休日にもう一本。
DVDにてガス・ヴァン・サント監督の『エレファント』を鑑賞。
同監督作品は『小説家を見つけたら』を劇場鑑賞したのみでした。サント監督の記念すべき長編映画第一作・1985年作品『マラノーチェ』が先日日本公開となっていたものの、レイトのみで観に行けず(猫事情)、この『エレファント』と『マイ・プライベート・アイダホ』『マラノーチェ』は気になる私の「今後のお題」となっていました。
3年ほど前?の『エレファント』劇場公開時の、あの鮮烈な印象のチラシが脳裏に甦ります。観に行かなかったことを悔やみつつDVD画面で鑑賞。
(今回の鑑賞のきっかけとなった<TiM3さんのブログ>と<かえるさんのブログ>に感謝致します、ありがとうございます。)

story
米を震撼させたコロラド州コロンバイン高校の銃乱射事件に衝撃を受けた、『誘う女』のガス・ヴァン・サント監督入魂の問題作。
素人の高校生の実体験から真実の言葉を引き出した本作は、2003年のカンヌ国際映画祭で史上初のパルム・ドールと監督賞のW受賞という快挙を果たした。
オレゴン州ポートランド郊外の高校。ジョン(ジョン・ロビンソン)はアル中の父親のせいで遅刻し、イーライ(イライアス・マッコネル)はカメラ片手に公園を散歩。いつもと同じ一日のはずだったが……。 (シネマトゥデイより)
オープニングからすっかり、流れゆく映像に釘づけになってしまいました。
BGMとして流れるベートーベンの【ピアノソナタ14番】の曲とともに、その映像の中へ吸い込まれていくようでした。
どのシーンのどの映像も、深い意味があるようにとても丁寧に描かれていますが、しかしどのシーンも、日常の何気ない彼らの一日を切り取ったものであり、それらはこの銃乱射事件に直接的因果関係を持つものではありません。
「登場する人物の誰か一人に焦点を当てるという撮り方はしたくなかった」と、監督は後にインタヴューに答えています。
今作については多くのことが既にネット上で語りつくされており、このこともその一つになるでしょうが、「エレファント-Elephant」というタイトルに示される如く「あまりに巨大な物事・問題はどこかの一部分から見た視点だけでは語りえないのだ」というメッセージがそこに存在しているのだと思います。
そして私には、そういう“ドラマ性”を一切排除したことで、逆にこの事件の持つ恐怖性が皮膚呼吸を通して空気のように体の中に沁み込んできたように思えました。
「事件と直接関係のないシーン」と書きましたが、それこそがこの事件の本質をえぐり出していて、つまりは、そんな直接的因果関係のなかった生徒達が無差別に殺されていったということ・・・そして彼等のその日、その一日は、彼等にとっては“かけがえのない一日”であったということ・・・なのですね。

事件を起こしたアレックスとエリックの二人の少年。
映画のキャッチコピーとなった「キスも知らない17歳が銃の打ち方は知っている」。
銃の存在だけが悪いのでは勿論ないと思います。
銃がなければ彼等は他の“何か”を使って大量殺人を行ったかもしれませんから。
けれど、“通販で”“簡単に”“誰にも知られずに”銃が手に入るというアメリカ社会の現実は、この事件の要因の一つであることは間違いないと思います。
しかし、映像の色彩があまりに鮮烈で美しく、背後に流れる音楽も哀しくも美しい調べであり、それがあの戦慄のラストにつながるなんて本当に想像できません。
カメラはゆっくりと長回しで、生徒達の歩く歩調にあわせて追っていくのですが、そのカメラを通して映る映像を見ていると、まるでコロンバイン高校の廊下に、教室に、中庭に、自分も立っているかのようです。
画面を通して感じる空気は透明で、若さのエネルギーが粒子となってぷちぷちと空中で弾けているかのようでした。

この映画はあの事件への答えも監督なりの見解も何一つ示していないという批判も随分と受けたらしいです。
確かに観終わった後すぐには私も同様のことを感じました。自らの見解を示さないことこそがサント監督の描き方なのだ、と。
でも、時間が経つにつれ「本当にそうだろうか・・・」と思うようになりました。
登場した生徒達を静かに思い起こしてみると、その描かれ方(例えば登場の仕方や表情ひとつにしてもその捉え方など)に監督の彼等に対する印象や感情が微かに見え隠れしているように思えてならないのです。
コロンバイン高校に、確かに苛めはあったし、苛められる生徒が存在していました。
コンプレックスに悩む生徒もいれば、それを悪意で抉ろうとする輩も存在していました。
監督の温かい眼差しもあれば、冷やかや眼差しもあったように私は思うのです。それが「答え」とは決して言えないにせよ、監督なりの何らかの「生きる姿勢へのジャッジ」みたいなものはあったのじゃないかと思うのですが・・・・。
これに関しては未だ上手く言えません。言いたいことを的確に表現するにはもう一度観てみる必要があるかもしれません。
しかしよしんば、本当に何の見解も示されていない映画だったとしても、この映画はその「映像の魔力」によって、遠く離れた日本に住む私にも1999年に米国コロラド州コロンバイン高校で起こったあの事件を深く強く脳裏に刻みつけたという点で、凄い映画だと言うより他はないと思いました。
このDVD鑑賞時、傍らには<ジョルダーノ サンジョヴェーゼ・ディ・プーリア 赤>のボトルが。
美しい映像と音楽とともに・・・。


普段飲みのワインですが「スミレや熟した果実を思わせる香りが広がる」の商品コピー通り、香り甘く、ボディはミディアムで“ややしっかり”です。

ワタシは、何のメッセージ性も込めていないようで・・
したたかに時間軸&ロケーションを組み合わせている、
監督の“4次元的演出”にしびれてしまいましたね。
まさに、神の静かな視点って趣でした。
(特に、長い廊下を走って行く生徒のシチュエーションにはハッとさせられました!)
>事件を起こしたアレックスとエリックの二人の少年。
>映画のキャッチコピーとなった「キスも知らない17歳が銃の打ち方は知っている」。
何となく、彼らの中でキスの仕方は覚えていたみたいでしたね。。
あのシャワーシーンを予備知識なく観てて「うひーっ」と思いました(×_×)
>まさに、神の静かな視点って趣で
そうです!
その表現、凄く言い得ていらっしゃいます!
その一言がこの作品の全てとすら感じます!
シャワーシーン、サント監督の真骨頂?と出も言うべきでしょうか。
でもあのシーンがあれで終わって良かったです・・・ホッとしました、正直なところ。
2人組が「攻撃」を始める前に、
「これからこの中は地獄になるぜ、離れておけ」みたいな警告を※※※にするシーンがあったでしょう?
あのセリフが印象に残ってますね。
アレが彼らなりの「最後の良心」だったのか・・
>でもあのシーンがあれで終わって良かったです・・・ホッとしました、正直なところ。
封印されてる「完全版」とかがあったりして(×_×)
>アレが彼らなりの「最後の良心」だったの か
そうですね、あそこで‘内’と‘外’の運命が大きく分かれたのですものね。
「運命」って・・・しばし絶句の私です。
>封印されてる「完全版」とか
あそこのシーンで何か別の喜びを見出して「乱射事件なんて止〜めた!」って思って放り出していたなら・・・と一応真面目に考えてみる私です。