2013年03月11日

愛、アムール


  東日本大震災から二年が経ちました。
あらためて、亡くなられた方々に掌を合わせるとともに、未だ復興途上の地に少しでも多くの光が射すことを祈ります。


  シネリーブル神戸で『愛、アムール』(ミヒャエル・ハネケ監督)観てきました。

これほどまでにストレートに「愛」を掲げたタイトルながら、哀しみで胸が締め付けられる映画でした。
しかし、涙は流れない、、、あまりにリアルで泣けなかったのでした。感傷という名の余裕が介在することなど一切許されないほどの重い「現実」と向かわされた気がしたのでした。
では「愛」は?
哀しみの裏側で、痛いほどにそれを感じます。

story
  パリ在住の80代の夫婦、ジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)アンヌ(エマニュエル・リヴァ)。共に音楽教師で、娘はミュージシャンとして活躍し、充実した日々を送っていた。ある日、教え子が開くコンサートに出向いた翌朝にアンヌが病に倒れ半身麻痺という重い後遺症が残ってしまう。アンヌの強い願いから自宅で彼女の介護を始めるジョルジュだったが、少しずつアンヌの症状は悪化していき・・・。 
 
愛.bmpアムール.bmp

                     ※story、画像とも、映画情報サイトより転載させて頂きました。


  真の愛がなくては到底できない「自宅で看る」ということ。
その真の愛によって悲劇が引き起こされてしまうということに言葉を失います。

序盤、出向いた教え子のコンサート風景。
まだ病に倒れていないアンヌとジョルジュが座る観客席が、舞台側からワンカット長回しで静かにずっと映し続けられます。他の観客たちと同様に何気ない日常を生きていた二人がそこにいました。
その後にアンヌを襲った病、そして手術の失敗という不運。一気に日常が崩壊し、穏やかな温もりに満ちた二人の関係が徐々に蝕まれてゆく様子は、観る者の心を異様なまでに張りつめさせ、私はスクリーンから一時たりとも目が離せなかったです。
どんな形にせよ介護というものに関わっている人には、全てが痛いほどに「現実」だったと思います。

アパルトマンの一室という限定された空間で、ジョルジュとアンヌふたりの会話と日々の介護という営みだけが繰り返されます。
やがて脳までも蝕まれるアンヌと、逃げ場のない心理状態に陥ってゆくジョルジュ。二人を取り巻く空気から「何か」が差し迫って来ている、恐怖にも似た思いを強く感じさせるものがありました。

冒頭で二人に何が起こるのかを最初に知らされるのですが、それを知っていてもなお、二人の間に起こる出来事がどうか永遠にやってくることのないようにと願わずにはいられない自分がいました。

リアル過ぎて泣けないと書きましたが、喉の奥の方に熱い塊のようなものが込み上げてきた瞬間がありました。
一度目には厄介ものとして追い払いながら更に二度目にアパルトマンに入り込んできた鳩を、今度は捕まえて胸にかき抱こうとしたジョルジュの姿を観たときでした。このワンシーン、アンヌへのジョルジュの哀切な愛が溢れていた気がしました。
そしてそれはラストにも。
誰もいなくなったアパルトマンの一室。そこには娘のエヴァなどが介在し得ない、ジョルジュとアンヌの愛に満ちた、かつてのふたりの日々が確かにあったのでした。



                       あぶくま 福島.bmp

  福島の地酒、「あぶくま」純米吟醸・無濾過生原酒です。
六甲道、地酒立呑み<刀屋>さんにて。

どの地にも等しく、日本の春がやってきますね。願うことは本当にたくさんあって・・・。




posted by ぺろんぱ at 21:42| Comment(7) | TrackBack(2) | 日記
この記事へのコメント
リアルなだけに、辛い映画でした。

ジョルジュが下した決断、あの場面は個人的には必要なかった気もするのですが、
そうなると話が見えなくなるのかなぁと思ったり。
映画って、その辺りのさじ加減がピタッとはまると
自分と相性が良いと感じるのかもしれません。

俳優達の演技が素晴らしかっただけに、この映画自体に
深くコミットできなかった感触が残ったのが少し残念です。
まあ、そんな時もあるよね〜と思います。

現実的には、自分が意識を保てなくなった場合に
どう接してもらうかをちゃんと周りに伝えておかなきゃなぁとか
考えてしまいました。
そういう意味で、エンディングノートなどの存在は大きいかもしれませんね。
Posted by ゆるり at 2013年03月24日 17:05
追伸:

ぺろんぱさん、ブログが8年目を迎えられたようで
おめでとうございます!
これからも楽しみにしていますよー。

私の方も、細くてもなが〜く続けていきたいと思っています。
ぺろんぱさんにはまだまだ及びませんが、
これからもよろしくお願いいたします。
Posted by ゆるり at 2013年03月24日 17:14
ゆるりさん、こんばんは。

「老々介護」っていう言葉は何となくPCで打ってても胸痛みますが、いま実際にそれを目の当たりにしている状態なので一層眉間に皺を寄せての鑑賞になってしまった私なのかなぁと思いました。
さっき老々介護と打とうとして変換したら「朗々介護」と変換されました。する方もされる方も、世の全ての人たちがそういう介護だったら理想的だろうなぁと暫し考え込んでしまいました。

私は実際にエンディングノートを書き置いています。いずれ死は避けられないものとして受け止めますが、突然に意識、或いは自我や自分の意思が無くなってしまうことがやはり怖いです。

実は、恥ずかしながら私はハネケ作品は初めてでして。前作『白いリボン』は観に行きたかったのですが叶いませんでした。
今までのハネケ作品と本作は少し毛色が違うようですね。遅まきながら、同監督の他作品もチャレンジしてみたいです。

8年目突入の御祝いコメントもありがとうございます!(*^_^*)
私もいつもゆるりさんの新着記事が楽しみです。(ああ、今回のご鑑賞作はコレか〜(^^)!っていう
思いで読ませて頂いております。)

こちらこそ、これからもどうぞ宜しくお願い致しますね!

Posted by ぺろんぱ at 2013年03月25日 21:32
これは実は不思議に、あのラストを悲劇だと思わなかったのですよ・・・

単にアンヌが、老いて寝たきりの自分を人目に晒したくないといった状態ではないと感じていたから
なのかも知れません。
どんなに努力しても、快復の見込みがないという事に加え、
自分を失っていく事、さらに
愛する人の全ての失われていく時間、、をただ見ながら生かされていく事が、、もう終わりにして欲しかった気持ちがよく解り、
あの、きつく結ばれた口元にジンとしてしまったのです。

エンディングノート、書いておかなければですね。
実はぼ〜っとしている我が家の男子はアテにならないので、友人にはもう、託してあるのですが(笑)
Posted by kira at 2013年04月03日 23:21

Kiraさん、再びこんばんは。
そしてTBもありがとうございます。例によって私はTB返しがさせて頂けずごめんなさい。(TBのやり方、いいかげん覚えろよって話なんですけど…ごめんなさい(*_*))

>不思議に、あのラストを悲劇だと思わなかった

あー、それでこその本作だったのではないかと、今ちょっと私も目から鱗的に心が動かされました。
確かに、「あの行為」の瞬間は別として、ジョルジュが最後にいなくなった経緯を見たときは「あー、愛やったんやなぁ」とぐっときました。
オープニングで「え?じゃあジョルジュはどこに??」と思っていたのでしたが、ラストのラストでそれを知って心を掴まれた感じでした。

>エンディングノート、

ご友人に託されていらっしゃるならきっと大丈夫ですよ。でもでも、Kiraさん宅の男性陣もきっとお顔には出されずとも心ではKiraさんの想いをしかと受け止めてくださってるはず!と思います。(*^_^*)

Posted by ぺろんぱ at 2013年04月04日 19:04
そんな〜ぁ(^^ゞ
その手の自分突っ込み、私もよくやりますし、ちゃんと受け取ってましたよ♪
TBはお気になさらないで下さい。
TBは基本「私も観たわよ〜」で、本文で語り足りなかったことや気分を、
挨拶がてらコメントで、と思っているんです。

映画じゃなくても日々のめくるめくぺろんぱさんの「天使の分け前」に乾杯〜(^_-)☆
Posted by kira at 2013年04月05日 22:39
Kiraさん、こんばんは。
そして、安心させてくださるコメントをありがとうございます!貴ブログへの拙コメも、Kiraさん、ちゃんとご配慮くださってて…嬉しかったです。(*^_^*) TB、どしどしお願い致しますね、TBのみでも!

めくるめく天使の分け前は、今日もまた、そして明日も明後日もきっとエンドレスで・・・。映画の「天使の分け前」にはそんな私の邪な呑み心をふっ飛ばすピュアな感動を味わいたいものです!

Posted by ぺろんぱ at 2013年04月06日 21:22
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Tracked: 2013-03-24 16:49

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