2020年10月15日

川上弘美ワールドに浸る

 
 本のお話。

ここ最近はずっと川上弘美さんの小説読んでいます。
以前からこの作家さんは好きで何冊か読みましたが、今回は短編小説を集中的に読んでいました。

短編ってその作家さんの個性が結構ダイレクトに感じられるところがある気がします。村上春樹さんなんて、(好きなので長編短編問わず全て読んでいますが)意外と短編が面白く印象深いものが多い気がするのです。

さて最近読んだ川上弘美さんの短編集は以下の3冊です。


『 ぼくの死体をよろしくたのむ 』 ( 2017年刊行 )

                        ぼくの死体を… - コピー.JPG
一言でいえば、ちょっと奇妙な世界。 川上さん独特の柔らかく時に潔い文章や言葉たちがいっぱい。
奇妙な というのは、これも川上弘美ワールドの魅力の一つだと思うのですが‘異界とのつながり’を感じさせる作品が多かったから。異界と言っても怖くはなくて、むしろそこに在るのはいつも優しくてちょっぴり切ない感じのもので。
全18話の短編集。
ページを繰るたびに全作品「私コレが一番好きかも」って思ってしまったくらいにどれも滋味深いお話でした。 
本書に出てくるような誰かの優しい存在を傍らに感じて、(作中の言葉を借りれば)「白黒の画面にぽつりぽつりと色彩が混じるよう」な感じの日々が私にもくればいいなぁ・・・なんて思ったりしました。


『 このあたりの人たち 』 ( 2016年刊行 )

                        このあたりの・・・ - コピー.JPG          
こっちは ちょっと じゃなくて すごく 奇妙な世界。 全26話の短編・掌編集。

本書について文筆家・柴田元幸氏は「このあたりってどのあたりかというと、こういう町に住むのっていいかも、とあなたが思うあたりです」と評しておられます。
この町に今すぐ住むのはかなり勇気が要ることですが、たとえばもう少し歳をとって、周りに誰もいなくなってしまったなぁってふと感じたときに移り住んでみるのはいいかもしれません、わけの分からないふわふわした日常の中に埋もれてそのうちにすぅーっと死んでゆけるかもしれないなぁって思ったので。

奇怪で時にブラックな世界なのにふいに可笑しさも込み上げてきます。へんてこりんな人々、へんてこりんな出来事たち。途中から「川上さんはものすごーく楽しみながらクククっと笑いながらこれを書いているのじゃなかろうか・・・否、もしかしたら川上さんは正真正銘 気がふれてしまったのかも・・・」なんて感じながら読んでいました。結局は私自身が小さな子どもに返って川上さんの腕の中で不思議なお伽噺であやしてもらってる感じだったのかなぁって思いました。

登場する「スナック愛」は知らないうちにその妖しさが身体に染み込んでしまいました。
いつかこのあたりに住むことになったら、スナック愛に行ってママの唄う < ざんげの値打ちもない > を聴いてみたいものです。


『 どこから行っても遠い町 』 ( 2008年刊行 )


                         どこから行っても… - コピー.JPG

こちらは 連作短編集 です。 全11話。

人は生きてやがて死ぬのだということを、今更ながらに思いました。
人生の中で、人は多くの人と関わり多くの出来事と遭遇しいろいろなことを見てしまうことになる、ということも。
・・・いろいろなことを見てしまうことは悲しいことですがそれが生きるということに他ならないのかもしれません。

「魚春」という、町なかの小さな魚屋の店主の一篇から始まり、その店主のかつての妻であった一人の女のお話で本書は終わります。
魚春のある古い商店街を巡る何人かの人たちの人生がその間には描かれており、そのどれもが幸せと不幸せの不確かさの中に在った気がしました。
誰もが幸せと背中合わせに危うさを持っていて時に運命は思わぬ方向に転んでゆくのですが、結局人生って自分が自分自身で選びとったものに他ならないのだと思いました。
そして振り返ればその道のりは、何故かストンと不思議に納得のいく来し方だったりもするのです。
満足するのではない、でも 諦め でもない・・・一抹の寂しさを伴う何かがそこには在る気がしますけれど、それは在るべくして在った日々ではないか、と。

その人だけが持つ背景でその人なりに一つ一つを選んで為されてきた人生が、せめてその人にとっては愛おしいものであってほしいと願いました。

本書の中にあった 「自分の人生がまとめて自分にふりかかってくる年齢」 になった今だから、重く響く言葉も救われる言葉も私にはありました。



                         キジトラン - コピー.jpg

可愛いなぁ〜。 命名は きじトラン
これから寒ぅなってくるから身体には気を付けて。



                         意外なおいしさだった白ワイン - コピー.jpg

私は呑み過ぎに気を付けましょう。

リーズナブルな価格で饗されていた割にはとても美味しかったこのグラスワインの白。
銘柄をスタッフさんに尋ねようかと思いましたが止めました。
この時に此処でこうして出会ったこの一杯の味わいは この時だけのもの として。




posted by ぺろんぱ at 19:37| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
川上弘美さんの本はかなり前に2冊程読んだことあるだけですが、今回の3冊、どれも興味深いです。まず1冊選ぶとしたら「どこから行っても遠い町」。次本屋さん行った時手にしてみたいと思います。

「ぼくの死体を〜」の中の言葉という
ー白黒の画面にぽつりぽつりと色彩が混じるようーて表現、いいですね・・。

あ、きじトラン、可愛いだけでなく、
ー全てを受け入れてしかと前に進みますーみたいな潔さを感じました。
そして、
ーこの時に此処でこうして出会ったこの一杯の味わいはこの時だけのものとしてー
とされるぺろんぱさんもきじトラン同様潔い感じです。(猫が先かい)(・・・)

ほなまたです。
Posted by ビイルネン at 2020年10月16日 22:14

ビイルネンさん、お越し下さり嬉しいです。

時系列的に「どこから…」が読み終えたのが直近でしたので、今読み返してみるとまだ酔い感が強かったと言いますか引きずったまま感想を書いた感じです。
印象に残ったワードも使って力が入ってしまったかもしれません、もしもビイルネンさんがイメージされた世界と少し違ったとしたらごめんなさいです。

しかし連作短篇なので一篇の長編を読み終えたような感じもして読み応えはあったと思います。
もしも手に取られることがございましたら是非に(*^-^*)。

きじトランを褒めて下さって、(自分の猫じゃないのに)何だかとても嬉しいです。

>ー全てを受け入れてしかと前に進みますー

いですねー、そうかも、この子はそんな感じの子かもしれません(^^)。
私はちっとも潔くありません。猫・動物たちから学ぶことも多いので「猫から先」に書いてくださって当然のshouldです。← 古い言い回しですみません^^;。


Posted by ぺろんぱ at 2020年10月17日 12:44
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