飲み物として紹介されてます。以下は本からの引用です。
ここで紹介したビールは、ベルギー特有の修道院でつくられた「トラピスト・ビール」と呼ばれるタイプを代表する銘柄の一つ「シメイ」。いわゆる上面醗酵によって、芳醇でコクがあり、膨らみのあるタイプに仕上げられたものです。色も濃く、香も複雑で、プラムジャム、カラメル、甘草、シナモン、カカオなどの香と味わいは、柔らかな酸味とまろやかなボリューム感、そして余韻のビターテイスト。
私は今度は<ブルー>を飲んでみようと思っています。ちなみに<ホワイト>もあります。
ハマグリのワイン煮とシメイ、ですか。
シブイですね。流石ですね、田崎さん。
こういうビールは「ながら飲み」せず、真剣にじっくり味わいたいものだと思ったぺろんぱでした。