2008年09月14日

パコと魔法の絵本


  今を去ること○○年前、関西を拠点に活動していたアンダーグラウンド演劇の草分け的存在と言われていた(らしい)劇団<遊気舎>の公演に通い続けていたことがありました。
出会いは遅く、私は1994年の公演以降のファンでしたが、それぞれに個性豊か(豊か過ぎ!)な出演俳優さん達に一目惚れしたことも勿論のことながら、2代目座長にして公演の「作・演出」を手がけてきた後藤ひろひとさんの偉才にただただひれ伏していた私でした。
ハイテンション・ギャグの世界。
マニアックだけど何かへの「祈り」のようなものも感じられた作品の数々。
例えば・・・、もう一度見てみたいなぁ、Vol.21『ダブリンの鐘突きカビ人間』なんかを。
 
        10th遊気舎1.jpg    10th遊気舎.jpg
     10周年の記念本。好きな俳優さん方にサインもいただいてます。 右はその一頁。

後藤さんは遊気舎を離れて今は全国区の活動をされていますが、その後藤ひろひと原作のお芝居が映画化されました。
あの『嫌われ松子の一生』の中島哲也監督の手によるその映画、封切を楽しみにしていて、初日の昨日13日(土)、109HATシネマズ神戸に観に行って参りました。
『パコと魔法の絵本』です。

story
   『下妻物語』『嫌われ松子の一生』の中島哲也監督が、伝説的な舞台「MIDSUMMER CAROL ガマ王子vsザリガニ魔人」を映画化。
   昔々、大人の俳優に脱皮できなかった元有名子役や、消防車にひかれたまぬけな消防士など、患者だけでなく医者や看護師も変わり者ばかりが集まる病院があった。中でも一代で自分の会社を築いた超ワガママ老人の大貫(役所広司)は、一番の嫌われ者。ある日大貫は、1日しか記憶を保てない少女パコ(アヤカ・ウィルソン)に出会う。(シネマトゥデイより)
      ※映画に関する掲載写真は全て映画情報サイトより転載させていただきました。

                 パコ2.jpg

  いきなりオープニングで後藤さんがスクリーンに躍り出てきたのにはびっくりしました。
そういうのってテンションを一気に高めてくれます。

のっけから続く舞台的な演出と台詞運びに、先ずは頭を切り替えました。「これはスクリーンと言う名の舞台なのだ」と。
そうしないと“置いてけぼり”になってしまうかもしれません。
先ず続々と、登場人物が“ロールで紹介されるように”出てきます。次々に披露してくれるギャグにハイテンション舞台の“ノリ”を思い出して高まるボルテージを持続させ続けました。

                パコ1.jpg

極彩色ワールドの夢見心地は『嫌われ松子・・・』の数倍あったでしょうか。
もう映画自体が絵本でした。
その極彩色100%の映像の中で「演者全員が弾ける弾ける!監督が遊び遊ぶ!」っていう感じです。
しかしそんな状況から、後半はじわじわと涙腺が緩んできますよ。
タイトルの如く、まるで“魔法”にかけられたみたいに、観ている私たちの心が得体の知れない感情に侵食されていくのです。
バカバカしいほどのギャグの応酬を通して、人間の心の奥に潜んでいる純粋で綺麗な何かをずるずると引っ張り出す力が、この作品にはあります。

幾つかの台詞も心に沁みました。
  
 「殻に閉じこもってちゃ駄目だよー! そもそも人間に殻なんてないんだよー!」

 「あの子といると自分が弱い人間に思えてくる。」
 「それはつらいですか?」
 「いや、却って心が軽くなる。」

 「涙はどうしたら止まるんだ、教えてくれ。」
 「簡単です。いっぱい泣けば止まります。」

                パコ3.jpg

ストーリー自体は非常にシンプル。
けれどそこに幾重にも彩りを添え、幾つもの角度から捉え、登場人物達ずべてがそれぞれに輝いてきます。
CG化した各キャラも決して陳腐な域にとどまっていない。それどころか、全てのCGキャラが目を見張るほどの出来栄えでした。

実演も素晴らしいですよ。
上川隆也さん、すごく楽しそうに演じてました。普段と変わらぬトーンでの台詞で笑いを取るのって凄いです。
國村隼さん、懐の深い演技である意味泣けます。
山内圭哉さん、さすがは大阪出身で舞台でならして来た人ですね、間合いが絶妙でした。
阿部サダヲさん、弾けっぷりMAX!
そして小池栄子さん、土屋アンナを凌駕するほどの凄味と壊れ具合に女優魂をみました。あっぱれ、拍手喝采です。

                パコ4.jpg

ラストはティム・バートンの『シザー・ハンズ』のラストを髣髴とさせる美しさも。
“毒”を盛られて天へ上る、、、子どもというより大人の為に用意された“天国への階段”的作品でした。


 再び、逝く夏を惜しみつつ夕べは冷酒を。
<くどき上手 吟醸>です。香がほど良い程度に抑えられ、意外に強いドライ感に口中スッキリのお酒です。

                くどき上手 吟醸.jpg

余談ですが、本作を意識したわけではなく、ここ数日、半身浴のお供になっているのは偶然古本市で見つけた本「嫌われ松子の一生」(山田宗樹著)です。
映画と原作は「別ものであっていい」と思う私ですが、この「嫌われ・・・」も根底に流れる“色”がかなり中島ワールドになっていた映画だと読みながら感じています。2006年劇場鑑賞映画の私的BEST10に入る映画でした。
しかし原作は原作としてとても興味深く、毎日楽しみに読み進んでいます。

posted by ぺろんぱ at 12:25| Comment(6) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
今日は。

新生(?)妻夫木聡がどう動き出してるのか『ブタのいた教室』と共に本作が気になってるワタシです。
(ぺろんぱさん、触れられてないし(=^_^=))

そういや役所さん、國村さんとは『ローレライ』でも共演してる彼なんですねぇ。

さて本作。
少し前に地上波初だった映画版『松子』が“あなたとは違うんですショック”で瓦解してしまって以来、
どうも「観ようかな熱」が下がっちゃったりしてます。

映像をいじくり過ぎてるのがどうも好かないんですが、
「泣ける」となれば気にはなりますよね〜(=^_^=)

チェック予定ってことで。
Posted by TiM3 at 2008年09月14日 14:22
TiM3さん、こんばんは。
妻夫木くん、どこかが「新生」されたのでしょうか?? まあ本作では確かに今までとちょっと違う妻夫木さんではありましたが。
すみません、触れてなくて。やっぱりあまり興味を引かないタイプなのかも知れません。でも『ブタの・・・』は物語として興味は抱いてます。

映像は仰るところの「いじくり過ぎて」いると言っても言い過ぎでないものですが、これはもう「相性」の問題かもしれませんね。
チェックの御予定が確定となればまたレヴューを楽しみにしています。

>“あなたとは違うんですショック”
「名・命名賞」に決定!!です。(~o~)
Posted by ぺろんぱ at 2008年09月14日 22:00
観て来ました☆

レビューもアップしました(=^_^=)

私的には、やや中盤以降の吸引力が足りなかったかなぁ・・と。

周囲が母子づればかりで照れてしまいました・・(⌒〜⌒ι)
Posted by TiM3 at 2008年09月15日 23:09
こんばんは。
さっき貴ブログに早速お邪魔して参りました!

>中盤以降の吸引力
のっけからテンションが上ってましたから“持続”は難しいとは思います。

神戸では意外と親子ずれは少なかったですよ。絶対数の違いかな・・・^^;。
Posted by ぺろんぱ at 2008年09月16日 22:22
ぺろんぱさん、こんばんは♪
遅ればせながら観てまいりましたよ〜^^
平日の朝一は、ナント貸し切り状態でした!ヽ(´∀`。)ノ

コレ、「舞台劇の様な映画」という印象でしたが、
「スクリーンという名の舞台」という方がしっくりきますね。
前半は危うく置いてけぼりをくうところでしたが、
中島ワールドにうまく乗っかり楽しめました♪
さりげなく深いセリフもありましたね。
そう、人間に殻なんて無いんですよね・・・
ところで、後藤さんはオープニングに出演されてたのですか?!
彦摩呂さんはインパクトあったので確認出来ましたが、
林家ペーパー夫妻やデビ夫人は気付きませんでした(笑)
ラストも良かったですね。

P.S <くどき上手 吟醸>の酒器、素敵です☆

Posted by Any at 2008年09月29日 20:32
Anyさん、こんばんは!
貸切とは!贅沢でよろしいのじゃないでしょうか(*^_^*)!

そうなんですよね〜。のっけからいきなりメリーゴーランドのフル回転状態でしたものね〜。私も片手で必死にしがみついてました。^^;

後藤さんはオープニングで妖しいダンスをノリノリで踊っていらっしゃいました。
し、しかし!今、私にはデヴィ夫人がどこで出てらしたか思い出せず・・・(◎o◎)アレッ!?

大笑いの舞台が、気付いたら(メッセージを理解できたのだろうか、と)ブルーになってる自分を発見するような後藤さんの舞台でしたが、本作は何となくすんなり楽しめたような気が・・・しているのですが・・・。
ラストも良かったですね(*^_^*)。

この和酒のお店は冷酒はおこの酒器で出てきます。間口が広いので香も楽しめそうです。でもじっくり楽しむ間もなく気がついたら空になってます。(◎o◎)アレレッ?!
Posted by ぺろんぱ at 2008年09月29日 21:18
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