映画化が決まってから、この日を早く迎えたいような永遠に来てほしくないような、そんな心もとない日々。
大好きな村上春樹という作家の、私の中の春樹の長編小説BEST3に入る作品。 自分の中で自分なりに築いているこの作品の世界が壊れたりしないかどうか、小市民的な不安を抱えていました。(こういうところ、イタイなぁワタシ。)
多分同じ思いの人は多いと思います。映画は映画としての別作品、そう割り切るには余りにもこの小説を自分なりに温めすぎていた人たちが。
さて映画。
直子の療養所のロケ地、砥峰高原・峰山高原の美しさに息を飲みます。
そういえば10年以上も昔に一度ススキを見に砥峰高原を訪れていたことを思い出し、薄く細いながらも繋がりを感じて嬉しくなりました。
story
1987年に刊行されベストセラーとなった村上春樹の「ノルウェイの森」を、『青いパパイヤの香り』『夏至』などのトラン・アン・ユン監督が映画化。
ワタナベ(松山ケンイチ)は唯一の親友であるキズキ(高良健吾)を自殺で失い、知り合いの誰もいない東京で大学生活を始める。そんなある日、キズキの恋人だった直子(菊池凛子)と再会。二人は頻繁に会うようになるが、心を病んだ直子は京都の療養所に入院してしまう。そして、ワタナベは大学で出会った緑(水原希子)にも惹かれていき…。(※story、写真とも映画情報サイトより転載させて頂きました。)

映画館を出てからはずっとビートルズの「ノルウェーの森」を口ずさんでいた私。
いろいろと思うことはあったとしても、やっぱり133分間、この映画にのめり込んでいたのだなぁと思いました。
総じて、春樹の小説の物語展開と作品世界は踏襲された映画だったと感じます。
それでも時折、小説では感じることのなかった“生々しい匂い”みたいなものを感じることがあって、ふっと現実に引き戻されることも。逆に、普段は(私は)決して思うことのない「若かった大学生のあの頃へ戻ってみたい」っていう思いが一瞬過ぎったことには自分でも少なからず驚き、良くも悪くもこれが映像の持つ力なのだとしみじみと感じたり。
小説で大好きだった(そしてある意味、大きな意味合いを持つも言える)くだりなのに映画の中では描かれていなかったところが幾つかあって、残念というかちょっと寂しく思ったこともあり、逆に小説ではさらりと書かれていたことが映画の中では鮮烈なイメージを伴って撮られていたりして、ハッと心が動かされた思いもしました。

ワタナベくんを演じた松山ケンイチさんは、観終わってみればこの人しかなかったと思うほどの素晴らしさでした。
永沢さん(玉山鉄二)や突撃隊(柄本時生)はイメージ的にこれ以上ないと思える(映画化を知った時、突撃隊には柄本時生さんがいいなぁと思っていたので本当にそうなってビックリ!)ほどのハマり役でしたが、小説をよく知る人には映画での彼らの人物造型をもっともっと踏み込んで撮ってもらいたかったのではないかと思いました。
でもそれを言い出せばどうしたって時間的に無理なところは否めませんよね。
レイコさん(霧島れいか)。
彼女に関しては、最後のワタナベくんとの「交わり」に監督なりの「解釈」を感じましたね。
あそこをどう描くのかが興味の一つでもありましたが、賛否はあれどああいう描かれ方に私個人としては“安堵”する思いもありました。この安堵の思いとやらを分かって下さる方がいれば嬉しいですが・・・。
そして、直子を演じた菊池凛子さん。
演技派の女優さんとして素晴らしいと本当に思います。本作でも力演だったと思います、本当に。 けれど、やっぱり私の中の直子像とは少し違っていました。ふとした表情に大人の女性を感じすぎてしまったことも残念でした。
(そしてこれは監督への思いですが)車にガス管を引くキズキの姿と、風に揺れる直子の足は、やっぱり映像にして欲しくなかったなぁという思いです。

でもやっぱりこうしてレヴューを綴りながら幾つかの映像が鮮明に心に浮かぶのです。
ロケ地となった砥峰高原、峰山高原での美しいシーンの数々、直子の涙、緑の瑞々しい表情、ワタナベくんの柔らかい微笑みと直子を失った時の慟哭。
年月と共に死者との隔たりは少しずつ増えていくのだとしても、存在していた「誰かを深く愛する心」は決して消え去ることはないのだと思います。
緑と久し振りに逢ったワタナベくんが飲んでいたウィスキーソーダ。
ウィスキーソーダといって思い出すのはサンボアBARのハイボール。
たっぷりのグラスに氷無し、ジガーで饗されます。たいていはハイボールを一杯飲んだ後、ジンに切り替えてジントニックをいただきます。
久々に訪れた先日の堂島サンボアにて。ジンをトニックじゃなくてソニックで。

もう少し時を経て、またこの小説を読み返してみたいです。

私も今日、TOHOシネマズ梅田で観てきました。ところどころで泣いちゃいました。
>小説では感じることのなかった“生々しい匂い”みたいなもの
たしかにありましたね。
音、光、匂い、触感みたいなものを感じました。
レビュー記事をトラックバックさせてくださいね。
リリカさんも同じ劇場での御鑑賞だったのですね。(*^_^*)
>ところどころで泣いちゃいました
グッと心に迫る映像の強さを感じましたね。
そしてリリカさんの澄んだ感性を感じました。
実は私が「生々しい匂い」と書いたのはいい意味ではなくて、小説から私が受けていた感覚と違った、現実的な生々しさが時折あったかな、ということでした。(表現が巧くなくてゴメンナサイ)
しかしそれは別にして、リリカさんの仰る「音、光、匂い、触感みたいなもの」は良い意味で私も感じました。そこは本当にこの映像世界の素晴らしいところだったと言えますよね。
TBもありがとうございます。
後ほどお伺いさせて下さいね。(*^_^*)
今後ともどうぞ宜しくお願い致します。
拝読は、少しの間、お預けとさせて頂きたく・・(=^_^=)>
>この日を早く迎えたいような永遠に来てほしくないような
うわっ!分かります!と言うか同感過ぎます〜(笑)
正直、ワタナベくんと直子さんへの私の勝手なイメージが
配役とかなり違っているのでその日が怖いです。
でも監督の『夏至』の美しさと空気感を忘れられないので期待感もあるんですけれどね。
ぺろんぱさんは良い印象を持てて良かったですね♪
その日までに、小説とはまた別の映画として楽しむつもりになれる様に、心の準備をして臨みたいと思います(^-^*)/
観賞後にまたお邪魔させてくださいね。
昨夜は殆どお酒を口にしなかったのでなかなか寝付けず、今朝は未明から猫に起こされ、極度の睡眠不足です。トホホ。
>拝読は、少しの間、お預け
はい。TiM3さんのご再訪をお待ち申し上げます。
同感して頂き嬉しいですぅ。
でもやっぱり気になって初日に行って来ました。^^;
>ぺろんぱさんは良い印象を持てて
実は必ずしもそうではありません。
村上春樹小説の映像化は、どんなふうに作っても完全に違和感を拭うことは難しい気がします。
それこそが春樹小説の魅力でもあると思いますし。拙レヴューでも「残念」という言葉を二度使ってしまっていますし、ふとした瞬間に生理的に感じた距離感もなかったとは言えないです。
けれど、133分という決して短くはない時間、きっちりとこの映画と向き合えた思いですし、一人一人の人物に思いを馳せることもできました。
ハッとさせられた映像や興味深い撮り方など、この監督さんの別作品を観てみたいなぁと感じました。fizz♪さんの仰る「空気感」という言葉を使わせて頂けるなら、透明でしんとした空気感が漂うところはとても好きだと感じました。fizz♪さん、『夏至』がお薦めですか?(*^_^*)
御鑑賞が叶ったら是非ご再訪下さいね。
fizz♪さんの「思い」をお聞かせ下さい、その日を心待ちにしています。
昨日、妻と一緒に勇んでみてきました〜。
実は小説未読です。一応、この作品の公開を知って慌てて村上春樹作品読んでおこうということで、アフターダーク読んだだけですw不思議でいい作品でした、アフターダーク。
森博嗣作品どっぷりの中で、鮮やかに楽しんだ一作でしたw
レビュー、読ませていただいて、原作との距離はやっぱりあるんだと感じました。
映画として、すごく良くて、全方向的に認めてしまったんですがwでも、原作とのギャップの議論は大いに盛り上がっているようですね。
明らかに、原作なしありで大きく見る位置が変わってくるのですね。
逆にそれは、世界的な名作小説の証であり素晴らしい作品であることの確認のような気がします。
自分のレビューは監督の前作「アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン」の想起からはじめました。
レビュー、メルマガで書いてブログには今晩アップする予定ですので、あたらめてTBさせていただこうと思います。
しかし、冬にいい作品に出会えてよかったですw
これは春樹作品でも十分有名なものですし、映画化は話題になっているし、特にロケ地が兵庫県と近くなので、気になるところでもあります。
おっしゃるように好きな本が映像化されるのは
> 映画化が決まってから、この日を早く迎えたいような永遠に来てほしくないような、
まさにそうですよね。文章と映像はメディアとして違うのでかなり表現方法が異なりますから本当にこんなドキドキ感あります。特に文章から発想するのは人それぞれなんで。
でもぺろんぱさんとしては、
> 総じて、春樹の小説の物語展開と作品世界は踏襲された映画だった
ということで、それなりに満足されたようですね。細かな点に残念なことがあったとしても、
> 映画館を出てからはずっとビートルズの「ノルウェーの森」を口ずさんでいた私。
へぇ、ぺろんぱさんはかなり入り込んでいたんですね。
(ただ私にはこの音楽の意味は分っていませんが...すみません)
さて春樹作品としての『ノルウェイの森』、私は映像から入ろうか文章から入ろうか、ちょっと迷っています。ぺろんぱさんのおっしゃるように映像化で踏襲されているんなら、映画を先に観てもいいかな?ちょっと悩んでいます。
この作品をどちらかで鑑賞できたら、私のブログでupします。さてどちらになるか...???
この小説を読んでいらっしゃらない御方の本作レヴュー、私としてはとてもとても興味深いです。きっと(ファンであるが故の)色眼鏡をまとわず、真っ直ぐな御感想だと思うので。(後ほどお伺い致しますね。)
「原作とのギャップ議論」は、やはり別物と割り切れないほどの原作なので、どうか分かって下さいね。^^;
でも、dkさんの「すごく良くて」「いい作品」とのお言葉を、やはり嬉しく感じます。
>「アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン」
未見です。
タイトルを覚えておきますね。(*^_^*)
春樹の作品(小説)が好きな人も余り好きじゃない人も、多分その理由は同じところにある気がします。
それを「好きで堪らない」という人と「(例えばの表現ですが)鼻につく」というような人と。^^;
私は春樹さんの小説を読んでいると、感覚的に自分という人間の核の部分に感覚的に入り込んでいく気がして身体がしゅうっと冷えていくのを感じるのです、何故か。
内なる部分に篭って行く・・・とでもいうことでしょうか。
そう意味で、この映画には「体温」を感じるところがあった・・・ということでしょうか、良くも悪くも、ね。
>ぺろんぱさんはかなり入り込んでいたんですね
ビートルズの「ノルウェーの森」の曲は、いわばこの小説の始まりの部分でしたから。
>映像から・・・文章から・・・
春樹小説のファンですから、私としては一も二もなく「文章」から入っていただきたいところです、勿論!
しかしそれはwest32さんの“その時”のお気持ちで。(*^_^*)
若者の喪失感を真面目に描いた作品なんですね。
大学で片や学生運動に精を出す連中との対比が秀逸でした。
ワタナベくんの「時間だけは余りある」発言に思わず羨ましくなったものでした^^
ご覧になられたのですね。
貴レヴューを楽しみに後ほどお伺い致します。
>大学での片や学生運動に精を出す連中との
春樹さん自身がそのような時代に学生として生きた人だから、彼ら運動家たちに対する見解も興味深いものがありますよ。
「時間だけは・・・」の台詞、これは本当の現役の学生だったら言えなかった言葉かも知れませんね。当時を振り返っての(経年の)作者の心だから発せられた言葉だったのかも。
春樹さん自身、itukaさんと同様“羨ましい”と感じつつ。(^^)
昨夜、観て参りました。
期待値が高過ぎたか、2度鑑賞はないやろな・・
って直感してしまう印象でした。
皮肉にも、本作を観たことで、
やっぱり『トニー滝谷』は良かったなぁ・・と再認識した次第です。
本作において、良くも悪くも特徴的だったのは
「強烈なスコア(楽曲)群のなさ」「ユーモアのなさ」だったでしょうか・・
少なくとも、ワタシはその2点を「残念」と感じたのです。
私も期待値が高すぎましたが、でもやっぱりいつかはもう一度観てみたいと思う今です。
『トニー滝谷』は、確かに良かったですね。
短編だったから映像世界に飛躍させやすかったのか否か、しかしそんなことを考える以前に、本当に納得の一作でした。
>「強烈なスコア(楽曲)群のなさ」「ユーモアのなさ」
そうですか。
その点については正直、俄かに理解できるには私は少し感性不足かも知れません。
TiM3さんの仰る意味が完全には把握できなくて。
ゴメンナサイ、もう少し考えさせて下さいね。(^^)
しかし貴ブログには今から楽しみにお伺い致します!(*^_^*)
やっと(観念して?)観ました(^^ゞ
いえ、正直観たかったのですが、覚悟に時間が掛かりました。
感想を書くにあたっても、否定をするための文は書きたくないので、その分中途半端な記事にもなり、今回は色々と私なりに苦しかったです(^^ゞ
でもでも、これで何とか次のステップに進むことも可能になったかと思うと、やっぱり観て良かったんだと思いました。
>映画は映画としての別作品、そう割り切るには余りにもこの小説を自分なりに温めすぎていた人たち
ぺろんぱさんもそのおひとりですよね。
鑑賞してみて、完全にではないにしろ、私にもそのお気持ちお察しできた気がします。
原作とは別物として鑑賞できれば、もっと楽だったかも…と実感しました。
観たい作品も溜まりに溜まりました(^^ゞ
ガンガン観るぞp(^o^)q なこの頃です(´艸`) ←気だけで終わらないように(^^ゞ
観念して?ご覧になりましたか。(^^)
先ずはお疲れさまでございました。
気になっていた作品は、良くも悪くもそれを自分なりに見極めないとスッキリしませんよね。
そう意味で??すっきりされた御様子、何よりです。
公開当事にご覧になるよりも原作の影を少しでも遠くに追いやることができたのではないでしょうか。しかしやっぱり意識すれば直ぐそこに感じてしまうものかもしれませんが。
次なるあぶくさんのご挑戦は何でしょう。
楽しみにしています!