2009年03月12日

二十日鼠と人間 (本とDVD鑑賞)

  スタインベックの「ハツカネズミと人間」(新潮文庫)を読みました。

余りに有名な小説なので既に読んでいる気になっていたのでしょうね。でも読んではいなかったようでした。
ラスト数ページ、「活字」で涙腺が緩んだのは久し振りのことでした。だから読んではいなかったのだと気付かされたのです。
戯曲形式がとられているようなこの小説、四日間の農場での出来事が情景描写と会話のみによって紡がれ、直情的に胸を打つものを感じました。

この小説を手に取ったのは先日劇場鑑賞した映画『チェンジリング』が発端なのでした。
拙レヴューで幾つかのコメントをいただいた中、ゆるりさんとのやり取りで“老年のシブさを湛えるマルコヴィッチ”の話になりまして、比較的若かりし頃の彼の出演作の一つである映画『二十日鼠と人間』(ゲイリー・シニーズ監督・主演)を思い起こし、そこからその「原作」を読んでみようと思い立ったのでした。

そういえば映画化されたこの作品も、あまりに有名で恐らく何度もテレビ放映されたであろうために既に観たような気になっていましたが、やはり全編を通してきちんと鑑賞できていなかったのではないかと気付かされました。 
俄然観たくなり、レンタルショップに走った私です。

マルコヴィッチ、齢38歳の作品。
同じく主演で監督でもあるゲイリー・シニーズとは旧友の間柄だそうです。

                     PO20090312_0002.jpg  本とレンタルDVD

story
  俊英ゲイリー・シニーズが同名小説を元に映画化、監督と主演をつとめた人間ドラマ。
1930年、大恐慌時代のカルフォルニア。小柄で頭の切れるジョージ(ゲイリー・シニーズ)と、巨漢だが知恵遅れのレニー(ジョン・マルコヴィッチ)の2人は、農場から農場へ渡り歩きながら労働に明け暮れる日々を送っていた。レニーは気持ちの優しい男だが、他愛のない失敗でよく面倒に巻き込まれるのが日常茶飯事だった。そんなレニーを聡明なジョージ何かとかばい、レニーは行動の全てをジョージに支持してもらい頼りきっていた……。  (※story、作品写真ともallcinem映画情報サイトより転載)

               二十日鼠と 1.jpg

  小説を読んでいる時には主演の二人をそれぞれにイメージして読み進み、映画を鑑賞した際にはちょうど小説を読み終えた後だったので余裕を持って作品世界に入り込めたと言え、原作と映画とのW鑑賞としては“いい形で”進んだのかなと思えました。

ストーリーは“小説にほぼ忠実に”映画化されていたと思います。
違うとすれば、小説では“暗く重たいトーン”が全体を覆い尽くしていたけれど、映画では牧場地帯の原風景がとてもノスタルジックな美しさを伴って描かれ、きらきらと輝く空気の透明感やレニーとジョージの間で交わされる笑顔などが、時に私に幸福感をももたらせてくれていたなぁということでしした。
それだけに、二人に訪れた悲劇はこの上もない痛みを伴って胸を突くのでしたが・・・。

それから、もっと人間の“負の部分”に迫った会話がなされていたと思う原作ですが、映画ではテーマをシンプルに絞り込んで、ある意味「毅然と美しく」ヒューマニズムの一点を追求した作品になっていたと思いました。
それは監督を務めたゲイリー・シニーズの人間性と美学によるものなのだろうなあと感じます。
実際、マルコヴィッチを観たくて鑑賞した本作で、こんなにゲイリー・シニーズに強く惹かれるとは思ってもいませんでした。主演且つ監督であるが故、自らを最もプリモウォーモに撮ることは可能だったとしても、彼の表情の一つ一つはやはり俳優・ゲイリーとしての渾身のものだったと信じます。


悲劇を迎える前の、レニーとジョージの会話が胸に痛いです。
「ここで働く者はみな孤独だ、家族も持たないし仲間もいない・・・」
「でも俺達は違う」
「オイラにはあんたがいるし、あんたにはオイラがいる・・・」

あやふやな互いの人生をある一点において支えあい、信じ、夢を共有しあった二人に、神が用意した人生の試験薬はあまりに過酷であまりに残酷ではなかったでしょうか・・・。

                 二十日鼠と.jpg

二人に通じる存在として、もう一つの主演でもあったといえるキャンディー(レイ・ウォルストン)と彼の老犬。
キャンディーと彼の老犬こそ、ジョージとレニーに通じる仲間、同志であったのでしょう。
だから、老犬を射殺されたキャンディーの「俺が撃つべきだった、他人に撃たせたのは間違いだった。」の台詞が、ラストでいかに大きな意味を持つことになるか・・・。
最後の境界線上で「仲間の尊厳を守る」という気高い友情と人間愛が示されているのだと思いました。

  ジョージは、これでもう本当の流れ者になってゆくしかないのだろうなと感じるラスト。
作品前半の、陽光に包まれ、平和の均衡が保たれていた農場の労働シーンを思い返すに、心が痛いほどに苦しくなるばかりです。

小説の「訳者あとがき」によれば、原題である「OF MICE AND MEN」というのはスコットランドの国民的詩人ロバート・バーンズの詩「ハツカネズミ」から引用されたものらしいのですが、その詩の一節はあまりに本作に重なるものがあり、涙を禁じ得ません。

 ハツカネズミと人間の このうえもなき企ても やがてのちには  狂いゆき
 あとに残るはただ単に 悲しみそして苦しみで 約束のよろこび 消えはてぬ  
               (大浦暁生氏訳)


原作も映画も、ずしりと心に残るものでした。


                PO20090312_0004.jpg

本小説のあとは、映画をスルーしそうな気配のあの話題作『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』の原作を読んでみることにしました。
スコット・フィッツジェラルドの短編小説です。会社近くのジュンク堂で買い求めました。

今夜から、赤ワインとともに。ぴかぴか(新しい)






posted by ぺろんぱ at 21:32| Comment(8) | TrackBack(1) | 日記
この記事へのコメント
何故だか・・
『ハツカダイコンとインゲン』なるタイトルを連想してしまいました。。

って何の関係もないですね(⌒〜⌒ι)
Posted by TiM3 at 2009年03月13日 00:23
私はこの小説も映画も知りませんが、ちょっと惹かれました。そういえば、デカイノとチイサイノっていえば、「スケアクロウ」を思い出します。うーん、やっぱり観たいの!読みたいの!ってなっちゃいますね。
本の方は短そうだから直ぐにトライできるかもしれませんね。

映画と本と読み合わせるとその表現方法の違いにより、うまくすれば二重以上に楽しめる場合もありますね。映画をみて原作を読めば、「あっそうだ!」と気づいたり、この俳優さんは原作のあの主人公を素晴らしく演じている!となったりして!!面白いですよね。

次に本と映画を楽しんだら、ぺろんぱさんのように双方の言葉で比較して述べてみましょう。
Posted by west32@本 at 2009年03月14日 01:01
TiM3さん、こんにちは。

「コメント第一弾」にワクワクして開けてみましたが、『ハツカダイコンとインゲン』て・・・^_^;。
でもハツカダイコン(ラディッシュ)もいんげんも大好きなのでいいです!
特にいんげんは煮て良し、炒めて良し、揚げて良し、サット塩茹でにして一層良し、の優れもののお野菜ですねー。
ラディッシュも“美人な”お野菜です。

野菜を食べよう!!(*^_^*)
Posted by ぺろんぱ at 2009年03月14日 10:50
west32さん、こんにちは。
はい、この小説は短いですからすぐ読めますよ。
よろしければ手にとってみて下さいね。

スケアクロウ!
あれも(一部、目を背ける惨いシーンはありましたが)佳き映画でしたね。私も録画撮りして保存版にしております。

ちょっとしたキッカケである作品が浮かんで、読みたく(または観たく)なって、そこからまた別の作品が想起されていったりして、「人生は繋がってるんだなあ」と感じます。(*^_^*)

本と映画って、鑑賞の相乗効果が出る時は嬉しいですよね。どちらかが「×」になっちゃう時もありますが、両方の其々の良さが感じられる時はちょっとした幸福感に浸れますよね。
Posted by ぺろんぱ at 2009年03月14日 10:59
『二十日鼠と人間』
この映画は観たかった作品でした。
意外とゲイリー・シニーズが小柄なことに驚いてます。

『スリング・ブレイド』
ビリー・ボブ・ソーントン監督主演作品とジャケットの絵は被ってますね^^;

もう1本フランス映画で『八日目』も鑑賞が叶わなかった作品でした。
どれもみんな主人公が純粋であることが惹きつけられる要因なんでしょうかね〜

Posted by ituka at 2009年03月15日 21:47
itukaさん、こんばんは。

『スリング・ブレイド』、知りませんでした。
しかしネットで調べてみたら、本当にDVDジャケットの画が同じイメージですよね!
そしてななかなか観応えのありそうな作品のようですね。

『八日目』、こちらも知りませんでした。
そして同じくネットで調べてみたら、なんとこの作品も草原を歩く二人の男性の画のDVDジャケットが、イメージ的に『二十日鼠…』と重なってる気がしました!

どちらも観たくなってきてしまいました。
実は<お題作>としている映画はいっぱいありまして、その割にレンタル店へ余り行か
ないものでどんどんお題作が溜まる一方の私ですが、でもでもこの二作品は「出来れば
早く観てみたい」です。特に『八日目』の方により強く惹かれております。

良い情報をありがとうございました。(*^_^*)

あ、ゲイリー・シニーズは手持ちの本に寄りますと「身長187cm」、マルコヴィッチが「186cm」とのことですので、もう無茶苦茶ですねー^_^;。多分ゲイリーの方の資料ミスかと・・・。 
Posted by ぺろんぱ at 2009年03月16日 19:49
「ハツカネズミと人間」を読み、DVDも鑑賞しました。現在原作をゲイリー・シニーズの朗読CDで楽しんでいます。素敵な作品との出会いに感謝です。赤ワインと読書、いいですね。今度僕もやってみます。
Posted by ETCマンツーマン英会話 at 2012年05月07日 00:49
ETCマンツーマン英会話様、こんばんは。

原作をゲイリー・シニーズの朗読で!?
それはとても贅沢なことですね。
英会話ご精通の御方ならではの素晴らしき時間ですね。
「今度私もやってみます」と言えないのが悲しいところですが・・・。赤ワインと読書は是非ご堪能下さいね。(^^)
Posted by ぺろんぱ at 2012年05月08日 20:49
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Excerpt: 成人に達してから、脳の器質的な変化によって起こった知能低下の状態を「痴呆(ちほう)」といいます。
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Tracked: 2009-04-01 05:58