2007年01月14日

長い散歩・・・待っていました。

 13日の土曜梅田ガーデンシネマにて、公開を待っていた『長い散歩』(奥田瑛二監督)を観てきました。
2007年1月・・・今年になって3本目の映画鑑賞で、早くもこんなに心に深く残る作品に出会えたことを嬉しく思います。
「緒形拳さんの大ファン」ということは贔屓目にはなっていないと思いますが、やはりこの役は緒形さん以外には考えられないような気もしています。

story
 名古屋の高校の校長職を定年退職した安田松太郎(緒形拳)は、仕事への一途さと厳格さ故か、妻をアルコール依存症に陥らせてしまっており、、娘とも長い断絶状態にあった。入院治療の甲斐なく妻は廃人同様のまま帰らぬ人となる。妻の葬式を済ませた後、これまでの人生を清算するかのように松太郎は質素なアパートに移り住む。その部屋の隣には、母親に虐待されている幸(杉浦花菜)がいた。
事情を知った松太郎は「ほんものの青い空と白い雲を見に行こう」と幸を連れて部屋を飛び出すが、松太郎は少女誘拐犯として指名手配されてしまう。(シネマトゥデイより)

               長い散歩ー1.jpg

 この幸という子・・・凡そ親の愛情を受けずに虐待されて育った子が如何なるふうになるか、考えると本当に怖かったです。
犯罪者になるか、同じように自分の子を虐待する親になるか・・・。事実、劇中で幸の母親(高岡早紀演じる)も「私が受けた育てられ方と同じやり方をしてるだけ」と言い放っています。前週の映画と内容こそ違え、ここにも「負の連鎖」がありますね。

スーパーで陳列されている食品を片っ端からぐちゃぐちゃに潰していく幸
コミカルなBGMで“子どもの悪戯”として描かれていましたが、このシーン、私は背筋が寒くなりました。この行為が生き物に向かうと怖いなと思いましたから

でも、「温もり」を教えようと松太郎がそっと差し出したひな鳥を、幸が怖々ながらそっと手で撫でてやるシーン・・・救われる思いがしましたね

それでも悪行や雑言は多々あって、なかなか松太郎に心を開かない幸
あの子をあのままあの母親と愛人のもとに置いていたなら、間違いなく幸は心に闇を抱えたまま犯罪者になっていたと思います。
それを救おうとした(自らの人生の贖罪も根底にあっただろうけれど)松太郎は、それでもやっぱり世間的には「誘拐犯」になってしまうのでしょうか。・・・なってしまうのでしょうね。

「誰が本当の犯罪者か!あの子はずっと地獄にいたんだ!」これは刑事(奥田瑛二演じる)に向けた松太郎の言葉です。
その通りだと思いました、警察にそこまでの裁きを求めるのは無理かも知れませんが。
               長い散歩−2.jpg  

夫として、父親として、幸せな家庭を築けず妻を死に追いやった松太郎もまた、心に傷を背負っています。
幸に愛情の温もりを与えようとすることで自らの過去を償おうとする姿は、彼が老体であるだけに非常に心に痛いものを感じました。
真面目であるが故に、過去を断ち切れないその姿。
苦しみと悔いの中だけで余生を送ろうとした松太郎もまた、幸との出会いで救われたのかもしれない。

もう一人、心に闇を抱えた青年が登場します。
バックパッカーとして松太郎と幸の旅に同行する青年・ワタル(松田翔太)彼も二人との出会いで「瞬間的に」救われるのです。
彼の闇はその救いで晴れるほど浅くはなかったのだけれど・・・
               長い散歩.jpg

 静かに時の流れを写していくようなカメラが凄くいいです。
北アルプス?の道々では、辺りの空気の澄んでいる気配が漂ってくるかのようでした。
置き去りにされることを極度に恐れながらも素直に表現する術を知らない幸を、憎たらしさまで感じさせて好演だった杉浦花菜ちゃん
真っ直ぐな視線に目力を感じた松田翔太さん、素敵でした。お兄ちゃんの松田龍平クンより私は好きかも。
そして、緒形拳さん、やっぱり貴方は素晴らしいです。


ただ、それだけに、結局は何も変わらなかったんじゃないかと感じるラストシーンはやるせなかったですね。

松太郎は自分の娘とは再会すら叶わず、刑期を終えて出てきた道を一人当てもなく歩いていく
保護されたであろう幸はきっと母親に引き取られたはず・・・あの母親が完全に改心するとは思えず、さりとて松太郎との温かい思い出を胸に留めて健気に生きていくには、幸は余りに幼過ぎる

松太郎が何処へ行くのか、彼がどんな余生を送るのか、そして幸が今はどんな生活の中にいるのか、考えると深い哀しみで満ちてしまい、エンディングに流れるUAがカヴァーした陽水の「傘がない」がシアターを出た後もずっと心に響いていました。

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 さて・・・置き去りにされることを極度に恐れる、というのは本能の訴えとして何となく分かるような気がします。
我が家の猫も、実は生まれてすぐに捨てられていた猫でした。
猫ボランティアさんが拾ってくれたのを、里親探しで知り合って貰い受けました。
3兄弟で捨てられていてボランティアさんに拾われ、我が家に来る時に更に他の2兄弟と離れ離れになってしまった事になります。
二度、家族から引き離されたことになり、多分その悲しみと恐怖は脳の中に染み込んでいるはずだと思います。
(3匹とも一緒に貰い受けることができず、本当にごめん。)

映画の後、猫の顔が浮かび、昨日は買い物もそこそこに映画から真っ直ぐ帰宅しました。
だから今日の乾杯話は、会社で取引先・事務所から御年賀として戴いたスパークリングワインのお話で・・・
                ヴィラ.jpg
      【 VILLA WOLF ゼクト・ヴリュット】
      開栓する前に会社の私のデスクに置いて写真を
      一枚カシャリ!

光り輝くライトゴールド
きめこまかな泡と、フルーティーで柑橘系の香り、ミネラルの香り!ほんのり甘味を感じる程度の辛口。
気軽に楽しめるスパークリングワインです・・・と、これは商品コピーを拝借、です。こういう御年賀は大歓迎ですね。
嬉しい、美味しい!ぴかぴか(新しい) まさにシャンパンやスパークリングワインって“晴れの飲み物ですよね。

次週の映画も邦画かもしれません。邦画が本当に面白い世界になってきています

(※映画の掲載写真は全てシネマトゥデイよりの転載)
posted by ぺろんぱ at 13:18| Comment(6) | TrackBack(3) | 日記
この記事へのコメント
はじめまして!
「長い散歩」よかったです。
あの、私の鑑賞の深さが甘かったのか、ちょっと解釈を教えてほしいのですが・・・・。
傘を差さずに雨の中を、母真由美が
歩くシーンがありましたが、
あれはどう受け止めたらいいのでしょうか?
母性愛が出てきて、幸のことを心配しているということ?
それとも、自分も母に愛されなかったことへの怒り?
Posted by ぢもと at 2007年01月14日 16:08
ぢもとさん、はじめまして。コメントとTBありがとうございます。
この映画、良かったですよね。
さっき貴ブログにもお邪魔して参りました。これからもどうぞ宜しくお願い致します。

あのシーンは、幸を一時的にせよ失った事で、初めて自分のしてきたことや、幸を虐待するに至った自分の生い立ちや誰からも愛されなかったこれまでの人生を想い起こして半ば自失状態にあったのではないでしょうか。
あのシーンに母・真由美の「深い孤独の闇」が描かれているように思いました。

真由美もそう言う意味では被害者なのですね。彼女が虐待を受けていた子どもの時には、悲しいかな、松太郎のような人は現れてくれなかったのでしょうね。
Posted by ぺろんぱ at 2007年01月14日 17:40
なるほど。
それを踏まえて、絶対にもう1回観たいと思います。
ご丁寧にありがとうございました!
また遊びに来ます!
Posted by ぢもと at 2007年01月14日 18:03
いえいえ、ぢもとさん、これはあくまで私の観かたに過ぎません。
私もいずれもう一度観てみたいと思います。

どうぞまた遊びにいらして下さいね。
私もお伺いします。
Posted by ぺろんぱ at 2007年01月14日 20:45
昨日鑑賞しました。
あの少女をスタッフ満場一致で決めたわけがわかるような気がしますよね。
本気のような演技。恐ろしいほどの気迫があったかと思えば最後では満面の笑顔。
世間に問いている映画で胸が苦しかったですが多くの方に観てほしい作品ですね。
TBいただいて帰ります☆
Posted by たーくん. at 2007年01月16日 16:49
たーくんさん、はじめまして。
私はあの後の幸と松太郎がどうなったのか、気になって仕方ありません。
「愛がなくては歩けない」という映画のコピー・・・あの母親のもとに返されたであろう幸は、一度松太郎によって得られた「愛」を見失ってはいないでしょうか。
悲しくて苦しいけれど、仰る通り、多くの方に観て頂きたいですね。

貴ブログも覗かせて頂きました。
これからもどうぞ宜しくお願い致します。
Posted by ぺろんぱ at 2007年01月16日 20:22
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「長い散歩」と 舞台挨拶
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Weblog: 永遠の自分探し  って迷子やん!!
Tracked: 2007-01-14 16:05

【2007-5】長い散歩(a long walk)
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Weblog: ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!!
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Tracked: 2007-01-16 16:48