2006年12月17日

軌跡の朝・・・・・十三の朝に

 今週末は十三・第七藝術劇場で『奇跡の朝』(ロバン・カンピヨ初監督作品)を観てきました。
この作品はどうしても観たくて仕方なかった作品・・・七藝で10:00からのモーニングショーのみの上映でしたが、前売りチケットを握り締め頑張って行って参りました。
               
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              七藝前にて開館を待つ

story
 フランスの静かな街にある朝、ゆっくりと流れ込んでくる無数の人の波。
行政の調べで彼らは、生前の姿のまま蘇ってきた蘇生者であることが判明する。
幼くして息子を亡くしたイシャムとヴェロニク夫妻、長年連れ添った妻に先立たれた老市長、そして交通事故で恋人を奪われたラシェル。
彼らは生前の姿のまま蘇ってきた肉親や恋人と昔の日常を取り戻そうとする。しかし、常人より低い体温や表現力の低下、失語症、不眠症等、次第に露呈し始める蘇生者の実態。自分にとって受け入れ難い存在になりゆく蘇生者との生活は、近親者達に耐えがたい苦悩を生じさせていく・・・。(映画チラシより)


 十三まで観にいって良かったですね、これ。
「静謐な“いのち”の寓話」(映画コピー)の本作に、出会えたことを感謝します。

「軌跡の朝」という邦タイトルは眩い希望の光を感じさせます。
しかしこれは、生き続ける者と死者とが「精神的にも物理的にも共存はし得ないのだ」という事実を突きつけられる切なく哀しい物語でした。
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 生前の姿で蘇ってきた死者がゆっくりと無表情に街を彷徨うところでは、何となくアンドレイ・タルコフスキー監督の『惑星ソラリス』を思い起こさせます。交通事故で逝った恋人を演じたジョナサン・ザッカイの風貌や、バックに流れる心をざわざわとさせる音楽も、ソラリスのSF性・幻想世界に繋がるものがありましたね。

テーマは違うと思うので作品として比較することは出来ませんが敢えてある一点で言うなら「ソラリス」の強い哲学性に比して、今作はもう少し私達の実感覚に近いところで「生と死」とが描かれている感じがしました。
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               ジョナサン・ザッカイ(左)

蘇った近親者を、戸惑いながらも全身全霊で受け入れようとする人々は「今度こそ、愛する人を失いはしない」という悲壮な決意がひしひしと伝わってくるようでとても哀しい・・・
そして、その想いに応えられないまま現世に生きる者との隔たりを生んでいく蘇生者達もまた、「幻想と記憶のみに生きる」者として存在場所の無い深い哀しみを自らの中に湛え続けるのです。

現世を生きる者達が蘇生者の心に近づこうとすればするほど、まるで蘇生者の抱える「死」を自らに取り込んでいくように徐々に「生」の色を失っていく様は、観ていて不気味さが漂ってくる感じでした。その不気味さは、もしかしたら蘇生者達は生き残った者達を死の道連れにしに来たのではないかと思えるほどでした。 
                軌跡の朝2.jpg

しかしそこには悪意を秘めた事件性などなく、あるのは蘇生者と現存者とが互いに抱える「愛する者を失った」という「喪失感」でした。
しかしやはり、死者は死者でしかない・・・死者が戻るという「現実にあり得ない事」が起った後で、もっと惨い哀しみを用意して再び現実が戻ってくるのです。
愛する人を、二度失う悲しみ・・・・夫婦、親子、恋人、其々に三様の別れがやってきます。

死者が死者として再び自分のもとを去っていく哀しみ、戻ってきた現世に耐え切れず逃げ出すように再び死を選ぶ我が子を見る苦しみ、死後の世界へ付いてはいけず、結局は自らが選んだ別れを思う哀しみ

「失ったものは、二度と“同じ形”で戻る事は無い」・・・この喪失感が全編に漂い切なさに心が締め付けられる思いがしますが、失ったものが戻らないからこそ、「今ここにあるもの」の存在は尊いのだと語られているように思いました。

その尊さを観る者にも実感させてくれるラストシーン・・・湯気の中から現れるラシェルの表情は、生きていこうとする静かな決意に満ちているようでした。
このラストシーンは素晴らしかったですね。


 この映画は時を経て、いつか、肉親であれ心寄せる人であれ友人であれ、大切な人ともう一度観てみたい気がします。
フランス映画なので(ベタですが)赤ワインでも飲みながら。

 それで、と言うわけじゃありませんが、先日阪神デパートで面白い飲み比べセットを購入しましたので嬉しげにブログでアナウンスしちゃいます。
【ブドウ品種別・赤ワイン飲み比べ12本セット】です。
             12set.jpg
単一品種で作られた各地を代表するワインが揃っているようです。でも価格はとってもリーズナブルそしてラベルは眺めて嬉しい華やかさ・・・
到着は来年の1月半ばですが、今からとても楽しみです。
到着したらボトルを並べてまず写真に撮ってアップしたいですね。


 我が家の猫君の週末毎の検査通院は続いています。持病もそろそろ収束に向かって欲しいところー(長音記号1)

              猫君.jpg



posted by ぺろんぱ at 11:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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