『この自由な世界で』(ケン・ローチ監督)を梅田ガーデンシネマで。
観ていくうちに「それって個人の資質の問題なんじゃないの?」とも思ったりするのですが、しかし観終った後では、それだけでは切り捨てられない「社会への形なき不安と苛立ち」がざらりと残ります。
弱者が弱者を更に虐げ追いつめる「この自由な、独我論の渦巻く世界」で、監督が浮き彫りにしようとしたことを静かに考えてみたいです。
ひと括りに評するのは当の監督にとって不本意かもしれませんが、「ガチ社会派」と称されているケン・ローチ監督の目線は、やはりクールにして、且つ、一貫して常に真摯なのだなぁと感じつつ劇場を後にしました。

story
2006年に公開された『麦の穂をゆらす風』でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したケン・ローチの最新作。
ロンドンで不法移民の人材派遣業を始めた女性を主人公に、自由市場と呼ばれる現代の競争社会や移民労働者問題を描き出す。
一人息子を両親に預けて働くアンジー(カーストン・ウェアリング)は、勤め先の職業紹介会社をクビになる。彼女は自分で職業紹介所を立ち上げようと決意し、ルームメイトのローズ(ジュリエット・エリス)を共同経営に誘う。アンジーは必死にビジネスを軌道に乗せるが、ある日不法移民を働かせる方がもうかることを知り…。(シネマトゥデイより)
※映画に関する掲載写真は全て映画情報サイトより転載させていただいております。
自由。
自由って何だろう。
何の制約も束縛も受けないってことなのだと思いますが、この世の中で生きていく限りそこには何らかのルールが介在するわけで。
ルールを逸脱して利を得ようとすると、それは犯罪と呼ばれる領域にまで落ちてしまうわけですよね。
暴力に訴えて解決を図ろうとしたあの覆面の男達とアンジーのやったことはなんら変わらない。

急ぎすぎたのね、アンジー。
「個人の資質の問題」と書いたのは、パートナーであるローズはどこかの段階で過ちに気付いたから。
ローズと同じことを私も感じます。
“私は決して聖人じゃない。だけどアンジーのやったことは間違っている”と。
でも、自分自身も職を失った(しかも理不尽な男社会のもとで)アンジーの焦りや苛立ちや搾取する側の人間への反感が、アンジーを間違った方向に駆り立ててしまったのですね。結局、彼女自身が、手っ取り早く搾取できる側に回り、違法に、しかも極めて非人道的に搾取する人間になってしまったのですね。

映画の冒頭。
こんなにも人は生きるために仕事を求めているのだという姿にただただ圧倒される思いがしました。
そしてそこには、それを悪用しようとする人間が必ず現われるのだという、その避けがたい現実に胸ふたぐ思いもしました。
一度悪に手を染めた者は、もう元の世界には戻れないのでしょうか。
アンジーにとってそんな姿は、他ならぬ愛息ジェイミーにだけは見られたくない姿なのじゃないでしょうか。
魂を売って得たまやかしの幸福は、いつかは必ず崩れ去るものなのではないでしょうか。

自由を「本当の自由」として謳歌できるのは、少なくとも顔を上げて(前を向いて)歩いていける自分があってこそのものなのだと思います。そでなければ、自由を手にする意味なんてない。
「この国は嘘だらけだ」と言った某国の移民が「(それでも)お金だけが全てじゃない」って言ったことには、ハッとさせられる思いと同時に、その声が届く地点にも限界はあるのだと思い知らされる苦い結果が待っている。
ラストは、だからとてもやり切れないです。
20日はボジョレー・ヌーヴォー解禁日でしたね。
それを目指したわけではなく入った某店で目に付いた、メニューに加えられた「ヌーヴォーいかが?」的な誘いの文句。
饗された<ジョルジュ・デュブッフ>をジュース飲みで。
仕事帰りの一杯なれど、何やらフレッシュな気持ちに返れる味わいでした。良いのじゃないでしょうか、フレッシュな赤も。

ところで、ヨーロッパ映画祭で見逃したお目当ての作品は『永遠のこどもたち』(ファン・アントニオ・バヨナ監督)というスペインとメキシコの合作映画でした。
あのギレルモ・デル・トロも製作に名を連ねているとか・・・底辺にホラー色も漂っていて怖そうなのだけれど、観てみたかったのです。
来年、正式公開になることを願っています。
ところで、この間BSでやってた”うつくしい人生”ての観ていると、ぺろんぱさんがブログ上話題にされてたージャン=ピエール・ダルッサンーが出たはりました。”サンジャックへの道”とかより前の作品やっちゅうに暗い役柄もあってかえらい老けたはりましたわ。
やっぱ、ー暗いと老けるーよなぁ。気ィつけよっと・・・。(しみじみ)
>”マイ・ネーム・イズ・ジョー”しか
あ、私、それ観ていません。
と言いますか、私もまだまだこの監督の映画は今後の課題なのです。確かにファンは(それもソリッドなファンが)多いと思います。
>”うつくしい人生”ての観て
あ、私、それも観ていません。しゅん。
ジャン=ピエール・ダルッサンはどこか老けてるキャラだとは思います。その「暗い役柄」っていうのに惹かれますぅ。
でも「暗いと老ける」のでしょうか・・・いじいじ(-.-)。
好きな監督はたっくさんいすぎる私なんですが、敬愛しているという表現をしたい監督は稀で、ローチはそんな存在なんです。
主人公は大概愚かだし、ハッピーエンドじゃないから、見ていて気持ちのいい映画ではないんでしょうけど、その甘くないところこそが魅力なんですよね。
悲しいけれど、そこには現実が描かれているところに唸らせられるのです〜。
「永遠のこどもたち」は配給ついているので当然そちらでも一般公開されるでしょう♪
「現実」、、、そうなんですね。
徹底したリアリズムで描くローチ監督の世界はやるせなく暗澹たる思いにさせられるけれど、その現実に向きあってこそ見えてくるものがあるのかも・・・。
はい、これからもケン・ローチの世界を(かなり遅れて、ですが)私も追っかけていきたいと思います。
>「永遠のこどもたち」は配給ついているので
そうなのですね!
ありがとうございます。ちょっと怖い世界のようですが、楽しみにしておきます!