梅田ブルク7で『グラン・トリノ』(クリント・イーストウッド監督・主演)鑑賞の土曜日、風雨が強くて寒かったですね。
しかし映画を終えて外に出ると雨は上ってうっすらと晴れ間も。
この映画もそんな感じでした。
エンディングは、悲しみの涙を凌駕するほどの不思議な清らかさに包まれます。
アメリカの湖岸に吹く渇いた風をボディーに受けながら走るグラン・トリノの姿が気高くも美しい。
story
妻に先立たれ、息子たちとも疎遠な元軍人のウォルト(クリント・イーストウッド)は、自動車工の仕事を引退して以来単調な生活を送っていた。そんなある日、愛車グラン・トリノが盗まれそうになったことをきっかけに、アジア系移民の少年タオ(ビー・ヴァン)と知り合う。やがて二人の間に芽生えた友情は、それぞれの人生を大きく変えていく。 (※story、作品写真ともシネマトゥデイより転載)

頑固で偏屈な独居老人も、最後まで徹底して筋を通せば、そこには美学を感じるのです。
それはウォルト老人を演じるイーストウッドの生き様にもそのまま重なることのような気がしました。
「hell」のワードを頻繁に使い、有色人種蔑視用語も平気で撒き散らすウォルトですが、心底嫌な人間に映らなかったのは、演じるイーストウッドのヒューマニズムや人間としての厚みみたいなものが既に我々に完璧に刷り込まれてしまってるせいでしょう。
とにかく、「このおじいちゃんはきっと何かやってくれる」「救ってくれる」っていう確信がもう物語の最初っから持ててしまっているのですが、その“いかにも”的な流れをどこかで分かっていながらも尚、ウォルトの最後の決断と行動に何故あんなにも泣けてしまうのでしょう。
ウォルトが考えに考え抜いた最後の決断が、あまりに悲しくて悔しいけれど、同時にあまりにカッコよすぎて、ウォルトにも演じるイーストウッドにもどちらにも、「そこまでされたら適わないよ」っていう脱帽の思いでしした。
本作が本当に俳優・イーストウッドとしての最後の作品になるのなら、こんなに相応しい幕の引き方はないとさえ思いましたね。

ところどころに笑いの要素があって軽妙な作り方にも感じられた物語でしたが、ある夜の事件を境ににどすんと重苦しい空気の中に陥っていきます。
それまでは道化的な存在にさえ思えた若き神父。事件後に彼がウォルトを訪ね、暗闇の中で“本音で”語り合うシーンは非常に意味深く、印象に残るものでした。
ウォルトが亡き妻の遺志を汲み取り、タオの将来を最も重視し、自己の尊厳をも守る方法として選択した方法。
犠牲と言うよりも、それは彼が自らの人生の締めくくりとして「敢えて能動的に」選び取った道だったのだと思います。
ウォルトが言っていた「決着をつけなくてはいけない」という言葉。
それはタオやタオの姉スー(アニー・ハー)が巻き込まれた事件への決着だけでなく、ウォルトが生きてきた人生への決着として。
ウォルトがかつて赴いた朝鮮戦争の戦地での殺戮行為に、「人を殺して得た勲章などに意味はない」と地下倉庫に過去を封印して来たウォルトが選んだのは、誰かを殺すことではなかったのですね。ましてやタオに彼の背負った十字架を背負わせることなど・・・。

そんなウォルトの「人生をかけた決断」があんなチンピラたちへ向けたものだったということには悔しさを禁じえないけれど、そこには不器用な余りウォルトが息子達には表現できなかったタオやスーへの愛情が深く関わっていたに違いなく、やはり最後には彼の大いなる父性に胸打たれる思いでいっぱいになるのでした。
「前を向いて生きていけ」、そんなウォルトの言葉が聞こえるようでした。
・・・そして、風を受けて走るグラン・トリノ。
老犬デイジーの姿にも涙が滲みます。
エンディングに流れるグラン・トリノの歌曲もいつまでもいつまでも耳に残っていました。イーストウッドと息子のカイル・イーストウッドの共作とのことですが、本当に素晴らしい曲です。

不思議な清々しさを残す本作。
アメリカの湖岸の渇いた風を感じるエンディングの画に、先日いただいたシャンパンを思い起こしました。

IL PINOLO でいただいた<シャルトーニュ・タイエ>です。
爽やかというよりもこれは非常にコクがあって豊かな余韻を残すシャンパンでしたが、シャンパンにはやはり“晴れ”の飲み物としての爽快さを感じますよね。
・・・ウォルトは毎日ビールばっかり飲んでましたけれどね。夕暮れ時までずっと、愛犬デイジーと共にテラスでビールを飲んでいるウォルト・・・泰然たる勇姿の中に老年の孤独を感じました。

クリント・イーストウッド監督作で主演の
この作品は注目していますよ。
グラン・トリノが車だとは。。。
息子さんはおやじの好きなJazzManだしね。
楽しみです。
わたくしは、『小三治』を見たよ。
ラストのカリフォルニア州東海岸を映し
そこをグラン・トリノの魅力的なリヤビューが延々と
向こうに走り去っていく姿に見とれてしまいました^^
が、5分後、もう一回グラン・トリノが出てきましたよね^^;
なので2回その雄姿を楽しみました(笑)
あの神父も散々こき下ろされていましたけど
神父はあそこまでするものなんですかね〜
私には到底、勤まらない職業のように思えました^^;
懺悔の内容に対し「たったそれだけ?」は見てる誰もが思ったことでしょうね。
ひとって意外にも、ちっぽけな事をココロに残しているものなんだと改めて感じました^^
『小三治』、いかがでしたか。ドキュメンタリー映画なのですよね?
エンディングの曲は「Yahoo!映画」サイトで配信されてるようです。余韻を楽しむためにまた聴いてみたいです。
>息子さんはおやじの好きなJazzMan
イーストウッド譲りの音楽の才なのですね(*^_^*)。
是非ご覧になって下さいね
>魅力的なリヤビュー
美しい車はバックシャンでもあるのですね。(*^_^*)
あ、実は私も訂正したのですが、あれは湖岸だったみたいですよ。しかし本当に素晴らしきドライヴですよね。ヴィンテージ・カーとチャーミングなデイジー。(*^_^*)
あの神父さんは“なりたてほやほや”的な神父さんで、人生の大先輩のウォルトからすればどんな言葉も絵空事のようだったのでしょうね。ウォルトの亡き奥さんの生前の願いに忠実に奔走するあたりも「若さ」が走ってしまってた感じもありました。(+_+)
ある程度「年輪」が必要な職業といえるかも知れませんね。
あの懺悔は、私としては意外と意味深かった気がしたのです。やっぱり「家族」って切り捨てられない存在なのだなあと。ウォルトの孤独の吐露のようにも感じました。
でもitukaさんの仰る通り、そんなことを気に止めてるふうでもなかったあのウォルトが・・・っていうことでは「ひとって(やっぱり)意外」なものなのでしょうね。(^_^)
これは、きっと、観ます!
はい(*^_^*)。
真っ白でスクリーンに臨んでください。
ご鑑賞後のお越しをお待ちしております。
こちらも楽しみに訪問させて頂きますね。
私などが小さき頃にはたくさん、こういう
頑固だけれど、味方に欲しい、キュートなじい様はいましたよね?
(って、かなり時代がちがうか^^;)
なんというか、
特に日本人には通じるオトコの生き様だったと思います。
そうそう! 頑固だけど、こんなおじいちゃんいてくれたら味方に付けちゃうっ!!?
>特に日本人には通じる
私もかねがね「イーストウッドの描く精神世界とと日本人のそれとは重なるものがある」って思っていました。
ベタな言い方をすれば、それは時には“浪花節”であったり・・・あくまで良い意味で、ね。
ウォルトは孤独で、その孤独感がある意味マイノリティである人たちと引き合ったのかもしれませんね。
「4つ目の懺悔」がないことに「これからの肝心の行動のことを懺悔しとかなあかんやん!」と思ってしまいましたが・・ああ言う選択だったんですねー。
アクション俳優=クリントを知らない(若い)世代の観客にすれば「何だったんだ、このじじいは?」となるのでしょうか(×_×)
先程、お邪魔してコメントを残させていただきました。
>アクション俳優=クリントを知らない(若い)世代
私は、(若い)世代ではないですが、実は「アクション俳優=クリント」に精通していない部類の人間です。(勿論当たり役の幾つかは知っていますが)
逆行して、これからイーストウッド氏の若き頃の主演作に触れていくのも「温故知新」でよいのかも。(*^_^*)
私も観てきました。
そして、イーストウッドに惚れてしまいました!
どこかの記事で、ご本人曰く「あそこまで気難しくはないし、
物事に対して否定的でもない」と語られていましたが、
人間としての厚みや大きさ男気等など、私にとってウォルトは
まさに彼自身だと思えてしまうキャラクターでした。
本作は本当に俳優業最後の作品になってしまうのでしょうか・・・
惜しいと感じる半面、これ以上の幕引きはないと思えたり・・・
老年の孤独が痛いほどに伝わってきましたが、
それ以上に大きな優しさに満ち溢れていましたね。
シンプルだけど力強い、そんなメッセージを受け取った気分です。
オープニングのピアノの旋律、そしてエンディングの歌曲、
グラン・トリノが走る画、どれをとっても素晴らしかったですね。
こんな素晴らしい作品に出合っちゃうと、
私なんぞの感想は書けなくなってしまいますわ〜
とりあえず4作の感想をため込んでますので、いつの日にか・・・^^;
私もウォルトにイーストウッドを重ねて観てしまいました。
>本人曰く「あそこまで気難しくは・・・」
う〜ん、、、結構頑固そうに見えるご本人ですけれどね・・・(^_^)良い意味でね。
>それ以上に大きな優しさに
そうなのですよね。
包容力の大きさ、(広い意味での)父性を感じました。
>どれをとっても素晴らしかった
はい。(*^_^*)
本作はイーストウッド流に、「オレの撮りたいものを撮ったぜ!(何故かハリー・キャラハン調^_^;)」って感じを受けました。
4作のご感想、ぼちぼちでOKでござりまする!
Anyさん流の「語り」を楽しみにしていますよ〜。(*^_^*)
あ、<靴下ニャンコ>はムニュッ!としたくなる可愛さでした!(*^_^*)・・・意味不明???
もうちょっとがんばって警察を引きとめておけばあんな悲劇はおきなかったのに、
役に立たないヤツ、と思ったのは
私だけでしょうか?
それにひきかえ、イーストウッドの
かっこよさ。
感動です。
この作品は、イーストウッドの自画自賛すべき遺言状のような作品です。「老いの軽やかさ」が滲んでいて、未来へ託す思いが、いかにも「用心棒」らしくていいですね。最期は、自分の命に代えて、「夢と希望」を守る。
ウエスタンのヒーローは、街のゴロツキというちっぽけな相手にも、最期まで冷静でプライドを失わなかった。
次作撮影中とのことですが、「何がテーマ」でしょう?
>エンディングは、悲しみの涙を凌駕するほどの不思議な清らかさに包まれます。
イーストウッドの歌う「グラントリノ」の歌と
穏やかで美しい風景の中を疾走する車のシーンに涙しました。
ウォルトの最期は反則!なくらい哀しくてカッコよくて。
イーストウッドの熟成された人生観が余すところなく織り込まれた作品のような気がしました。
>役に立たないヤツ、
そうですね^_^;、でも神父以上に警察が不甲斐なく見えました。『チェンジリング』のヤバラ刑事みたいに“何かを嗅ぎ取ってくれる”刑事さんがいればよかったのに。
あの神父さんも後年には厚みのある人になって、その時はウォルトのことをどんな風に思い出してくれるのでしょうかね・・・。(^^)
イーストウッドはカッコイイですね。
若き頃の彼には実は精通していない私です、、、逆行して若き頃の主演作なんかを観てみたいなぁって思っています。
keyakiyaさんが「老いの軽やかさ」と表現されているのを拝読して新鮮な感動を受けました。「重い決断」と受け止めがちながら、そこには「未来への希望」があったのですね。
私も、だから観終った後に何かしら爽やかな風を感じたのかもしれません。
>ウエスタンのヒーローは、街のゴロツキというちっぽけな相手にも、
なるほど・・・分かりました。相手の大小は関係ない、自分のプライドを貫く、っていうことなのですね。ありがとうございます。
次回作はネルソン・マンデラの伝記的作品のようです。楽しみですね。
エンディングの歌の「一番め」はやっぱりイーストウッド自身の歌声ですよね!? 味わいのある歌声でした。そうなると、歌というのは技術だけじゃないんだと改めて感じます。人生の、重ねてきた年輪の、全てが込められていると言いいますか、深い響きだったですよね。
>熟成された人生観が余すところなく
そうですね。
しかしこんなふうに自分の人生を表現できる場を持てることって、誰にも勿論出来ることではなく、素晴らしいことなのですね。(しみじみ・・・)
やっとDVDで観ました。
イーストウッド、好きです。
人生、人種問題、正義、秩序と考えさせられ
ました。
エンディングのジェイミー・カラムの歌も
好きです。
クリント・イ−ストウッド、、、もし他の若くして同じような切り口の作品を作った人がいたとしても、こうまで心に響かなかったかも知れませんね。
この人の、人生の歩みと年輪とが見えてこそのものだったとも言えるような・・・。
エンディングの歌、よかったですね、本当に。