2008年07月30日

ダーク・ブルー(DVD鑑賞)

  先日来のお題作品より一作。

レンタルショップTは大々的なレンタル料サービス期間とあって多くの作品がレンタル中。目についた本作を取り敢えずしっかりキープしました。
拙ブログにコメントを下さっているTiM3さんに(『父、帰る』鑑賞時の拙レヴューへのコメントで)ご紹介を受けた『ダーク・ブルー』(ヤン・スヴィエラーク監督)です。
昨日の夜、眠る時間を惜しんで一気に鑑賞。


story
  第二次世界大戦、ナチス占領下のチェコスロバキア。祖国をあとにし、英国空軍パイロットとして戦地に赴くフランタ(オンドジェイ・ヴェトヒー)カレル(クリシュトフ・ハーディック)は年齢差を超えた友情で結ばれる。ある日、カレルは人妻の女性(タラ・フィッツジェラルド)を愛してしまう。だが彼女が愛したのはフランタであった。激しい戦火のなか、禁断の欲望だけが渦巻く。そして三人の運命は思いもよらぬ方向へ傾いていくのだった。(映画情報サイトより)
     ※映画に関する掲載写真は全て本作の情報サイトより転載させて頂きました。
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  何だか不思議な映画でした。
戦争の(或いは戦争を描いた)映画なのに、美しいヨーロッパの野辺の風景と、男女の恋、男同士の友情という、人と人とが触れあう情感を詩情豊かに捉えた瑞々しさが印象に残る作品でした。
1時間50分のフィルムとは思えないほどに、そこには様々な情感が詰まっていました。

イメージとしては「美しい」という言葉を残した作品ですが、戦争がもたらす不条理さを底辺に、決して美しいエンドを迎えている映画ではありません。むしろ酷く痛々しい世界が広がっていると言っても過言ではありません。
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愛国心、友情、恋、それらの普遍的なテーマに加え、戦争による別れと死、そしてこのチェコスロバキアという国がたどる運命の苛酷さとそれに翻弄される人々の苦しみ。
それらが、退役後に「囚われの身」となった(戦後、共産主義化した自国によって、英国軍として闘った咎で入獄を強いられた。自国のために英国軍として闘ったのに、です。)フランタの回想として語られていくのですが、囚われのフランタが既に彼の人生そのものを達観しているようにも見受けられ、そして達観しているからこそ、過ぎ去った彼の人生を今は“美しく尊きもの”として述懐できているのであろうかと想像したりしたものです。

想い出が“苦い”ものであっても(事実、苦い想い出も有り…)、しかしながら彼の「人生の軌跡」として全てが“彩り”を放って描かれているのですが、その辺りが本作を単に戦争を描いた映画として位置づけるに難いものとしていると思います。。
全てを悲惨なベールで包んでしまうのではなく、美しく輝いていた青春は青春として、甘やかな恋は甘やかな恋として、全てを彼の人生の一コマとして、彼の、或いは彼と関わった人達の「人生」を鮮やかに描いて見せてくれているところが素敵でした。

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フランタだけでなく、カレル、そして彼らの愛したスーザン、其々のたどった人生は決して幸多きものではなかったかもしれませんが、一瞬一瞬において、彼ら自身の、彼らだけの、かけがえのない人生があったことを思わせてくれます。


 戦争が最終的にフランタに科した荷は、誰もが彼の立場におかれたとしたら声高に「それは違う!」と叫ばずにはいられないものですが、それらの感情を全て飲み込んで自分の「今」と向き合っているフランタの姿が、痛々しくも尊く感じました。
そういう観点から捉えれば、私はむしろ、あの暗くて痛みを伴う、戦犯として囚われの身となったフランタの「今」の姿に最も惹かれるところは多いといえるかもしれません。
全てを噛み含んだフランタの「孤高な姿」がそこにはあると言えるからです。

孤高とは言いましたが、どこにでも彼らの生き方を精神的に肯定しようとする人間(ドクター)がいた事は、自分自身が正しいと思うことには抗うまいとする存在を感じて救いとなりました。

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  戦争と自国の不遇な歴史により、彼らはその尊い人生の大半を奪われてしまったわけですが、それでも尚、美しく輝いていた「彼らの時間」が確かに存在していた事に、静かに心打たれる思いです。

佳き映画のご紹介をありがとうございました。
次は、同じく拙ブログにコメントをくださっているビイルネンさんご紹介の、同監督作品『コーリャ・愛のプラハ』を手に取ってみたいと思います。
    
  佳き映画を反芻しつつ、<ぽっぽ亭>というお店での白ワインと和風クリームチーズ、そして赤ワインの画。
友人に教えてもらった、小さいけれど居心地のよい佳きお店です。

     poppo.jpg     ぽっぽ 赤.jpg      
  
 映画の中では失意のカレルがスコッチを痛飲していましたけれどね。
そういえば、カレル役の男の子、顔立ちが仏女優・ジュリエット・ビノシュに似ていました。



posted by ぺろんぱ at 22:42| Comment(6) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
ばんはです。

自転車かバイクかに、翼をくっつけて仮想トレーニングしてるシーンがとにかく強烈で、、
「あ、このシーン、宮崎駿監督はめちゃめちゃ気に入ったやろな!」と勝手に想像してました(=^_^=)

ストーリーを細かく追う、と言うより、世界観に浸るってテイストの作品だったと記憶してます。

戦時下では、特に男性は「恋をしたい!」と思うような気がします。
銃後の女性もそうなのでしょうかね・・
Posted by TiM3 at 2008年07月30日 23:03
小生 この映画は待ちに待って
映画館で見ました 戦闘機マニアでもあるので
(ジェット機ではなくレシプロ機の) 
英国の傑作戦闘機スピットファイヤーの実機
が飛ぶのを見るだけでも価値があります
(皆さんは興味はないと思いますが) 
第二次世界大戦では多くの亡命パイロットが
義勇軍や正規軍でドイツと戦います。
しかし後々共産主義国になった国の
パイロットは不幸でした。
本来ならば 祖国の英雄であるはずが
この映画のように牢獄へ入れられます。
本当に苦しく不幸だった戦争が終わっても
彼らには平和は訪れなかったんですね


Posted by The Lonely One at 2008年07月31日 14:45
TiM3さん、こんばんは。
改めまして、本作のご紹介をありがとうございました。
仮想トレーニングのシーン、ありましたね。
若きカレルと年嵩のフランタの受け止め方の違いも興味深かったです。
ああいうシーンを見るにつけ、カレルは確かに優秀なパイロットであったにせよ、フランタ(まるで優秀なトレーナーのような)の存在が無ければ本来の力を発揮できなかったのかも知れないな、、、と、改めて二人の絆を感じています。

世界観に浸る・・・仰る通りです!
雰囲気で「好き」と言える作品かも。

>銃後の女性もそうなのでしょうかね・・

どうでしょうね。
「確かなもの」「今、取り合えず其処に答えを得られるもの」を求めてしまうことはあるのかも知れませんね。
Posted by ぺろんぱ at 2008年07月31日 20:01
The Lonely Oneさん、こんばんは。

本作は「戦闘シーンが見どころ」とのコメントを目にしました。
・・・が、残念ながら私は恐らくLonelyさんが抱かれているほどの「感慨」を得られなかったのだと思います・・・「スピットファイヤーの実機」??・・・「そ、それは何ですか??」の世界の私です、ゴメンナサイです、しゅん。
しかし、それほどに、何処かの誰かのハートを振るわせた映画って事ですよね。
それだけで十分素敵な映画ですね!

彼らの過酷な人生は、「人生は一度っきり」と思えば思うほど、とても悲しいです。
Posted by ぺろんぱ at 2008年07月31日 20:09
ぺろんぱさん、こんばんは。
これってそういえば、ジブリ提供の映画なんですよね。
ポニョ公開中ゆえ、ふと思い出しました。
これは私も好きな作品です。
まさに運命に翻弄される人々が描かれていましたよね。
東欧中欧の国々は、欧米とロシアの板挟みになるような感じで、実に複雑な歴史をたどっていて、それゆえに興味深い良作がありますよね。
最近はミロス・フォアマンの初期作品に感銘。
チェコ映画は大好きですー。
『この素晴らしき世界』は当然ご覧になってますよね?
未見の場合は、必見リストに入れてくださいましー♪
Posted by かえる at 2008年08月06日 23:22
かえるさん、いらっしゃいませ。

そうなのです、「ジブリ提供」ということでちょっと意外に思った私です。

「自国の歴史」が作品に及ぼす影響(と言うより、作品そのものの存在理由)は大きいのですね。問題意識を持つ民として。

ミロス・フォアマンですか!?
早速チェックしてみます。(*^_^*) 勉強になります、ありがとうございます!

『この素晴らしき世界』はお題作品リストに載せています(*^_^*)。本作『ダークブルー』を御紹介いただいた御方から同列で御推奨を受けている作品です。
かえるさんも御推奨とあらば益々鑑賞欲が湧いてきます!!
Posted by ぺろんぱ at 2008年08月07日 05:31
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