2008年07月13日

マンデラの名もなき看守

 
 梅雨は明けたのでしょうか。
吹く風に、まといつくような湿気は少なくなったような気がします。

そわそわと揺れる木々の音、遠くに聞こえる子ども達の嬌声、空を見上げながらゆっくりと発泡性のあるお酒を喉に流し込むのは、夏の休日の昼下がりの「一つのあり方」ですね。
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 さて、昨日12日(土)はテアトル梅田で『マンデラの名もなき看守』(ビレ・アウグスト監督)を鑑賞して来ました。
一時は見送ることになるかなと思っていた本作でしたが、やっぱり後悔しそうな気がしたので、封切4週目に突入にして劇場へ行って参りました。

マンデラという尊大な魂の大海で、もがき苦しみながらも「正しい歴史の一部であろうと」己が信じる方向を目指して泳ぎ続ける一人の人間の生き方が、現代を生きる我々の生き方をも問い正してくれる作品。
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story
  南アフリカ初の黒人大統領ネルソン・マンデラの“囚われの27年間”にスポットを当て、政治活動家として刑務所生活を強いられたマンデラと、彼との出会いによって社会を見つめ直す白人看守グレゴリーの交流を描く。実話に基づいた作品。
  アパルトヘイト政策により、黒人が差別されている1968年の南アフリカ。白人看守のグレゴリー(ジョセフ・ファインズ)は、マンデラ(デニス・ヘイスバート)が収監されているロベン島の刑務所に赴任。マンデラの故郷の言葉であるコーサ語を操ることができるグレゴリーは、マンデラらの秘密の会話をスパイするよう命じられる。(シネマトゥデイより)
      ※映画に関する掲載写真は全て映画の情報サイトより転載させていただいております。

 
  ある一つの事象に対して、そこにあるものを全く当然のものとして疑わない人間と、何らかの疑問を抱く人間と、二通りの人間が存在すると思います。
「黒人は白人よりも劣る」
「黒人は権力も冨も持ってはいけない」
「黒人は白人に刃向うテロリスト」
殆どの白人がそう信じて疑わないアパルトヘイト政策下。

グレゴリーは後者の人間であったわけですが、そのグレゴリーの抱いた疑問が、子ども達を真っ当な心を持った人間に育たせ、やがては黒人に対する偏見しか持ち得なかった妻をも変えていくというその「経緯」が、静かながら揺るぎない視点で描かれていたことに深く心を打たれます。
グレゴリーがアパルトヘイト政策に疑問を持つようになったのはマンデラという偉大な人物に間近で接したことにもよると思いますが、最も大きな理由となったのはグレゴリーが幼い頃に黒人の村の近隣で過ごし、バファナという名の一人の黒人少年と友情を培ったことだと思います。
                マンデラの.jpg

このことは本作の原題が『GOODBYE BAFANA』であることからも窺えますが、彼はマンデラを監視するうちに彼の気高い人間性に惹かれ、いつしかマンデラの中にかつての友・バファナを重ねていたのですね。
バファナとグレゴリーは、人種問題が介在などする余地のないほどに、幼いながらも純粋に互いを認め尊重し、対等であったわけです。
バファナがグレゴリーとの別れ際に手渡したお守りを彼がずっと持ち続けていたことで、グレゴリーの中にはもう既に「何が正しいことで何が間違っていることなのか」がを見極めようとする姿勢が培われていた気がします。ただ、それを思いださせてくれたのがマンデラとの出会いでした。
いわば、この物語の出発点は、幼き頃に彼らが過ごした地であったわけですね。

「GOODBYE」というのは、27年に渡る投獄生活から解放されて多くの南アフリカ民に迎えられるマンデラに向けて放ったグレゴリーの言葉。
バファナを重ね合わせただけでなく、グレゴリーは正真正銘の友情をマンデラに対して抱いていたのですね。
友情が成り立つところには白人黒人のヒエラルキーなどないのです。
そしてそのことが恐らくは全ての基本であり、理想であり、且つ、「強固な壁」なのかも知れません。
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この映画を観てふと、大好きな村上春樹が小説の中でよく使っていた言葉を思いだしました。
「どんな小さな事からでも、人は努力さえすれば何かを学び取ることが出来る。」
深く胸に刻んでいる言葉です。

グレゴリーも、マンデラに比して歴史的には“名もなき”人間ながら、ある疑問から何かを学び取ろうとした、常に自分に対して正しく生きようとした誇り高き人間であったのだと思います。
出獄して行くマンデラにバファナからもらった無二のお守りを渡すシーン、静かに熱いものが胸にこみ上げてきました。

また一つ、佳き映画に出会いました。



  陽も傾きかけて、次は黒ビールに。
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売り出されてから一度飲んでみたかった、<サントリー黒Beer ザ・プレミアムモルツ黒>です。
ギネスに感じる力強い主張はないけれど、ほのかに甘い、優しい黒ビールです。

グレゴリーと、彼を支え自らも変わる事の出来た妻グロリアに、乾杯。

posted by ぺろんぱ at 17:06| Comment(6) | TrackBack(1) | 日記
この記事へのコメント
こんばんはっ。
昨日はゆるめの映画を観たい気分だったので見送りましたが、
この作品気になっていたんですよねぇ。

>静かに熱いものが胸にこみ上げてきました。
じわじわしみる系の作品が好きなんで、
なんだか惹き付けられるフレーズです。(〃▽〃)

ビールも格別に美味しく感じる夏!なんですが、こう暑いと(体がクエン酸を求めているのか?!)梅ジュースの焼酎割りばかり飲んでいる私です。( ̄▽ ̄;A
Posted by ゆるり at 2008年07月13日 21:58
おお、レイフ・ファインズの弟さんが看取役なんですね。

看取と囚人(と書くと本作の場合少し語弊もありますが、、)
の関係と言えば『グリーンマイル』もなかなか思い出深くて、

「別にあんなCGを盛り込まなくたって、重厚なドラマに仕上げられたハズじゃん」と思ったワタシでしたっけ・・(⌒〜⌒ι)

本作も「塀の中にいても精神の自由を失わなかった者」と「その思想に触れ、収監されてはいないものの、実は不自由だった精神を解き放つ者」のドラマ、とか言う見方も出来るのかも知れませんね。

明晩は衛星で『ホテル・ルワンダ』が放送されるそうなので、そちらを観て、心を磨くことにします(・ω・)
Posted by TiM3 at 2008年07月14日 00:07
ゆるりさん、こんばんは。
「ゆるめの映画を観たい気分」の日っていうの、凄く分かります。
で、そういう映画から意外にも「ほど良く硬質のいい感動」を得られたりもしますよね。(*^_^*)

本作は静かに盛り上がってくる感じの映画でした。

梅ジュースの焼酎割り、いいですね!
私は時々梅酒を焼酎で割ってソーダをちょっと入れて飲んだりします。同じような味がするのでしょうか。
梅は体に良いのだぁ(*^_^*)!
Posted by ぺろんぱ at 2008年07月14日 19:41
TiM3さん、こんばんは。

そうです、よぉく見てみると目の辺りが似ている弟氏が主演の映画です。

『グリーンマイル』、いい映画でした。
重厚なんだけどそれを誘い文句にしてないところがいいのと違いますやろか。

>「塀の中にいても精神の自由を失わなかった者」と「その思想に触れ、・・・

おぉ、まさしくその通りかと思います!
グレゴリーも、解き放たれてやっとバファナと遊び暮らしたあの頃の自分に還れたのだと思います。

『…ルワンダ』、映画好きの友人Sさんが「ドワーッと泣いた」と言っていた映画・・・、私は劇場へ観に行けなかったので今夜はしっかり録画してゆっくり時間のある時に観てみるつもりです(^_^)。
Posted by ぺろんぱ at 2008年07月14日 19:51
ぺろんぱさん、こんばんは。
逃さずに劇場鑑賞していただけて嬉しいです。
カンヌでパルムドールを受賞した監督だけあって、何気ないショットにアートな美しさを感じたりしました。
「GOODBYE BAFANA」という原題の味わいが、鑑賞中、鑑賞後にジワジワとしみてくるのがまたよかったですよねー。
ファインズといえば、かっこいいレイフ兄ちゃんの方が好きでしたが、今作で弟ジョセフの株がちょいとあがりましたー♪
Posted by かえる at 2008年07月14日 22:13
かえるさん、こんばんは。
こちらにもお越し頂きありがとうございます!

>カンヌでパルムドールを受賞した監督

そうなのですか!?
一つ勉強です。
この監督の作品は実は未見だったのですが結構大作的な作品を撮っておられるようですね。
調べてみると『愛と精霊の家』には(結構好きな俳優の)J・アイアンズさんが出演されてるみたいで、いつか観てみたいと思った次第です。(*^_^*)

レイフさんと言えば私の中で新しいのは『ナイロビの蜂』でした。あのレイフさんはよかったですぅ。(*^_^*)
しかしながら私もかえるさんと同じく、本作でジョセフさんの好感度アップです!
Posted by ぺろんぱ at 2008年07月15日 20:08
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「マンデラの名もなき看守」歴史の事実を知る
Excerpt: 「マンデラの名もなき看守」★★★★wowowで鑑賞 ジョセフ・ファインズ、デニス・ヘイスバート、ダイアン・クルーガー主演 ビレ・アウグスト 監督、134分 、2007年(2008-05-17公開)..
Weblog: soramove
Tracked: 2009-11-16 07:59