作品の封切り初日でもあり、上映後に監督とプロデューサー平形氏の舞台挨拶もありました。
監督は長年新藤監督のもとで助監督を勤められ、今作が監督デヴューとなるそうです。映画を語られるその真摯な姿勢には大変惹かれるものがございました。

解説
『午後の遺言状』などの新藤兼人監督が、自らの戦争体験を語るドキュメンタリー・ドラマ。
邦画界最高齢である95歳の現役監督が体験したリアルな戦争の姿を、ドキュメンタリー映像とドラマ映像の両方で振り返る。
太平洋戦争末期の1944年、当時、松竹大船脚本部のシナリオライターだった32歳の新藤兼人(蟹江一平)は、召集令状を受け取った。
妻を亡くし、半ばやけっぱちの彼は、帝国海軍二等水兵として呉海軍隊に配属される。そこで彼や仲間の植村(滝藤賢一)を待っていたのは、自分よりはるかに年下の兵長に殴られ、けられる毎日だった。 (シネマトゥデイより)
戦争映画としては一風変わった、非情に(語弊があるかもしれませんが)面白い作品でした。
ヨレヨレの浴衣を着た(新藤監督は日常ずっとあれを来てシナリオ執筆に当たられているという)新藤監督が実に淡々と昔日の軍隊生活を語り、実写では戦闘シーンはなく、志願兵でない一般の下層の召集兵達の「訓練と寄宿」模様が綴られるなかで、「戦争」という理不尽で余りに愚かな行為が浮き彫りになっていきます。
実写シーンを繋ぐ監督の語りが本当に淡々としていて表情も声色も一本調子なのですが、その表情が、時としてカッと目を見開きほんの少し監督の体が前面に押し出される時があって、演技ではない生の叫びをそこに感じました。
超重要任務と聞かされた赴任先での仕事が「予科練生を迎えるための宿舎の掃除」であったことや、子どものママゴトさながらの滑稽且つ残酷な制裁、ただ等位の上に立ったという事だけで下の者を苛める事に快感を覚える上兵、自らの保身と見せしめのため一人の人間を精神的廃人におとしめた班長等々、その理不尽さは枚挙に暇もないほどですが、極めつけは余りの可笑しさで返って寒気まで感じた“どう考えてもオバカな人間が考案したとしか考えられない”戦法を大真面目にやらされるシーンでした。
「誰もがこんな事はおかしいと思ってる。思ってるけどやらなくちゃいけない・・・。」
そして、それが戦争というものなんだと新藤監督は語ります。

一日休暇の日、家族と手弁当を広げる下士官を「自分に気付かず挨拶をしなかった」という理由だけで立てなくなるほど殴り続けた上官もいました。
「殴るんなら一度でいいじゃないか・・・」
ここ・・・新藤監督は殴る事の理不尽さには言及していないのですね。
つまり、非常時での、ある限定された世界に於いてある程度の事
には目を瞑るとしても、その限度を超えた“異状極まる”世界に監督は納得できないと言っているのですね。この辺りに私は逆に「作られたモノではない」「ホンモノ」の声を聞いた気がしました。
「何も抵抗できない人間をただ殴る、これは凄まじい“暴力”です。そんな凄まじい暴力の中にいると思考が止まる。自暴自棄になってただ命令に従うだけの人間が出来上がって行く・・・これが戦争というものなのです。」(新藤監督の語り)
余りの辛さに、自分はアメリカと戦争しているのではなく日本海軍と戦争しているんだと錯覚したという監督の言葉は大変印象深かったですね。

ドキュメンタリー部分のラストと、実写シーンでのラスト、両方ともに静かながら強い印象を残したラストでした。
特に実写ドラマのラスト・・・それまでモノクロで綴られてきたけれど、一人の兵士が野に佇むシーンで傍らに咲く野の花がそこだけぽっと天然色に映えるのですね。
その兵士の目は灰色なのです。一人の、未来も希望もあったに違いない若き男性の瞳を灰色に変えてしまった戦争という行為の残酷さを見せつけられた思いで、そこに強い怒りのメッセージを感じました。
上映後の舞台挨拶で、「戦争実体験を持つ95歳の新藤監督がシナリオを書き、戦争を知らない中年の自分(山本監督ご自身)が
メガホンを取り、更に若い俳優さん達が演じる・・・これこそが戦争継承の形だと思う」という意味のことを仰っておられました。
ならば私も、映画を観て感じた事をここに書いてみることで自分なりの継承の仕方をしたいなと思います。
重苦しいだけの描かれ方では決してないので、お勧めしたいです。
地下鉄を乗り継いで九条駅に行く事もたまにはいいです、商店街も面白いです・・・何よりシネ・ヌーヴォがとっても面白い劇場ですから。
昨日のヌーヴォの帰り、梅田に戻ってついに「行けたら行こう」の方の一本、前売券を買っちゃいました。
これで「絶対時間作って行く!」モードに切り替わりました。
Let's go !

さて、ブログを書きながらの本日の暑気払いはやっぱり「夏コレ!」のジンです。ソーダで割ってライムを搾って自家製ジンリッキーです。
もう何杯目か・・・さすがにちょっと酔いモードです。
ところで自分は今日の夕飯時、まず、ビ−ル飲みたいとこ赤ワイン飲みましたです。(あまったの持って帰った分)いやぁ、ビ−ル以外の飲むと酔いが早いっす。(後、やはりビ−ルもしましたが)この映画のこと想像した後としては、あまりにお気楽ですまんことですが・・。
蟹江一平さん、いいですねぇ。今作ではどっちかといえば“神妙な”表情が多かったです。でも確かにビイルネンさんの仰る通り、彼は「男性版癒し系」かもしれませんね。
やっぱりお腹空いてる時には先ずビールというのが深酔いを防ぐ正しい飲み方なのかもしれませんね。もう眠るところでしたがちょっとビールの苦味が恋しくなってきました。
本作の映像も少し紹介されてました。
・はりぼての戦車で訓練するシーン
・お尻を殴られる体罰シーン
共に「勝算のない精神論ばかりやんか」と何気なくツッコンでしまったものです(・ω・)
まぁ当時は「勝つしかない!」「負けたら故郷に残して来た家族が酷い目に遭う」と言う不安感こそが、彼らを突き動かしていたのかも知れませんね。
その「えねちけ」番組は見てないです(T_T)、残念です。
張りぼての戦車での訓練・・・そうなのです、全てがホンモノの武器のない状態の中での訓練で、それが何処か滑稽で物哀しいのです。
>共に「勝算のない精神論ばかり
新藤監督がそれらを「是」とするより、常に「おかしい」「間違ってる」という気持ちを抱き続けて今に至り、そして今作が出来たわけですが、今もそれを「是」とする向きもあることは否めないですよね。
95歳になる新藤監督が「広島の原爆の爆発直後を描いた映画を撮りたい。そしてその被爆者が長年に亘って、原爆症や放射能の健康に及ぼす影響におびえながら生きることも伝えたい。この映画を見てもらうだけで、核廃棄につながる大きな貢献をするだろう。」
大変素晴らしいお話だと思います。広島長崎から62年が過ぎ現場を知る語り部の方が高齢化する中、大変な目に合わされたことを風化させないためにもなんとか20億の制作費が集まってくれることを願っています。また、その作品が広く本当の姿を伝えることで、「戦争を速く終わらせ被害の拡大を小さくした」などと言う暴言が原子爆弾投下を正当化できない、でっち上げの詭弁であることを証明することを信じてやみません。
それにしても、どうして日本だけに原爆をしかも短期間に2発も落としたのでしょう?
肌の色が違えば人間だとは思ってなかったのでしょうか?考えるほど複雑な思いに駆られるのです。
考えている、或いは教育されている米国人も少なくない、と言われています。
一方では、アインシュタイン博士が、湯川博士と面談した際、涙ながらに原子爆弾開発に関与したことを謝罪した、と伝えられています。
特に、当時日本において被爆された米国籍の方々の心情を聞いてみたい気がします。
そうですか、新藤監督の次回作品に期待したいですね。
日本だけに続けて二発も・・・・
それって、核実験をするのに「戦争終結」「真珠湾攻撃への報復」という大義名分が立つからではないでしょうか。
三発目の計画も進んでいたようです。
アジア人を下級のものとして捉えていた(あるいは今も捉えている)向きもあるとは思います、、、本当に複雑な思いですが。
アインシュタイン博士のお話は知りませんでしたが、とても救われる思いです。この映画の中でも、戦争終結後に米国人牧師が被爆者を救う基金を設立した話が挿入されていました。
>当時日本において被爆された米国籍の方々 の心情を聞いてみたい気がします。
本当ですね、私も聞いてみたい思いです。
この作品、今までの戦争映画のイメージを覆えされた感じです。
もちろん戦争は悲劇なんですが、それを時にはユーモラスに、
そして人間らしく可愛い部分もみせながら描いていて、力みを感じさせない。
それだけに戦争の愚かさも伝わってきました。
新藤監督にもますます元気でいてほしい。
ところで、「ジンリッキー」スッキリ、サッパリでいいですねぇ。
飲みたくなりました。
といっても弱いので、なかなか飲む機会はありませんが。
以前、お酒に詳しい方に勧められた銘柄のジンを使ったカクテルが
すごくおいしかったんです。銘柄や質でそんなに味に違いがあるのかと、
無知な私はちょっとビックリした記憶があります。
>今までの戦争映画のイメージを覆えされた感
私も同感です。
「伝え方」も大切なのですね。
ジンは確かに銘柄によってフレイバーが違います。そのジンって何でしょうね。タンカレーがボンベイサファイアか・・・はたまた?
お酒にお弱いとの事ですが、そんな御方の方が返ってお酒の違いが分かるのですよ(^^)!
主演が蟹江敬三さんの息子さんとはまったく知りませんでした。
それにしても、あの軍法会議にかけられた兵隊はいったいどんな過酷な目にあったのか、気になりました。
蟹江一平さん、なかなか良い俳優さんだと感じます。そういえば新藤監督の前作『ふくろう』にも出演されていたような・・・。
>あの軍法会議にかけられた兵隊はいったいどんな
そうですね、人間の瞳から光を奪い去ってしまうような暴力とはどんなものだったのでしょう。
自分の大切な人が魂をなくして帰って来たとしたら・・・考えるととても辛いですね。