2007年01月07日

ダーウィンの悪夢

 新年早々の連休は梅田ガーデンシネマにてドキュメンタリー映画『ダーウィンの悪夢』(フーベルト・ザウパー監督)観ました。
これは公開を待っていたものの、直前に「平和ボケした日本人には衝撃的過ぎて非常にキツイ」との評を目にし、少々怖気づいていました。
しかし初志貫徹・・・「平和ボケ」という言葉は好きではありませんが、確かに衝撃的な作品でした。

story
アフリカ・タンザニア西部のヴィクトリア湖は生物多様性の宝庫であることから「ダーウィンの箱庭」と呼ばれていた。
ところが其処へ巨大な肉食魚ナイルパーチが放たれたことから悪夢のグローバリーゼーションが始まった。食用輸出魚としてナイルパーチは地域の産業経済を潤すが、その新しい経済は一方で貧困・売春・エイズ・ストリートチルドレン・ドラッグ・湖の環境悪化を引き起こす
さらにはナイルパーチを積みにやってくる飛行機がアフリカの紛争のための武器を運んでくるという疑惑が浮上する。

(映画チラシより抜粋)
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 内容は衝撃的ですが、監督の感情を押し殺して淡々と描かれていることに、ある意味“突き放された”感覚を覚えました。
監督の主張らしきものの押し付けはありませんし、それは悪い言い方をすれば“映像の羅列”とも受け取れることですが、観るうちに我々観る者に判断を委ねられている気もしてきましたね。

先ず私が感じたのは、「ナイルパーチがもたらした産業の繁栄」と「貧困・売春等の負の(悪の)部分の連鎖」との関連がきちんと説明されていないということでした。
しかしその背景には、「何もナイルパーチに限った事ではない、そこに“利権を生むもの”があれば必ず表裏一体で“負の連鎖”もが発生するのだという監督の思いが存在しているような気がして、何となく納得できてしまいました。
                
食用魚であれ何であれ、利権を生むものに資本力は群がり、劣悪な環境・労働条件の下で働く者との間に格差は広がっていく・・・。
誰かが放ったナイルパーチというのは、たまたまそれがナイルパーチであったと言うだけで、其処に根本的にあるのは貧困と窮状と、それに群がる資本力のある国、その変わらぬ構図のように思えました。
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貧困だから教育が受けられず、教育を受けられずにまともな職業に付けない、そしてそれが更に貧困を呼ぶ・・・
ストリートチルドレンの一人が、遠いところを見る空ろな眼差しで「僕は勉強がしたい・・・」と言ったことに、途轍もない悲しみを感じましたね。

親をエイズで失くし、路上で生活し、食べるものに異常に飢え、暴力と虐待を恐れるが故に粗悪なドラッグで眠りにつく・・・その映像を暖房の行き届いた暖かな館内のゆったりしたシートに座り“他国に存在している地獄”として鑑賞する我々が、たまたま日本という「富む国」に生を受けた事実を、奇跡と呼ばなくて一体何と呼びましょうか・・・。
この同じ地球にあの地獄が存在している限り、我々がタンザニアに生きる人間に、いつでも成り得るのではないでしょうか。

我々が豊かな暮らしをしているその裏で、その暮らしを成り立たせるために吐き出す負の部分を捨て置いている国があるのだということを「知る」ことは必要なのだと思いました。
先ず知らなければいけないのだ、と。


もう一つ、後で感じたこと・・・それは、監督が「ナイルパーチを隠れ蓑にした武器密輸」に一層の関心を示しているということ。
実は監督が最も暴きたかったのはこれではないか、と。
戦争は“お金”を生む、のです。

「ヨーロッパの人間」という言葉がこの映画には頻繁に出てきます。
ヨーロッパ(北)に生きる富める者達が、アフリカ(南)に生きる貧しく弱き者達を「救済」の名目の下に利益の踏み台にする・・・そんな構図を観るも者に知らしめようとしているかのようでした。
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「アフリカの窮状は、ヨーロッパにはビジネスだ。」そう言い放ったタンザニアに生きる若者の言葉が胸に突き刺さります。
そして更に惨いことに、別の男性は「戦争?怖くないね、戦争を望んでいる人間は多くいるさ。高い金をもらえるチャンスなのさ。」と薄ら笑いさえ浮かべて語ります。

ここに生きる人間にとっては「とにかく何をしてでも生きる」ことが必要、手段の是非なんて考える余裕すらない、ということがダイレクトに伝わってきて、「人間の存在理由とは何なのか」と天を仰ぎたくなる暗澹たる思いでシアターを出ました。


 こんな映画の後はさすがに足取りも重くなり、真っ直ぐ家に向かいました。
帰宅途中からは雷雨までやって来て・・・。
“なんだかなぁ・・・・やるせないなぁ・・・”と、自宅で落ち着いてから買い置きしていた白ワインを開けて飲みました。
                
一口目はワインらしからぬ飲み方でグイッと呷るように飲んでしまいました。
この【 REDWOOD CREEK シャルドネ 2005 】は「飲み口がリッチで、熟した梨や桃のような香りのニュアンスが特徴のワイン(商品コピー)」とのことです。
二口目からは味わうようにゆっくりといただきました。
いただく時はやっぱり“きちんと”いただかないといけませんね。
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                REDWOOD CREEK シャルドネ

 
 そう言えば、映像の中で映画ストリートチルドレンの一人が「こいつをもらってきたぜ」と瓶に入った、ややキミ色がかった液体を仲間に差し出します。
「密造酒なのかな・・・」と思っていたら、それは嗅ぐドラッグでした。
まだ10歳くらいの少年が、煙草を吸いシンナーのような液体を嗅いで、路上で重なるように眠るのです。
心に痛いシーンでした
posted by ぺろんぱ at 11:26| Comment(4) | TrackBack(2) | 日記
この記事へのコメント
明けましておめでとうございます。
どんな正月を過ごされましたたか?
是非、今年は映画や飲んだ暮れを一緒に楽しみましょう!!
さて、この作品、私もめっちゃ気になってまして、予告編からかなり衝撃的なアプローチだったので、是非観にいきたいリストに入れています。
かなり精神的にもヘヴィだったみたいですねー。
確かに、ペロンパさんの解説を読んでるだけで、凹みそうになります。
映画の向こうの話ですが、縁やチャンスがあれば、少しでも何かの手助けが出来ればいいですね。
このタンザニアの実情を映画を通して、世界に発信するのだから、この映画の興業収入の1部や、この映画のHPやパンフで、具体的に、学校や病院などの建設費を募る寄付をしてもいいと思いますわ。
これ系の映画って、作りっ放しが多いので悲しいですね。
アカンアカン、暗い話になってしまいました。
今年も、エエ感じで頑張りましょう!
いぇーい!  トミヅル コウ
Posted by トミヅル コウ at 2007年01月11日 09:27
ぺろんぱさん本年もよろしくお願いいたします。お酒のコメントだけで恐縮ですが本年も路線は変わりそうにありません。
さて、REDWOOD CREEK を日本語にいたしますと「赤木川」ではないかと思います。
なにやら心当たりある名前なので、NETで調べなおしましたら熊野古道歩きをしたときに本宮大社近くで見た川の名前でした。
さらに調べるとこの川のすんだ水を使った「くまのビール」なる地ビールがあるそうです。
現在入手方法検討中です。
お楽しみに!
Posted by kbow at 2007年01月13日 10:07
いぇーい!トミヅルさん、明けましておめでとうございます。今年もどうぞ宜しく願いもうしあげます。

 この映画はブログにも書いていますが、監督の意図は武器密輸の暴露にあるように感じました。静かな怒りがそこにありました。
観る側が何かを受け止めて、それこそ何かの運動が起ればいいのでしょうけれど、今作に付いてはやはり日本人にとってまだまだ距離があるのかもしれませんね。

トミヅルさんの「ええ感じで行きましょう!」という台詞は聞いてて元気が出ます。今年も美味しいお酒を飲んで「ええ感じで」楽しく行きましょう。またご一緒ください!(^^)!
Posted by ぺろんぱ at 2007年01月13日 12:41
kbowさん、明けましておめでとうございます。今年もどうぞ宜しくお願い致します。
そうなんですね・・・赤木川、熊野古道の川の名なのですね。
相変わらずのkbowさんの御探究心には脱帽です。「くまのビール」・・・是非飲んでみたいです。ご入手されましたらご一報願えるのでしょうか??
Posted by ぺろんぱ at 2007年01月13日 12:47
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拝見後意見 :『ダーウィンの悪夢』
Excerpt: ◇初めての方は、一応御覧になって下さい。 ↓以下、3点が主な内容です。 >>最
Weblog: 初心者、入門者向け音楽講座・音初め講座
Tracked: 2007-01-09 00:30

一人旅
Excerpt: 海外への一人旅は自分も行った事があります。
Weblog: 英会話・海外旅行するなら
Tracked: 2007-01-09 01:52