2020年03月08日

1917 命をかけた伝令     「貧しい彷徨える人」の哀切なメロディー

 
アースシネマズで『1917 命をかけた伝令』(サム・メンデス監督)を観ました。

約180席のシアターで観客は5名のみ。混んでいても不安でしたが、逆にこんなに空いている状況にも今後どうなってゆくのかと更に不安が募りました。


映画(本作)はとにかく見応えあり!の作品。
良い映画の後は暫くボーっとしてしまいがちですが本作も然りでした。(アナタいつもボーっとしてるやんという指摘はスルーさせて頂きます。)


1917チラシ - コピー.JPG

Story
全編ワンカットでつくり上げられた戦争ドラマ。
1917年4月のフランス。ドイツ軍と連合国軍が西部戦線で対峙する中、イギリス軍兵士のスコフィールドとブレイクに、ドイツ軍を追撃しているマッケンジー大佐の部隊に作戦の中止を知らせる命令が下される。部隊の行く先には要塞化されたドイツ軍の陣地と大規模な砲兵隊が待ち構えていた。                ※映画情報サイトより転載


「全編ワンカット映像」との告知に本当にそんなことができるのだろうかと思いましたが、壮絶なミッションを遂行する若き兵士をカメラは張り付くような至近距離でずっと追い続けていました。

過酷な状況でボロボロになってゆく軍服の肩が手を伸ばせば触れられるほどの近さに感じられて。
一瞬たりとも目が離せない、離れない。 早く早く早く。早く彼を進ませてあげてと叫ぶ私(勿論心の中で)。

彼を、と書いたのは途中で二人のうちの一人(ブレイク)が逝ってしまうから、です。
あんなに早くあんな理不尽なことで命断たれてしまうとは・・・。しかし戦争そのものが理不尽なことであるのですものね。
二人だからこそ耐え得るものがあり、一人で(スコフィールド)のあのミッションは肉体的にも精神的にも限界だったはず

戦場とはあんなにも酷いものなのか・・・人間の死体や動物たちの死骸は絶命の瞬間から腐敗が始まるわけで、それもまさに地獄の様相でした。
前線を越えたその先に広がる草原と樹々の花はあんなにも平和的で美しいというのに。


あっさり死んだほうがマシだと思える過酷さの中でひた走ったスコフィールドでしたが、任務を終えた彼にマッケンジー大佐が語った言葉が胸を突きます。

「明日になればまた別の命令が来る。この戦争が終わるのは最後の一人になった時だ。」
果てることのない戦い。個の力ではどうすることもできない大きな怖ろしい力が生まれてしまうんですね。

挿入された、ドイツ軍から身を隠すフランス人女性と名もなき赤ん坊のシーン。
砂漠にほんの一滴したたり落ちた雫のようでした。あの二人が生き延びてくれたことを祈らずにはいられません。


本作、『007 スカイフォール』のサム・メンデス監督最新作で全編ワンカット映像ということ以外、実は出演者情報も事前には全く知りませんでした。
若き兵士を演じた二人、ジョージ・マッケイとディーン=チャールズ・チャップマンには拍手(特にスコフィールドを演じたジョージ・マッケイが素晴らしかった)ですが、名だたる俳優お三方が短い時間ながら要となる役柄でご登場だったことに小さな驚きでした。
コリン・ファース、マーク・ストロング。そして最後にベネディクト・カンバーバッチさんのご登場には歓喜のあまり一瞬動揺してしまいました(笑)。 直ぐ気持ちを立て直して映画に集中しましたけれど。
台詞がグーンと沁みました。



すしてつ - コピー.jpg

いつだったかの小さな集いでの乾杯です。
こんな風に心穏やかに笑顔でお酒を交わせる日々が早く戻ってくるとよいのですけれど。


ところでマッケンジー大佐率いるデヴォンシャー連隊の兵士が劇中で歌っていたあの歌。
ネットで調べてみたらどこかの国の民間伝承歌が原曲らしい「 I AM A POOR WAYFARINGS STRANGER (貧しい彷徨える人) 」という歌のようです。
宗教観の濃い歌詞ですが、どんなに故郷や家族が恋しかったかという切々とした想いが溢れていて忘れられません。
とても美しくそしてとても哀しいメロディーでした。ぴかぴか(新しい)



posted by ぺろんぱ at 17:07| Comment(4) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
あの狭い塹壕でカメラを持ってよく360度も回り込めましたよね。
もしかしたら、上から吊ってたかもしれませんけどね。
あの同僚がまさかの途中退場にスコフィールドと同じ気持ちになりました。
相手も捕虜にでもなると思ったのでしょうか。

アカデミー賞大本命だっただけに、『パラサイト』に軍配と知った時は「えぇ〜?」でしたよ(笑)
Posted by ituka at 2020年03月08日 19:30
itukaさん、お越し下さり嬉しいです。

あの塹壕のシーン、爆音に飛び上がったのを思い出しました!
そうですよねー、かなり狭い空間でしたものね。
そういう撮影技術的なところ、itukaさんに気付かされることが多いです、ありがとうございます。

あの途中退場。
相手もとにかく“負の意識”しか働いてなかったことの結果でしょうかねぇ…。そこに得体のしれない“怖いもの”を感じます。

>アカデミー賞大本命だっただけに

そうだったのですね!?
んー、パラサイトも凄い作品でしたけれど今作が逃したのはやはりとても惜しい気がします。
Posted by ぺろんぱ at 2020年03月08日 21:09
見事な映画でしたね。
没入感、半端なかったです。
その分、疲れました(笑)
フランス人女性と赤ん坊との出会いは、フィクションならではの美しいシーンでした。

この映画の翌日に見た「彼らは生きていた」
こちらは第一次世界大戦の映像を高解像にリマスター化したドキュメンタリーで圧巻でした。
あまりの残酷さに、途中からフィクションを見てるように感じてしまう自分が怖かったです。
帰還兵の証言「戦争ほど悲惨で無意味なものはない」
これにつきます。

ところで、最近発売された「デカローグ」のブルーレイが昨日届きました!
なかなかお高い買い物でしたが、しばらくはキェシロフスキの世界に浸れると思うと
ニマニマが止まりません。
Posted by Yururi at 2020年03月08日 23:57
Yururiさん、ようこそです。

やはり本作もご覧になられていたのですね(^^)。

仏女性とのあのシーン、「行かないで」の言葉も辛く耳に残り続けています。
あんなシーンをそっと描き入れてくれたことに監督の「兵士たちへの想い」を感じました。

『彼らは生きていた』
ドキュメンタリーをフィクションと思ってしまう(思い込もうと脳のどこかが指示してしまう?)ほどの残酷さというのがどれほど激しいものか・・・きっと私の想像なんて遥かに超えたものなのでしょうね。

>無意味なもの…

本作でもイギリス兵が荒廃しきった地を見て「3年も戦ってこれか!それならこの土地を奴ら(敵国)にクレてやる!俺の土地じゃない!」って言っていましたが、実際のところ兵士の気持ちはこれが正直なところなのかもしれません。

ところで『デカローグ』のブルーレイBOX!
お好きなモノやお好きなコトには惜しみなく投資されるYururiさんのお姿を素敵だなーっていつも思っています。
不安なニュースばかりのこんな状況ですから思いっきり“ニマニマ”なさってください(^^)。
いつかブルーレイ再鑑賞の御記事を楽しみにいたしております(*^-^*)。




Posted by ぺろんぱ at 2020年03月09日 19:25
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