2012年07月21日

少年は残酷な弓を射る


  梅田ガーデンシネマで『少年は残酷な弓を射る』(リン・ラムジー監督)を観ました。

極力事前情報を入れないでおこうとしたものの、否応なく目にしてしまった「ホラーを超える怖さ」との某氏談に怖気づいてしまっていた私。
しかしそうなった時には潔く凍り付く覚悟で、梅田スカイビルへと向かったのでした。

story
   自由奔放に生きてきた作家のエヴァ(ティルダ・スウィントン)は、キャリアの途中で息子・ケヴィンを授かった。幼い頃からなぜか母親への反抗を繰り返し、心を開こうとしないケヴィン(エズラ・ミラー)。美しい少年に成長した彼の反抗心はやがて危険な兆候を見せはじめ、遂にエヴァの全てを破壊するような事件を起こす…。
              
少年は.jpg
             ※story、画像とも映画情報サイトよりの転載です。


  先ずはケヴィンを演じた新星エズラ・ミラーの魔性を秘めた美しさに目を奪われました。彼の美しさは即、残酷さに繋がるのでしたが。射貫くように残酷な眼差しは、ふと見せるアルカイック・スマイル同様に妖しく輝いていました。

妖しく不気味な世界。それは怖いというより、胸がざわつくような・・・。
冒頭から不穏な空気に満ちていました。

鑑賞の最たる目当てであったエヴァを演じる女優ティルダ・スウィントン(好きだから)が、あまりにも輝きを失した崩落の容姿で登場したことに少なからず動揺しましたが、やがて直ぐに彼女がそうなった背景を知ることになります。

ケヴィンの幼少期。
ケヴィンが成長し、運命のあの事件を迎える日まで。
そして、現在。
物語はそれぞれの時代のシーンが激しく交錯しながら進んでいきます。

常に不穏さを駆り立てるかのようなラムジー監督の演出は、それでいて常に“先鋭な美”を感じさせるものでした。
配される音楽が、コトの深刻さと打って代わって軽快な響きを呈していて、エヴァやケヴィンを第三者的に眺める冷静さ(或いは距離感)をもたらせてくれたと思います。

原題の「We Need to Talk About Kevin」は意味深いです。
遅きに失しながらもエヴァがそれを為そうとしたときにまさに事件は起きたわけですからね。
でも、もしも早い時期にそれが遂げられていたとして、果たして運命は変わっていたかと考えればそこは否定的にならざるを得ません。
エヴァの、ケヴィンに対する子育ての姿勢そのものよりも、生まれながらに宿命的に内包されていたケヴィンの悪魔性は否めない気がしました。
全ては、ケヴィンがひとつひとつチェスの駒を優位に進めていっただけだ、と。
ある“たったひとつの”、ケヴィン自身にすら特定できなかった「ある目的」のために。

何故エヴァは全てを失い、孤立し、それでも何故一人だけが生かされているのか・・・。それはケヴィンの、あまりにも残酷すぎる欲望の叶え方だったのではないか、と。


毒々しさが痛々しさに姿を変える最後には、しかし釈然としないものが残りました。
「分かっているつもりだったけれど、今は分からない」と言ったケヴィンが、悪魔の顔から人間の少年の顔に戻ったかのように感じられたあの瞬間、光が射したと捉えるべきなのでしょうか。
安易にそうは思えなかった私です。ケヴィンのあのモンスター性は、根本的に、実質的に、或いは物質的に肉体的に、彼自身が消滅し生まれ変わらなければ拭い去れないものだと思えたので。
それほどに全編通して描かれていた彼の魔性は強烈であり、むしろホラーの如く(私はホラーは苦手ですが)この世とは異質のものとして完結していた方がよりスッキリとして劇場を後にできたかもしれません。

釈然としないものが残りつつも、開け放たれた窓、風に揺れるカーテン、それだけの画で観る者を戦慄させるラムジー監督の名は確とインプットしました。原作も読んでみたいです。


            インドの青鬼 たなかやにて.bmp   薫酒 たなかやにて.bmp

「たなかや」という酒屋さん直営の立ち呑み酒場を教えてもらいました。
地酒と、インドの青鬼というビール。苦味がクセになります。 

そういえば本作では「赤色」がいたるところで扇情的に使われていました。





posted by ぺろんぱ at 21:47| Comment(8) | TrackBack(1) | 日記
この記事へのコメント
ぺろんぱさん、こんにちは。
エズラくんの表情は忘れがたいですねー。
殺人鬼ものなどより、よほどに味わえるホラーでした。
ジョンCライリーの息子がこんなになってしまうなんて、突然変異?と思いつつ、子育ての道の過酷さに震えましたー。
Posted by かえる at 2012年07月22日 06:55
こんばんは。

感想、拝見するのを楽しみにしていました。予言(?)通り、ご覧になったんですね♪
この作品も気にはなりつつ、時間的に無理なので嬉しいです。
普段、未見の映画についての記事はあまり読まないようにしてるのですが、
ぺろんぱさんのレビューは信頼性があるというか。。。。上手く表現できませんが、
なんだか見てしまいます。

ジョン.C.ライリーがティルダさんの夫役というのが、まず意外。
それから、ちょっとアジアっぽい親しみが持てる顔立ちに見えるエズラ・ミラー君が
悪魔的な役というのも意外な感じ。
機会があれば、鑑賞してみたい映画です。
トレーラーでティルダさんが言ってた「なぜ?」の答えも知りたいし。
(そこは、はっきりとは答えが出てないのかな?)
Posted by ゆるり at 2012年07月22日 20:56
かえるさん、こんばんは。


ジョン・C・ライリーって、私の拙い鑑賞録からすればやっぱり本作の苦悩とは対極にあるイメージです。かえるさんが「突然変異?」と思われたのには大ウケいたしました!

>子育ての「運」の過酷さ

そうですね。
わたしは子どもというものを持ったことのない人間ですが、確かに子育ての場には、親の努力や思惑や、そういうものだけでは舵を取り切れない「運」の流れがあるのかもしれないと(あって然るべきだとも)思いました。

拙レヴューでは触れなかったものの、何気なく「自分の(微妙な)立ち位置」を察知していたかのような妹君にも「キミはそれなりに一生懸命だったよなぁ・・・」と心を寄せずにはいられなかった私でした。(そうはいえ、件の役を演じた女の子の名前が分からず悶々・・・。)


Posted by ぺろんぱ at 2012年07月23日 22:19
ゆるりさん、こんばんは。

ありがとうございます、そして大変、恐縮している私です。
そしたら今回のレヴューは果たして大丈夫やったやろうかと、「ちがうやん!」と思われないかと、小心者の私は心臓バクバクです!(^^)

>ジョン・C・ライリー

そうなのですよ、先のコメでも書いたのですが、イメージからすればちょっと、いえ、かなり違いますよね。

「なぜ?」の答えは明言はされていません。
その後にどうなるのも観る側に委ねられていする気がしました。そして、映画作品として、落としどころ?がちょっと解し切れない気がしました。

もしもDVDででもご覧になる機会がありましたら、その時は私こそゆるりさんのレヴューを楽しみに致しております!
自身の中で消化しきれないものが残り、そういう釈然としない部分も含めて、いろんな方々のご意見を“知りたい”“(思いを)分かち合いたい”と思いましたです。


Posted by ぺろんぱ at 2012年07月24日 02:03
ばんはです(=^_^=)

拙ブログへのご訪問、有難うございました。

本格的に、更新が頻繁に出来ない状況となってしまってますが、
たまに頑張りたいと思いますので、宜しくお願い致します〜

・・

本作は、夫婦のドラマをもう少し丁寧に描いて欲しかった気もしましたかね。

夫の職業も、結局何だか良く分かりませんでした。

それと、妹のセリアちゃんが(ケヴィンとは反対に)天使のようないい子だっただけに、
あの仕打ちはヒド過ぎる気もしました(×_×)
Posted by TiM3 at 2012年11月27日 01:02
TiM3さん、こんばんは。
こちらこそ、拙ブログへのご訪問、有難うございます。

>本格的に、更新が頻繁に出来ない状況となってしまってますが、

お仕事がお忙しいのでしょうね。
しかし、どうぞお身体は大切になさってください。
私も一頃に比べて更新が不定期になっているこの頃ですが、拙ブログのこともたまには思い出してやってくださいませね。(*^_^*)

>本作は、夫婦のドラマをもう少し丁寧に描いて欲しかった気も

そうですね。
拙レヴューでもちょこっと触れていますが、TiM3さんが仰っているそういう意味に於いても、やっぱり原題「We Need to Talk About Kevin」は中々意味深かったかなぁと改めて思います。

妹のセリアちゃん!
イイ子だしとっても可愛かったしねぇ・・・。
殆どの本作・情報サイトで役者さんの名前はティルダさんとジョン.C.ライリーとエズラくん止り・・・
彼女の名前も載せてあげてよ〜!! でした。

Posted by ぺろんぱ at 2012年11月27日 21:41
ご無沙汰しております。

わたしも怖いものみたさで観てしまいました。
DVDでですが。予告観た地点で「無理かも」と思ったんですが
ホラー好きなものでつい・・・・
いやはや「オーメン」と被る被る・・・
ケヴィンのつむじに666あるんじゃねーの?とか
内心突っ込みながら観てしまいました。
私も,ケヴィンはもともと悪魔的な人間で
母親に歪んだ執着(ほとんど憎悪めいた)を持っていたようにも思いました。
だから母一人残して父も妹も殺し,母を世間からも孤立させて彼なりの「独占」をしたのだと。
怖かったです。でも同時にとても見せ方や作り方が上手く
傑作だと感じました。
Posted by なな at 2012年12月19日 00:51

ななさん、こんばんは。
ようこそです!ありがとうございます!(*^_^*)

そうですよね、、、「オーメン」が被ると仰るのも凄くわかる気がします。
だから私、最後に人間としてのケヴィンくんの苦悩を滲ませた演出にちょっとうろたえてしまいました。
エズラ君が注目されていましたが、オーメン性??を感じさせてくれたケヴィンの子役の男の子もなかなかの存在感でしたよね。
確かに忘れ難い一作でした。結果としての行為より、なんだか不穏な空気感が怖かったです。

エズラ君の新作『アナザー・ハッピー・デイ』は興味がありつつスルーです(^^;。DVDで観てみようと思っています。

ななさんところにも今からお邪魔しま〜す。(*^_^*)


Posted by ぺろんぱ at 2012年12月19日 20:43
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Excerpt: これはまた凄い・・・・なんという重苦しい・・・・痛い作品。でも,まぎれもなく傑作には違いない。受けたのは感動というよりは衝撃なのだけど,どんな感情であれ,この作品の余韻は,今もずっと強烈に心に残って離..
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