2012年05月01日

ル・アーヴルの靴みがき


 先日鑑賞の第二弾、アキ・カウリスマキ監督の最新作『ル・アーヴルの靴みがき』を梅田ガーデンシネマで鑑賞。
カウリスマキ新作ということで、シアター場内が暗転したら妙にワクワクドキドキしてしまいました。

story
  北フランスの港町、ル・アーヴル。パリで自由奔放な生活を送っていたマルセル・マルクス(アンドレ・ウィルムス)は、いまはル・アーヴルの駅前で靴をみがくことを生業としている。家で彼の帰りを待つ献身的な妻・アルレッティ(カティ・オウティネン)愛犬・ライカ(ライカ)。街で暮らす隣近所の人々の支えも、彼にとってはなくてはならない大切な宝物だ。そんなある日、港にアフリカからの不法移民が乗ったコンテナが漂着。マルセルは、警察の検挙をすり抜けたひとりの少年・イドリッサ(ブロンダン・ミゲル)と偶然の出会うのだが――。
                     
                      ル・アーブルの.jpg
                      ※story、写真とも映画情報サイトよりの転載です。


今までじんわりと胸が熱くなることはあったけれど、あっという間に涙腺が緩んだのを感じたのなんてカウリスマキ作品では珍しいかも。それは号泣というのでは決してなく、もっと柔らかな、それでいて“突然に”もたらされたものなのでした。
ラストの哀しい成り行きに「ああ、やっぱりカウリスマキ流の美学で幕を閉じるんだなぁ」って(それはそれで深く納得して)思った次の瞬間、パッと目が醒めるような奇跡を目の当たりにして、温かい涙で睫毛が濡れたのでした。
アキ作品はやるせない不条理感を残す作品が多かっただけに、この展開がちょっと意外でした。
でも“悲し顔”のカティ・オウティネンが見せる晴れやかな笑顔と、少女のように可憐なワンピースはとても素敵でした。(満足)

常にアルコールと仲良しのマルセル。
彼は『ラヴィ・ド・ボエーム』で登場した売れない小説家マルセルの成れの果てなのか?? 
自己の敷く根本的なコトの善悪の掟には至極生真面目で、且つお茶目な彼だけれど(知り合いのパン屋からバケットを失敬するのは挨拶代わりのようだった)、彼を取り囲む近隣の住人達が、本当に“人の情け”といえるものを感じさせて味わい深いのです。
なんて言うのかな・・・潔いっていうのでしょうか? 少しも躊躇うことなくマルセルの窮地にさっと手を差し伸べる姿が、私から見ると本当にカッコよかったのですよね、これが。

近隣住人の一人は、私の大好きなアキ作品『ラヴィ・ド・ボエーム』でヒロイン・ミミを演じた女性(イヴリヌ・ディディ)で、彼女の登場は凄く嬉しかったです。あの作品では奇跡は起こらなかったのですけれどね。
エリナ・サロは相変わらず“男前な”女性、きっちり筋を通した硬派な女性を演じていて素敵です。ジャン=ピエール・レオーの役柄にもう一展開ほしかったのは、彼がああいう役柄だけで終わるのがちょっと勿体無かったから。でもああいう超脇役ながら摩訶不思議な存在感を残せる彼って凄いのかもしれません。
ジャン=ピエール・ダルッサンは“いい役柄”ですが、最初から「この人はこちら側に立ってくれる」という確信的思いが張り付いていましたね。あの『サン・ジャックへの道』でのアルコール依存症クロード役なのですから。(^_^)
名犬ライカは監督と暮らすワンちゃんの何世代目か・・・いろんなアキ作品に登場しているライカ犬の祖先犬たちですが、本作のライカ君(ライカちゃん??)はかなりの演技力で見せてくれています。
嗚呼、、、それにしてもマッティ・ペロンパーはもう其処にはいないですよね。(感慨深く独り言ちる)

世の中には辛く悲しいコトや面白くないこと、そんなのがたくさんあるけれど、本当に自分が大切にしたい感情に正直に生き、それを大切にしているなら、きっと明るい明日が来るんだろうなぁって、そう思える映画です。
やっぱり駄目なんやと思う人生が奇跡的に救われる、、、でもそれはもしかしたら奇跡ではないのかもしれません。居丈高に語られていないだけで、それはマルセルの真っ直ぐな善意の賜物に相違ないのだと監督はいっているのかもしれませんね。


                       ウチ呑みワイン.bmp

マルセルはワインをガブガブ。
私も今宵はワインをガブガブ。
ちょっと酔いたくてビールと日本酒をそれぞれ呑んでからのワインスタートです。拙宅のオブジェと共にカシャリと一枚。


posted by ぺろんぱ at 21:52| Comment(6) | TrackBack(4) | 日記
この記事へのコメント
新作封切りに先立ち、カウリスマキ旧作の特集もありまして、『パラダイスの夕暮れ』も観たのですが、元気なマッティ・ペロンパーの姿を久しぶりに観て、ぺろんぱさんのことも思い出しましたよー。
マッティはいないけど、カティさんの姿は健在で、かつてとは違ったものを見せてくれるのは感慨深いですよね。
巨匠の風格漂うほどにバッチリきまってましたね。
あんなBARに通いたーい。
Posted by かえる at 2012年05月02日 22:44

かえるさん、再びこんばんは。
こちらにもお越しくださり嬉しいです。(*^_^*)

『パラダイスの夕暮れ』、大好きです。
そうですか、スクリーンで元気なマッティ・ペロンパーをご覧になられたのですね〜(*^_^*)。
思い出してくださりとても嬉しいです。ありがとうございます。

はい、そうですね、、、こうなったらカティさんにはとことんスクリーンに滞在し続けて頂きたいところです(^^)。
先述のダルデンヌ兄弟監督にしても本作のアキにしても、巨匠・名匠と言われても“変化する”ことにやぶさかでない姿勢は、また新たな感動を我々に届けてくれるのですね。

あのBAR、まさに酒呑みの憧れ的場所です。(*^_^*)
Posted by ぺろんぱ at 2012年05月03日 19:23
>彼は『ラヴィ・ド・ボエーム』で登場した売れない小説家マルセルの成れの果てなのか

そうと知っていたなら、是非鑑賞してから観てみたかった気がします(^^)
アクセスがもう少しなんとかなれば、アキ作品一挙上映にも行きたかったのに、
いつもギリギリで地元のシネコンに滑り込みの私ではムリです〜。

この作品では奇跡が各人の理解というか、受け取り方が様々で、そこも面白いですね。
私はマルセルの代わりに服を届けた時の、少年のセリフがそれを呼んだと思っています♪
"消えた"といっていたのが興味深い(^_-)♪
Posted by kira at 2012年05月16日 12:17

Kiraさん、こんばんは〜。
お返しが遅くなって本当に申し訳ありませんでした!!

アキの作品は時々(思い出したように?? ^_^;)特集上映とか組まれてることがありますよね。そして仰る通り、決まっていつもマイナー館でされるので中々行けないことってありますよね。
『ラヴィ・ド・ボエーム』、もしお時間あればいつかDVDでご覧になってみてくださいね〜。エンディングの音楽に「えっ!!」(そして感慨!!)ですよ。(^^)

あの少年の台詞、たしか、「マルセルが寂しがり屋さんだから早く帰ってあげてよ」ってことばでしたっけ。
最後の「消えた」という言い方も、なるほど、そうですね、興味深いですよね。
Kiraさんのコメントで再度あのラストに想いを馳せました。
なるほど、の思いです、ありがとうございました。


Posted by ぺろんぱ at 2012年05月18日 21:40
登場する人たちは、皆静かな佇まいで大きな感情表現はほぼしないんですが、
内面の豊かさがジワーと滲み出る表情で、気持ちよかったです。
見終えて、ジワーと幸せな気分に浸りました。

カウリスマキ初心者ですが、とても《新鮮な映画》だと思い、
これは癖になりそうです。
DVDでたっぷり楽しみたいです。
Posted by cochi at 2012年05月24日 09:12

cochiさん、こんばんは。

そうなのですよね、カウリスマキ作品に登場する人々は言葉も表情も最小限でそっけないくらい。
完璧にドライな演出で、それでいて奥からあったか〜いものが感じられます。
ほんの一場面だけに登場する人物にも“その人の人生”を感じさせてくれることが多々あります。

どうぞ癖になって下さいませ!(*^_^*)
初期の作品は不条理感に満ちたものも多いですが、そういう世界も大好きです。

Posted by ぺろんぱ at 2012年05月24日 20:38
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