2009年05月17日

ハーヴェイ・ミルク

 
 16日(土)はシネ・ヌーヴォでリバイバル上映のドキュメンタリー『ハーヴェイ・ミルク』(ロバート・エプスタイン、リチャード・シュミーセン 制作・監督)でした。
1984年の製作作品ですが、ガス・ヴァン・サント監督の『ミルク』の公開記念としてアンコール・ロードショーとなりました。

『ミルク』は私がぼやぼやしているうちに16日より上映が減じてしまって劇場鑑賞が叶わず、ならば・・・と16日からアンコール上映開始となったこちらの作品を観ておこうかと思い立った次第です。


The city weeps.
彼の死にサンフランシスコの街は泣いた。
彼がこだわったのはたったひとつ・・・・・・Who am I ?  (映画チラシコピーより)


                   ハーヴェイ・ミルク チラシ.jpg                   
story
  ハーヴェイ・ミルクは大卒後、海軍、証券アナリストを経て、ブロードウェイでプロデュース業を、その後ベトナム反戦運動に関わり、ゲイの解放運動へと至る。そして移住したサンフランシスコで、市政執行委員に当選。市長ジョージ・マスコーニと共にゲイだけではなくマイノリティ差別撤廃を働きかけたが、同じ委員である保守派のダン・ホワイトによって、市長もろとも暗殺される。実在の事件を取上げたドキュメンタリー。'84年アカデミー長篇記録映画賞他を受賞。(※story、作品写真とも映画情報サイトより転載)


  映画『ミルク』は未見なので詳しくは分かりませんが、ミルクの衝撃的な死でラストとなっているようです。
このドキュメントではむしろ、ミルクが暗殺された後に広がる人々の心の衝撃波と、展開する事件の“その後”に重きが置かれていたように感じました。

死を悼む45,000人もの人々によって夜を徹してのキャンドルマーチが続いたというハーヴェイ・ミルクという人を、私はガス・ヴァン・サント監督が『ミルク』を撮るまで、実は全く知りませんでした
だから知り得たことはとてもプラスになったと思いますし、この人の精神がゲイ解放運動を超えて障害を持つ人々の精神的解放や非暴力への訴えなど、広義に理解されるものであったことで、決して自分とかけ離れた世界を生きていた人ではないのだと感じることができました。

ゲイに賛成とか反対とかではなく、生きるという日常に於いて苦しんでいる人間がどこかにいる以上、誰かが立ち上がらなければならなかったわけで、何もしなかった人もいれば立ち上がったハーヴェイ・ミルクという人も存在したいうことなのでしょう。
故に、彼の政治的立場は非常に明確であり、少数派として精神的隔離を余儀なくされていた人々に希望を与えることが彼の使命であったのだと思います。
「希望のない人生は生きるに値しない」とは、ミルクが生前に放った言葉です。

                  ハーヴェイ・ミルク.jpg

そんな彼が「いつか殺されるかもしれない」と暗殺される1年前に既に遺言を録音していたという事実には、改めて当時の(否、現代に於いてさえも尚、)同性愛者、マイノリティーへの根強い偏見の目を感じさせられました。
マジョリティーが動かし続けてきた政治とその結果による歴史を、新たな色で塗り変えることは決して容易ではなかったのですね。
本当に起こってしまったミルクの暗殺には、悲しいかな「変革」に血は付き物なのだろうかと暗澹たる思いにさせられました。

狙撃犯ダン・ホワイト(彼個人なのか、背後に何かが存在していたのかは分かりませんが)は裁判の結果、個人的な“故殺”(=一時の激情によって殺意を生じ、人を殺すこと。旧刑法上の用語で、計画的な謀殺と区別。 )として処理され、5年半で刑期を終えて世に出て来たそうです。

改めて「陪審員制度の怖さ」を感じましたね。
そして日本でも始まる「裁判員制度」に、私は新たな疑問を持たざるを得ませんでした。
この裁判の陪審員の中に同性愛者や非白人などのマイノリティーは一人も含まれていなかったようで、ダンへの判決は全く持って故意に誘導された裁判結果に他ならなかったわけです。
「ダン・ホワイトが、もしマスコーニ市長だけを殺していたとしたら、彼はおそらく一生を刑務所で暮らすことになったろう」、ミルクの支援者の一人ジム・エリオットがそう語っていたことが衝撃でした。
ゲイは抹殺されて然るべき存在だと多くの人々が思っていたのです。

そんな中で救われたのは、そのジム自身が「私も以前ならそう思っていた。ハーヴェイ・ミルクと出会い、彼の精神と活動に触れる前までは。」と語っていたことです。
同性愛者のみならず異性愛者も、その他、垣根を取り払った全ての人々の中に、「希望をもって生きること」の大切さを説いた彼が存在していたことは、彼の起こしたムーブメントが決して小さなものではなかったということを示しているのだと思います。

                  harveymilk.jpg

弱者への正当な理解と「非暴力」を訴え続けたミルクが「圧倒的暴力」によって死に至らされたのは不条理で悲しい事ですが、街が流した涙が現在もこうして語り継がれていることで、彼の死が新たな決意と人々の闘志を生み出す原動力になっているのだと信じたいです。


ただ、クレジットのラストでダン・ホワイトがこの映画の完成後の1985年に自殺したという事実が知らされますが、彼も市政改革に燃えて執行委員になった経緯を慮るに、いたたまれぬ思いに包まれて劇場を出ることになりました。
あの裁判で本当の本当に真実が語られたのでしょうか・・・。


  ハーヴェイ・ミルクはお酒を殆ど飲まなかった人らしいです。
そんな彼が、市政執行委員に当選した時にシャンパンを頭から被るようにしてあおったというのは、ある一定の理解を得たということが余程嬉しかったのだと思います。


  この画はビールじゃありません。

                   ビアスプリッツァー.jpg

ビールベースのカクテル、ビアスプリッツァー(ビール 1/2、白ワイン 1/2)です。
ほんのりと甘い香りの香るビール、自宅でも簡単にできそうですね。

posted by ぺろんぱ at 15:23| Comment(9) | TrackBack(1) | 日記
この記事へのコメント
にーはお、しげぞうでございます。

内容とは関係無いですが関西地方が
インフルエンザで警戒態勢に入っていますね。

わたくしもLive、映画、ヒトゴミには厳重注意
していますがどんな感じですか?
心配です。
気をつけて下さいね。
その内、こっちのも来るとは思うけど。
Posted by しげぞう at 2009年05月18日 22:23
ばんはです。

・ウィキでハーヴェイ・ミルクの人生をざらっと辿りましたが(←何と言う手抜きか!)
彼の最期は「ホンマにたまたま」って感じで、運悪く「殺人者」に遭遇してしまったような状況のようですね。

・神戸は「通過するだけの街」となっていますが、関西人としては
不安の高まりを感じています。

ではでは。
Posted by TiM3 at 2009年05月19日 02:41
ビアスプリッツァーですか。おいしそうですね。(=^_^=)
さっそく試してみようと思います。

ミルクを暗殺したのが同じ執行委員だったダン・ホワイトというのは皮肉な展開ですが、
アメリカでは何が起きても、またその裏側に組織的な何かが隠されていても
ちっとも不思議ではありませんよね。
その闇の深さにははかりしれないものを感じます。
オバマ政権には銃規制を期待したいですっ。

実際のミルクはショーン・ペンよりずっと上品で
より物腰の柔らかい感じでした。
女性の支持者も多かったのではないでしょうか。
その演説もわかりやすくて彼自身の言葉として伝わってきました。
紙に用意されたスピーチの漢字を読み間違える
わが国の総理大臣とはエラ違いですねぇ。

彼のパートナー、スコット・スミスが結構かっこ良くて。
いい感じでした。ウフッ。

新インフルエンザのおかげでマスクが売り切れ状態!
私は2月以降ずっと、花粉症と喉の乾燥予防でマスクを
してるんですが、街中で急激に仲間(?)が増えた
気分です。(^-^;A
Posted by at 2009年05月19日 16:29
ごめんなさい。↑上のコメント
また無記名で書き込んでしまいました。
落ち着け!わたしっ。( ̄▽ ̄;A
Posted by ゆるり at 2009年05月19日 16:32
しげぞうさん、にーはおでございます。

ご心配頂きありがとうございます。私自身は今のところ大丈夫(^^)ですが、「神戸在住、大阪勤務」の身としましてはちょっとつらいものがあります。^_^;
しかし“街を挙げての警戒”の方が却って怖いような気もしています。

電車内や街を行く人、マスク、マスク、マスク、です。

神戸ではピカソ&クレー展を大々的にやってる県立美術館が5月22日まで臨時閉館しちゃいましたが、映画館は「大丈夫!」であってほしいと願う今日この頃です。
Posted by ぺろんぱ at 2009年05月19日 21:14
TiM3さん、こんばんは。

あ、ウィキではそのように…??
このドキュメンタリーでは“市長の次のターゲットがミルクであった”という受け止め方をしましたが・・・。
若干「謎」を残しているのですが、二人はとにかく狙撃犯・ダンにとって“彼の精神を脅かす”存在だったみたいです。

関西人のTiM3さん、、、
国内初の発症が神戸高校の生徒さんだと知った時は「うわぁ、まさかの神戸」と思っていたら、あっという間にこんなことになってしまいました。((+_+))
ウィルスって怖いですね。特に「新型」っていうのが得体が知れず・・・。
感染の拡がりとともに「徐々に毒性は弱まっていくかも説」を希望的に信じて、早く終息してほしいですが。
Posted by ぺろんぱ at 2009年05月19日 21:27
ゆるろさん、こんばんは。

そうなんですよねー、アメリカって他国に比して「光と陰」の怖さを感じます。古くはケネディ暗殺事件とかも。
本作では、意外にダン・ホワイトの持つ二面性と言うか闇の部分に触れようと試みながらも、やはり立証された部分以上に踏み込んだ見解は抑えられていたように感じました。
本当のところは「分からない」っていうことなのでしょうか。

>実際のミルクはショーン・ペンよりずっと上品

あ、ショーン・ペンはどうしても「ワル」のイメージが付きまとってますもんね^_^;。
それと、ミルクって人は決して熱情だけで突っ走る人じゃなくて、きちんと「戦術」を持ってる人だと感じました。
「人」を、正面からというより側面や背後からずっと見てきた人なのでしょうね。

でもゆるりさんは両方ご覧になられたのですよね!私もDVDになってしまうみたいですが『ミルク』をいつか観てみたいです。

マスク・モードの走りだったのね、ゆるりさんは!(*^_^*)
今は巷では「マスク入荷」の店頭には黒山の人だかりです。私は買いそびれて、今年の初めにやはり喉の乾燥予防に買っていたマスクの残りがあったのでそれを使っています。
でもアルコール消毒が一番!ビアスプリッツァーもお試し下さい!(*^_^*)
Posted by ぺろんぱ at 2009年05月19日 21:56
こんばんは♪

気になりながらも、最近ゲイとかメンヘル系のテーマは
なんだか避けたい感じです。
「ブロークバック・マウンテン」を観てから、特に(^^;です。
文字で見るのと映像になるのとではやはり違いますものね。

裁判員制度、本当に大丈夫か?ですよね。
意識が高まることは間違いないけれど、適正ってあると思います。
と、どこまでも弱気な自分(^^;
ビアスプリッツァー!今だと直ぐに酔いそうでぇす(笑)
Posted by kira at 2009年05月30日 19:36
Kiraさん、こんにちは♪

ブロークバック・・・は未見です。
Kiraさんにとってヘヴィーな作品となったのでしょうか。
確かに映像の力は文字の力とはまた違う次元のものなので、受け止める側に何らかの覚悟は要りますよね。

>どこまでも弱気な

いいえ、それも真摯に考えておられる証拠だと思います。私もKiraさんと同じ意見で、「意識を高める趣旨」は良いことだとしても現行の進め方は余りに乱暴な気がします。


ビアスプリッツァーで酔いましょう、心地よく!(*^_^*)
Posted by ぺろんぱ at 2009年05月31日 11:30
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