2012年12月27日

菖蒲


   シネ・リーブル神戸で『菖蒲』(アンンジェイ・ワイダ監督)を観てきました。

今年最後の劇場鑑賞になるかなと思いながら、それならばしみじみと滋味ある映画で締めくくろうと殆ど衝動的に選んだ一作でした。アンジェイ・ワイダ作品は『カティンの森』(2010年1月に鑑賞)に続いての鑑賞です。同監督の過去作『灰とダイヤモンド』の原作小説も思わぬところでワンカット登場します。『灰とダイヤモンド』も是非観なくては。

story 
  ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダが、同国の作家ヤロスワフ・イバシュキェビチによる短編小説を映画化したドラマ。「菖蒲」という物語世界と主演女優のモノローグ、メイキングのような撮影風景の三つのパートを交錯させながら描く。 
  ホテルの部屋のベッドから立ち上がった女優のクリスティナ・ヤンダ。撮影直前に迎えた撮影監督で夫のエドワード・クロシンスキーの病と死について語り始める。
画面は変わり、ポーランドの小さな町。ワルシャワ蜂起で二人の息子を亡くしたマルタ(クリスティナ・ヤンダ)は医師の夫と長年連れ添っていたが、夫自身の診察で不治の病にかかっていることが分かる。ある日、マルタは息子が亡くなった時と同じ20歳の美しい青年ボグシ(パヴェル・シャイダ)に目を留める。ボグシを誘って河辺で逢引していたマルタだったが、ボグシが菖蒲の根に足をとられて溺死してしまい…。

                       菖蒲.bmp
                ※story、画像とも、映画情報サイトより転載させて頂きました。

  
  滋味あるというより、深い喪失感が漂い、死の影が色濃く張り付いた映画でした。

マルタの夫が「生はいともたやすく死に結びつく」と語っていた台詞が最後まで影を落とします。
いともたやすく人は予期せぬ人の死に接し、或いはまた、いともたやすく予期せぬ自らの死を知ることにもなり得るのです。

 主演女優クリスティナ・ヤンダにとって、最愛の夫の死は筆舌に尽くしがたい苦しみ悲しみであったろうことが彼女のモノローグのパートからダイレクトに伝わってきます。
ワイダ監督にとっても、友人であり信頼厚い右腕的存在のエドワード・クロシンスキーの死は悲痛なものであったに違いなく、さらにはワイダ監督の年齢を考えた時、エドワード・クロシンスキーの死が自身の死をも連想させたことは否めなかったのではないかと思いました。
死をテーマにした物語「菖蒲」、主演女優の実生活での夫の死、それらをカメラで追う監督の深い死生観に満ちた眼差し。なんだか監督自身が、遺書とはいかないまでも死に向けて心仕度を整えていった作品でもあるかのような印象が残りました。

「菖蒲」の物語では、マルタはボグシの若さに何を見ようとしたのでしょう。
息子二人を亡くした喪失感を埋めること? 自責の念から目を背けること?
信頼という絆はあれど長きに渡り冷え冷えとした関係にあることが伺えるマルタと夫。
束の間のボグシとの華やぎはあっと言う間に絶望を迎える・・・精神の均衡を失った不安定な世界に身を置かれたような気分でした。

                        菖蒲1.bmp
       
とはいえ、重苦しいばかりではなかったです、この映画。
クリスティナ・ヤンダのモノローグで、彼女が命懸けで夫を愛していたこと、深く強く揺るぎない愛があったことが伺えたから。だから、彼女が独り語りしていた部屋(ホテルの一室か?)が、ラストのカットでは窓からの柔らかな陽差しを受けて静かに佇んでいたのが、深い喪失感の中にも微かな安らぎの空気をこの作品に感じさせてくれたのでした。

ポーランドでの、あの川が流れていたロケ地はどこなのでしょう。
静かな流れをたたえ、陽光が川面を光らせ、安らぎを感じました。いつか訪れることができるならば、しばしその川原に身を横たえてみたいと思うような清らかさと優しさでした。


マティーニ  .bmp

  さてさて、前回のブログで「どーにもこーにも呑みたくてしょうがない」と記していたマティーニをいただいてきました。大阪の某BARでのドライ・マティーニです。美味し〜かったです。

今年は最後の締めくくりで「今年を振り返る」の一文でお会いしたく思います。









posted by ぺろんぱ at 20:01| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
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Posted by 日本インターネット映画大賞 at 2012年12月29日 23:43
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