2007年04月29日

ツォツィ

 昨日からG.Wです。

ウチの会社は暦通りですが、それでも何だかちょっとワクッ(ワクワクまではいかないけれど)とくる感じですね。
初日の昨日28日はシネリーブル神戸に『ツォツィー』(ギャビン・フッド監督)を観に行きました。

始まって暫くの間、暴力や犯罪シーンに理解しがたい思いと共に気が滅入り観に来た事を後悔すらしましたが、観終わってみると、これは私の今年の「My Best12」に入ると確信できる映画となりました。

story
アパルトヘイト後も続く南アフリカの過酷な現状と、未来への希望を見つめ、第78回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した作品。
南アフリカ、ヨハネスブルクのスラム街に暮らすツォツィ(プレスリー・チュウェンヤガエー)は、仲間とつるんで窃盗やカージャックを繰り返していた。ある日、高級住宅街にやってきた彼は車を運転していた女性を撃って逃走。やがて、強奪した車の後部座席に生後間もない赤ん坊がいることに気づいたツォツィは、赤ん坊を紙袋に入れて自分の部屋に連れ帰るが……。 (シネマトゥデイより)

*ツォツィ=[不良]の意
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本当に腐ってしまった果物は元に戻らないですよね。 
軽々と犯罪をやってのけるツォツィに、これだけの人間がそう容易く変われるものではないと否定的な思いを抱き、犬に危害を加えたというツォツィの述懐を聞くにに至っては、それこそ「許せない思い」に満ちて吐き気もするほどでした。

けれど、数多くを語らぬツォツィ・・・やがて、冒頭のシーンが自らの幼少期のそれと重なるものであり、彼の本当に愛したもの達が彼の意図に反してことごとく損なわれていった過去を目にしてするにつれ、「彼は、今ならもしかしたら再生できるのかもしれない」という希望を抱く自分がいました。(犬を痛めつけたのも彼ではなかったことがやがては分かります)

彼が幼少期のみであれ、何らかの愛情を受けていたという事実、これが大きいと思いました。
もしこれがなかったら彼の再生はなかったと思うのです。
そして彼が愛したもの、そして愛情を得ていたもの、エイズ(アフリカではこの問題が大きいですね)で床に臥す母親と唯一の友であるかのような彼の愛犬・・・それらを傷付け奪ったものが実の父親であった時、彼はその父親と、彼等を取り巻く貧困と病と、国と、人々、全てを憎むようになっていったということ・・・そしてこれが彼を犯罪の道に向かわせたということに、犯罪を生むものが貧しさと憎しみであると感じ、心が痛まずにはいられませんでした。
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およそ「愛」というもの・・・・この偉大さ、恐ろしさ・・・。
文字にすると陳腐にとられてしまうかも知れませんが、この「愛」によって、人は簡単に犯罪者にもなり得、また、復活の道を歩み始める事も出来るのですね。

赤ん坊の世話を強いた女性に赤ちゃんを返すよう諭され、「こいつ(赤ん坊)を返したら、また逢いに来ていいか」と尋ねるツォツィに、“やっぱり愛なんや”と心の中で独りごちてしまった私です。

過去の一瞬でも、彼は愛されたことがあった・・・・だから劇中で語られる、人間としての「品位」を最後の最後で取り戻すこともできたのでしょう。
品位とは(人間として生まれてきた)自分への敬意だと、映画は語っています。
だけど、最後がどうあれそれまでに犯したツォツィの罪は大きい。
彼の言うところ「クソ野郎!」であったとしても、仲間の一人を殺してしまったことは事実だし、何の罪もない女性から子どもを奪い、女性を半身不随にしてしまったのも事実です。悪行は彼が死をもって償わねばならない程のものです。
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けれどできることなら、最後に彼が止め処なく流したあの涙を、いつか誰かが拭ってあげて欲しいです。
そして罪を償ったあと、(許されるなら)彼が愛した女性のもとにツォツィを逢いに行かせてあげて欲しい・・・そう強く願わずにはいられませんでした。

南アフリカが舞台ですが、「世界一の格差社会」と呼ばれている背景やエイズ問題などについては(恐らく観る側の判断に委ねて)余り説明は加えられていません。
アフリカの現状にメスを入れた社会派ドラマというよりは、もっと“普遍的な、人間愛のメッセージ”を感じた作品でした。よかったです。
                  
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 南アフリカはその乾いて温暖な土壌がワイン造りに適しているらしく、近年美味しいワインの産地として名を馳せているそうです。
けれど、一部の富裕層を除き、もっぱら土地の貧しい若もの達が飲むのは、発泡性の少ないビールか明らかに粗悪なウィスキーのようなものばかりです。食事と共に芳醇なワインを味わうという環境が、彼らには無いからでしょう

 芳醇なワインじゃないけれど、私はつい先日に芳醇なバーボンとの出会いがあったので記します。
エンシェントエイジ蒸留所が世に送り出した<エルマー・T・リー>です。
これは一月程振りに例によってふらりと訪ねたキタ新地Jazz Bar Wishy-Wsashyさんにて。前回<コック・オブ・ザ・ウォーク>と出会って
以来のバーボン。辛口で、リッチな香ながら後味すっきりのスタイリッシュなバーボンでした。

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ママさんの手作り、「ハート型のキャセロール」に焼かれた美味しいケーキも戴きました。
これはたっぷりのメープルシロップで丁寧に煮込まれた林檎とレーズンが甘さを控えた優しい風味のケーキ生地に包まれている、洋酒のサイドディッシュとして好適の一品でした。

結構淋しい人生??を送ってる身にはこのハート型のケーキを独りでつつくには辛いものがあるかとも思いましたが、ママさんの「ウチは他のお料理でもよくこの容器は使っていますよ!」という(Dont mind!の励ましのこもった)お言葉を受けつつ、しっかり平らげてしまいました。大変美味しかったです。
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このあと更に<メイカーズマーク>のロックで。
やや甘味のあるしっかりテイストのバーボンですよね、久々に飲んでみました。


 ツォツィは初めからツォツィじゃなかった・・・ちゃんと名前があったのです。
ちゃんとした人生を歩めたはずの、両親から命名された「デイヴィッド」という名前が。

posted by ぺろんぱ at 21:23| Comment(12) | TrackBack(3) | 日記
この記事へのコメント
今晩はです。

これも未見ですが、マイナー映画『シティ・オヴ・ゴッド』と似たような印象を受けますね。

ワクッとした充実のGWを過ごされているそうで、安心しました。

※ところで、ベスト10じゃなくて12やねんね・・?
Posted by TiM3 at 2007年04月30日 23:01
こんにちはー。
私も観る前は、『シティ・オブ・ゴッド』のようなものをイメージしていたんですが、実は、ストレートに心に響く人間ドラマでありました。人間愛の物語でしたね。
赤ちゃんの名前をデイヴィッドというところも印象的でした。
バーボンなんて大人ですねー
Posted by かえる at 2007年05月01日 13:52
ぺろんぱさんの映画のお話を読むと、ほーんとに観にいきたくなりますねー。(どんな宣伝よりスゴいと思います)
ワクっとするGWはまだ他にも観られますか?
それからメイカーズマーク。私もヒサビサに飲みたくなりました!
Posted by oblio at 2007年05月01日 16:53
TiM3さん、こんばんは。
いざ始まってみるとワクッとするというより、雑事に追われて「ワッ」くらいなもんです。^^; 
BEST12というのは一応一月に一本選ぶとしたら、の割合で。でも絶対12本には絞れないのですが・・・。だったら最初は「BEST10」ってサラッと言えよ!と言われそうですが…スミマセン。
Posted by ぺろんぱ at 2007年05月01日 21:55
かえるさん、コメントありがとうございます!
TiM3さんと同様、『シティ・オブ・ゴッド』をイメージされた由・・・・私は観ていないので早速要チェックです。

私は“立派な大人”じゃないですが、バーボンは美味しいいですよ。(^_^)
Posted by ぺろんぱ at 2007年05月01日 22:03
oblioさん、こんばんは。
以前はGWに3本目標だったのですが、雑事に追われてと無理かもしれません。あと1本だけは決めました。
バーボンは結構新しい銘柄が出てるみたいですが、メイカーズマークはたまに飲みたくなる“まろやかさ”のあるバーボンですね。
Posted by ぺろんぱ at 2007年05月01日 22:08
こんばんは。
個人的な意見としては、「犯した罪は、やはり罪」、罰せられなければ許されるものではないと思います。その罰が他からのものであるか、自らのものであるかは別として。
父親など、家族からの愛を受ける事が少なかったからツォツィになる・・・同じ状況の子ども達は全てツォツィになるのでしょうか。
キリスト教の説く最大のもの(と私は思っていますが)である「愛」の重要性がテーマなんでしょうね。どのような人であっても「愛」を与えればそれに応えることができると。
少年と赤ちゃんの名前がDavid(ユダヤの王ダビデ)というのも伏線なのでしょうか。
「目には目を・・・」というのも彼らの教義だと思いますが。

支離滅裂な文章になってしまいました。お許し下さい。

機会があれば観てみたいと思います。
Posted by ちろり at 2007年05月03日 01:36
 28日に1970年のイタリア映画「ひまわり」を。ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニそれに音楽はヘンリー・マンシーニでした。
 私にはタイタニック以来、実に久しぶりの映画でした。そして最初と最後のあのスクリーンいっぱいのひまわり畑のシーンがいまだに気になっています。
 古い映画の話を勝手にしてすみません。
Posted by 佗助 at 2007年05月03日 17:25
ちろりさん、こんにちは。

>父親など、家族からの愛を受ける事が少なかったからツォツィになる・・・ 同じ状況の子ども達は全てツォツィに なるのでしょうか。

そうですね、でもそこに“とてつもない貧困や死に瀕する病の蔓延”が重なると、自分の人生を呪ってしまうようになるもかもしれないと思います。

Davidという名前の件、なるほどですね。
ありがとうございます。
Posted by ぺろんぱ at 2007年05月03日 18:31
侘助さん、こんにちは。
『ひまわり』は何処かの映画館でのリバイバル上映だったのですか??
この映画はとても哀しいですね、決して戦争だけのせいではなかった二人の心の温度差が・・・。
イタリアと言えば、明日はイタリア人出演の映画を観に行く予定です。
Posted by ぺろんぱ at 2007年05月03日 18:39
ぺろんぱさん、こんにちは♪
コメントを頂き、ありがとうございました!

旭川では三ヶ月遅れの公開となり、ようやく観る事ができました。
これは、本当に心に響く作品でしたね〜
まさか、帰り道の車中でも泣けてくるとは...
幼少期、彼なりに母の愛を感じていた。
私も これがなければ、又違っていたと思うんです。
罪を悔いる(償う)ことで、人としての再生の道を... そう祈るばかりです。
あぁぁ〜 あの涙を誰か拭ってあげて!!(T-T)

≪予告≫次回は、「キサラギ」にお邪魔します!


Posted by any at 2007年07月27日 09:43
anyさん、こちらにもコメントありがとうございます!

「旭川」という文字を見て改めてネットで繋がったご縁を感じてしみじみ嬉しくなりました(*^_^*)。
次回の<キサラギ>、楽しみにしています!
Posted by ぺろんぱ at 2007年07月28日 10:24
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『ツォツィ』... ※ネタバレ有
Excerpt: 2005年:イギリス+南アフリカ合作映画、監督&脚本:ギャヴィン・フッド、2006年アカデミー賞外国語映画賞受賞作。
Weblog: 〜青いそよ風が吹く街角〜
Tracked: 2007-04-30 12:43

ツォツィ
Excerpt:  予想を上回る感動作でした。  筋金入の不良(ツォツィ)だった主人公が、ふとしたことから乳児を誘拐してしまい、それをきっかけに人間愛に目覚めていく話です。  ストーリーに対する感動もさることながら、非..
Weblog: シネクリシェ
Tracked: 2007-06-11 03:03

【ツォツィ】
Excerpt: 【英題:TSOTSI】 監督/脚本 ≪ ギャヴィン・フッド 原作    ≪ アソル・フガード 製作年度 ≪ 2005年 日本公開 ≪ 2007年4月14日 上映時間 ≪ 1時間35分 製..
Weblog: +++ Candy Cinema +++
Tracked: 2007-07-27 09:48