「処前観(処分する前にもう一回観ておこう)シリーズ」の第8弾は『秋菊の物語』(チャン・イーモウ監督 1992年作品)です。
中国北部の農村。ささいなトラブルから夫の股間を村長に蹴られた身重の妻・秋菊(コン・リー)が、村長に非を認めさせようと彼を訴えることに奔走する姿を描いた物語です。

※画像は映画情報サイトよりの転載です。
何がイイと言って、主演のコン・リーが本当にイイです、本作。
コン・リーは1965年生まれとされているので本作は27歳の時の作品ということになりましょうか。
アンニュイな雰囲気が魅力的で、実力派ながらフェロモン系女優という位置付けも確かなコン・リーですが、本作での彼女はそれはもう完璧に、農村に嫁いだ生真面目であか抜けない田舎の女性になりきっています。
化粧っけのない顔は終始仏頂面で、身重なのでお腹回りもでっぷりとして着ている服も歩き方も野暮ったい。それでいて芯は強く、頑固でこうと決めたらどこまでも突っ走る、そんな秋菊。
一つ一つの表情や台詞の言い回しなんかが、もう「女優コン・リー」じゃなくて完全に「農家の逞しい嫁」になっているわけですが、言い換えればそういうところこそが「女優コン・リー」といえるのでしょうね。
中国奥地の農村が舞台で、出演者は地元の素人さんも多かったように見受けられますが、それでもここまで見応えある映画になったのはやはりコン・リーの存在の賜物と感じました。
秋菊はどこまでも突っ走ります。
先ずは軍の役場へ、次は県の役所へ、それが駄目なら市の役所へ。それでも結果が不本意で遂には裁判へ、と。 義妹を携え、なんとかお金を工面し大きなお腹を抱えて、右も左も分からない都会では白タクまがいの男にぼったくられながら。秋菊の筋を曲げない女の意地に、生命力に満ちた強さを感じます。
県や市の役所へ掛け合いに出向いた時。
都会の街を行く人たちの姿と秋菊と義妹の二人のいかにも田舎者的な姿を繰り返し交互に映し、途方に暮れる二人の様子を浮き彫りにする演出が面白いです。
観返す度に「好きだなぁ」って思えるシーンも其処にあります。運賃をぼったくられた男を見つけて追いかけていった義妹を心配した秋菊が、戻ってきた義妹を責めながらも無事でよかったと涙を流すところです。切なくて、でもあったかいシーンで、秋菊の深い母性とひたむきさを感じるのです。
そもそも、秋菊は村長が一言謝ってくれたらそれでよかったのですよね。理由はあったにせよ、やっぱり村長がしたことは暴力だったわけですから。
結局ある出来事があって秋菊と村長のわだかまりは溶けるのですが、その後にまた皮肉な展開が待っています。
仏頂面だった秋菊に満面の笑みが戻ったと思ったら今度は泣きだしそうな顔の秋菊になってしまう・・・人生って思うようにいかないですね。
ささやかなトラブルを巡って展開する人間模様が、辛辣なところもありますが全体的には実にほのぼのとしていて牧歌的です。あの後どうなるんだろうって案じながらも、きっと最後はまあるく治まるんじゃないかなーと思うのですよね。
もう一つ、この映画で印象的なのが「湯気」です。
凍てつくような冬の時期が舞台で村人たちは食事というと熱い麺をすするのですが、とにかくそれが熱そうで盛んに湯気が立ちあがっているのです。寒いので吐く息も白いのだけれど、それ以上に食事の度にもうもうと立ち上がる湯気がスクリーンを席巻します。それに、秋菊が無心に食べてる姿が何とも微笑ましくてとにかく美味しそうで。お腹すいてるときにこれを観たらきっと熱いラーメンとか食べたくなると思います。
ラーメンじゃないけど先日はとっても美味しいパスタとお料理を戴きましたよ。
それとシャンパンとワインも。友人Iさんのお店にて。お料理も藝術なんだとつくづく思います。



他のチャン・イーモウ作品とは一味違うというか、こんな生命力溢れる女性が
実際に田舎に存在していそうな、そんな親近感を抱かせる映画だと思いました。
気が強いんですけど、秋菊ってなんか可愛いらしさを感じます。
いっぱい服を重ね着して、やたら着膨れしてませんでしたっけ?
>その後にまた皮肉な展開が待っています
すっかり忘れてる…。機会があったらまた観たい作品です。
ゆるりさん、おはようございます。
コメントの返しが遅くなってしまって申し訳ありません。
秋菊、着膨れしてました。(^^)
都会に出た時に「そんな格好じゃ田舎者だと直ぐに分かって騙されるぞ」と言われて服を買うのですが、それを着膨れしている上に更にまた着込んで・・・。おかしいやら、でもどことなく可愛らしいやら。
コン・リーの表情が本当にイイです。
機会があれば是非また観返してみて下さいね。(*^_^*)