シネリーブル神戸で『ローマ法王の休日』(ナンニ・モレッティ監督)を観ました。
ずっと気になって、観たかったんですよね、これ。
邦題はきっと同じイタリア映画のあの名作をもじってのことと思いますが、こちらの作品のラストはあの名作とは違った意味で心にずっしりと来ましたよ。
story
ローマ法王が亡くなり、新しい法王を選出するため各国の枢機卿がヴァチカンに集められた。全員が心の中では法王に選ばれないようにと祈る中、誰もが予想外だったメルヴィル(ミシェル・ピッコリ)が新法王に選出される。サン・ピエトロ広場に集まった群衆たちを前にバルコニーで就任演説をしなくてはならないメルヴィルだったが、重圧のあまり街へ逃げ出してしまい…。

※story、画像とも映画情報サイトよりの転載です。
いつわらず、あるがままに自分の弱さを吐く・・・それは「強さ」でもあるのかもしれません。
(いきなりラストに言及して恐縮ですが・・・)神の教えを説く者として神の導きに背を向けたかのようなラストも、私には神の前に偽らざる自分をさらけ出した、逃げでは決してない、むしろ“正直な信仰者”の姿を見た気がしました。
法王という重圧から自分だけは逃れられたという安堵を隠しメルヴィルを湛え跪く他の枢機卿たちよりも、少なくともメルヴィルは神と民への向きあい方が真剣であったように思えたのです。
結局、神の前では如何な高位聖職者といえども皆ひとりの人間である、ということなのでしょうか。
物語は、メルヴィル以外の枢機卿たちのそれぞれの「人間としての側面」をユーモラスに、しかし興味深く描きだしてゆきます。
コンクラーヴェ(法王選出会議)を終えて街に繰り出そうとはしゃぐ某枢機卿。
自分に付けられた法王選のオッズをひたすら気にする某枢機卿。
多数の向精神薬を携行している某枢機卿。
際立っていたのは全枢機卿たちが各地域対抗のバレーボールに興じる姿です。
聖地・バチカン市国の中で繰り広げられる、高位聖職者でありながら実に人間的な、微笑ましい、心躍るようなシーンの数々でした。
もしかしたら、「聖職者は本当はこうあるべきではないか」という監督の想いがあったのかもしれません。
バレーボールに興じる枢機卿たち然り。
街を彷徨い市井の人々と交わるメルヴィル然り。
市井には“生きた言葉”がたくさん溢れていました。
民を知り、人を知る。人間である己を、そして弱き己を知る。それでこそ人々を導いてゆけるのではないか、というような監督の想いが。
なのに、と言うべきか、だからこそ、と言うべきか、きっと後者でしょう。頷ける決断だったのでしょうね。
時を経て、導くよりも導かれる側の人間であるとはっきりとした言葉で自己を評することのできたメルヴィル。
それはバチカン内外で深い嘆きと悲しみを生んだかも知れませんが、私はあの瞬間、神はそっとメルヴィルの肩に手を置いてくれたような気がしました。
メルヴィルを演じたミシェル・ピッコリの心細げな表情がすごくいいです。
メルヴィルは勿論のこと、登場人物全てが個性の際立つ演出がなされていて味わい深いです。
赤と白の荘厳且つ華麗なる枢機卿たちの装束が目を引いたバチカンでの幕開けから、バチカンの外のヨーロッパらしい街の佇まいも楽しめます。
陽気なラテン系のノリの裏側で冷徹な視線が光る、私としては大満足の一作でした。

もう8月になっちゃいましたね。
この分だとあっという間に12月が来そうです。
呑んでばかりいちゃ駄目だよなぁと思いつつ、「今日もまた呑む」の図。
>自分の弱さを吐く・・・それは「強さ」
いやぁ、びっくりしました。
コメントいただいたように、本当にここは重なってますね。
というか、同じように感じてはる人がいてはった!ということで
なんだかニヤニヤしちゃってます。
メルヴィルが夜の街を放浪した後、パン屋の厨房みたいな所で
ベーグル(ドーナツ?)みたいなのを頬張ってたのが可愛かったです。
あんなに悩んでたのに、食欲出てきてるやん!と思ったし。
この映画、視覚的にも興味深かったです。枢機卿たちの衣装、真紅が印象的。
腰のあたりに見えるレースの幅や模様がそれぞれ違ってて綺麗でした。
教皇の衛兵(スイス衛兵らしいです)もまるで中世から抜け出してきた人みたいですね。
あの衛兵の派手な衣装、ミケランジェロのデザインとも言われているらしいです。
ゆるりさん、こんばんは。
本作、あとからネットで繰ってみると結構ラストの展開とかに否定的な意見がありましたが、こういう終わり方って結構深いなぁって思いましたよね。
>ベーグル(ドーナツ?)みたいなのを
そうでしたそうでした!
あんなに悩んでたのに・・・しかも世界的案件の渦中の人だったのに・・・(^_^;)。
それにしても、大型トラックの通過中に行方をくらましたり何気なく一般人の暮らしに紛れ込んだり、メルヴィルは意外と逃走の才があったりして。
>視覚的にも
ヨーロッパ的、それもゆるりさんの仰る通り「中世的」な美を感じさせてくれたのがよかったです。
装飾品(指輪とか)も結構派手なものでそれぞれ自己主張の感じられるデザインでしたよね。
スイス衛兵(って呼ぶのですね)の衣装もカラフルで斬新で。
ブルーとイエロー、レッドも入ってましたっけ。
ミケランジェロのデザインなのですか!ミケランジェロってあのミケランジェロですよね!?なんか凄腕のデザイナーさんでもあったんですね〜!
厳格な規律のはざまで見えたお茶目な枢機卿たちの姿も楽しめましたね。
未見作品にもかかわらずコメントさせていただく失礼をお許しください。
作中の(コメント内での想像)ベーグルみたいなモノを食べるシーン、もしそれがドーナツでなくてベーグルなら、面白い演出だなと思いました。
次期カソリック法王が悩みの中、それも世界的案件の渦中にあってベーグルを食べている…。
ベーグルってユダヤの代表的な食べ物ですものね。
そのシーンにも監督の宗教観なんかが表現されているような気がします。
是非機会を見つけてこの作品を観てみたいと思います。
ベーグル?のシーンも気になって…(^_^;)
コメントありがとうございます。未見の作品でも何でも、コメント頂けるのは嬉しいです。
なるほど、ベーグルはユダヤの代表的な食べ物なのですね。
もしベーグルだったなら、監督氏のカトリック教の世界への皮肉的な視点ということになるのですね、ふむふむ。
しかし実は私はベーグルだったか否かちょっと定かではなくて。
ゆるりさんがコメント下さった段階で記憶を辿ってみたのですが、なにしろ一瞬の映像だったもので・・・何かのスウィーツだとは思ったのですが。^_^;
これはチロリさんに解明を託すしかないですね〜。(^^)是非ご覧になってみてください!
いえいえ、その点だけでなく、本作は(私は)非常に興味深い作品だったと思っておりますのでどうぞよろしければ。