2008年07月09日

父、帰る (DVD鑑賞)

先日、たくさんの私的お題作品のうち、二作品をレンタルして観ました。
そのうちの一本が『父、帰る』(アンドレイ・ズビャギンツェフ監督)です。
(監督の名前を早口で3回言ったら唇がつりそうになりました。)

これは公開時に観逃してしまってからずっと、単純に、ただもう「観たかった」作品です。
殆ど予備知識を入れずに鑑賞。ぐいぐい引き込まれ一気に観終えましたが、観終えて今も尚、映像への感動と細部へのあらゆる疑問とが同居し、揺れる思いを抱えている作品です。

しかし、是も非も全て抱合した上で、私には「忘れられない映画」となりました。

story
家を出てから十数年ぶりに戻ってきた父と、彼を覚えていない息子たちとの小旅行を通じて父親という存在を問う人間ドラマ。
2003年度ヴェネチア国際映画祭の金獅子賞・新人監督賞をはじめ世界各国の映画祭で数々の賞を受賞した、アンドレイ・ズビャギンツェフ初監督作品。映画界では“新人”のスタッフが、同じく新人の監督のもとに集まって撮られた本作。
  母と祖母と暮らしていた兄弟のもとに、家を出ていた父が12年もの長い歳月を経て戻ってきた。写真でしか見たことのない父の出現に子どもたちは戸惑うが、父はお構いなしに彼らを湖への小旅行へ連れて行く……。(シネマトゥデイより)
        ※映画に関する写真は全て映画情報サイトより転載させて頂いております。
                父、帰る3.jpg

 際立つ造形物も無く非限定的でありながら恐らくはそこにでしか見ることができないであろう美しい風景。
静かな映像の中で時折聞かれるロシア語の響き。(何故か惹かれるところが大きい言語です。)
父親を欠きながらも極めて「日常的」であったアンドレイとイワン兄弟の生活に、ある日突然「非日常」の存在の父親が舞い戻る。

恐怖政治を敷くような父親の威圧的態度と、「親子旅行」という言葉の持つイメージとは程遠い不可解な謎に満ちた道行に、トーンを抑えた機械音のような音楽が加わって否応なしにざわざわとした不安感を煽ります。
ミステリー的要素がいっぱいで、この父親には終始いくつもの「何故?」「それは何?」という疑問が付きまとい、画面から目を離す事は出来ません。

この多くの謎は一切解かれることなく終わり、若干の観る側の想像を許すのみとなります。
ラストは悲劇的な出来事を迎え、エンドロールに映し出される何枚かの写真を見るまでは、全く救いもありません。
父親過去の人生に劇的な事情が存在し最後にそれが提示され精神的和解が訪れるとか、神がかり的な事象が起こり親子三人に何らかの啓示が下るとか、そういったことを期待していた私には観終わった直後には消化不良この上ない状態でした。
               
               父、帰る1.jpg

消化すべくいろいろと考えました。

実は、暴君的な振る舞いは不器用ながらの父親の愛の鞭ではなかったか・・・
逞しく「独りで」「自らの手足と知恵を使って」生き抜く術を教えようとしたのではなかったか・・・
事実、兄弟は逞しく元の地に帰還したではないか・・・

しかしどう考えても、父親が最後に取った行動を除き、あの一連の言動に愛情を見出すことは私には出来ませんでした。
あれが教育であったとするなら、それは屈折した感情を植え付けるだけの間違った教育であると。


そして今はこう思えるのです。

あの小旅行は、迎えた悲劇的な結末まで含めて、全て弟・イワンの作り出した妄想もしくは幻影の世界ではなかったのだろうか、と。
彼が父親の存在を消化し、自分なりの決着を付けるまでの「もう一つの世界」の中で展開させたものではなかったかと。
近づき、拒絶し、抹殺し、葬り去ることで彼は初めて父親の存在を超えることが出来たのではないでしょうか。
そこには勿論、身を切るような苦痛が伴うわけですが。
彼が最後に父を叫び呼ぶ声は強く印象に残るものでしたからね。

父親に常に疑問が付きまとい、その一切が解決されず葬られていることも、幻の存在であったと思えば納得がいくような気がします。
終始、イワンの表情がひどく険悪で見ている私にとって酷く恐ろしい形相であったことも、彼自身の内部での葛藤の表れではなかったかと、こじつけみたいですが、そう思います。
父性を渇望し、しかしながら渇望し過ぎた故に受け入れることができなかった少年の、「悲劇」と“本当の意味で独りで”逞しく生きていくしかない「未来」とを、「(少年達の)未来へのエール」も含めて描いてみせてくれたのではないかと、そんな気が今はしています。
                父、帰る2.jpg

本作についての他レヴューも幾つか読ませて頂いたら、本作はキリストと聖書の世界を描いたものだという内容のものもありました。
全編を通して何処かしら現実的でないトーンを感じていたので、「目から鱗」的に大変勉強になりました。
キリスト教の世界を熟知していない無宗教派人間なのでそれについては更なる勉強を要すると思います、やはり自分の知識世界の狭さを思い知らされて凹みますね。

いずれにせよ、猥雑な音の少ない研ぎ澄まされたような映像の世界には引き込まれます。
同じロシアということもありますが、アンドレイ・タルコフスキー監督の世界をちらと思い起こさせる映像です。
初監督作品とのことですが、次回作が出来れば是非観てみたい監督さんです。
何か情報をお持ちの方、お知らせ下されば嬉しいです。ぴかぴか(新しい)

兄役を演じた男の子、私としてはとても気に入って映画を見入っていたのですが、映画の完成後に、撮影のあった湖を個人的に再び訪れて事故になり溺死したそうです。凄く残念で、計り知れない何かがこの映画には存在するような気もしています。


「閑話休題」の逆で、下記話題へ。

                発見!のお店.jpg

 かわいい最近見つけた、日本酒や焼酎も置いてある小さなバールでの一枚。
私は先ずは日本酒で乾杯したのですが、背の高い(脚の高い)グラスで饗される何種ものワインにママさん(綺麗なお方です!)なりのこだわりを感じる素敵なお店でした。

梅雨は明けそうで明けないですね、今夜も和冷酒をPCの傍らで。

posted by ぺろんぱ at 20:30| Comment(12) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
何かの映画観に行ったとき、予告編で上の写真の少年を見て(弟、イワン?)好きな映画の一つとなっている”コーリャ 愛のプラハ”の子ぉかいな、て思った記憶が・・・。

真相追求しないまま今日に至ってしまいましたが、このブログがきっかけとなって近々真相究明にあたろうと思いましたわ。

ありがとうございます。

TSUTAYAもうちょい近かったらよいのにと思いつつ、こういうちょっとしたことを避けず向き合うことが肝腎かいなぁ、と・・・。(他に向き合うこと山程あるやろっ!)(すまん)
Posted by ビイルネン at 2008年07月10日 03:04
ビイルネンさん、こんばんは。

本作のイワン君を演じたのはイワン・ドブロヌラヴォフという名の少年で(同じく早口言葉にしたら唇つりそうです)、『コーリャ…』の少年とは別人と思います。
別人と分かった上で、また真相再確認兼ねてご覧になるのも良いかと・・・(^_^)。

ビイルネンさんに触発されてお題作品リストに加えている『フリーダ』や『ザ・コミットメンツ』も未消化なのに、またしてもこの貴コメントで『コーリャ 愛のプラハ』が観てみたくなってリストアップしました。(*^_^*)

私も向き合わねばならないことが山積です。その山が大きくなりすぎて視界からフレームアウトしてしまいましたぁ!
Posted by ぺろんぱ at 2008年07月10日 20:55
ばんはです。

ウィキペディアで調べてみると、昨年に監督第2作を完成させてはおられるようですね。

ビイルネンさんのおっしゃる『コーリャ・・』はチェコ映画の代表格ですよね。

ワタシは『この素晴らしき世界(2000)』と『ダーク・ブルー(2001)』がチェコ映画では思い出深かったです。

機会があれば、そちらも・・
Posted by TiM3 at 2008年07月10日 23:13
すみません、いろいろ調べて頂いてありがとうございます!アナログなもんで、ものすごい回り道するタイプなんです。そんな自分も今日(ていうか昨日)仕事場に向かう道すがら、”あっ!何ちゃらちゅうんでで調べたらええんかぁ”と気付いたんです。(遅いっ!ほんで、そんなんでようコメントしてるわなぁ)(すまん・・)

これに懲りずまた宜しゅうたのんます。

TiM3さんお薦めの2作も心に留めさせていただきました。ありがとうです。
Posted by ビイルネン at 2008年07月11日 03:43
”で”がひとつ多かったです・・・。わかったはるでしょうが・・・。(性分です)(すまん)
Posted by ビイルネン at 2008年07月11日 03:48
TiM3さん、こんばんは。
またもや新上方の御提供をありがとうございます!
その「二作目」というの、私も調べてみます。

>『この素晴らしき世界(2000)』と『ダーク・ブルー(2001)』

わーい、お題作にアップです。
Posted by ぺろんぱ at 2008年07月11日 19:37
ビイルネンさん、こんばんは。

回り道して得た情報の方が消えないで残るような気もします。

ビイルネンさんにもTiM3さんにも、映画知識や感性の磨かれ度で私は到底及びませんが、「日々精進」で参る所存です!
こちらこそ宜しくお願い致します!

ビイルネンさんの「すまん」っていうの、いいですわぁ〜。(^_^)
Posted by ぺろんぱ at 2008年07月11日 19:42
さっき帰宅しました。
酔っぱらって午前様でへろへろりんです(×_×)

>『この素晴らしき世界(2000)』と『ダーク・ブルー(2001)』

『この素晴らしき〜』は小品なんですが、観た後に即刻パンフを購入した、(ワタシにしては)珍しい作品です。
第2次大戦末期、ユダヤ人青年をかくまう夫婦の物語です。

『ダーク・ブルー』は宮崎駿カントクがコメントを寄せてました。彼の好きそうな「ヒコーキ乗り」の物語です。
『ブラス!』のタラ・フィッツジェラルドさんが助演されてましたよ、確か。

ではでは。
Posted by TiM3 at 2008年07月12日 00:26
さっき帰宅しました。(TiM3さんのまね)

シメイブルーまた飲んでしまいましたぁ。(イッキにいくならやっぱこれやでーアルコール度数9%)

で、昨日コメントしそびれたこと・・・。

TiM3さんはそうでしょうが、自分はぺろんぱさんにそない持ち上げてもらえるほどのもんでないんで、(かたよっています!)(キッパリ)こそばかったです。(ええように言っていただいて嬉しいですが・・・)

そこで一発、”何をおっしゃるWeダンス?”

(これを発表したかったんや・・・)(すまん)
Posted by ビイルネン at 2008年07月13日 03:56
何回もきて、かんにんです。

今日、マッティー・ペロンパ氏の命日やった、てことさっき10年日記の本日のページ開いて気付きました。 ・・・ です。

そういえば、最近カウリスマキ観てないかー。また、観残してる分ちょこちょこいっときます・・・。(て言うてる間にあぁっと1年が過ぎる気ィもしますが)(トホホ)
Posted by ビイルネン at 2008年07月13日 16:09
TiM3さん、引き続き情報をありがとうございます。
休日前夜の「酔っ払い」も一つの正しいあり方といえると思います。

『この素晴らしき・・・』に、より惹かれます。が、他作品のタラさんも観てみたいですね。(^_^)
Posted by ぺろんぱ at 2008年07月13日 17:21
ビイルネンさん、こんにちは。
コメントは何度でも大歓迎です!
でもって、ビイルネンさん独自の視点に影響を受けているのも本当のことです!

シメイブルー、いいですね。
今日私はジンソーダ→モルツの黒ビールの流れです。
マッティ・ペロンパーの命日、そうなのです。
気付いて下さっていて感激です。(ビイルネンさんも日記を付けていらっしゃるのですね。)
私も本日のブログに書こうかと思いながら、2年続けてその事を書いているので今日は触れませんでした。でもやっぱり私も夜に時間があれば何かのDVDを再見してみるかも、です。
『カラマリ・・・』とかを、消音で画を流すだけっていうのも乙なものではないでしょうか(*^_^*)。

>”何をおっしゃるWeダンス?”

うぅぅ・・・、その発想力が羨ましぃ〜です。

Posted by ぺろんぱ at 2008年07月13日 17:35
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