本会の御招待に関しまして、I氏ならびにJazz Bar W.W.の京ママに深く感謝いたします。ありがとうございました。
会場受付でパンフレットを手渡されると期待は一気に大きく膨らみ、開演までの時間は My heart was pounding !!

story
モロッコを旅行中のアメリカ人夫婦のリチャード(ブラッド・ピット)とスーザン(ケイト・ブランシェット)が、突然何者かによって銃撃を受け、妻が負傷するという事件が起こる。同じころ、東京に住む聴覚に障害を持った女子高生のチエコ(菊地凛子)は、満たされない日々にいら立ちを感じながら、孤独な日々を過ごしていた……。 (シネマトゥデイより)
この映画について語りつくそうと思えば、多分かなりの時間を要すると思います。
それほどまでに沢山の問題が詰まっています。
夫婦、親子のすれ違う心、人種差別、貧富の差、他国の文明への不理解、日本での少年少女の荒廃した世界など。
アメリカ、モロッコ、メキシコ、日本での四ヶ国でのストーリーが交錯しているのですが、若干、日本でのストーリーが孤立していた感はあったものの、各国の其々の問題が全て一つの猟銃につながっていくストーリー構成は見応えがあります。
全ての問題提起が決して散漫にならず、「根底にあるものはたった一つ」とする監督の想いが感じられて、観る者を静かに熱くさせてくれます。
「バベル」というタイトルには非常に興味をそそられていて、宗教的且つ哲学的な、もっと高い位置から“人間の原罪”について問う作品かと想像していましたが、その点は違っていて“いい意味で”意外感があったと言えます。
そこには“等身大”の我々人間の営みがあって、その営みの歴史の中で壊れてしまった多くのものを「我々自身で修復させる事ができるんじゃないのか?」という監督の、我々と“同じ高さ”に立ってくれた目線を感じました。
それは「啓蒙」と呼ぶには優しい、“手を差し伸べてくれるような”温もりでした。

その温もりは随所で感じられました。
罪を犯してしまった少年達が登場しやがて神の?裁きを受けるのですが、二人が(まだ罪を犯す前)無垢に風と戯れていた頃のシーンが最後の最後に1カット挿入されるのです。こういう作り方に、私は監督の人間としての厚みと優しさを感じるのです。
そういう優しい眼差しが好きですね、私は。
それから、映画というのは「総合芸術」だとつくづく感じました。
脚本があり、演じる役者さんが居て、カメラワークがあって音楽が重なる・・・。それらを監督が一体化させて? 激しく心を打つエネルギーをスクリーンから放ってくれる・・・。
(良くも悪くも)心をかき乱し、何かに向かって心を強く突き動かされる・・・それがあってこその「映画」ではないでしょうか。
私はそう思います。
本作でも魂の揺さぶられるようなシーンに幾つか出会いました。
モロッコの空をヘリが舞うシーンがあるのですが、状況としてはこれは銃撃されたアメリカ人女性を救出するヘリで、乾いたモロッコの地に砂塵を撒き散らし飛ぶ無骨な形状のヘリの映像が、しかしながら「とんでもなく美しいシーン」として私の心に強烈に残ったのです。
カメラワークと音楽、監督の想い、それらが一つになって一気に高まり、力強いメッセージとなってこちら側に届いたのだと思います。

メキシコ人の乳母の女性・アメリア(アドリアナ・バラッザ)が赤いストールを手に砂漠のような地を幼い子らの為に助けを求めて彷徨うシーンも強烈でした。
肉体も精神も極限状態のなかで、ただ子ども達の為に救いを求めたいと思う気持ちしかそこには無かったと思え、熱い涙が込み上げてくるのを抑えられなかったです。
彼女の演技は見事でした。菊池凛子ちゃんと共に助演女優賞にノミネートされているそうですがどうなるんでしょうね・・・。私としてはアドリアナ・バラッザの方が有力かな、と思えたのですが・・・。
しかしながら、その菊池凛子演じるチエコという女子高生が、若き刑事の腕の中で全身から悲しみと孤独を搾り出すように嗚咽するシーン・・・あれも強く心に残っています。
ただ、イタ過ぎて・・・理解を超えた、全身が刃物であるかのようなチエコの言動に、感情移入が仕切れなかったのは確かです。私が彼女の苦悩を受け止められなかったということかな・・・。
この作品は昨年公開の『クラッシュ』を思い起こさせます。
あれも地球上のあらゆる問題を描き、最後に一気に昇華させてある種のカタルシスを感じさせてくれた映画でした。(このラストの点は本作とは違いますね。本作では、カタルシスとはいかないものの、もっと、こう・・・・静かな「救い」の光みたいなものを感じさせてくれたというか・・・。)

ブラッド・ピット
それからリチャードとスーザンのアメリカ人夫婦。
問題を引きずって解決の糸口を見出すべくモロッコにやってきますが、ベルナルト・ベルトルッチ監督のあの大作『シェルタリング・スカイ』でも、愛を見失った夫婦が何かを求めて旅してきたのが北アフリカでした。
「不毛」を感じた時、人間はアフリカへ旅立つのでしょうか。
多分、ああいう地には人間の生活の原点みたいなものがあるのでしょうね。原点に返れば、人は、そして愛をなくした夫婦は、何かを見出せると思うのかもしれませんね。
悲しいのは、「救われない」こともあったこと。
メキシコ人の乳母・アメリア・・・彼女が最も哀れであり、彼女の「真面目に生きようとした」生き方とあたたかな母性に、誰かが報いて欲しかったです。監督の思いはどうだったのかな・・・彼女は決して救われてはいないと思うのだけれど・・・。
それからもう一つ。
ラストの方で、父親・ヤスジロー(役所広司)とチエコのバルコニーでのシーン。
父親なら娘を抱きしめる前に先ず娘の裸体を隠して守ってあげて欲しかった・・・そのことが妙に違和感を伴って残ってしまったのは残念です。

監督が「根底にあるたった一つのこと」と言っているのは、それはやはり「人間愛」だと思います。
この「愛」という言葉は、それを享受しきれず渇望して止まない状況にある者たちにとっては、やはり崇高な響きを持つ言葉だと私は思うのです。
なんだかんだと言いましたがやはり、お金を払って観るに十分値する作品です。素晴らしい作品をありがとうございました。
さてさて、トーンを変えて、ちょっと映画で感じたお酒話を・・・

チエコの苦悩を全身で受け止めてしまった若き刑事のケンジ(二階堂智)。
彼がチエコの心の闇を思って荒ぶ心でお酒を飲むんですが、舞台はとある大衆居酒屋のカウンター、独り酒、日本酒の冷やをコップでぐいぐいと飲むのです。
やっぱり日本人が荒んだ心を抱えて飲むのは日本酒!ですよね。それも一升瓶からのコップ酒・・・絵的に言って、これに限ります!
ビールでは荒んだ心と対峙する前にお腹たっぽんたっぽんになってしまいそう。
ワインやシャンパンでは華々しくて、荒んだ心もどこかへ吹っ飛んでしまいそう。
ウィスキーのロックなら余りにハードボイルドチックで、荒んだ心を抱えてるその自分自身に酔ってしまいそう。
私は実は試写会当日を含めた数日間、禁酒しておりましたが、このシーンで実は「飲みたーい」と心中で叫んでおりました。
その居酒屋独り酒のシーンもいいシーンだったんですけどね・・・あの刑事の肩に乗っかってしまった苦悩は、一体誰が救ってあげるのでしょうか。
ん・・・でも、考え方を少し変えると、あれはチエコの苦悩を彼が共有してくれているということ。誰かが誰かの痛みを分かとうとしてくれている、そのこと自体がこの世の中で“救い”となるのだ、と、そういうことかも知れませんね。
さて・・・そんなこんなを考えつつ、私の禁酒(ラマダン)は明けましたので今日もこれから飲みたいと思います。
菊正宗酒造の酒蔵開きに行って参ります。ピース!

....なんか最近ペロンパさんのブログにくることが多くなりました。私の興味を引く映画をいつも割きにご覧になられているようで....羨ましいです。
この映画ではアドリアナ・バラッザという女優さんの印象がとても強かったです。世界にはまだまだ、本当に私が知らないだけで素晴らしい俳優さんがたくさんいらっしゃるのですね。
こちらこそ、west32さんのブログにお邪魔して勉強?させて頂いています。
その女将さんが銭湯を閉店後ほっと一息つくときのドリンクが一升瓶から告ぐコップ酒でした。
わが家にはない習慣ですがなんとなく「そーかなぁー」と理解しておりました。
さて、私の書き方が悪かったのですが、
刑事が飲んでいたのはコップ酒の冷やで、一升瓶から注いでいたのはカウンターに立つお店の人でした。自分で注いで飲んでいたわけではありません。スミマセン。
でも、4合瓶から冷酒を注いで飲むのは何か粋な感じもするのに、それが一升瓶となるといきなりぐぅっと“荒んだ”感じに写るのは何とも不思議ですね。(^^)
「時間ですよ〜」・・・余りちゃんとは観ていなかったけれど、随分懐かしいですね。
今日、ようやっと『バベル』を鑑賞して来ました☆
またお時間があれば、拙ブログへ・・(=^_^=)
観に行かれたのですね。
今から貴ブログへ飛びます!
「ロッキー」へのコメントありがとうございました。
いつもながら、感想を拝読して尊敬の唸りがもれてしまいました。
TBを貼らせてもらうこと自体、無謀な行為かもしれません(笑)
話題性が先走りした「バベル」でしたが、
本当に沢山の問題とメッセージが詰まっていましたね。
4つのどのエピソードも深い余韻が残りました。
単純な私には理解出来ない部分も多々で、
まだまだ修行が足りないanyでございます。そして又々、
ぺろんぱさんなら絶対観ないような映画を観てきました(^^ゞ
いまからじっくり読ませて頂きに参ります。
「バベル」は沢山の人が観た今だからこそ色んな意見が出てきて難しいのかもしれませんが、正直な感想が一番の(監督氏もそれを望んでの)作品ではないでしょうか。
息子の結婚式での昔の彼との熱い再会、砂漠での子供たちを助けるための彷徨い。
モロッコのストーリも悲しいが、メキシコのストーリーは余りにも悲しかった。
あの子供たちは本当に助かったのか?疑問が残ります。
そうですね、多くの疑問や心のしこりも残る、それだけ重い作品でしたね。
性善説を信じたあのメイドが報われないと言うのが何ともやるせないです。
どんな状況にあったにせよ、幼い子ども二人を置いて長期の旅に出ておきながら事件の後でただメイドを憎むアメリカ人夫婦にも傲慢さを感じるという意見もどこかで耳にし、なるほどなと思った次第です。