2012年06月27日

さあ帰ろう、ペダルをこいで


  昨日火曜の午後(ちゃっかりレディースデー)、半休をもらって元町映画館で『さあ帰ろう、ペダルをこいで』(ステファン・コマンダレフ監督)観てきました。

元町映画館は2年半ほど前に神戸の映画ファンの何人かの方々が「神戸の地で映画文化を守りたい」という想いから創設されたミニシアターです。ご自分たちが観客として「観たい!」と思えるクオリティーの高い作品を、新旧問わずセレクトして上映されています。ずっと訪れたいと思いつつも、私にとっては今回が元町映画館デヴューとなりました。

『さあ帰ろう、ペダルをこいで』はずっと気になっていた作品です。
制作は2008年ですが日本公開は今春で、大阪ではシネマート心斎橋でも上映中です。
主演のミキ・マノイロヴィッチは、私的には2008年1月鑑賞の『やわらかい手』(サム・ガルバルスキ監督)以来のスクリーンでの再会でした(嬉)。

story
子どものころ、両親と共に共産党政権下のブルガリアからドイツへ亡命したアレックス(カルロ・リューベック)は、25年ぶりに帰郷する途中、交通事故に遭い両親と記憶を失ってしまう。そんな彼を案じてブルガリアからやってき祖父バイ・ダン(ミキ・マノイロヴィッチ)の提案で、二人はタンデム自転車でヨーロッパ大陸を横断しながら祖国ブルガリアを目指す旅に出るが・・・。

                      さあ帰ろう2.bmp   
                      ※story、画像とも映画情報サイトよりの転載です。



  壮絶な人生が展開していたのには驚きました。

タンデム自転車で自分を取り戻す旅に出る、そんな牧歌的空気を含んだロードムービーを思い描いていましたが、ロードの進行とパラレルに展開する(挿入される)一家の過去の物語は苛酷でとても辛いものでした。しかも、「やがては(その苛酷さも)大きく報われる」的な幸福がアレックスとその両親に訪れなかったという事実も胸ふたぐものでした。
さすがは東欧諸国(ブルガリア・ドイツ・ハンガリー・スロヴェニア・セルビア)合作の映画です、一筋縄ではいきません。…あ、今のドイツは東欧には括れませんけれどね。

しかしその暗澹たる思いを吹き飛ばしてくれるような爽快な風を、この映画は孕んでいましたよ。
旅を先導するお祖父ちゃんバイ・ダンがとにかくタフ。信じられないくらいのバイタリティーを放っています。
バック・ギャモンというゲームに人生をなぞらえるという底抜けのポジティヴさも、この物語を悲しみの淵に澱ませておくことを許さないのです。

「時の運と自分の才覚で一つ一つ前に進んでゆくこと」
このバック・ギャモンのセオリーをこれでもかと人生と重ね合わせて説くバイ・ダン。
反抗的だったアレックスも(あの状態じゃ反抗します、いきなりバック・ギャモンを強要されてもね)、バイ・ダンとの心の繋がりを築いてゆくのは、やっぱりタンデム自転車が功を奏したのかなぁって思います。自転車2台ではいつでも片方は方向転換できますものね。

地続きだからこそ出来たブルガリアへの旅ですが、幾つも超えた山々の景観が本当に美しいのです。
二重にかかった虹の画には目を奪われます。
大自然の青と緑、天と地が作り出す色たちに敵う美しい色は、この世には存在しないのかもしれませんね。

悲喜交々の彼らの人生を旅とゲームに乗せて届けてくれる、にっこり笑える最後の最後の奇跡の瞬間まで飽きさせない、豊かなる作品でした。


                        堂島サンボア ジンライム.bmp ※過日の、堂島サンボアでのジンライム                      


 アレックスが常時飲んでいた薬(精神安定剤や抗うつ薬)を火中に投げ捨て、「コイツにまさる薬はないぞ!」とアルコールのボトルを差し出すバイ・ダン。
確かにそうです、バイ・ダンに私から一票。 でも薬と一緒に飲んじゃいけませんよ。

「さあ帰ろう、お酒を買って」という気分になって元町映画館を出ました。ぴかぴか(新しい)


posted by ぺろんぱ at 21:09| Comment(6) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
まずは元町映画館デビュー、おめでとうございます!^^
映画ファンが作るミニシアターだなんて凄いですね。
こういうのが地元にもあったらな〜と思いますよ。
ちなみにワタシの隣組が元町なんですよ(笑)

ここはやっぱり、ヨーロッパ映画が大半を占めるのでしょうかね〜

あ、そうそう!タンデム自転車といえば、キムタクさんのカレーのCMで変わり種が出てきますよね(笑)
これって、前の人がキャプテンで後ろの人がコパイ及びストーカーって言い方に笑っちゃいましたよ(笑)

Posted by ituka at 2012年06月28日 00:06
元町映画館、小さな映画館ですが良い映画をセレクトして公開してくれていますね。
私は2回くらい行ったことあります。

この映画に出てるおじいちゃん役のミキ・マノイロビッチ。
私は「やわらかい手」で見てすっかりファンになりました。とっても素敵でした。
これも観たい映画です。
なかなか映画館へ行こうと思いながらいつのまにか時間が経って気がついたら公開終了してるということが多くて。
ぺろんぱさんのレビューを読んで観に行きたい映画がたくさんできてしまいます。
Posted by Jupi at 2012年06月29日 08:02

itukaさん、おはようございます。

ありがとうございます、デヴュー叶いました。(^^)
幾つになっても「デヴュー」って言葉は心地よく響きますね。
地元も活気づくと思います。
お隣が元町? 結構この地名はあちこちにあるのかもしれませんね〜。

此処は洋邦問わず、新旧も問わず、特別に作家や監督氏にこだわらず、幅広く“良いと思うもの”を取り上げておられるようですよ。

キムタクさんのカレーCM!
そうですね、あれ、不思議ですよね。
漕ぎ方は同じで「顔を合わせる」「同じ方向を向く」「背中合わせ」の三種類の方向を選ぶことができるそうですよ。
顔を合わせるっていうのは恋人同士なんかだと見つめ合い過ぎて危ないんじゃないのかなぁ・・・。←私が心配せんでもいいんですけどね。^_^;

Posted by ぺろんぱ at 2012年06月30日 06:13

Jupiさん、いらっしゃいませ。

そうですか、元町映画館には幾度か行かれているのですね。知らず知らずのうちに大阪か神戸のどこかの映画館でJupiさんとニアミス!ってこともあったかもしれないですね。(*^_^*)

私も『やわらかい手』でミキ・マノイロヴィッチさんの御名を完全にインプットしました。
お顔の皺も魅力的です。

本作も、ご都合が合うようでしたら是非ご覧になってみて下さいね。

拙ブログ、読んで頂いていて本当にありがとうございます。(^^)

Posted by ぺろんぱ at 2012年06月30日 06:29
シネマート心斎橋でも先日まで上映していたようで、
密かにロングランな映画ですね。

私が一番惹かれたのは、ミキ・マノイロヴィッチが演じるのバイ・ダンの
何もかも包み込むような大きさみたいなモノでした。
もちろん、アルプスの景観も!

そうそう、バッグギャモンが登場するという『1973年のピンボール』も
読み返してみたいと思います。(確か実家にあったはず)
Posted by ゆるり at 2012年07月01日 09:22
ゆるりさん、こんばんは。
確かに、“密かなロングラン”のようですね。(*^_^*)

バイ・ダン、包容力の大きさを感じましたね。
顔の皺の魅力といい、私には故・緒形拳さんとダブりました。緒方さんは大好きな俳優さんでした。

『1973年のピンボール』、是非ご再読下さいね。
バックギャモンは登場するものの、ゲームの詳細は一切記述がありません。ただただ、不思議な某登場人物がこのゲームが好きでやってる、っていう件りがあるのです。
バックギャモンは副産物として、この小説はなかなか面白いです〜。

Posted by ぺろんぱ at 2012年07月02日 20:11
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