2009年02月08日

懺悔

昨日7日(土)は、懺悔』(テンギズ・アブラゼ監督)を第七藝術劇場で鑑賞。

同じく昨日に封切となった『ベンジャミン・バトン』も167分と長尺の映画(気になる作品!)ですが、本作も153分と中々に長い作品でした。
昨年に同劇場でこのチラシを見てから気になり続けていた、製作から20余年を経て遂に日本公開となった伝説の映画です。
しかし、古いようでその映像感覚は新しく、ある国のある時代にスポットを当てているようで実は普遍的なテーマに挑んでいる、不思議な余韻を残す映画でした。

                    PO20090208_0002.jpg  七藝・入り口

story
  製作は1984年。グルジア公開は86年、モスクワでの公開はさらにその翌年だったが、日本では当時なぜか公開されず、その後も映画祭で数回上映されただけで伝説の映画となっていた。ナチスのユダヤ人虐殺と並ぶ20世紀最大のジェノサイドだったスターリンによる大粛清をモデルにした悲劇を描いている。
  かつて市長として権力を振るっていた男ヴァルラム(アフタンディル・マハラゼ)が死んだ。葬式の後、埋葬された遺体が掘り起こされる事件が三度も続けて起こる。警察が墓を張り込む中、ヴァルラムの孫のトルニケ(メラブ・ニニゼ)が放った銃弾がやって来た犯人の肩を打ち抜く。犯人はケテヴァン(ゼイナブ・ボツヴァゼ)という女性だった。彼女は法廷で自分の行為は罪ではないと主張。そしてヴァルラムが彼女の両親を「粛清」し、人生を大きく狂わした張本人であることを訴える。(story、写真ともgoo映画情報サイトより転載)

                   R.jpg

  153分。
おそらくは編集で細部や長く続くシーンの一部を削ればそれなりの尺の作品に収まったと思われますが、それを許さない監督の強い意思が感じられました。
実にじっくりと丁寧に、というよりも“執拗に”、時代と政治、人間と神の存在を問い続ける作品でした。
テーマは重く、問いかける姿勢は力強いのですが、どこかファンタジックに寓話的に描かれていて、観る者は不思議な世界にふわりと導かれていってしまいます。

ブラックでありながら何処か笑いさえ含んだ冒頭部。
全編に幻想的な映像がごく自然に挿入され、シュールな感覚をむしろ楽しめたりするのですが、徐々に、語られる(或いは叫ばれる)台詞の一つ一つが重たく強く力を持ち初め、じわじわと迫りくる恐怖感に圧倒される思いでした。
心に響いた台詞を暗闇の中でメモっていた私ですが、後半はその手も追いつかなくなってしまったほどでした。
シュールで幻想的な映像の魅力を、リアルで圧倒的な言葉の力が更に数段高い位置に至らしめている作品でしたね。
                  P.jpg

人間の存在とは何なのか。
人間にとって最も大切なものは何なのか。
神の存在理由は何なのか。
罪とは、真に懺悔する意味とは何なのか。

じわじわと、しかし力強くぐいぐいと問いかけられるそれらの問い。

背景となっているのは1937年のスターリンによる大粛清ですが、しかし全体主義というものはいつの世もどのような状況下でも起こり得るものではないでしょうか。
そこに生きる人々の尊厳やささやかな幸福は決して奪われてはいけないものなのだという心の叫びが聴こえてくるようでした。
そして、それを奪う者や、奪っている意識がなく実は“無意識的に”奪う側に立ってしまっていることや、真実を知りながら知らない振りをして自己の安泰にのみ生きることの罪深さを、ほんの小さなシーンにさえも描き込んでいるのが印象的でした。

                 Q.jpg

市長ヴァルラムをして語らしめる、「罪のない人間などいない。人はみな罪の子だ。」の言葉。だから懺悔すべきは全ての人間なのかもしれません。私もその一人なのです。


幼きケテヴァンが母と共に流されてきた材木に刻まれた父の名を探すシーンは圧巻。
作品中最も悲しく最も監督の静かな怒りに満ち、それでいて最も美しいシーンだったと思います。

                  @@S.jpg

オープニングとエンディングには軽快な音楽の響く柔らかいトーンの(まるで幸せに満ちた人生を描く映画と思えるような)シーンが観られます。
しかし同じシーンでありながらエンディングのそれは「非常に意味深い」です。
ケテヴァンの一連の行為の「ある側面」が分かってハッとさせられます。
そしてラストの台詞もまた深い意味を湛えています。

「教会に通じない道に何の意味があるの?」
生きていく上で人間が普遍的に求めるものは何かの「礎」であって、それがあってこそ生きて行けるのではないか、と。
それを奪うことは許されないことなのですね。



  さて、先週の某日は、ひと月振りにふらりとお訪ねした<BAR SPEAK LOW>(北区西天満)でバーボンの夜でした。

洋酒の知識が豊富なマスター氏、レアものも置いておられるようで、好みを伝えれば適したものをチョイスして下さいます。
写真は<ブッカーズ>、<エライジャ・クレイグ18年・シングルバレル>の水割りです。

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ブッカーズは度数63.2度!、エライジャ・クレイグは長期の樽熟成でブランデーのように香り立つバーボンです。
香りの余韻を楽しめました。

・・・私、飲み過ぎによる懺悔は多々あります。






posted by ぺろんぱ at 11:41| Comment(10) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
今日(日曜日)、もうすぐ上映終了してしまいそうな
「いのちの作法」を観た後これも観たかったんですが、
風邪の引きはじめで大事をとって帰ってきてしまいました。

>シュールで幻想的な映像の魅力を、リアルで圧倒的な
>言葉の力が更に数段高い位置に至らしめている作品でしたね。
うーん、素敵な表現ですぅ。
何故かこの映画は予告編を観た時から、過去観た(そんなはずは絶対ないのに)
様な懐かしい気持ちがしてるんです。
1984年といえば、グルジアはまだソ連の一部だったから、
その頃のソビエト映画の雰囲気があるのかもしれません。

上から2番目の画像、ワルイ顔ですねっ( ̄▽ ̄;A

                
Posted by ゆるり at 2009年02月08日 17:17
ゆるりさん、こんばんは。
風邪の具合は如何ですか!?
風邪は安静第一です!映画館は空気も乾燥していますからお帰りになられて正解ですよ。
「いのちの作法」をご覧なったのですね。後刻訪問してレヴューを拝見させていただきますね。

>うーん、素敵な

とんでもないです、赤面しています。
しかし言葉の数々は本当に“ぐいぐい”来ました。^_^;
それと、懐かしい気持ちって仰るのも何となく分かるような気がします。古いソビエト映画がお好きならば尚更ではないでしょうか。
私はこの監督の名は恥ずかしながら初めてでした。本作も「懺悔三部作」の最終章的な作品のようです。

2枚目の写真!
はい、ワル顔でしょ〜!?(~_~;)
滑稽なしぐさやニンマリと笑う顔の奥で不気味な怖さを漂わせていました!
ちなみに、左の男性はかなりの美形でした。
Posted by ぺろんぱ at 2009年02月08日 21:07
長編作品が楽しめる!

ってのが(商業第一主義でもない?)ミニシアターの存在意義(の1つ)にも思うんですが、

ハリウッド系も、またまた「ダラダラと長い系」がのさばって来たりしてそうですね・・

観客の集中力には限界があるので、それをキープするだけの映像&演出を伴った上で、放って欲しいトコロです(・ω・)

本作はそう言う点では、十分な吸引力を有していたように、
貴レビューからは推察いたしました(=^_^=)
Posted by TiM3 at 2009年02月09日 23:38
TiM3さん、こんばんは。

ミニシアターでは、たまに“極端に短い”作品もありますね。
それも「○○○監督特集!」とか銘打たれた上映だったりして、そういうのを楽しめるのも「存在意義」の一つかもしれません。(*^_^*)

本作については、監督の「商業主義的妥協」を許さぬ「ここは絶対誰が何と言おうとカットせんぞ!」っていう姿勢を感じましたです、はい。(^−^)
映像の不思議感も相まって、私としては吸引力を感じた作品でした。

TiM3さんの貴ブログを拝見しましたところ、167分の『ベンジャミン・・・』をご覧になられた由、そちらは集中力をキープできましたでしょうか??
Posted by ぺろんぱ at 2009年02月10日 20:58
こんばんはです。

そうそう、極端に短いのもありますよね。

リュミエール兄弟の「列車の到着(1895)」のデジタルリマスター版、
なんてのは如何でしょう(=^_^=)

http://cinema.intercritique.com/movie.cgi?mid=11345

(参考リンクです)

>167分の『ベンジャミン・・・』をご覧になられた由、
>そちらは集中力をキープできましたでしょうか??

楽しかったですよ〜

でも、残り1時間ぐらいは手元のメモを書き尽くしてしまい、そこからは短期記憶との戦いでした(⌒〜⌒ι)
Posted by TiM3 at 2009年02月10日 22:31
こんばんは!

ぺろんぱさんのレビューに心惹かれて調べてみたら、
コチラでの公開は「岩波ホール」のみ。
神保町駅って、アクセスが我が家からはちと不便。
上映時間の長さなど考えて、本日は断念。
20日までということなので行けたらいいなぁ〜☆

同じく「懺悔」繋がりで「愛のむきだし」という邦画情報を目にして、
(しっかし、なんちゅうタイトル^^;何処の映画やねん)
これも面白そうで狙ってるんですが、なんと上映時間4時間という(@_+)無謀さ(笑)
でもコチラは渋谷なんです・・悩むところ。

同じく、飲み過ぎによる懺悔は・・あり過ぎるほどです(^^ゞ
Posted by kira at 2009年02月11日 18:15
TiM3さん、こんばんは。

>リュミエール兄弟の「列車の到着(1895)」

知りませんでしたぁ〜。世の中知らないことばっかり・・・。 観てみたいですね。

>残り1時間ぐらいは手元のメモを書き尽くして

私もこの日いつもより多めのメモを携帯して行きましたが、やっぱり殆ど埋めてしまってました。
それよりもメモる手が追いつかなかったです、私の場合。^_^;
手首の訓練要です。
Posted by ぺろんぱ at 2009年02月11日 19:38
Kiraさん、こんばんは。

上映映画は、その日のいろんな都合やら時間やアクセスによって縁があったりなかったりしちゃいますよね。
観るつもりだったけど結局見送ることになってしまった・・・なんてことも多々ありますよね〜。
もしも本作を御鑑賞された際は、Kiraさんのレヴューを楽しみにしております。(*^_^*)

>「愛のむきだし」

情報誌で販促用の写真等は見ていましたが、4時間とは!\(◎o◎)/!
むむむ・・・体調万全で臨まないといけませんね〜。4時間となるとやっぱりさすがに途中休憩をはさむのでしょうか?

飲み過ぎの懺悔!
これから懺悔の朝は、Kiraさんを思い出すことにします。(~o~)
Posted by ぺろんぱ at 2009年02月11日 19:47
ばんはです。

>>リュミエール兄弟の「列車の到着(1895)」
>知りませんでしたぁ〜。世の中知らないことばっかり・・・。
>観てみたいですね。

ここにありました(・ω・)

http://www.youtube.com/watch?v=1dgLEDdFddk

こんなに簡単に解決して良いのだろうか、、(⌒〜⌒ι)

※無断リンクで失礼します。
Posted by TiM3 at 2009年02月12日 00:31
TiM3さん、こんばんは。

映像をありがとうございました。\(^o^)/

>こんなに簡単に解決

TiM3さんの探索のご苦労に比して、私の安穏!!(←ノンスタ風に)
でもよいのです、「人の厚意は素直に受ける!」って言いますもんね。(*^_^*)

件の映像は人々へ未知なる感動と興奮を与えた瞬間だったのですね。
様々な映像技術が当たり前になった今はもう味わえない瞬間なのでしょうか?
いいえ、もしかして「あっ!」と驚く演出で観る者をのけ反らせてくれる映像が、そのうち発表されるかもしれませんね。
宣伝文句でよくある「驚愕のラスト!!」とかじゃなくって。(^^ゞ
Posted by ぺろんぱ at 2009年02月12日 21:08
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