2010年08月28日

瞳の奥の秘密

 『瞳の奥の秘密』(ファン・ホセ・カンパネラ監督)をシネリーブル梅田で鑑賞して参りました。
奥床しい雰囲気のタイトルだなぁと思っていましたが、作品そのものも奥床しい良質のものでした。

「瞳は雄弁だ、或いは何も語らないか。」(劇中の台詞より)

story
   刑事裁判所を退職したベンハミン(リカルド・ダリン)は、残された時間で25年前に起きた忘れ難い事件をテーマに小説を書くことを決心し、かつての上司で今は判事補のイレーネ(ソレダ・ビジャミル)を訪ねる。それは1974年、銀行員の夫と新婚生活を満喫していた女性が自宅で殺害された事件。当時、渋々担当を引き受けたベンハミンが捜査を始めてまもなく、テラスを修理していた二人の職人が逮捕されるが、それは拷問による嘘の自白によってだった…。 (※story、写真とも映画情報サイトより転載させて頂きました。)

                 瞳の.jpg
  
  静かに愛されてきた古典を名画座の席でそっと鑑賞できたかのような感覚に包まれました。実際にはコレは封切間もない新作で、観たのは満席で立ち見も20人を超える映画館の中だったのですけれど。

序盤のイレーネとの再開のシーンから柔らかく懐かしさを含んだ空気が身体の中に満ちていく感じでした。
甦る「駅での別れのシーン」も、柔らかに感覚をくすぐり、過ぎ去った過去に観る者を誘いゆくのです。

過去と現実のシーンが交錯して進んでゆく本作。再生される過去のシーンは取りも直さずベンハミンが過去を反芻し小説を書き進めていることの表れなのでしょう。
稿を重ね、かつての上司イレーネに意見を乞ううち、イレーネへの封印したはずの想いが徐々に解かれていく様は、激しさとは間逆の静かな愛の強さを感じさせてくれました。

 もう一つ、揺るぎない確かな愛がありました。
件の事件の、被害者の夫リカルド・モラレス(パブロ・ラゴ)の愛。 悲しいながら、その揺るぎない愛こそがモラレスを心の迷宮へ入り込ませてしまったとも言えるのですが。

                 瞳の 1.jpg

情熱は変えられない、とは劇中で語られた言葉です。
そう、人間は根底にあるものを変えることはできない。
「忘れることだ」と語ったモラレスが最も過去を忘れることができなかったように。

強い想いは忘れることはできない。
忘れることで決着がつくものではない。
向きあい、抱え、その想いと共に生きてこそ、心は報われるの。

最後に露わになる「救われない事実」が、しかしベンハミンの心を決めさせ、長い長い迷いと諦めの過去から未来へと踏み込ませることにもなったのですね。「暗澹たる現実」が「希望の見える明日」に繋がったということでしょうか。

結局は愛されてなかったということになる男性の存在を思うと疑問は残りますが、深い井戸の中からふっと掬い上げられたような、そんな感じにさせてくれるラストでした。

  
  ベンハミンのアル中の部下・パブロ(ギレルモ・フランセーヤ)の存在ぴかぴか(新しい)が、イレーネとベンハミンの生真面目な気質、そして凄惨な事件とその成り行きの暗鬱なトーンを“ちょっとお間抜け”的なキャラでもって補完してくれていました。
描かれているベンハミンとパブロの友情は、実はイレーネとの恋愛を超えて私の胸を熱くしてくれました。
そのパブロが言った「情熱は変えられない。オレはここが好きなんだ!」の言葉の「ここ」とはBARのことです。パブロはアル中でしたからね。

                 WWでシメイブルー.jpg

私もBAR、酒場が大好きです。アル中ではないですけれど、プチ依存症ですから、はい。
ひと月振りに訪れたWishy-Washy さんにてベルギービール<シメイ・ブルー>です。(巧く撮れなくて画像が暗くてごめんなさい。)

瞳は雄弁だと思います。ちょっと酔うと更にそうなるのかもしれません。
酔い過ぎると駄目です、何も語りません、何も語れません。


posted by ぺろんぱ at 20:51| Comment(14) | TrackBack(2) | 日記
この記事へのコメント
ちょっとこれはいいんじゃないかなと思ってる作品なんです。ぺろんぱさん、羨ましい。京都ではまだ先なんで、心待ちしています。ぜひ。
Posted by 長右衛門 at 2010年08月28日 22:07
これも良さそうですね。

こちら死国(←あんた、漢字間違ってるし!)では、なかなか上映の叶わない系ですが、機会があれば観たいモノです。

って言うか、週末の帰阪時に観れないこともないのにねぇ(⌒〜⌒ι)

ああ、愚痴っぽくなって来た(=^_^=)
Posted by TiM3 at 2010年08月29日 00:12
やはりもう一本の作品はコレでしたかぁ〜。
久しぶりに予想的中です。

映像的にも、冒頭からソフトファーカスのきいた柔らかな雰囲気で、
時代を遡ってるのを表してるのかなぁなんて思っていました。
それと、ベンハミンが、いい意味で“一昔前の人”的雰囲気があった気がして。
面倒見がよくて人情に厚い、けれど恋愛感情を表現する事はできない。。。。

パブロは愛すべきキャラクターでしたね♪
ところで、ぺろんぱさんはやはり“お酒をのむ場所”もお好きなんですね。
とにかくお酒をのみたい人というのは、BARに行くよりもその分多く呑める家呑みに
最終的にはなるのかなぁ等と想像してみたりするんですが、
“お酒”と共にそれを飲む場所も楽しめるというのはなんとなく人生を楽しんでる
印象がして、ちょっとその感覚が羨ましくもあります。
Posted by ゆるり at 2010年08月29日 16:01
ぺろんぱさんもこちらをご覧になられましたか!!
私もこちらもターゲットにしていたんですが、中々時間が取れず、悶々としています。観たい!観たい!観たい!

> 静かに愛されてきた古典を名画座の席でそっと鑑賞できたかのような感覚
惹かれますね。
なおかつ
> 満席で立ち見も20人を超える映画館
そそられます。

私も
> 情熱は変えられない
と言いたくなります。

観たい!観たい!観たい!
でも限られた時間で、この作品ともう一つをみるのは...難しいですね。
先でDVDレンタルになりそうです。
そのときまで、ぺろんぱさんのこの言葉を心に留めて。
Posted by west32 at 2010年08月29日 21:01
長右衛門さん、こんばんは。

未だ先とのこと、そうなのですか、京都では「京都シネマ」あたりでしょうか。
いい映画をかけて下さる映画館ですよね。

余り混んでいないことを祈っています。
ゆったりとしてご覧になれるよう・・・。(*^_^*)

Posted by ぺろんぱ at 2010年08月29日 22:09
TiM3さん、こんばんは。

>死国

それ、怖いです。^_^;
なんかありましたよね、そんな小説や映画やら。
超苦手な世界なので。^_^;

今度大阪にお帰りになられた際とか如何でしょう?まだ混雑してるかもしれませんが。

ソレイユさんなら叶うのと違いますでしょうか?(*^_^*)
Posted by ぺろんぱ at 2010年08月29日 22:15
ゆるりさん、こんばんは。

ウチ呑みしつつPCに向かっています。(^^)
私はやっぱりソト呑み、結構好きです。ウチ呑みも好きですが、お店で呑むのは相応の付加価値があると思うのです。
小さな旅みたいな感覚もあるのかも知れません。

ベンハミンとパブロの関係が、しみじみとヨカッタですよね。パブロのあの“判断”は並みの関係では出来ないことだったかと。

そう言う意味で、実はイレーネからのベンハミンへの想いの丈が、心を揺さぶるアタック度としては今一つだった気がしています。

ゆるりさんは如何でしたでしょう。(^^)

Posted by ぺろんぱ at 2010年08月29日 22:27
west32さん、こんばんは。

スクリーンでもDVDでも、ご縁が繋がった時にお楽しみ下さいね。(*^_^*)
私的感覚では、観たい!という熱情がちょっと引いた位の時の方が本作ご鑑賞には好機かと存じます。
映画館で観るにしても、本当は閑散とした??シアターの片隅の席でひっそりと観たかったかも、という一人よがりな意を抱いておりましたし。^_^;

west32さんも、いつかひっそりと?登場人物其々の抱える思いを味わってみて下さいね〜。
Posted by ぺろんぱ at 2010年08月29日 22:33
ペロンパさん  こんばんは (^-^)

8月があと少しで終わろうとしています。
日焼けされましたか?
私は・・日傘愛用にもかかわらず、両手真っ黒です(涙)しかし、この夏の暑さは、聖子ちゃんパワーだけでは乗り切ることができず、樹木のパワーにすがりました。毎日、樹木に数分間手を当てて、パワーをいただくんです。友達の知り合いの人に、花や樹木と話せる人がいて、その人の助言がきっかけで、やってみることにしたんです。
けっこういいですよ!

さて、今月もペロンパさんが鑑賞された映画は、どれ一つ私の物と合致せず、コメントすることができませんでした・・残念です。9月に期待したいと思います (^-^)

vivian Good-night

Posted by vivian at 2010年08月30日 00:08
ふむふむ やはり見に行ったんですね〜
この映画 伏線がよくできていますよね
なるほどと思うこと多かったです

しかし ラストはどうでしょうか?
意見の分かれるところかも知れませんね

フランスのフイルム・ノワールより
少し暖かいところが
アルゼンチン映画の魅力かも知れません

確かにベンハミンとパブロには泣けます
パブロが通っているBARが会社の近くにあれば
きっと毎日の様に行くと思います(笑)



Posted by The Lonely One at 2010年08月30日 00:09
vivianさん、こんばんは。“こんがり日焼け”ができるようなところに遊びに行けてないぺろんぱです。(涙)

樹木パワーですか。
なるほど、ネイチャーゲームみたいなのをやってる人が昔知り合いにいましたが、ゲームなんかじゃなくてvivianさんのそのご友人のは「ヒーリング」的な奥の深いものなのでしょうね。
いいですね、「樹木と話す」・・・田口ランディさんの小説をふと思い出してしまいました。

vivianさんのご鑑賞作品と被らずゴメンナサイです。しかし懲りられませずにどうぞまたお越しくださいね。
そして、どんなことでもまたコメントして頂ける機会があることを楽しみにしております(*^_^*)!

Posted by ぺろんぱ at 2010年08月30日 20:14
The Lonely Oneさん、こんばんは。

はい、『ぼくのエリ・・・』鑑賞の後、これは次の楽しみに取っていました。(*^_^*)

本作、別の角度・切り口で(或いはどれか一つだけの視点で)描けば全く違ったトーンの作品にもなり得たでしょうね。例えばモラレスの視点で、だとか。
しかしそれら幾つかの視点・何人かの登場人物の心理を、情緒的な一つの作品にまとめ上げているのは凄いなぁって感じました。

ラストについては、微笑みの背景、陰にあるものの存在を考えると複雑な心境でした。

パブロ、「仕事中にBARか!?」とも思いましたが、あの書類の山を見るとBARに逃げたい気持ちもわからないでもない???^_^; アフターworkなら私も勿論毎日でも行くでしょう。

Posted by ぺろんぱ at 2010年08月30日 20:21
滑り込みで観てきました。

良かったです、これはやはり映画館で観るべき映画でした。
そして今日の最終日は.....それほど観客も多くなく、ひっそりと拝見しました。(横でグーグー言ってた人も居ました)
そんな訳で場末っぽい、映画に雰囲気が似合った状態での鑑賞でした。

ソソッて頂きありがとうございました。

PS パブロさん目指して一直線にならないように。
Posted by west32@瞳の奥の秘密 at 2010年09月25日 00:01
WEST32さん、こんにちは。

ひっそりとした中でご覧になられた由、そういうのがいいです。(*^_^*)この映画の雰囲気には特に、ね。
後ほど貴ブログにお伺い致します。

パブロさんには親近感感じましたが、一応仕事中は私は呑みません。^_^;
でも分かるんだなぁ・・・パブロさんの思いも。(^^)
Posted by ぺろんぱ at 2010年09月25日 11:12
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/40410678
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック

瞳の奥の秘密
Excerpt: 公式サイト(音が出ます!) 監督・共同脚本・編集:ファン・ホセ・カンパネラ (2009年 スペイン/アルゼンチン) 原題:EL SECRETO DE SUS OJO...
Weblog: ゆるり鑑賞 Yururi kansho
Tracked: 2010-08-29 15:48

映画「瞳の奥の秘密」人は誰も決して忘れてはならない秘密を持っている
Excerpt: 「瞳の奥の秘密」★★★★ リカルド・ダリン、ソレダー・ビリャメル、パブロ・ラゴ、ハビエル・コディノ 出演 フアン・ホセ・カンパネラ 監督、129分 、2010年8月14日公開、2009,スペイン、アル..
Weblog: soramove
Tracked: 2010-09-02 17:25