2010年07月18日

あの夏の子供たち

 梅雨が明けて夏本番。
この時期の三連休は真っ青な空に浮かぶ夏雲を眺めるワクワク感を伴って嬉しいですね。

今日は三ノ宮へ。
大阪では梅田ガーデンシネマで7月2日で終了してしまっていた『あの夏の子供たち』(ミア・ハンセン=ラヴ監督)。
スルーしてしまったものの気になっていて、この10日からシネリーブル神戸で公開となっていたのを知り、行って参りました。

同じ“夏”でも、この映画の中には“柔らかい陽の光に包まれた夏”がありました。

story
  映画プロデューサーとして精力的に働き、家に帰れば妻と3人の娘たちをこよなく愛する父グレゴワール・カンヴェル(ルイ=ド・ドゥ・ランクサン)。魅力にあふれ周囲の信頼も厚い彼だったが、不況の波が押し寄せ資金繰りが悪化していく中、自ら命を絶ってしまう。突然の死にぼう然とする母娘に残されたのは、多額の借金と未完成の映画だった…。 (※story、写真とも映画情報サイトより転載させて頂きました。)

                 あの夏.jpg

 リーブル神戸さん、ありがとう。
こういう映画に出会えて、また一つ「小確幸(春樹語)」を感じることができました。

夫・父親の自殺という重い出来事を、妻・娘の彼女たちは其々の形で受け止めていきます。
苦悩と憔悴、絶望感のみを前面に打ち出す描き方が為されていれば全く違った物語となっていたでしょう。本作には、そこのところを超えたところ、涙のあとにやってくる明日という現実に向き合う彼女たち其々の向きあい方が描かれていたと思います。
苦い涙がたくさん流されながらも、最後は「ケ・セラ・セラ」と歌うほどの「真の強さと優しさ」を感じる作品でした。

特に、父親の死後、長女の中での葛藤と自己決着のつけかたは、痛々しさと瑞々しさが同居した、語彙の乏しい私には適切な表現が思いつかないほどに静かに心を震わせるものでした。

                 あの夏1.jpg

ふと、村上春樹が小説の中で綴っていた言葉が思い起こされました。
「どのような誠実さも、どのような強さも優しさも、愛するものを亡くした哀しみを癒すことはできない」という言葉。
結局は、その当事者が「哀しみを哀しみ抜いてそこから何かを学び取るしかないのだ」ということ。
本作に於いても、グレゴワールの死後に彼女たちを救う何か劇的な出来事が起こるわけでもなく、悲劇は悲劇であり、苦難は苦難でしかないのです。けれどそんな中で、彼女たちはいつしか明日を迎える強さを持っていくのでした。それらの姿を追う目線に、私は静かに心打たれました。


停電のシーンは不思議な余韻を引きます。
クラシック・ギターの音色も優しく心を包んでくれます。
グレゴワールが真摯に映画に向き合う映画人であったことで観る者も彼の死の哀しみを共有でき、本作をより深いものにしていたと感じました。
佳き映画でした。

                 ハーフハーフ.jpg

 時折飲みたくなるBeer<ハーフ&ハーフ>。

この映画の「夏」のような、柔らかい陽の光に包まれた中で美味しいビールをいただきたいものです。ぴかぴか(新しい)
posted by ぺろんぱ at 20:56| Comment(10) | TrackBack(3) | 日記
この記事へのコメント
この作品、『闇の列車〜』を鑑賞していた劇場でも公開されてます。

梅雨明けで、いろんな楽しみに期待をするイメージと
家族の再出発がダブって見えそうな感じですね。

にしても400万ユーロの借金って・・・
メガヒットしないかぎり返済だけで終わってしまいますよね(おい!)
キャメロン監督ならポケットマネーなんでしょうか〜^^;
Posted by ituka at 2010年07月18日 22:26
粗筋をぱらっと拝読し、何故だか『萠の朱雀』を
連想してしまったワタシどす(・ω・)?

ときに、
最近になって、iTunes Storeと言うアップル系のショップで、
「ショートショートフィルムフェスティバル」の参加作品群が観れる(むろん有料ですけど)ことを知り、買ってみようかな〜
と思ったりしてます。

小品にも眼を向け、その素晴らしさを感じ、認めぬ限り、
何だか自身の「天井」もまた打ち崩せぬような気がして来ました・・(=^_^=) ←大げさな
Posted by TiM3 at 2010年07月18日 23:26
そうですかー“小確幸”感じましたか!
リーブル神戸さんでは時々こうやって時間差で上映してくれはるんで、いいですよね。

父親の“死”という題材を扱いながらも、あえて淡々と描くところが
フランス映画らしいというか、好きです。
家族のそれぞれの心模様が繊細なタッチで描かれて、
セリフでの説明に頼っていないところが素晴らしいと思いますし、
なにか澄んだ空気のようなものが伝わってくる映像にも心惹かれました。

「うずまき猫〜」読み返そうかなぁ。
Posted by ゆるり at 2010年07月19日 14:42
ぺろんぱさん、こんばんは。
夏ですねー。ビールの季節ですねー。

あら、大阪ではもう上映が終わってしまったのですね。
思うにこういう淡いタッチの映画って平均的な大阪人?の好みじゃないのかもしれませんね。
ぺろんぱさんには気に入ってもらえて嬉しいです。
大阪で終わっても、神戸で観られるというのがナイスです。
大黒柱の父の死を湿っぽくすることなく、やわらかな光に包み込んだまま描ききった若き女性監督の才能に感嘆しました。
泣き暮れるばかりの家族よりいかにリアルか。
そしてケセラセラー。

遅ればせながら、ただ今BOOK3読書中でっす。
Posted by かえる at 2010年07月19日 23:16
itukaさん、こんばんは。

>いろんな楽しみに
>家族の再出発が

残された彼女たちに光ある未来が訪れるといいと願います。
「これからどうなるの?」と涙ながらに尋ねた幼き次女に対して、亡き夫の友人が語った言葉は優しくて素敵なものでした。

>400万ユーロの借金

私も思わず頭の中で日本円に換算して“驚愕”してしまいました。
宝くじに当たっても足りない・・・!?
ハリウッドにはポケマネの人、何人もいそうですね〜。^^;
Posted by ぺろんぱ at 2010年07月20日 19:46
TiM3さん、こんばんは。

萌の朱雀、残された人達の“明日への向かい方”には似通うものもあったかと今思っています。

>ショートショートフィルムフェスティバル

凝縮された世界って凄く表現が(表現の受け止められ方が)難しくなると思うのですよね。
その表現に素晴らしさを感じることができれば、それは凄いことのような気がします。

TiM3さんの天井は無限の彼方の気がします。(^^)
Posted by ぺろんぱ at 2010年07月20日 19:52
ゆるりさん、こんばんは。
リーブルさんの梅田と神戸って、微妙にラインナップが違いますよね。面白いです。で、仰る通り、作品の時差上映はありがたいです。(*^_^*)

ゆるりさんの「澄んだ空気のようなものが・・・」っていうところ、感覚的に凄く共感できました。良質の映画を観ることができたという思いです。

>「うずまき猫〜」

写真も素敵な一冊でしたね〜。
春樹さんの本は小説でも紀行文でもエッセイでも、読み返すのは幸せな時間です。是非に。(*^_^*)
Posted by ぺろんぱ at 2010年07月20日 20:24
かえるさん、こんばんは。

夏!ビール!(ついでに冷酒^^;)は正しき夏の味わい方ですね!
この京阪神界隈ではミニシアターでは大抵「2週間+α」を目処に作品が入れ替わってしまいます(涙)。おまけに2週目からはタイムテーブルも結構タイトになっちゃうのです。あきまへん、です、本当に。(>_<)

私はこの監督さんを知らなくて、“若き女性監督”というところで、その才に驚くと共に、感じた瑞々しさはそういうところからきたのかしらと思っている今です。
ケセラセラ、ちゃんと音源を入手してきちんと聴いてみたくなっています。(*^_^*)

>BOOK3

どうやら「4」で完結のようですね。
そういえば12月には『ノルウェー・・・』も公開ですね。永遠に来て欲しくないような、でも絶対観に行かずにはおれないような・・・。

あれこれ思うことばかりですが、取り敢えずビール飲みます!!!(*^_^*)
Posted by ぺろんぱ at 2010年07月20日 20:42
フランス映画はいいですね。
《シネマで乾杯》ブックマークさせていただきました。
まったく「遅きに失す」ですが、宜しくおねがいします。
Art-Millの1はコメントは閉鎖中で、2のみ開いています。
Posted by 長右衛門 at 2010年08月01日 09:53
長右衛門さん、再びこんばんは。
こちらにもお越しくださり、嬉しいです。

私の方もArt-Mill 2 をお気に入りリンクに加えさせていただきました。こちらこそ、これからもどうぞ宜しくお願い致します。

確か長右衛門さんも本作をご覧になっていらしたのですよね?? 後ほどお伺いしたく存じます。(^^)
Posted by ぺろんぱ at 2010年08月01日 21:57
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Tracked: 2010-07-30 07:49

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