2008年11月02日

その土曜日、7時58分

 昨日1日(土)は、梅田ガーデンシネマでの『その土曜日、7時58分』(シドニー・ルメット監督)鑑賞でした。
好天の連休初日、青く高い秋の空に、新梅田シティ広場の噴水は眩しい飛沫を上げていました。

                  梅ガデ下.jpg

前売り券を買って臨んでの昨日でしたが、映画の日であることをすっかり忘れていました。かなりの混雑に「封切初日だから混んでいるのかな」と思っていたのですが、後で映画の日であった事に気付いて納得・・・でもどうせなら違う日にもうちょっとゆったりとした雰囲気で観たかったです。
いつもの端っこの席はなく列のド真ん中の席しかあいていなかったので仕方なくその席に座り、何だかちょっと落ち着かない始まりでした。

 映画冒頭の、フィリップ・シーモア・ホフマンとマリサ・トメイの生々しいシーンもその落ち着きない気分に拍車をかけるようで・・・。
でも何となく厭な感じがしたその冒頭シーンから、“崩壊の匂い”が既に鮮烈に放たれていたのだと感じます。
家族という形のもとに集まった、ある人間達の救いようのない崩壊の物語。

story
  ある兄弟が企てた強盗計画が、とある誤算を引き金に思いがけない悲劇を招いていく。監督は『ネットワーク』など、硬派な人間ドラマを撮り続けてきた巨匠シドニー・ルメット。
一見誰もがうらやむ優雅な暮らしをしていたニューヨークの会計士アンディ(フィリップ・シーモア・ホフマン)は、離婚した元妻のもとにいる娘の養育費もまともに払えない弟ハンク(イーサン・ホーク)を誘い、実の両親が営む宝石店へ強盗に入ることに。しかし計画決行の土曜日、7時58分。事態は最悪な方向へと突き進んでしまう。(シネマトゥデイより)
   ※映画に関する掲載写真は全て映画情報サイトより転載させて頂いております。

                  その土曜日.jpg

  「その土曜日、7時58分」というこの邦題は確かにインパクトはあるかもしれませんが、原題の意味するところが深くて、そして怖いです。
原題は「Before The Devil Knows You're Dead 」、「悪魔がお前の死を知る前に」です。
映画の冒頭では「早く天国に着けますように・・・。死んだのが悪魔に知られないうちに。」というテロップが出されます。

もしかしたらそれぞれが皆、悪魔に知られたら天国には絶対行けない人生だってことなのでしょうか。
そういう“原理的な死”を言い表したものではないとしても、私には兄・アンディと弟・ハンクが(人生の)“地獄に堕ちた(自らで堕ちた)”瞬間が見えた気がしました。


アンディのオフィスの一室で、ハンクが「・・・やるよ」と。
あのシーン、あの瞬間、二人の背後に悪魔が舞ったような気がしたのです。
特別な演出など何も施されていないごく普通のシーンなのに、背筋がゾクッとする怖さがありました。ほんの一瞬、アンディとハンクの表情が悪魔のそれに変わった気がしました。
「監督の上手さ」プラス「二人の演技の上手さ」なのでしょうか。

                 その土曜日3.jpg

「上手さ」といえば父親役のアルバート・フィニーも見応えのある存在感でした。
そもそもこの父親が発端なのかもしれない「家族間の深い確執」が事件の背景に見えてきます。

私としては実はもう少し深く「父親を軸にした確執の模様」を描いて欲しかった気がしましたが、勿論、父親と長兄アンディとの会話からその確執の概要は伺い知ることは出来ます。
しかしもう一歩踏み込んで描いてもらっていたら、あの驚きの、信じがたい(そして最も救われない)ラストシーンが咀嚼され、感情移入できるものになったのかも知れないなと今思っています。

しかし、父親チャールズ、兄アンディ、弟ハンク、アンディの妻ジーナ、それぞれの心の慟哭が凄まじく、地獄への坂を転げ始めてもう決して後には戻れない最悪のシナリオに、目が離せなくて、でも目を背けたくなる、そんな感じでした。
アンディとハンクは、全然違うようで根本的な資質において実はとても似ている二人だと感じました。
それは人間の誰もが持ってる負の性質なのかもしれないけれど・・・。
                  その土曜日1.jpg

あ、、、そうですね、だから本作は怖いのですね、きっと。
人間が誰でも持ってる弱くて狡い部分を抉りだし、誰もが陥るかもしれない負のスパイラルを描いているから。

銃社会でなかったならばどこかでこのどん底の悲劇を食い止められたかも、と一瞬思いもしましたが、多分地獄に落ちるという本質は変わらなかったでしょうね。しかし、様々なシチュエーションから言えば、アメリカという土壌でこそ撮り得た作品であるのも確かだと思います。

                 クラシックラガー.jpg

・・・ということで、アンディが救いを求めて溺れたドラッグの代わりに、アルコールに溺れるのは合法であるけれどやはり美しい生き方ではないのでしょうね・・・。
今夜は軽くBEER <麒麟クラシックラガー>を。

悪魔に気付かれないうちに、心地よい酔いで終わっておきましょう。


posted by ぺろんぱ at 21:10| Comment(16) | TrackBack(2) | 日記
この記事へのコメント
こんばんは。
「その土曜日、7時58分」
こわそうなモノですね。
ボクはだいたい恐がりなので、
こわそうだなと思うものには近づかないようにしています。
日本では、閻魔さまが天国か地獄か審判してくださるので、
生きている間は良い事をいっぱいしましょう。

Posted by keyakiya at 2008年11月02日 21:53
この映画の予告編!?、先日別な映画を観るときにやっていました。

不思議な題名だなぁと思っていました(未だにその意味はわかっていませんが)。でも英語の題名の方は「悪魔に魅入られた」内容を表現した面白いもののようですね。

私の映画週間は終わり、あと二週間ほどお預けですんで、これからしばらくは、ぺろんぱさんのこのブログを楽しみにしています。次に見に行く映画はどれにしようかと考えるネタにさせていただきます。

PS 新梅田シティーの噴水は夜も光のライトアップできれいですよね。またそろそろクリスマスツリーが点灯され、ドイツのクリスマスが始まりますよね。これから夜も楽しみな新梅田シティーです。

Posted by west32 at 2008年11月02日 22:34
keyakiyaさん、こんばんは。
そうですね、本作は「知らず知らずのうちに」という感じではなく「一気に、怒涛の如く」崩壊が押し寄せてくる感じの怖さでした。

>生きている間は良い事を

はい(*^_^*)。
良いことをいっぱいするよう心がけます!
そしたらちょっとくらいお酒飲んで酔うことも大目に見てもらえるでしょうか。(*^_^*)
Posted by ぺろんぱ at 2008年11月02日 22:37
west32さん、こんばんは。
映画週間はThe Endなのですね・・・(T_T)。でもまた再開時に楽しんでくださいね。

本作は原題の方が良かったように思えます。しかし邦題もそれなりの“含み”はあるようです。(過去のルメット作品との絡みが。)

私のブログはちっとも参考にならないと思いますが、でも見に来てくださるのは嬉しいです。(*^_^*)

新梅田シティの巨大なクリスマス・ツリー!
ワクワク、そしてちょっとロンリーな雰囲気にもさせる季節の到来ですね。
Posted by ぺろんぱ at 2008年11月02日 22:45
金曜夕刊のでかでかした映画広告を見る度、”ぺろんぱさん次行きはるのはこれっ!”と一人予想しています。(あんた、どんだけヒマやねん!)(いやぁ、それほどでも・・ポリポリ)

で、当たりましたっす!やったぁ!(ひたすらこまいことに喜びを求め・・ウゥッ)
Posted by ビイルネン at 2008年11月02日 23:06
ばんはです。

storyの冒頭だけですが、ちょいと「コーエン兄弟」入ってる気がしました(=^_^=)

ストーメア&ブシェーミ的な感じの、、

そういや、結局『カポーティ』観れなかったんだった、劇場で、、
Posted by TiM3 at 2008年11月03日 00:50
ビイルネンさん、こんばんは!
わぁ(~o~)、そんな予想をして下さってたのですね。感激です、ありがとうございます。
時々、「なんでっ?」っていうのを観てるかもしれませんが、今後ともどうぞ宜しくお願い致します!

金曜夕刊って、もしかして最近「星取り」も記されるようになったあの新聞ですか??
私も会社で取ってるそのペーパーは楽しみにしているものの、観に行くつもりの作品解説はイメージ先行してしまうのがいやで斜め読み・・・、かと言って全く取上げられていないのは妙に淋しくテンションも下がり・・・、という非常に勝手な読者です。
Posted by ぺろんぱ at 2008年11月03日 21:37
TiM3さん、こんばんは!
コーエン兄弟のその作品は、『ファーゴ』ですよね??
私は未見ながら、ブシェーミに興味があって調べた時に題名だけは何となくインプットしていました。
未見なので言い切れませんが何となく似ているかも知れません。観てみたくなりましたが、『ファーゴ』も救いのない作品のようですね。

フィリップ・シーモア・ホフマンは最近は必ず「カポーティのホフマン」って言われますね。でも私も観ていないままです。主演だったのが『カポーティ』だからでしょうけれど、私は『マグノリア』の彼が真っ先に思い浮かびました。それも地味で変でしょうか^_^;。
Posted by ぺろんぱ at 2008年11月03日 21:47
ばんはです☆

今日また『ICHI』を観て来ちまいました(⌒〜⌒ι)

>コーエン兄弟のその作品は、『ファーゴ』ですよね??

そうなんです。ブシェーミファンは終盤で号泣必至です、、

>『ファーゴ』も救いのない作品のようですね。

淡々と、コミカル&ブラックなテイストでしたかね。
雪原の描写に関して言えば、忘れ得ぬ1作でもあります。

>フィリップ・シーモア・ホフマンは最近は必ず「カポーティのホフマン」って言われますね。

私は『マグノリア』・・じゃなく『レッド・ドラゴン』がまず浮かびます。まさに“燃ゆる演技”でした・・(×_×)

『M:i:3』でも「靴だけ遺して」って退場でしたね、、
Posted by TiM3 at 2008年11月03日 23:12
TiM3さん、再びこんばんは。
『ICHI』の再御鑑賞、きっと主演の綾瀬嬢も喜んでいらっしゃることでしょう。しかしその映画への熱情には感服の思いです。

それほど出演作をチェックし得ていないブシェーミですが、“どこか病んでいる人”“爽やかな笑顔の似合わない人”という点において好きなタイプな俳優さんといえます。

ならば『ファーゴ』を観なくてはいけませんね、号泣も覚悟で。

フィリップ・シーモア・ホフマンさん、そうなのですよねー。かなりいろんな作品で「一癖ある人」を非常に上手く演じていらっしゃいましたよね。
『マグノリア』は多分初めてこの俳優さんを“ちゃんと”認識した作品だった故に心に残っているのだと思います。

今後、フィリップ・シーモア・ホフマン特集っていう企画も面白いかも知れませんね。(*^_^*)

Posted by ぺろんぱ at 2008年11月04日 21:11
どうせだから(←ナニがだ)

シーモア・ホフマンを省略して「シーマン」って言うのは如何でしょう?

ぺろんぱ「・・却下!
Posted by TiM3 at 2008年11月06日 20:00
TiM3さん、こんばんは。
フィリップさんはFじゃなかったので書き直してます。恥ずかしい間違いでした、しゅん。

ところで、シーマン!
それって確か何かのゲームのキャラクターなのですよね???
私の知人でシーマンと渾名された人がいました・・・って、良く思い出してみると私が(確か酔った勢いで)命名したのでした^^;。
しかし肝心のシーマンは知らないという私って「大たわけ者」ですね。

ところで、ホフマンさんをシーマンと言うのは・・・・・採用です!! でも多くのホフマンさんファンが何と言うか責任は持てません。
Posted by ぺろんぱ at 2008年11月06日 21:34
>しかし肝心のシーマンは知らないという私って「大たわけ者」ですね。

日産からもシーマん・・ってクルマがありましたっけね。
(ちと違うぞ!)

>でも多くのホフマンさんファンが何と言うか責任は持てません。

多くはホフマン・・じゃない、ご不満でしょうね。
(はいはい、もう寝た、寝た(=^_^=))
Posted by TiM3 at 2008年11月06日 23:30
ぺろんぱさん、こんばんはー。
私としても、フィリップ・S・Hといえば、「マグノリア」が最初に浮かびます。
最初の印象が温かな人役だったので、その後に『ハピネス』の強烈な役などを観て、びっくりしましたが・・・。
ストーリー的には確かにコーエン兄弟作品っぽい感じもありますよね。
でも、巨匠ルメットの演出は、ああいう飄々感はなくって、もっと重厚な直球なんですよね。
というわけで、見ごたえのある面白さでしたよねー。
哀しいオハナシだったのに、そんな感想が残るのでしたー
Posted by かえる at 2008年11月07日 00:41
TiM3さん、はいはい、パチパチ(拍手)。←決して投げやりな拍手ではありませんよ、その証拠に、はい、座布団3枚!バーチャルで!
御就寝前のTiM3さんのハイテンション振りに、「ちゃんと眠りにつけていらっしゃるのかしら」と胸が痛みます。チクチク。

シーマン、調べてみました。
私が命名した知人は、確かにシーマンをちょっとハンサムにしたような男性でした。

シーマは外観的には「美しきフォルム」といえる車です。(^_^)
Posted by ぺろんぱ at 2008年11月08日 10:59
かえるさん、こんにちは!

そうですよね、『マグノリア』のフィリップさんは結構生真面目な、患者さんに献身的に尽くす看護師?介護師?さんの役でしたよね。
『ハピネス』は未見の私ですが、何だか今はもう「この人が出てきたらきっと何かが背後にある」と思えてしまいますよね。

>もっと重厚な直球

なるほど!のご表現です。
やはりその辺りが「80を遠に過ぎて尚」巨匠と言われる所以なのですね。
見応えあり!の作品でした。
Posted by ぺろんぱ at 2008年11月08日 11:07
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Excerpt: 「その土曜日、7時58分 」★★★☆wowow放送 フィリップ・シーモア・ホフマン、イーサン・ホーク主演 シドニー・ルメット監督、117分 、 2008年10月11日公開、2007,アメリカ、イギリ..
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