2009年10月04日

精神

  本との出会いは唐突にやってきますね。

以前、全く違う本を探しに向かった書店でふと見つけた『カウンセリングの実際』(河合隼雄著・河合俊雄編)。
                カウンセリング.jpg


カウンセラーになってみようかしらなどという不遜な思いなど微塵もないですが、ちょっと思うところあって購入して読みました。
「患者の話を黙ってじっと聞き続けることで、その患者自身も気付かなかった深層の思いがある日突然に引き出されることがある」という著述に、現場ならではの言葉の重みを感じたものです。
              

 このドキュメンタリー映画 『精神』 (想田和弘監督) は、今夏、七藝で公開となった時に見送ってしまっていた一作。
この本の影響もあってか、この度KAVC(神戸アートヴィレッジセンター)でアンコール映されると知り、観に行ってきました。

story
  岡山県にある外来の精神科クリニック「こらーる岡山」。悩める声に静かに耳を傾ける山本医師のもとには、多くの患者が訪れる。病気に苦しみ自殺未遂を繰り返す人もいれば、病気と付き合いながら、哲学や信仰、芸術を深めていく人もいる。監督は、ナレーション・説明・音楽一切なしで、被写体にモザイクをかけることなく、“病”ではなく人間1人ひとりの本質に肉迫する。(gooシネマ情報&チラシより抜粋)

                   精神.jpg               

  
 「こらーる岡山」の周辺を捉えた一瞬一瞬の画が生き生きとしていたなぁ。
通学路の女学生達、庶民的な町並み、木漏れ日、水、路地をゆく野良猫、それら全てが、不思議な安らぎを与えてくれていた。

それでも衝撃的な告白は幾つかあって、生半可に興味を抱いていたのであろう私の心をぺしゃんこに叩きのめしてくれた。
圧倒され、ただおろおろして、自分はこっちの世界にいるのだと線を引こうとしている自分に気付いたりもした。

しかし同時に、こらーるに集う人達から、何故か不思議と癒される言葉や姿が差し出され、ありのままの精神科医院の日常を捉えたこのドキュメンタリーが、実は「我々の暮らす社会」の日常の一コマでもあり、両者には同じように毒も実も共存するのだと、そんなことをやがて思ったのだった。

ここからがあっちの世界、ここまではこっちの世界と、明確な線を引くことは、多分出来ない。
線上を歩いていることだってあるだろうし、こっちの世界にいると信じていたら、足元の世界は境界をなくしていたっていうことも、多分あるのだろう、誰にでも。

こらーる岡山のドクター・山本は「一方向性のコミュニケーション」の怖さを語っておられた。
「こっちの世界」だけが「正」「是」であると疑わないことも、凄く怖いことなのかもしれない。
ドクター・山本が「とにかく、本人に話(実際の思い)を聞くことが一番大事なことだ」と言っておられたのは、先述の著の河合隼雄氏のカウンセリングの話に重なるものを感じた。

はっとさせられた言葉もあった。
「偏見は患者である自分自身の中にもあった」と語った、長い通院暦を持つ某男性。彼は、「健常者と呼ばれる人間にも完全無欠の人間など存在しない、全ての人間は何かしらの欠陥を抱えて生きている」と気付いた事でその偏見が消えたという。
スクリーンの中の人達も、スクリーンを観ている我々も、みな欠陥者なのだと知らされた。

芸術を愛しマザー・テレサを敬愛する某男性患者の、笑い声と同時に見せる一瞬の真剣な眼差しに、マザー・テレサの「善と悪」論を思い返して私は思わず身を硬くしてしまった。まるで私自身の中の善と悪を見透かされでもしたかのように・・・。


患者さん達の言葉に、ここには列記し切れない程の多くの思いを抱かされた私だった。
それだけに、エンドロールでの「追悼」の二文字があまりに哀しかった。

                
                 玉の光.jpg                   
 そんな映画の後はしみじみと一献。

posted by ぺろんぱ at 18:47| Comment(8) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
この映画、七藝で観よう観ようとしていて結局観れなかった映画でした。
時間的にというだけでなく、何か怖さを感じて行けませんでした。

> 「こっちの世界」だけが「正」「是」であると疑わないことも、凄く怖いことなのかもしれない。
何が「正」「是」なのかというのは、色々な立場、見方によって変わるものだし、実際に絶対の「正」「是」なんてないですよね。
それをおっしゃているのかな。

河合隼雄さんの本もちょっとだけ興味がありますが....私はカウンセリングはなんか怖くて...見送りです。ぺろんぱさんの感想またお聞かせください。
Posted by west32 at 2009年10月05日 23:44
河合隼雄先生・・晩年は病で倒れはって、その後の病状が全く分からず、気になっていた方でした。

ご冥福を(改めて)お祈り致します。

ある種のコミュニティって、その中の住人の言葉を借りれば
「外(の世界)は地獄」みたいな通説があったりしますね。

生きてる限り、結局は「地獄」やな・・とたまにふと(酔ったときとかに)思ってしまいます。
他者の命を奪い、貪欲に喰らい続けてこそ、日々を生きていられる訳ですからね。。

※ちと『おくりびとモード』入ってますねぇ(・ω・)
Posted by TiM3 at 2009年10月06日 00:11
west32さん、こんばんは。

>何か怖さを

そうですね、私も似たようなこところです。
この映画が公開になった時は丁度自分自身の生活も慌ただしかった時で、時間的都合もさることながら、この映画を受け入れる精神的余裕もありませんでした。

仰る通り、のっけから辛いシーンがありました。
線を引いて区別するというのとは違って、ある意味「距離」をもって臨まないと、自分自身が相手に同化してしまったとしたらとても辛いかもしれません。
しかし、それ以上に、「観て、知ることができて、よかった」という世界がありましたよ。

「正」「是」と書いたのはwest32さんが解釈して下さっている通りです。こっちの世界に居て、普段通りの生活をしているからって「健常者っていえるの?そもそも健常者って何?」という具合に。

>カウンセリングはなんか怖くて

これも仰る通りです。
私も、この本を読んで、中途半端にカウンセリング業に臨むことは大変「危険」なことであると感じました。
先述した通り、向き合う相手の世界に飲みこまれてしまわないことが肝要だと、先生は書いておられた気がします。勿論記されていたことはそれだけじゃありませんけれどね。

私は記事中にも書きましたが、カウンセリング業ではない別のところにちょっと興味を抱いて購入した本です。
「相手を思う」「真剣に思い、向き合う」ことの大切さは十分に感じた本でした。

Posted by ぺろんぱ at 2009年10月06日 18:52
TiM3さん、こんばんは。

私は河合氏のお名前を村上春樹の本で初めて知りました。
私も改めましてご冥福を祈りたいと思います。

「外の世界は地獄」っていう言葉は、確か映画『クワイエットルームへようこそ』でも聞かれた台詞でしたよね。

河合先生のこの本の中でも、このドキュメンタリー映画『精神』の中でも、そのように感じてもがいている人たちがいたと思います。
もがいてもがいて、結局疲れ切ってしまった人がいたことが、とても悲しい「現実」でした。

そうですね、生きている限り、苦しみや悲しみは付きまとうものなのでしょうね。生きていること自体が「喜び」なのだと同時に、「地獄」ともいえる淵が絶えず存在しているのかも。

>他者の命を奪い

そうですね、ホントですね。
そうやって生きている我々だから、地獄も覚悟しないといけないのでしょうか。
(なるほど、『おくりびと』モード、ですね(^^))

しかし、酔った時にそのようなことをふとお考えになるTiM3さん、なかなか「尊きお姿」です。
酔った時に向き合うもの、、、そこには真理が見えていると私は思っています。


Posted by ぺろんぱ at 2009年10月06日 19:30
本記事のタイトルが「憑神」に見えてしまいました(×_×)

あかんあかん、、だいぶつかれとる、、(×_×)
Posted by TiM3 at 2009年10月07日 01:29
お疲れモードのTiM3さん、こんばんは。

いえいえ、大丈夫ですよ。
「(幸運の)女神」の文字が「憑神」に見えたのなら重症かも知れませんが。(^^)

でもどうぞお大事になさって下さいませね。

Posted by ぺろんぱ at 2009年10月07日 21:03
惹かれるけど、同じぐらい怖くもある領域ですよね〜。
調べてみましたら、かなり不便なところですが、
コチラでもまだ上映があるようです。
ただ、日程的に休日でも完全に休める保証のない11月。
ぺるんぱさんの文章から思いを探り、共有したということで、
今回は満足することとします。

いつも思うんですよ。
天国はゴールなのかな?って。
まだまだ、赤点のわたしなんだな〜です(u_u;
Posted by kira at 2009年10月11日 19:02
kiraさん、こんばんは。
そうですね、微笑むこともありましたが、確かに衝撃は受けましたから・・・。私の感想は何処までこの世界に近付けているか全く分かりませんが、私なりの思いを感じていただけたなら嬉しいです。

天国はゴールではないような気がします。
それは良い意味でというより、(私の場合は)ちょっとネガティブな考えによるような気がしますが・・・。
私こそまだまだ、ずーっと赤点です。(ToT)
Posted by ぺろんぱ at 2009年10月11日 20:53
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