2009年09月22日

マン・オン・ワイヤー

 観たいと思いながら大阪での上映を見送り、季節が変わって、神戸でのこの上映を待っていました。
『マン・オン・ワイヤー』(ジェームズ・マーシュ監督)を神戸アートヴィレッジセンターにて鑑賞。

story
 1974年に、今はなきニューヨークのワールド・トレード・センターのツインタワーで綱渡りした伝説の大道芸人、フィリップ・プティの半生を追ったドキュメンタリー。第81回アカデミー賞ドキュメンタリー長編賞ほか数多くの映画賞を獲得。

                  オン・ワイヤー.jpg


  ドキュメンタリーにして、フィクションさながらの、いえそれ以上の「一篇の美しい青春の物語」に触れたかのよう。

サティの「ジムノペディ第一番」の哀切な調べに乗って、フィリップ・プティの人生が最高に開花し、同時にある終焉を迎えます。
フィリップの“人生の夢”が現実のものとなるこの終盤の大きなうねりと、彼の仲間や恋人が“今、その時”とばかりに知る青春や愛の終焉。
高揚感と喪失感、その二つの融合と対比が簡潔にしてドライに描かれ、ただ差し出された結果に、私も心の中で突然にはらはらと何かが散り落ちたかのような思いにかられました。

フィリップ・プティの夢の実現に至る過程をスリリングに描きながらも、これは決してその挑戦の可否だけに焦点を当てたものではないと思います。これは彼と彼の仲間たち、ひいては彼らが生きた世代の“美しくも非永遠である青春の軌跡”を捉えた物語であると感じました。


影絵のようなノスタルジックな美しさがあり、時にアニメーションのようなコミカルさもあり、しかしながら全体を通してはフィルム・ノワールの如き孤高感の漂いすら感じさせる、それはなんとも魅力的な世界でした。


黄昏のパリの美しさ、オペラハウスの建つ蒼きシドニー湾の爽快さ、そして、今はなきWTCのツインタワーを臨むハドソン河の泰然とした佇まい。
それら全てのシーンが、彼らの人生の中で鮮やかな一頁となっていたはずです。
プティの残した、「人生はエッジを歩いてこそ意味がある」の言葉とともに。
posted by ぺろんぱ at 15:21| Comment(10) | TrackBack(3) | 日記
この記事へのコメント
おお! 全くの初耳ですが、
かなり面白そうですね!

綱渡りって、裏側にペイソスが溢れてて何ともグッと来ます。

そう言えば『サーカス』のチャップリン(の綱渡り)も何処か、悲しかったなぁ・・

休日ですっかりダラケてしまってますが、、何か、観に行きたいものです(・ω・)
Posted by TiM3 at 2009年09月22日 16:12
人生はエッジを歩いてこそ意味がある
もの凄い前衛的メッセージですね。
映画はとてもゆったりと時間の流れを惜しむようでした。
サティの音楽効果もかなりあったのでは。

よくぞあの現場のフィルムを残していましたね。
WTC現場の警察官の言葉がもの凄く印象に残っています。
Posted by keyakiya at 2009年09月22日 20:19
TiM3さん、こんばんは。

>休日ですっかりダラケてしまってますが

うちの会社は暦通りなので、あと一日です、この連休も。
日頃お忙しそうなTiM3さん、ダラケるのも一つの過ごし方だと思いますよ。(^^)

綱渡りは「孤独」な作業なのでしょうか、『サーカス』は未見ながら。本作にはまた違う意味での
ペーソスも感じました。

何と言うか、不思議な余韻が残りました。
機会がございましたら是非に。(*^_^*)



Posted by ぺろんぱ at 2009年09月22日 21:44
keyakiyaさん、こんばんは。

そうですね、その先にあるものを想定してエッジを歩くというより、エッジを歩くそのこと自体に意味を見出すというのは、簡単に理解できることではありませんね。

現場のフィルムも勿論のこと、過去の彼らのフィルムもとても貴重なものですね。
誰かがじっと追い続けていたのかと思うと、これは撮られるべくして撮られた作品なのかなと運命的な感じさえしました。

現場の警察官、信じられないというような夢見心地な感じでしたね。もしかしたら彼のその後の人生にも何らかの変化を与えたかもしれないですね。
Posted by ぺろんぱ at 2009年09月22日 22:10
おおっ!神戸でも上映あったんですね。

これは私もなぜか惹かれる映画でした。映画を観てプティの人生、とても出来ないがなぜかひどく惹かれるものを感じました。スリルだけではないんですよね。

> プティの残した、「人生はエッジを歩いてこそ意味がある」の言葉とともに。
私にもこの言葉強く残りました。エッジを歩いてこそ、そのギリギリの中で人生を感じるのでしょうね。プティのような凄いエッジは歩けないですが....やっぱりギリギリって必要です。

PS 大阪で見逃しても地元神戸でご覧になられたのですね。こういう映画は上映が期間が短いので、同時期に上映するよりちょっと時期がずれた方が観ることができるチャンスが多いですよね。
Posted by west32@マン・オン・ワイヤー at 2009年09月24日 23:44
“美しくも非永遠である青春の軌跡”
なんて素敵な表現!

はかなくも美しい時をとらえた映像だったなと
今、じんわり思い返しています。

鑑賞後にはなんとなく淋しさが残る作品でした。


Posted by at 2009年09月25日 00:35
west32さん、こんばんは。

お越し下さりありがとうございます。
そうです、以前にwest32さんの本作レヴューにお邪魔した時、「観に行きたいと思ってるけれど行けそうになく・・・」みたいなことを書いたら、west32さんが「きっと神戸でも別途上映してくれますよ」って返事を下さっていたのですよね。
その通りでした!ありがとうございます。(*^_^*)

でもこのKAVCは映画館というよりは<私設小シアター>って感じで、椅子もパイプ椅子っぽいものです。でも、小さいけどふっかふかのお座布団&背もたれクッションが敷かれててなかなか座り心地が良いです。
実は神戸と言っても結構離れた地なので、このKAVCに来たのは久しぶりでした。

(観念的な意味で)「エッジを歩く」ってことは、やはり必要かも知れませんね。
私はどうも人間がぬるく、人生修行が足りないと思っていますので、観念的な意味でも物理的な意味に於いても一度「凄いエッジ」を歩く必要があるかもしれません。

Posted by ぺろんぱ at 2009年09月25日 21:32
00:35にコメントを下さった御方、こんばんは。
お越し下さりありがとうございます。

>鑑賞後にはなんとなく淋しさが残る

このご表現、もしかしたら・・・間違っていたら(お二方ともに)ゴメンナサイ、
ゆるりさんではないでしょうか。TBも下さっているので。
先ほどブログにお邪魔してゆるろさんのレヴューを拝読、その上で何となくその意を強くしたのですが。

(いえ、もし違うとしても…違っていたら本当にごめんなさい)私もこの作品には鑑賞後に一抹の淋しさを禁じ得ませんでした。
ぐんぐんと引きつけられ、目標の美しき達成と高揚感、そしてその後でストンと陥る心の中に巣食う空洞みたいなもの・・・そんなのを感じました。


Posted by ぺろんぱ at 2009年09月25日 21:41
あーっ、またやっちまった。。。。
すみません、そのコメント私ゆるりです。(^-^;A

おっしゃる通りなんで、そんなに謝罪なさらないで下さい。あーっ、恐縮。。。。

Posted by ゆるり at 2009年09月27日 23:09
ゆるりさん、こんばんは。

ビンゴ!でよかったです。また是非お越し下さい!(*^_^*)
Posted by ぺろんぱ at 2009年09月28日 19:19
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