2020年12月20日

燃ゆる女の肖像


シネ・リーブル神戸で映画 『 燃ゆる女の肖像 』 (セリーヌ・シアマ監督) 観ました。

激しく力強い情念のようなものが残った作品。
美しく、18世紀のブルターニュの孤島という 世の喧騒から遠く離れた静寂の地での物語なのに。
そして本作は‘二人が別れてしまってから’が本当の物語だったのかもしれないなぁという思いも。あのラストシーン、流れる音楽と相まってキョーレツな印象を残しました。

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<story>
   画家のマリアンヌはブルターニュの貴婦人から、娘のエロイーズの見合いのための肖像画を頼まれる。だが、エロイーズ自身は結婚を拒んでいた。身分を隠して近づき、孤島の屋敷で密かに肖像画を完成させたマリアンヌは、真実を知ったエロイーズから絵の出来栄えを否定される。描き直すと決めたマリアンヌに、意外にもモデルになると申し出るエロイーズ。キャンバスをはさんで見つめ合い、美しい島を共に散策し、音楽や文学について語り合ううちに、恋におちる二人。約束の5日後、肖像画はあと一筆で完成となるが、それは別れを意味していた──。 (※映画情報サイトよりの転載です)


  本作は画家マリアンヌとモデルとなる娘エロイーズの二人の女性の恋愛を中心にした物語でしたが、そこにメイドのソフィが 二人をそっと見守る位置付け で存在し二人の心の深いところに静かに通じてゆくのが私には興味深かったです。それは男性が圧倒的優位の社会の中で決して是とはされないであろう 秘密めいた親密さ を伴った三人の女たちの絆でした。

ソフィの堕胎をめぐるシークエンスは寓意的な感じのするもので何か深い意味が込められているかのようでしたが、私にはそれが何であるか明確には言葉にできません。ただ、女性が男性の従属物としてではなく一人の人間として生きてゆくことへの力強い挑みのようなもの?畏怖の念すら感じる女性の強さみたいなもの?を感じましたね。

マリアンヌとエロイーズの性愛のシーンは直接的で大胆。一瞬引いたものの、重いドレスもコルセットも脱ぎ捨てた 全ての縛りを解いた二人の姿なのだったと思うと、あとに残るのはエロティシズムよりも ひとときの幸福感 だったと言えます。

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          ※この画像は映画情報サイトよりの転載です

 ラストシーンは<オルフェの神話>が一つのキーとなっていたこともうかがえました。
一度は毒蛇に咬まれて死んだ妻を生き返らせようとした吟遊詩人の夫が、冥界を出るまで決して妻を振り返ってはならぬと命じられたのに耐えられずに一歩手前で振り返ってしまい、永遠に妻を損なってしまうというあの神話です。
詩人の夫は‘詩を書くこと、つまりは芸術’のために妻を振り返ったのだと語ったかつてのマリアンヌに、再会の場で遂に一度もマリアンヌを振り返ろうとしなかったエロイーズのあの行為が意味したものは何だったのか。芸術云々の次元を超えた、真の、激しく強い愛情のみがエロイーズの中に在った ということなのでしょうか。
繰り返し書きますが、流される音楽とエロイーズの表情が一体となった強烈なラストでした。

ラストの激しさが印象的だったのは、この物語がラストに至るまで全編、音的にほぼ静かに時折の 自然な音たち によって描き出されていたからかもしれません。
海のうねり、髪を舞わせる風、カンバスを走る銀筆、暖炉の炎に燃え弾ける木、そして床を移動する靴。それらのシーンではその音にのみフォーカスされているかのようで、時として恍惚としてしまうほどでした。だからラストの激しさに胸を突かれたのかも。

あと、蛇足ですが、、、パンとチーズと葡萄酒。
ひそやかに摂る質素な食事の場面も妙に心に残ったのでした。

  アロマキャンドル - コピー.jpg スパイスティーバッグ - コピー.jpg ホットワイン - コピー.jpg

  本作を観て感じましたが、炎というのは時として神秘的で人の心をとらえてしまうものですね。
買ったまま使っていなかったアロマキャンドルがあったので灯してみました。
アルミホイルをくしゃっと捩った上に置いただけですけれど、眺めていると癒されました。蝋が溶けてからも随分長く灯ってくれていました。

そして友人が先日送ってくれたホットワイン用のスパイス・ティーバッグ。
早速ホットワインを作ってみました。ワインにティーバッグを入れて火にかけ、ワインが熱くなったら火からおろして5分じっくり蒸らして出来上がりです。
蒸らしているうちに湯気は引いてしまいましたけれど、喉を過ぎる時にポッと優しい温もりを感じました。
スパイシーでほんのりとシナモンの香もあって、寒い夜に時々作ってみたいです。 ありがとう。ぴかぴか(新しい)

今年もあと僅かとなり、夜は静かに更けゆくのでした。




posted by ぺろんぱ at 22:04| Comment(5) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
なかなかに、強烈な印象を残した映画でした。
あの時代を生きる女性の過酷さを感じつつも、美しさに引き込まれました。
赤々と燃える炎の中響き渡る女性達の歌も、それまでの静寂を
打ち破るような激しさを感じさせ、ラストシーンと共に記憶に残ります。
個人的には、恋人達のイチャつきのシーンは苦手でしたが
(女性同士たからという訳ではなく)
秘密めいた三人の関係性にシンパシーのようなモノを感じたのは、
私自身が女性だからなのかな⁈とか思ったりしました
Posted by Yururi at 2020年12月21日 07:17
ホットワイン用のティーバッグ!初めて知りました。
シナモンが大好きで、毎朝紅茶にパウダーを入れて
いただいるのですが、今夜はホットワインに応用してみます!
Posted by Yururi at 2020年12月21日 07:26

Yururiさん、お越し下さり嬉しいです。

炎の中のあの女性たちの歌、不思議な印象を残しましたよね。あのシーンも歌のフレーズと共に確かに凄く印象深かったですね。

恋人達の濃密なシーン、やはりYururiさんも苦手でしたか・・・私も「一瞬引いた」と書きましたがかなり引きました^_^;。もっと違う描き方もあったかと思いましたが・・・。

シナモン香がお好きなのですね(*^-^*)。
スパイシーに作られている赤ワインもあるのでスパイスはホットワインに合うように思えます。

Yururiさんにとって佳い夜でありますように(*^-^*)。


Posted by ぺろんぱ at 2020年12月21日 19:12
おはようございます。
今年のこの状況をいったい誰が予想したでしょうか^^;
劇場に限りなく足を運んだ3月までの鑑賞数が大半を占めたワタシのベストでしたが
今の世界状況を考えると映画が作られることが奇跡のように思え
ある意味、どんな映画も観なけれいけないのかな、とさえ思うワタシです。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。
Posted by ituka at 2020年12月31日 08:09

 itukaさん、お越しくださり嬉しいです。
いろんな事が変わり行く日々でしたね。

そんな中で新たに生み出されゆくものたちには(itukaさんが仰るように映画の新作も)常にも増して強い想いが込められているのかもしれませんね。
itukaさんのブログも、(鑑賞された作品数は例年より少なかったとしても)想いの込もった貴ベスト作品の記事を拝見する事が出来て嬉しく思っております ^_^。 私も年明けに2020年の振返り事などを書けたらと考えております。
こちらこそ、来年もどうぞ宜しくお願い致します。

Posted by ぺろんぱ at 2020年12月31日 13:40
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