2012年04月29日

少年と自転車

  Theater観賞復活なるか!?
取り敢えず、今回は欲張って一気に2本を鑑賞しました。

アキ・カウリスマキ監督最新作『ル・アーヴルの靴みがき』と、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督の『少年と自転車』です。両作とも公開を待ち望んでいた作品でした。
先ずは観賞時系列で『少年と自転車』のレヴュ―から。アキの最新作はまた後日改めて記させて頂きます。

『少年と自転車』(ダルデンヌ兄弟監督)を シネリーブル神戸にて観賞。

私のダルデンヌ兄弟監督歴はまだ浅くて、3年前の公開作『ロルナの祈り』で初めてその世界に触れたのでした。以後、DVDで過去作『ある子供』も観賞。
本作も、胸痛む現実から幕を開けます。

story
  父親から育児放棄された孤独な少年が、ひとりの女性との出会いから自立していき、女性もまた少年を守ることで母性を獲得していく姿を描く。
自分を児童相談所に預けた父親(ジェレミー・レニエ)を見つけ出し、一緒に暮らすことを夢見る少年シリル(トマ・ドレ)は、ある日、美容師の女性サマンサ(セシル・ドゥ・フランス)と知り合う。週末をサマンサの家で過ごすようになったシリルは、自転車で街を駆けまわり、ようやく父親を見つけ出すのだが…。

                       少年と 1.bmp              
                      ※story、画像とも映画情報サイトよりの転載です。


 少年と自転車。
この自転車こそが少年シリルにとって唯一“常に傍に存在”し“裏切らぬ存在”だったのですね。
子どもというものは、愛の対象がはっきりしていて至極直情的なものなのですね。捨てられた父親への思慕は、常に「一刻も早くパパに会いたい」というシリルの(他への一切の配慮を欠いた)必死さが物語っていたし、悪事と分かっていても犯罪に加担したのは、自分に目をかけてくれた街のチンピラの望みを叶えたかったから。

そんなシリルが、赤の他人でありながら身をなげうって自分を愛し守ってくれるサマンサと出逢い、やがては彼女が思慕の対象となってゆきます。
陳腐に聞こえるかもしれませんが、愛は人を変えるのだなぁ…って。
最後のあのシーンでシリルは「一刻も早くサマンサのもとに戻りたい」との思いだけに突き動かされていたはず。自分の身体のことも事件の相手のこともとにかくどうどもよかったのだ、と。
自転車という「モノ」ではなくサマンサという「人間」がシリルを裏切らぬ存在になったことに、安堵すると共に人が時として放つものすごく大きな力を感じずにはいられませんでした。 サマンサという一人の女性の、誰かを守り抜こうとする揺るぎない愛の力を。

                       少年と 2.bmp

シリルとサマンサ、そして自転車が一つの繋がりとなる場面があります。
終盤で二人が自転車を駆って水辺をゆっくりと走るシーンは、降り注ぐ陽光と共に二人の幸福感が正に“光る”シーンでした。
この幸せのシーンのあとに一転して不穏なある出来事を挿入し、シリルが背負っている現実を浮かび上がらせるのですが、しかしそうであるからこそ“かけがえのない大切なもの”としてそこに存在するシリルの「思い」に迫ったラストは、静かに胸を打つものがありました。
誰かと繋がっているという思いの、なんと揺るぎない力をもたらすことか。

前作『ロルナの祈り』で「人は変わることができるのか」を見極めてみたいと述べておられたダルデンヌ兄弟でしたが、本作では「微かな希望」だと信じる(信じたい)ラストに、「人は変わることができるのだ」という答えが見つけられた気がしました。


                      寸 焼酎ロック.bmp

  仕事も生活もちょっとした転機を迎えたこの4月でした。新たな一歩を。
私の乾杯好きはこれからも変わらずエンドレスで。堂島の某居酒屋さんでの芋焼酎ほぼロック(ちょい水)です。
posted by ぺろんぱ at 19:51| Comment(9) | TrackBack(1) | 日記
この記事へのコメント
こんばんは。

2本連続鑑賞ですか!
じっくり派(?)のぺろんぱさんにしては、めずらしくないですか?!
せっかちな私は結構やりがちなんですが。
実際、昨日も2本連続鑑賞ですっかり夢の世界に突入してしまいました。ハハハ。

でも、ダルテンヌ兄弟の作品とカウリスマキ監督の新作を続けて見られるなんて、
なんとも贅沢な一日ですね。(しかも同じ劇場やし)
『ル・アーブルの靴みがき』は水曜日に鑑賞予定なので、またおじゃまさせてもらいます。

なるほど〜。拝読して、二人が自転車で出かけるという幸福なシーンの後に、
あの事件をはさんだ事の意味がわかりました。
>誰かと繋がっているという思い
確かにそういう部分、また今のシリルには帰る場所があるという事の
意味が浮かび上がってきますね。
Posted by ゆるり at 2012年04月30日 21:21
ごめんなさい。早とちりしてしまいましたが、
リーブル神戸でご覧になったんですね。
すっかり梅ガデだと思い込んで「同じ劇場」なんて書きこんでしまいました。

『ル・アーブル〜』は神戸でも上映しているんですか?
Posted by ゆるり at 2012年04月30日 21:30
ゆるりさん、こんばんは。

じっくり派というより、多分2本分の余韻をきちんと留めておくだけのキャパが脳内にないのです、私。それと、映画鑑賞の後は大抵「呑みモード」になっていますしね。^^;

はい。本作はリブ神で、『リアーヴル・・・』は梅田ガーデンシネマで鑑賞しましたよ。『リアーヴル・・・』は神戸では上映していないので。(T_T)
今夜これからレヴューを挙げる予定(眠気に勝てれば)ですので、よろしければそちらにもまたお越し下さいね。(でも結末に触れてしまうかも知れないので御鑑賞後にどうぞ(*^_^*))

さてさて本作。
容赦ない感じもしながら、私はやはりこの監督さん兄弟はいいなぁという思いを新たにした本作です。
現実はやはり余談を許さないものですし、複雑で困難な状況下では殆どのことが希望なんて有るか無きかのか細いものなのかもしれませんしね。

あ、その点、カウリスマキの新作は真逆の世界だったといえるかもしれません。(^^)

Posted by ぺろんぱ at 2012年05月01日 20:55
遅くなりましたー。
あ、ぺろんぱさん、久しぶりな劇場鑑賞だったのですね? それが、ダルデンヌ兄弟とカウリスマキとはステキです〜。
いつものダルデンヌ節ながら、今回は優しい光のさす物語でしたね。
自転車というものが実にうまく使われてましたよねー。
Posted by かえる at 2012年05月02日 12:41

かえるさん、こんばんは、ようこそいらっしゃいませ!

はい、なかなか贅沢な組合せでした。(*^_^*)
ダルデンヌ監督(私、ダルテンヌと記してました、かえるさんのコメで気付いて訂正!お恥ずかしい!!)、本作では音楽が配されていたことにも従来にはなかった新鮮な驚きでした。
監督御自身も「変わる」ことの、何だかとっても意味深い余韻を感じている今です。

自転車という存在。
私も今日、自転車で街を駆けてきて、風を受けながら自分を意識できる瞬間に本作品をふと思い返したりしましたー。(*^_^*) 

Posted by ぺろんぱ at 2012年05月03日 19:11
またまた、こんばんは。

>多分2本分の余韻をきちんと留めておくだけのキャパが脳内にない
それ!わかります。
映画から受けた気持ちが薄まってしまうというか、
なんだか頭の中がゴチャっとなってしまうんですよね、特に最近は。
脳内許容量の減少を日々感じています。

ナナゲイやヌーヴォでの特集上映なんかだと、
同じ監督の作品を複数本、うまく頭の中で消化できる場合もあるんですけど。
できれば一つ一つの作品を、丁寧に噛み締めて味わいたいとは思っています。

とかいいつつ、昨日もまた2本目に『ル・アーヴルの靴みがき』を見ようとしていました。
が、やっぱり人気ありますね。立ち見の29番目だったので次回に回しました。
(ぺろんぱがご覧になった時はいかがでしたか?)
結果的にはそれで良かったと思います。
劇場の人が「日曜日も同じように混むと思います」と言ってはったので早目に行かなくては。
Posted by ゆるり at 2012年05月03日 20:43

ゆるりさん、こんにちは。

>脳内許容量の減少を日々感じています。

それこそ、私もわかります!同感同感。(^^)
仰る通り同じ監督の作品特集とかでなら複数本の鑑賞はかえって相乗効果をもたらせてくれるかもしれませんね。
ああ、でも昔(若き頃)は場末の映画館で3本上映とかいうのを観た経験もあるのですがねー。もうあんなコトは出来そうもありません。

ル・アーヴルの靴みがき、やはり今は立ち見状態なのですか。
私は封切初日28日の鑑賞でしたが、実はその前日に日経新聞の映画評で「五つ星」が付いていたのですよね、「本年必見の一作」とかいうコメントと共に。それで私も「明日観に行く予定なのにいやだなぁ。きっと混雑するなぁ。」って思っていました。結構中高年諸氏は、御退職後も日経を読んでる人って多い気がしますので。
幸い当日はさほどでもなく、私はちゃんと座って観ることができたのですが・・・。

私は同監督のファンですが、「五つ星」とするか否かは分かりません。でも楽しみにしていましたし、やっぱり「いいなぁ」って思えた一作でした。
ゆるりさんの御鑑賞が叶いますように。(*^_^*)

Posted by ぺろんぱ at 2012年05月04日 10:15
脳内容量、、、確かに。
ぃや、私の場合、もう生き残ってる細胞の寿命が心配で(^^ゞ

少年の自転車への執着は、
父への執着、家族への枯渇した思いだと感じました。
純粋なこどもは、こうして愛する人に裏切られ、「約束」の虚しさを
大人によって教えられていく・・・そんな思いでずっと観ていたので
泣こうと喚こうと、ちゃんと身体を張ってシリルを導くサマンサの姿が嬉しかったです。

ところで、トップの記事「この愛のために撃て」私も録画で観ました♪
感想書いたらまたお邪魔しますね〜。その時まで読むのはお預けにします(^_−)♪
Posted by kira at 2013年05月30日 01:30

Kiraさん、こんばんは。

いえいえ、私の方こそ現存細胞の寿命や数はもう底を尽きかけているような気が・・・。何しろアルコール摂取量が増える一方で脳細胞を破壊し尽くしているような気がして。細胞さん、ごめんなさい(←自分に向かって)。

>「約束」の虚しさを大人によって教えられていく

なるほど。
そう考えると我々大人は、自らの言葉や行いにはきっちりと責任があることを深く強く自覚せねばなりませんよね。
私は独り身なので子どもがいませんが、せめて、自分が関わっている小さきものたちには(動物も含めてね)自分なりの愛を精一杯注いでいきたいと改めて今、思いましたです。

>「この愛のために撃て」

はい、お越し頂けるのを楽しみに致しております!(*^_^*)
今回の拙レヴューは浜村淳さんふうに??ちょっと結末に触れ過ぎました〜(^_^;)。でもご一読くだされば嬉しいです! 




Posted by ぺろんぱ at 2013年05月30日 21:15
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Weblog: to Heart
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