2007年10月24日

ラストデイズ(DVD鑑賞)


暫くDVD鑑賞はお休みと記していましたが、今夜、<お題>作品の一つであった映画をレンタルDVDで観ましたので、興奮が冷めやらぬうちに?感じたことをそのまま短くまとめてアップしておこうと思います。
鑑賞作品は『ラストデイズ』(ガス・ヴァン・サント監督)
『エレファント』直後のサント監督の作品ということで<お題>に加えていました。

台詞らしき台詞は排除された、音と映像の世界。
story
  1994年に自ら命を絶った“ニルヴァーナ”のヴォーカル、カート・コバーンの死にインスパイアされた『エレファント』のガス・ヴァン・サント監督が、時代の頂点を極めたロックアーティストの孤独と苦悩、そして最期の2日間を繊細に描き出す。
 若きカリスマ・ロックアーティスト、ブレイク(マイケル・ピット)はリハビリ施設を抜け出し、薄汚れた格好で森の中をさまよっていた。やがて、森の中にひっそりと佇む一軒家にたどり着き、最期の時間を過ごす。 (シネマトゥデイより)

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 この監督の描く世界、私、好きです。
と言いますか、少し前から幾つかの作品を続けて鑑賞し好きになった、というところでしょうか。未だ4作品しか観ていませんが、サント監督の名を<敬愛する監督>欄に挙げさせて頂こうかと思っている今です。


 どうしてこうも映像に引き込まれてしまうのでしょう・・・。
監督はただじっと、死を迎える直前の若者の数日間を追っているのです、ただじっと・・・。
そこに監督なりの審判はありません。若者の死への代弁や、彼の人生に関する一切の説明もありません。

若者はミュージシャン(ロッカー)であるけれど、その死に触発されてこの映画を作ったとされている“伝説のロッカー”カート・コバーンその人ではありません。ブレイクという名の一人のロックアーティストとして描かれています。しかしブレイクはロッカーとしてより、ここでは“生きることを捨てた一人のある若者”として、特定化されずに描かれているように感じました。
だからそこにあるのは「一人の死」というより、むしろ「一つの死」だったわけです。
私はカート・コバーンというミュージシャンをよくは知りませんでしたので、却ってこの映画にすんなり入り込むことができたと思います。カート・コバーンの熱烈なファンからは「これはカートの映画じゃない」という辛辣な批判も多々受けているようでしたから。

                . 主演のマイケル・ピット

とにかく、ある一人の若者が「生」に絶望し「死」に向かって落ちていく様が、無感情に、まるで撮る側もその死の瞬間を待ち望んでいるかのごとく一切の同情など介入することなく、至極ドライに描かれています。
この作品にはブレイク以外に何人かの(説明もされない)人間が入れ替わり登場します。でもブレイクだけが「死の世界」にいて、それ以外の登場人物は全て「生の世界」にいるのです。他の人間達は、生きて、やるべきことをやり、お酒に酔って、笑って、恋人と体を重ねたりしているのです。
世俗的な世界と生きることに背中を向けたブレイクの世界が、同じ空間にありながら奇妙に、そして完璧にすれ違っているのですね。

およそまともとは言えないブレイクが、一つ一つ意味のない行動を繰り返しながら、実は一つ一つ、「生」への決別を積み上げているように私には思えました。
そんなブレイクがギターを取り、「Death To Birth」を痛々しく唱い上げるシーンは深く心を突いてきます。
スプーンさえまともに握れなくなってしまっていたブレイクが、ギターはしっかり弾けたわけです・・・彼の分身だったのでしょうか。
「実が熟して、腐っていく・・・それは人生と同じ」と唱っている彼に、もう再生の道はないのだろうと、この時観る者は思い知るのです。

コアの自分を偽って世間に迎合し表面だけ笑って生きるなんてできない“何かを見てしまった”繊細な人間は、死の世界では苦しみから解き放たれて心の底から微笑む事ができるのでしょうか・・・。 そうであってほしいけれど。

生まれて間もない仔猫を胸に抱いていたブレイクの、慈愛を凝縮させたようなあの一瞬の表情が忘れられません。その一瞬に於いて、彼は「弱き者を労わり守る強き者」でありえたわけです・・・その一瞬の感情でもっても、彼を現実から救う事は出来なかったのですね。

サント監督が静かにずっと、ブレイクの姿を傍に居て同じ歩幅で撮り続ける姿は、考え様によっては愛情すら感じるものといえるのかもしれません。
あぁ、そう考えれば、やっぱりサント監督なりのジャッジはあったのだと・・・監督はブレイクの世界の人だったのだと・・・そんな風に思う今です。


 私のラストデイズなんて分からないけれど、取り敢えず今夜も飲んで・・・。

posted by ぺろんぱ at 22:25| Comment(2) | TrackBack(1) | 日記
この記事へのコメント
またお邪魔しちゃいました。
先日はお世話になり、ありがとうございました。
ぺろんぱさんはサント監督の世界がお好きなのですね。
私はまだ4作しか観ていないのですが、中でもこの作品が最も好きです!
ぺろんぱさんの記事を拝読し感激したので、拙い感想ですがTBさせて頂きました。

>実は一つ一つ、「生」への決別を積み上げているように私には思えました
なるほど! 目から鱗です。彼は着々と前進(?)していたのですね…
>サント監督のジャッジ…
私は単純に監督がブレイクのラストデイズに寄り添って撮ったと思っていましたが、やはり監督のジャッジはあったのですね、なるほど。
ぺろんパさんのサント監督への愛も感じられて、感激です。
Posted by fizz♪ at 2008年03月15日 23:01
fizz♪さん、こんにちは。
何度でもよろしければどうぞお越し下さい。大歓迎です。TBもありがとうございました。

私もサント監督の鑑賞作品は4作品だと思います。確かにこの作品、サント監督の愛が感じられて良いです。(*^_^*)

ジャッジがあったかどうかはあくまで私の感じ方で、それよりも先ずfizz♪さんの仰る通り「監督がブレイクのラストデイズに寄り添って撮った」と受け止める方がより自然で素直な感じ方だと思います。

>ぺろんパさんのサント監督への愛も
いえいえ、私なんかまだまだサント監督を語るには分不相応です。
今度新作が公開されますね。それを楽しみに少しでも同監督の世界に近づけるよう、日々精進?します。(^_^)
Posted by ぺろんぱ at 2008年03月16日 11:21
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ラストデイズ
Excerpt: 1994年の人気絶頂のロックシンガー、カート・コバーンの死に影響を受けガス・ヴァン・サント監督が着想したこの映画のエンドロールではカートへの献辞が捧げられている。あくまでもフィクションであり、ドラマと..
Weblog: Have a movie-break !
Tracked: 2008-03-15 22:45