2007年03月01日

パフューム ある人殺しの物語

 
 あさって3日(土)に封切られる『パフューム ある人殺しの物語』(パトリック・ジュースキント原作、トム・ティクバ監督)を、一足早く2月27日にKTV試写会(於:リサイタルホール)で鑑賞して参りました。
 
現実とも非現実とも区別のつかない不思議な世界に酔いました。
この作品に興味を持たれている方は是非[スクリーン]で御覧下さい。
ラスト近くに約750人ものエキストラ動員で撮られたと言いう衝撃的シーンがあるのですが、このシーンはスクリーンで観てこそのものだと思いましたから。
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               戴いた試写会招待状

作品解説
 世界45か国で発売され、1500万部の売上げを記録したパトリック・ジュースキントのベストセラー小説を映画化。
美しい女性の香りを手に入れるため、恐怖の連続殺人鬼と化していく男の物語を描く。驚異的な嗅覚を持ち、一切の体臭を持たない主人公を演じるのは『ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男』のベン・ウィショー。監督は『ラン・ローラ・ラン』のトム・ティクバ。

story
18世紀のパリ、悪臭のたちこめる魚市場で産み落とされたジャン=バティスト・グルヌイユ(ベン・ウィショー)
驚異的な嗅覚を持つがゆえに、奇怪な青年として周囲に疎まれている彼は、ある晩、芳しい香りの少女に夢中になり、誤って殺してしまう。
その後、彼はその少女の香りを求めて調香師になり、香水作りに没頭するが…。 (シネマトゥデイより)


 
 神は、その類稀なる「驚異的嗅覚」という特質を何故ジャン=バティスト・グルヌイユに与えたのか・・・余りに悲劇的な誕生を受けた彼故に、神がそれを彼に与えたのではなかろうか・・・・そう思わせるほど、ジャン=バティストの誕生の瞬間は悲劇的です。(この映画の中で唯一悲しくて泣き出してしまいたくなったシーンがこの冒頭の誕生シーンでした。)

この物語の連続殺人という悲劇は、彼に与えられた「才能」と愛を知らずに育った彼の「生」が絡まって生み出されてしまったものだと思います。女性の放つ香を「保存する」という行為は、他ならぬ、得られなかった母の愛とスキンシップの欠如が生んだ、変形した彼の「愛の求め方」だったのではないかと・・・。
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 あれだけの殺人を犯したジャン=バティストを、決して憎むべき対象として描いてはいません。むしろ神の使いであるかのごとき描かれ方がなされています。
それは、ジャン=バティストを何らかの形でおとしめたり、彼に惨い仕打ちを与えたりした者達が皆、彼が去った後に必ず「死」を迎えていることでも頷けます。これがジャン=バティストに与えた仕打ちの“報い”でなくて何なのででしょうか

最後の犠牲者となる美しい少女(レイチェル・ハード=ウッド)に至っては自ら望んで身を捧げたとも受け取れ、さらに映画の最終章で彼は、生れ落ちた町を訪れ、そこに生きる人々に“生まれて初めて”“自らの欲求に従った”行為をさせた上で自らの命を閉じているのです。

彼が一般の人間と隔絶した、清らかで気高い存在であると感じてくるのです
そして、神の使者として描きたかったのなら、あの大規模エキストラによる恍惚のシーンも納得がいくというものでしょう。
サスペンスと言うより、私にとってはどこか宗教めいた啓蒙の匂いを感じる映画でしたね。

勿論、殺人は悪いし(猫の死も非常に辛い)、確かにシーンはある種の「グロさ」を含んだものもあります。
しかし、その狂気と崇高さが表裏一体となるシュールな世界を、舞台となる18世紀ヨーロッパのゴシックな雰囲気が高めてくれていました。
原作は「最大級のヒットを記録した」とありましたが、小説の内容とはどうなのでしょうね、忠実に再現されているのか、それとも監督独自の解釈が込められてのこの映画なのか・・・興味深いところです。
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 主演のベン・ウィショーは、常軌と狂気の狭間をたゆたう表情が凄く印象的で存在感がありました。
パンレットに記されていましたが、共演のダスティン・ホフマンをして「十万人に一人の才能」とまで言わしめた新鋭俳優、とのことです。
私は今作で初めて知った俳優さんですが、これからは要注目です。


 香を映像で表現するのは至難の業なのでしょうね。
この映画でも様々なモノ達のアップや微妙な動きの映像で、そのモノの持つ香を表現しているようでした。
しかし、「香」とうより、ジャン=バティストが封じ込めたかったのは実は「フェロモン」ではないかと私は思いました。
香水は付ける人によって微妙に香が変わると聞きます。
それは付ける人の体温や体臭、そして発するフェロモンに深く関係しているのではないかと思うのです。
フェロモンは「無臭」なのではないでしょうか。

この映画では、妖しくも美しいBGMの調べに乗せて少女達の肌や唇や髪から漂ってきたのは、むしろ「香」というより彼女達の「フェロモン」だったように私は感じたのですが・・・。
ジャン=バティストは、(図らずも)最初の犠牲者となった女性に、母と、そして恋する対象としての女性の両方のフェロモンを追い求めたのではないかと思うのです。
そう・・・だからこれは、とても悲しい、「人間の愛」をテーマにした映画として私の心に残ったのです。


 以前の『バベル』試写会の時もそうでしたが、今回も図らずも私はラマダン期(私にとっての禁酒期)でした。
映画ではアルコールを飲むシーンは余りなかったものの、試写会場に向かう途中、仕事帰りのサラリーマン氏二人が「今日はトリで一杯行こうか。」って言いながら私の横を通り過ぎて行きました。
耳耳に毒・・・でも我慢、でした。

ラマダンが明けたら、友人N子がお土産にくれた美味しいシングルモルトのスコッチがあるのでそれについて記してみたいと思っています。香はいいけど、お酒に酔うのはもう少しだけ先延ばし。
  

posted by ぺろんぱ at 20:39| Comment(4) | TrackBack(5) | 日記
この記事へのコメント
こんばんわ☆
コメントありがとうございました♪
衝撃的な作品でしたね。
最初から最後まで眉間や体に力入りっぱなしで物語にのめり込んでしまいました(^−^)
Posted by りんたろう at 2007年03月05日 21:20
こちらこそコメントのお返し、ありがとうございます♪
何かの雑誌で今作を「匂いフェチ」の映画みたいな書かれ方をされていてちょっと悲しくなりました。まあ確かに究極のフェティシズムなのかも知れませんが・・・。
ベン・ウィショーは今後を追っかけて行きたいですね。
Posted by ぺろんぱ at 2007年03月06日 23:08
こんばんは!
はじめてお邪魔しました。
来週観に出かける予定の作品です。
「パフューム」20年近く前に原作読みました。
ただ、覚えているのは最初と真ん中と終わりだけ(^^;
ショックが大きかった事だけはしっかり印象に残っているのですが・・・。
ぺろんぱさんの解説を読んで益々観たくなりました〜
また映画の感想も書きに来ますね!

Posted by かーしー at 2007年03月17日 01:57
かーしーさん、はじめまして。
コメントありがとうございます。
20年も前に読まれたものをそれだけしっかりした印象を伴って覚えていらっしゃるなんて凄いことですよ!!
原作を読まれているお方の映画の感想を楽しみにしていますね。これからも宜しくお願いいたします。
Posted by ぺろんぱ at 2007年03月17日 11:06
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Excerpt: ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男
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Tracked: 2007-03-02 05:21

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パフューム 映画
Excerpt: パフューム (映画)。。。 あのスピルバーグが映画化を熱望した全世界1200万部以上の 大ベストセラーが遂に完全映画化だそうです。。
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映画「パフューム ある人殺しの物語」
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