2006年12月10日

硫黄島からの手紙

 週末の一本は『硫黄島からの手紙』(クリント・イーストウッド監督)。
これは先に公開となった同監督の『父親達の星条旗』と作品として一対を成すもので、第2次世界大戦時の最も悲劇的な戦いと言われる“硫黄島の戦い”を(今作は)“日本側の視点から”描いたという戦争映画です。

 戦争において、それも日米の戦いに於いて、“日本人の視点”に立った映画を“米国人の監督”が撮ったということ自体、そこに私は大きなメッセージ性を感じて、観に行かなくてはいけないような思いにとらわれていました。
しかし「日本人の視点云々・・・」「米国人監督云々・・・」は、この映画を観終わった後ではどうでも良い事のように思えていました。

この映画を撮るキッカケになったのはクリント・イーストウッド監督の「アメリカ的」思考からだったかもしれない(後述します)けれど、撮影の後で氏は「戦地ではアメリカ人も日本人も、彼らの帰りを待つ家族の思いも、みな同じ。」と語っています。「戦争にはヒーローは存在しない」とも。

この言葉を、私はうがったものには取れませんでした。
            
             硫黄島.jpg 渡辺謙

story
 戦況が悪化の一途をたどる1944年6月、アメリカ留学の経験を持ち、西洋の軍事力も知り尽くしている陸軍中将の栗林忠道(渡辺謙)が、本土防衛の最後の砦ともいうべき硫黄島へ。指揮官に着任した彼は、長年の場当たり的な作戦を変更し、西郷(二宮和也)ら部下に対する理不尽な体罰も戒めるなど、作戦の近代化に着手する。 (シネマトゥデイ)  

 陸軍中将の栗林という、アメリカでの留学経験を持ち米国軍人の覚えも目出度い人間の存在で硫黄島の戦いが何らかの意味を持ったといえるかもしれないという描き方(もしくはそういう映画への導入)は、「アメリカありき」と言えないこともないかもしれません
映画の導入部は、彼の、当時の軍幹部からすれば奇異とも取れる言動をかなりクローズアップして描いていたように思えましたから。

けれど先述した通り、映画を観続けて行く中で、私にはイーストウッド監督の熱い思いをうがったものに受け取る事ができなくなっていました
おおよそ、洋の東西を問わず、戦争の史実に基づく悲劇を描いた作品にあれこれ批評することなど、私には出来ません
それらには自分の「拙く短い人生経験」を凌駕するほどの重みを感じるからです。
私が戦前から戦後を生き抜いた人間ならまだしも、高度成長期の恩恵を受けながら育ってきた戦争を知らない人間としては、今はただ素直に、イーストウッド監督はじめ今作にかかわった人達に「硫黄島の戦いで散っていった人々の事を、教えてくれてありがとう」と言いたい気持ちです。
             硫黄島2.jpg 伊原剛志

この映画を、出来れば若い人にも観て貰いたいです。
これが決して100%の真実ではないけれど、絶対死にたくなんてなくて、お国のためとかそんな事全然関係なくて、遠いところで「これが愛する人の為になるのかもしれないのだ」という思いのもとにただ戦うしかなかった、軍人でも何でもない普通の若者達が、涙を流し血を撒き散らしてたくさんたくさん死んでいったという事実を、自国の歴史の一ページとして心に留め置いてくれたら、将来の日本は、世界は、少しは変わるのかもしれないと思います。
何も苦労せず温く(ぬるく)生きてきた私への自戒も含めて・・・。

 
 一つ・・・・・憲兵学校出身の兵士・清水(加瀬亮)が、上官と見周りの途中、ある家の飼い犬が吠えるのに対し「黙らせろ(犬を始末せよ)」との上官の命に背いて内密に犬を助けようとしたことが上官に知れ、憲兵隊を除隊になった事がエピソードとして描かれていました。
彼は何の罪もない犬を殺せず、除隊となったのです。
犬は彼の救いむなしく憲兵の上官によって射殺されました。そんな彼も、硫黄島では、投降したにもかかわらず戦時下で正常な心を無くした米兵によって、祖国の母を思いながら射殺されてしまいます。
清水の除隊のエピソードは、もしかしたらそれだけの挿入話ではなかったのか知れないと今は思えます。
罪なき犬を助けようと思う清水のような心を、誰もが、双方軍幹部の誰もが少しでも持っていたら、いえ、軍幹部も「駒」にすぎないのなら、双方の国の上層部にいる人間が少しでも持ちえていたら・・・・歴史は変わったんではないでしょうか。
硫黄島3.jpg 加瀬亮
              
いえ・・・多分争いの歴史はどういう形にせよ存在したのでしょう。
だから、その惨い歴史の上に成り立っている今の(少なくとも戦争に狩り出される事のない、表面的に)平穏な今の時勢を、我々は感謝しなくてはいけないのだと思いました。その惨い歴史を繰り返してはいけないのだということも


 劇中、かつての乗馬オリンピック選手で軍人のバロン西(伊原剛志)と栗林中将とが「今夜は飲みたい気分だ」といって交わすジョニ赤
当時の戦時下にあっては貴重な一本・・・食べる物よりも先に、まず杯に注いだジョニ赤をきゅうぅっと飲む栗林。
その時の飲み振りが、それはそれはもう本当に極上のお酒を慈しむように飲む飲み方で、その一口のお酒で何か硬く口つぐまれていた言葉が程走り出るかのような、その一口で全ての行為にもしかして何かしらの免罪符が得られるかもしれないと思っているかのような、そんなことを感じさせる飲み方でした。
何気ないシーンかもしれないけれど、私にはとても印象深かったですね。

 硫黄島からの手紙の何通かは届けられることのないまま島に埋められました。
届かないかもしれないけれど、書くことによって僕は癒されているんだ・・・」という西郷兵士(二宮和也)の言葉が胸に残っています。
自分の意志とは無縁に赴いた戦地で、「生きて再び祖国の地を踏むこと、無きものと心得よ。」と言われた気持ちを、完全に理解できなくとも、極限まで慮ろうとする努力は現在に生きる誰もが出来ることではないでしょうか。
 
 
 追記:週末の「乾杯話」として。
阪神デパートでの年に1〜2回の「シャンパンフェスティバル」に参加して来ました。
              シャンパンF.jpg
      シャンパンフェスティバル エントランス 
          
前回はカヴァのスパークリングにいたく感動した私ですが、今回は大混雑の中、それでも頑張って試飲した幾つかの銘柄のうち、二、三の気に入った美味しさのシャンパンに出会いましたよ。
【G.H.マム】の《コルドン・ルージュ・ブリュット》
【モエ・エ・シャンドン】の《ブリュット・アンペリアル》
【テタンジェ】の《テタンジェ・ノクターン・セック》
【ゴビヤール】の《グランレゼルブ プルミエクリュ》
・・・・と、こんなところ。

是非飲みたかった【テタンジェ】の《コント・ド・シャンパーニュ・白》は併設の有料テイスティングバー内で50mlのグラスで一杯が1900円だったので、短い逡巡の結果あっさり諦めました・・・情けない・・・・。


 もうすぐ2006年も終わり。
心穏やかに年を越したいところ。
ぴかぴか(新しい)






posted by ぺろんぱ at 19:44| Comment(4) | TrackBack(3) | 日記
この記事へのコメント
今晩はです。

沢山、ご覧になられているようですね。
ワタシは『トゥモロー・ワールド』と『パプリカ』が観たいんですけど・・ムリかも知れません(×_×)

『硫黄島』・・伊藤大尉(中村獅童)はどうでしたか? 私的には、ちょっと本筋から逸脱しちゃってる感じに思えました。
それにしても、洞窟内での自爆連鎖のシーンは心にずん・・と響きました。「戦争がどうの」とか「祖国がどうの」みたいな建前より、みな率直に「死にたくない!」と逡巡したに違いありません。
Posted by TiM3 at 2006年12月13日 23:41
TiM3さん、こんばんは。
伊藤大尉・・・ああいう人は軍隊にはやはり居たんじゃないかと思います。いえ、軍隊じゃなくても。でも彼もやはり最後には死ぬ事が怖くなっていたように感じました。
自爆連鎖・・・確かに誰かがSTOPと言えていたら幾つかの命は延びていたかもしれませんね。戦争って狂気の世界なのですね。

『トゥモロー・ワールド』は観に行きました。『パプリカ』は私も興味津々でしたが、週末は別のを観るので多分見送りしそうです。もし御覧になったらブログにアップしてくださいね(^_^)。
Posted by ぺろんぱ at 2006年12月14日 22:54
こんばんは〜┌|∵|┘

やっと見てきました。
泣きました。。。

>軍人でも何でもない普通の若者達が、涙を流し血を撒き散らしてたくさんたくさん死んでいったという事実
そうですね。それを深く思いました。

素晴らしい作品です。
Posted by dk at 2007年02月04日 18:01
さっき、dkさんのブログにお邪魔してコメント残して来ました。
TBもありがとうございます!

今度は二宮クンと松崎クンに注目して、再度観てみたくなりました。
Posted by ぺろんぱ at 2007年02月04日 21:56
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/2203422
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック

映画「硫黄島からの手紙」
Excerpt: 原題:Red Sun, Black Sand (Letters From Iwo Jima) 硫黄島に眠っていた、その手紙は61年ぶりに発見された、地中にあった硫黄島からの手紙、それは輸送爆撃機「一..
Weblog: 茸茶の想い ∞ ??祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり??
Tracked: 2006-12-31 19:10

「硫黄島からの手紙」88点。
Excerpt: 「父親たちの星条旗 | 硫黄島からの手紙」hp  黒く乾いた島で、戦死した日本人たち。日本の平和のために命が散る。
Weblog: mountain77 D.Reverse side 映画のムコウ
Tracked: 2007-02-04 18:02

映画DVD「硫黄島からの手紙」
Excerpt: 2006年 アメリカ 監督:クリント・イースドウッド 主演:渡辺謙、二宮和也ライ
Weblog: 映画DVDがそこにある。
Tracked: 2007-11-24 16:39