2021年10月31日
ばにらさま ( 山本文緒著 遺作となった短編集 )
前回ブログで書いていた山本文緒さんの最新短編集『 ばにらさま 』(2021. 9.13刊行 文藝春秋)を読了しました。
読み始めるとぐいぐい引き込まれ、読み終えるまであっという間でした。
収録作品は「ばにらさま」「わたしは大丈夫」「菓子苑」「バヨリン心中」「20×20」「子供おばさん」の六篇です。それぞれは何年か前に書かれた作品なのですが一冊の作品集として刊行されたのは先月が初めてで、やはり本書が山本文緒さんの遺作といえるかと思います。
どの作品にも引き込まれましたが、特に「バヨリン心中」と「子供おばさん」の二篇は読後すぐにもう一回読み返したほどでした。物語として最も好きだと思えたのは「バヨリン心中」ですが、‘心に刺さる’残り方をしたのは「子供おばさん」でしょうか。
勿論 表題作である「ばにらさま」も、本書の収録作のトップを飾るにふさわしいインパクト大の作品でした。あぁ山本さんの小説だぁ!っていう 苦さと切なさ の残る世界でした。
山本さんは女性の深層心理を描くのが巧いと評されていますが、少し歪んだダークサイドを持つ女性たちに比して、作品に登場する男性は ある意味理想的な男性だったりします。(それって山本さんご自身が求めておられた男性像だったのかな…。)「ばにらさま」の 僕(中嶋くん)も然りで、ばにらさま(竹山さん)が生身の人間としてありのままをぶつけてくれたていたらそれを丸ごと受け止める覚悟はあった男の子かな、と。結局そうはならずに二人はすれ違ってしまったけれど。本当に大切なものって遠く過ぎてみなければ分からないものなのかな。その時に感じたことだけがその時の真実、なんでしょうね きっと。
「バヨリン心中」。こういう‘ある一つの人生’を俯瞰で描いた山本さんの作品はイイです。そういえば山本さんの小説はこういう形をとったものが多いのかもしれません。決して平穏ではなく生きて、それを振り返る今がある、というような。祖母の「どうせ愚かなら どこまでも一緒だと思う愚かさだったらよかったのに。」の言葉にはずしりと響くものがあって、彼女が元夫の倖せな今に安堵する姿には深い人生の来し方を感じて沁沁となります。ラストの孫娘にやってくる突然のスパークに‘人生は続いてゆくのだ’という鮮やかさを感じた一篇でした。
「子供おばさん」は、最終の1ページ・最後の2行で切実に何かが刺さった感じでした。
読む前は「子供おばさん」って何?と思っていましたが、読んでみて ああなるほど、と。それなら私なんてその最たるものではないか、と。多くの‘その類’の人間にとって、結局生きてゆくことはこういうことなのかもしれないなぁと思いました。それもまた、いいのかもしれないなぁ、と。
この作品は本書の中で一番最後に収録されていた一篇なのですが、そのラストの一行に「死ぬ日」という文言があって、山本さんの死と重なって愕然としました。この一篇が書かれたのは10年前のことなのですが、予言のような、なんとも不思議な重なりです。
痛みや苦い味わいに満ちているのに、それはどうかすると擦れ違ったことのある自分自身だったりもして、山本さんの、否定ではなくかと言って肯定でもない 寄り添い がそこには感じられて、最後にこんな作品たちを残して下さったことに今一度あらためて ありがとうございました と伝えたいです。
明日はもう11月。 早いものですね。
これから選挙に行って、帰りには何か美味しいお酒でも買って帰ろうかと思っています。
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3件目で買えた紀伊グラフロ店(略すな)(・・・)はちゃんと追悼コーナーがあって、何かやはりぺろんぱさん同様ウゥッとくるもんがありました。改めてご冥福を祈りたいと思いました・・・。
で、昨日読み終わりました。かなり前読んだ2冊と雰囲気はちゃう感じしましたがぐいぐい読ませるもんありました。(登場人物にちょっと?とか、わさわさ気分感じさせるもんひっくるめて・・・。)そして、ぺろんぱさんおっしゃるように、プロローグとエピローグがあってこそ、ぐいっとこの本の価値が上がってる気がしました。
今回の「ばにらさま」もブログ読ませていただいて、追悼第2弾として読むことにしたので今日買ってきました。いつも寝る前読みですが、今日からも寝る前が楽しみです。むほほ。
いつもいろいろ教えていただいて、ありがとうございます。
ほなまたです。あ、長なってごめんです。
ビイルネンさん、お越し下さり嬉しいです。
ご苦労の末に入手された『自転…』に続き『ばにらさま』までお買い求め頂けたとは… 一ファンとしてではありますが「ありがとうございます」と言わせて頂きます。
『自転…』は、ちょっと別のところで書かせてもらった通り私にとっては大好きな過去長編を超えるものではなかったのですが、それはもしかしたら其々の作品に出会った時の自分の年齢によるものなのかもしれないなぁとチラと思ったりしました。
ビイルネンさんが「(以前と)雰囲気はちゃう感じ…」と仰られたのはそういう側面ももしかしたらあるのかなぁと感じております。(全然違うかったらすみません。)
『ばにらさま』の一冊、どうぞビイルネンさんにとって印象深き作品となりますようにと願っております。(*^-^*)
ご就寝前の読書のひと時、素敵ですね。