2007年06月10日

素粒子

 土曜はシネ・ヌーヴォへ。ミシェル・ウェルベック原作、オスカー・レーラー監督の『素粒子』を観てきました。

OS名画座で上映中の『ボンボン』(ツキから見放されたような男性がボンボンという名の大きな白い犬と出会ったことで人生に希望を見出していく“ほのぼの”ムービー)と、どっちを観に行こうか迷った挙句に『素粒子』の前売りを買いました。

『ボンボン』を観に行っていたら「生きるって素敵なこと」と思えたかもしれませんが、この映画で、「生きるって苦しい。そして苦い味がする。」と感じて劇場を後にすることになりました。(それはそれでいいのですけれど・・・)

 「人生は期待に満ちていて、それを裏切る」(作品コピーより)

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story
ヨーロッパ中でセンセーションを巻き起こしたミシェル・ウエルベックの同名ベストセラーを映画化した問題作。
20世紀末のドイツ。異父兄弟のブルーノとミヒャエルは、性に奔放な母に養育を放棄され、正反対の人間に成長していく。
国語教師となった兄ブルーノは、妻子がありながら性的衝動を抑えられず女性を求めて彷徨い続ける。一方、弟ミヒャエルは女性に関心を持てぬまま学究に没頭する。やがてそんな2人に転機が訪れ、それぞれに本当の愛に巡りあうのだが…。 (シネマトゥデイより)

 
  素粒子(物質の最小単位)と言う原題に付いて
考えてみますと、「真実は素粒子に似ている。それ以上小さくならないからだ。」という劇中の言葉を受ければ、「“それ”が真実なのだ」とという主張がこの原題にはあるように思います。

ではその“それ”って何なのでしょうか。

 原作も読んでいなく、一度観ただけで断言はできないものの、それはやっぱり「愛」と「性」なのではないでしょうか?と思います。
 終始この映画には「愛と性の欲望」が付きまとっていたように思います。
ブルーノとミヒャエル、二者、形は180度違えど「性」というモノに悩まされ続けていますから。

二人とも実の親からのネグレクトを受けての結果だと設定されていますが、その因果関係が軽く(どちらかと言えばユーモラスに)描かれていて、彼らの母親の(作品における)存在価値が希薄に感じられたのは私だけでしょうか。
育児放棄という状況になくとも、似たような精神を持ってしまっている人間って他にも居るような気がします。
兄弟二人を演じている役者さんの演技が素晴らしいので(特に兄役のモーリッツ・ブライプトロイ)彼らの「苦悩」を“感じる”ことは出来たかもしれないけれど残念ながら“感情移入”はできなかったと思います。
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彼らは終始とても“生身の人間らしく”描かれていましたが、若き頃のブルーノは猫を撲殺し、ミヒャエルは飼っていた鳥が死んでそれを無表情に生ゴミのダスターへ放り込みます。
この時点で、二人が深く病んでいることがドンと観ている側に突き刺さります。
しかし画面はいたってドライでユーモラスにそれを描いているのです・・・はっきり言って笑えません、そんなシーンで。
もの凄くザラザラしたものが心に残りました。
あそこまで病んで、彼らは果たして一人の生身の女性を愛せるのか・・・。
それはとても難しいことだと感じます。
なのにそれを軽く流して、最後には二人が“ノーマルに悩める人間”として精神の浄化が訪れたように描かれていたのは、何だか着地点の悪い思いでした。

性愛を否定してきたミヒャエルが没頭した研究<非接触受精>は、彼がアナベルを愛し、身体を重ねた上でも没頭できる研究なのでしょうか。
最後の海辺でのシーン・・・・あのシーンにやっと「それでも生きることは素敵な事と言えるのかもしれない」と思えたのに、ラストの字幕でミヒャエルが研究を実らせたという意味のくだりがあるのは、やっぱり何だかスッキリとしない居心地の悪さを感じました。


  だから、「生きるって苦しい」・・・私がそう感じたのはむしろ彼らを愛した二人の女性に対する私の感情です。
特に、実はミヒャエル以上に「人を愛すること」に臆病になってしまっていたアナベル(フランカ・ポテンテ)、彼女はミヒャエルと結ばれた今も、いえ、今からこそ新たな「二人の間の不確かさ」に悩み続けるような気がしてなりません。
そう言う意味では、病んで別の世界に入ってしまったブルーノの方が、現実と対峙せず生きられることで「幸せ」なのかもしれませんね。そう考えると幸せの概念なんて本当に分からない・・・不確か・・・自分の中にしか判断基準はないような気がします。

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 私が今作で最も“ほろ苦さ”を感じて涙したシーン・・・ミヒャエルを連れ立ったアナベルが、緑生い茂る故郷の庭で自らの両親を見て「彼らは何の変哲もない普通の夫婦。だけど彼らはお互いを本当に愛し合っている。私にはそういう幸せが得られなかった。」と言うところ、かな・・・。そよそよと緑の風が吹いて、心穏やかに、でも切なく自分を語るアナベルのシーン・・・何となく、あのシーンがほろ苦かったです。

とにかく、私には疑問点は多い作品でした。それでもやはり「観てよかった」と思える作品でしたが・・・。
一番理解し難いという書き方をしたけれど、実は一番ミヒャエルを応援したい気すら心底にはあるような気がします、ホントのところ。



 結局観に行かなかった『ボンボン』ですが、私は我が家のボンボンこと愛猫“a”に癒されて良しとしましょう。
ここ毎週末の検査通院・・・・昨日も恐れてた数値が更に上昇、また来週に検査です。あーーーーーーーーーーーーーっ。(深い溜息)
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見た目は元気そのものです。
毎夜中に起こして御飯に付き合わせるのはいい加減やめてほしい・・・(寝不足で毎朝意識朦朧です・・・辛い、苦しい、人生って苦い味?・・・・でも可愛い同居猫です。)


それから恒例・乾杯のお話もさせてください。
暑くなってくるとジンが恋しくなるっていうのは以前に書きましたね。
ここ二、三日、集中して仕事帰りの暑気払いにジンをアレンジしたお酒を戴いたので写真と共に記します。

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名店・Barサンボア北新地店でジンを使ったカクテルの王道<マティーニ>を。
カクテルグラスに楚々と沈められたオリーブがいいですね。

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リーガ・ロイヤル/コルベイユでの<ジントニックならぬ、ジンソニック>を。(トニックウォーターだけでは甘いのでジンをトニックとソーダの半々で割って作って頂いたもの。このレシピをジンソニックと呼びます。)

ジンは深く静かに“ジンジン”と酔っていく感じがいいですねぇ。ギャグじゃありませんよ、心底そう感じる表現です。


・・・ミヒャエル、私は機会があれば「愛とアルコール飲欲」について研究してみたいです。助言をお願いします。



posted by ぺろんぱ at 19:19| Comment(4) | TrackBack(3) | 日記
この記事へのコメント
人間が素粒子レベルに分解されると・・

「サンドマン」になっちゃうそうですね(サム・ライミ監督説)(=^_^=)

いやでも、たまに小品を観て「当たり」だったら嬉しいですよね。

フランカ・ポテンテって、何だか少し懐かしい名のような。
確か『ラン・ローラ・ラン』のヒロインでブレイクした娘でしたね。
Posted by TiM3 at 2007年06月10日 23:34
TiM3さん、こんばんは。
サンドマン・・・CGで過去最高額を掛けたと監督が豪語しているらしいですね。

『ラン・ローラ・ラン』・・・観てないのです、でもその通り、フランカ・ポテンテはそのブレイクした人のようです。

今作は「当たり」とは言えなかったです、私には。
web上で結構絶賛している人が多かったのでちょっとショックでした。
Posted by ぺろんぱ at 2007年06月11日 21:37
ばんはです・・ってもう寝ますが(・ω・)

>サンドマン・・・CGで過去最高額を掛けた
>と監督が豪語しているらしいですね。

うわー、そんなことぬかしてるライミは嫌いだー(×_×)
何となく出演して、何となく殺されてた(?)『イノセント・ブラッド』の頃が好きでした(=^_^=)

※監督はジョン・ランディスでしたけどね。。

>『ラン・ローラ・ラン』・・・観てないのです

あら、残念。面白いですよ。
1本で3つの味が楽しめる映画です(・ω・)

>今作は「当たり」とは言えなかったです、私には。
>web上で結構絶賛している人が多かったのでちょっとショックでした。

うーん・・「今回の鑑賞ではそうだった」って感じのゆるい評価にとどめておくのも良いかも。
何年かして観直したら、ツボにはまる場合もあるでしょう。
他人は他人ですし・・(=^_^=)
Posted by TiM3 at 2007年06月13日 00:54
TiM3さん、こんにちは。
一粒で三度美味しい『ラン・ローラ・ラン』、時間作って観てみます。

小市民の私は「皆が絶賛してる芸術性が私には分からないのだわ」って落ち込む性質なので。しゅん。
TiM3さんの「我が道を行く」姿勢(ブログ拝見しててそう感じました)を見習います!

Posted by ぺろんぱ at 2007年06月16日 14:57
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